第15話
「この写真って…」
今まで顔がよく見える映像がなかったあの少女は、紗菜ちゃんと李華ちゃんに挟まれて複雑そうな表情を浮かべていた。
他の写真に写る少女も似たような顔をしたものが多く、笑っているものは一握りしかない。
「でも、とても綺麗な子…」
その美しさは一緒に写る二人と遜色ないどころか、圧倒的で見惚れてしまった。
「こんな子。芸能界でだって見たことない。慎弥が好きになっててもおかしくないわよね…」
ただ、それだけに疑問だった。
これだけの子がいれば、どこかしらで噂になっているはずだ。
しかし、誰からも彼女の話や噂は聞こえてこなかった。
一度は納得した疑問が私の中でまた沸き上がる。
「(知りたい。ただの興味本位じゃなく慎弥達と出会ったからこそ。彼女がメンバーにとって、どんな存在だったのかを)」
でも紗菜ちゃんには以前、質問をした時に結論だけを聞かされた。
これ以上、掘り下げるのは難しいだろう。
それに私の都合でまた悲しい顔をさせてしまうのは気が引ける。
慎弥に聞くとしても同じことだ。
慎弥がもし彼女のことを誰よりも大切に思っていたのなら、私が聞いていいことではないと思う。
写真の中にある輝きを見る私の心は、わずかな痛みと苦さを感じていた。
-翌朝-
「える~ゴハンだぞ~」
慎弥がえるちゃんにゴハンをあげているのを、私は何とも言えない心境でチラチラと見ていた。
「えるちゃんは何をしててもかわいいね~♪」
後から来た李華ちゃんも朝からテンション高めでそんなことを言った。
えるちゃんが来たおかげで昨日までよりも家の中が明るくなったように思える。
『えるちゃん全裸事件(李華ちゃんが命名)』も慎弥の必死の弁解により、とりあえずの収束となり、千坂家は以前の状態に戻りつつある。
だが私は、その空気に一人だけ乗ることが出来ずにいた。
原因はもちろん昨日見つけた写真の一件だ。
封筒は私の机の中に仕舞い、その中の一枚は通学用の鞄の中に入っている。
見つけたこと自体は偶然で、別に悪いことをしたのではないのが、それを慎弥に渡せずにいることに罪悪感を感じていて、慎弥とは顔も合わせづらい。
慎弥の方も昨夜の事件を気にしてか、私と会話はあっても目は合わせずらいようで、そこに関してはお互い様なのかもしれない。
でも、そこはお互い様であっても行為は同等ではない。
「(人の裸を見たにしては反応薄くない!?『忘れろ』とは言ったけど、そんなに私の裸は記憶に残したくないの!?)」
普通に生活しているが、私だってアイドルなのだから、もっと戸惑ってくれたりしてもいいのではないだろうか?
実際、昨日までの気まずさの延長にしか感じない。
これまで多くのファンと接してきて、自分に自信を持てたはずなのに、それが揺らぎそうになる。
「(あれか!?『オレは一人の女以外は興味がない』ってやつですか!?)」
前から動画の彼女のことは気になっていたが、あれほどはっきりと顔を見てしまうと色々と考えてしまう。
「(まさか…あんな美少女だって思わないじゃない…!!)」
動画の件で距離を取っているとはいえ、紗菜ちゃんの好意に見向きもしないのは、ただの鈍感野郎だと思っていたが、あの少女のことがあるからだとしたら。
「(結局は顔かよ!!何様のつもりだ!!)」
あの少女のことを何も知らない私の完全な想像と妄想だったが、慎弥の大切な人物なのかもしれないと思うと虫の居所が悪かった。
「……………あれ?」
自分の考えを改めて思い返していて、あり得ない答えに行き着いたことで思わず声が出た。
それに反応して、李華ちゃん。そして慎弥がこちらを向く。
「(いや…ないよね…?私が慎弥のことを………なんて…)」
今日、初めて目を合わせた慎弥の顔を見続けることが出来ない。
確かに良いと思える部分が多少はある。
特に誰かの為になら優しくなれて、それにより自分がキズを受けてもいいと思える強さは素直に尊敬する。
「(でも、それは私が勝手に慎弥とかつてのマネージャーを重ねているだけ…)」
だから、それが好意に直結するとは到底思えない。
「みぃー」
いつの間にか私の足元にはえるちゃんが来ていて、私はえるちゃんを抱きかかえた。
「(そうよ!!あんな変態!!痴漢魔!!)」
冷静になろうと、えるちゃんの頭を撫でたが、力が入り過ぎていたようで嫌そうな顔をされた。
「(気にしちゃダメ!!私にはやるべきことと、目標があるんだから!!)」
私は気合いを入れ直すと、二人より先に学校へと向かった。