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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第1章
20/72

第19話

私は今、大いに悩んでいた。


玉木くんが言った「真名」

李華ちゃんが言った「真子」

紗菜ちゃんが言った「真弓」


記憶違いならまだいい。

しかし三人とも違う名前を言ったのに、誰一人としてそれを疑問に思っていない。


「(もしかして写真の子は三つ子なの?だから誰が写っているかわからないとか?)」


『真名』『真子』『真弓』そんな三姉妹がいてもいいと思う。というか、いて欲しい。


「真子ちゃん懐かしいね~」

「ちょうど、この時だよな。真名と初めて写真撮ったの」

「それなのに真弓ちゃんたら『服が動きにくい』って怒っちゃったんですよね」


だが名前は違うのに会話は成立している。

というか慎弥が見るのも辛い写真を、三人はなんで楽しそうに見れるのだろうか?

それに紗菜ちゃんは以前、彼女の話をした時にあれほど悲しそうな顔をしていたのが嘘の様な笑顔だ。


「ねぇ紗菜ちゃん。前にその…真弓ちゃん?の話をした時に『もう会えない』って悲しそうにしてたよね?」

「はい。そうですが?」


私の記憶違いではなかったようで、とりあえず安心した。


「確かに『もう会えない』な…」

「もっと真子ちゃんに色んな服を着てもらいたかった」


玉木くんが同意し、李華ちゃんが感慨深そうに呟いた。


「あの…そろそろ聞いてもいい?なんで三人とも呼んでる名前が違うの?」

「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか」


私達は玉木くんの後について、慎弥の『現在』の部屋へと入っていった。


「今さらだけど、勝手に入ったりして大丈夫なの?」

「大丈夫っしょ。鍵とかかかってないし」

それは関係あるのだろうか?(そもそも和室なので鍵とか付いてないし)


「慎くんの部屋…」

こっちには乙女がいる。


「それじゃあ、このプロテクトを外したパソコンで…」

それは犯罪。


「広さん。ちなみにエロ画像とか見つからなかったの?」

「画像!!……好みとかは気になるけど……」

「どれどれ。探してみるか」

「いやいや、止めてあげて…」


慎弥はよくこのメンツをまとめていたものだ。

正直、私の手には負えない。

玉木くんはパソコンを操作すると、あるフォルダを開いた。


「これってもしかして…」


そこにあったのは数多くの動画。

日付ごとに並んだそれを玉木くんはスクロールしていき、その中でも比較的新しいものを選び、クリックすると再生が始まった。


『待ってよ~』


映し出されたのは幼い紗菜ちゃんだ。

紗菜ちゃんは誰かを追いかけている様で、カメラはそれに追従して、もう一人の少女を捉えた。


『はいはい…なんで一緒じゃないと映れないんだ…』

『真弓ちゃんと一緒がいいもん』

『その名前もいい加減にして欲しいんだけど。それに服まで指定だなんて…』

『え~かわいいと思うけどな~』


動画の日付からして四年ほど前だろう。

『s2kr』よりも二人とも成長している気がする。

紗菜ちゃんは無邪気な笑顔を浮かべ、今とは雰囲気からして違う気がした。

真弓ちゃん(仮)は見た目とは違って、ボーイッシュでサバサバした性格の子だったようだ。


でも

「これで何がわかるの?」

「これである程度の理解をしてくれればと思ったんだけど、やっぱり無理だよね」

「???」


玉木くんは、私がピンときていないことを確認したところで違う動画の再生を始めた。


「この景色…」


その動画は『s2kr』の一部で使われているもので、その光景には見覚えがあった。


『真子ちゃ~ん!!いいよ~!!あっ!?やばい鼻血出そう…』


フレームの外から声がする。

呼び名からして李華ちゃんだろう。

確かに声に聞き馴染んだ部分がある。

でも、テンションの上がり具合は真子ちゃん(仮)の熱狂的ファンといった感じだ。

そして、その姿を見た真子ちゃん(仮)が心から嫌そうな顔をしたのがバッチリと映っていた。

玉木くんは流れで次の動画を再生する。


『真名。オレとマジで結婚してくれないか?』

『死ね』


-シ━━━━ン-

私は人生で初めて、人がフラれる瞬間を見た。

今のは一人で映っている真名ちゃん(仮)にカメラを回している人物が言った言葉のようだ。

今フラれたのは慎弥だろうか?それとも玉木くんだろうか?

確認の為に玉木くんを見ると明らかに顔色が悪くなっていた。


「へぇー。広先輩って真弓ちゃんに告白してたんですか」

「しかも気合い入ってる感じだったよね。マジでキモい」


再生する動画を間違えたのだろう。

二人の軽蔑混じりの言葉と目に玉木くんはガックリと肩を落とした。


「いや…だって見た目だけなら最高じゃん…一緒にいるとそんな気分になってもしょうがないじゃん…」


玉木くんが言うように、見た目は文句の付けようがない。

だが告白してきた相手にすぐさま『死ね』と言う女の子の性格が良いとは思えない。


「玉木くん大丈夫?少し休憩しようか?」

「あぁ大丈夫ですよ、のあさん。それよりも広さんにトドメ刺したいんで結論に行くね」


結論と言われても、私はここまでの動画で何も掴んでいない。

それでも李華ちゃんは放心状態の玉木くんからマウスを引ったくると、一番古い動画を再生し始めた。


『…………………』

『なぁ紗菜。何か言ったら?』


映し出されたのは意外にも紗菜ちゃんと、見覚えがあるような男の子だった。

紗菜ちゃんは何も喋ることなく固まっていて、男の子は困り顔をしている。


『ちょっとストップ』


声が聞こえ、フレームの中に小さい頃の李華ちゃんが現れる。

カメラは回り続け、その一部始終を録画している。


『紗菜。やっぱりダメそう?』

『………………』


李華ちゃんの問いに答えているようだが、紗菜ちゃんの声は小さすぎて聞こえない。


『やっぱり慎にぃと一緒だと緊張してダメだって』


「!!!!!!!」


カメラの中の李華ちゃんは男の子に『慎にぃ』と言った。

ということは男の子の正体は慎弥ということになるのだが、正直に言って私の知ってる慎弥とはまるで別人に見える。

顔立ちは幼いせいか今とは全く違うし、身長だって映像の中の李華ちゃんや紗菜ちゃんと比べて小さい。


『じゃあ写真で良くない?カメラも持ってきてるし』

『どうせなら映像がいいな、楽しそうだし』


慎弥の提案に玉木くんが答える。


『あっ!私いいこと考えた』


李華ちゃんが何か思い付いたところで、映像が切り替わった。


『………………』


そこには不機嫌そうな顔をした真名ちゃんであり真子ちゃんであり真弓ちゃんである少女がいた。


『やばっ!?かわいい!!』

『こんなのアリかよ!?』


李華ちゃんに続き、玉木くんも少女を絶賛した。


『お前ら…!!なんのつもりだ…』


少女は怒り心頭といった様子だったが、そこに紗菜ちゃんが近づいて行く。


『遊ぼっ!!』


先ほどまで声すら聞こえなかった紗菜ちゃんがハッキリとした口調で少女の手を引いて走って行き、カメラはその姿を追った。


『これで大丈夫ってどういうことだ?』

『さぁ?紗菜的にはありなんじゃない?』


残された玉木くんと李華ちゃんが呆気に取られながら話をしている。


『だって中身のことは知ってるんだろ?』

『不思議だよね…見た目の問題なのかな?だとしたら慎にぃにはこれからもあの格好をしてもらうしかないよね』


「!!!!!!!!」


動画を見始めて二度目の衝撃。

でも今回のはただの驚きでは済まなかった。


「あれが……慎弥………?嘘でしょ?」

「本当です。仲は良かったのに私、慎くんと一緒にいると緊張してしまってたんです。だから私の為に慎くんは女の子の格好をしてたんです」


紗菜ちゃんが説明を始めたが私は納得できない。


「だって!彼女は亡くなったんじゃないの!?」


そうだ。あの子はもういない。だから慎弥のはずがない。


「誰かそんなこと言った?」

「それは…………」


李華ちゃんの言葉に記憶を探ると『会えない』とか『存在しない』とは言っていたが、『亡くなった』とは言っていない。


「でも『会えない』ってことはそういうことでしょ!?」

「それは単に紗菜が慎にぃにそれほど緊張しなくなったのと、そもそも動画を撮影しなくなって必要がなくなったからね」

「………………」


未だに信じることは出来ないが、そうだとするなら色々と辻褄は合う。

聞き込みをしても情報が出なかったこと。

慎弥の話に慎弥(女)のことが全く出てこなかったこと。

名前だって三人がそれぞれで呼んでいたなら違っても不思議はない。

紗菜ちゃんの悲しそうな顔も慎弥(女)ではなく慎弥(男)に向けられたものだとしたら納得はいく。


「のあさん私のアルバムとか見てたみたいだけど、慎にぃの写真って見たことないでしょ?」

「そういえば……」


慎弥の写真は幼い頃のすら一度も見たことがない。


「家にある慎にぃの小さい頃の写真って全部捨てられちゃったんだよね」

「なんでそんなことを」

「慎にぃの中で女装姿はトラウマみたいだからね。その頃の写真は男のままのでも見たくないらしいよ」

「は…はは…はははは…………」


転校してからドラマチックなことが多くて私の感覚は狂っていたのかもしれない。

人生、輝かしいことばかり都合よく起こらないということを。

そんな当たり前のことを思いだしながら、私は乾いた笑いをこぼしたのだった。








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