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色違いnoあらかると  作者: 桜乃 葉
第1章
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第12話

千坂家の最寄り駅に向かうのとは違う路線の電車に乗ること二十数分。

電車は目的の駅へと到着した。


「こっちまで来るのは初めてだけど、あんまり人がいないのね」


電車の中で、これでもかというぐらいにオレに文句を言っていた為か、のあの機嫌も良くなり、今はこれから知ることが出来る事実に心が踊っているようだ。


「あぁこれでも一時期よりはマシになったんだけどな」

「???」

「なんでもない。行くぞ、こっちだ」

「ちょっと待ちなさいよ!?こらー!!」


のあが後ろであれやこれや言っているが、構わず進む。

そうすると、元々少なかった人の姿がどんどんなくなっていく。


「アンタもしかして私にHなことしたくて、人の来ない所に向かってるんじゃ…!?」

「一緒に住んでてそんなことあるか!!」

「きっと李華ちゃんがいるとダメなのね。やっぱりシスコンだわ」

「その妄想力は別の所に使ってくれ…それに、そろそろ着くからムダ話は終わりだ」

「えっ?だって見渡す限り何もないけど……まさか!?変態だけあって野外プレイが好きなの!?」

さすがにもう付いていけない。

言っておくがオレは至ってノーマルだ。


「着いたぞ」


その言葉に、のあは相変わらず不思議そうな顔をしている。

それもそのはず、さっきの場所と比べても見た目に大差はないのだから。


「ねぇ私バカにされてる?そうなら殴られるか蹴られるか選びなさい」

「正真正銘。ここが目的地だ!!のあは『s2kr』の最初の場面を覚えているか?」

「当たり前よ。あの海の近くから撮影してあるのでしょ?」


こんな曖昧な質問に即答できるということは、のあはだいぶ『s2kr』を見てきたのだろう。

でも、おかげで話は早く済みそうだ。


「ここがあの場面を撮影した場所だ」

「慎弥…歯を食い縛りなさい……」

「ちょ!?ちょっと待て!!ウソは言ってない!!」


のあの奴、沸点が低すぎやしないだろうか?こんな姿をファンが見たら泣きそうだ(まぁ一部の特殊なのは歓喜の涙だろうが)。


「だって映像では、松林から海が見えてて…」

「あぁ以前はそうだったな…」

「以前って…もしかして…」


のあも気づいたみたいだが、ここには以前、地震による津波が押し寄せた。

結果として人や景色は失われ、今は目の前の何もない風景が広がるだけとなった。


「でも、それだとおかしいじゃない。動画が出回った三年前にはあの景色はなくなっていたことになるし」

「あれは、それ以前に撮影したものだ。オレ達は『思い出作り』として前から撮り溜めていたものを編集しただけだからな」

「どうしてそんなことを?」

「中学生が考えそうなことさ。辛い思いをした人達に、かつての景色を見て元気になってもらいたかった…」


でも結果として、それは自分達の想いを人に押し付けるだけの行為に過ぎなかった。

それを知った時にはもう手遅れだったが。


「そう思ってたんなら、なんで削除なんてしたのよ」

「簡単な話だ。動画を見て辛い記憶を思い出す人だっているんだ。オレ達の自己満足を人に押し付ける訳にはいかない」

「でも、それだけじゃないわよね?」


のあのこういう鋭さには呆れを通り越して驚愕を覚える。

紗菜から何かしらの情報を得ていたとしても、のあは何処でこれ程までのものを身に付けたのか興味が出てきた。


「のあが気づいたのと同じことがあったんだよ。オレ達が通っていた中学校を中心に『動画に映っているのは紗菜じゃないか?』って」

「それってもしかして…」

「あぁ。何となくだけど人物を特定できるのは紗菜だけだったからな。紗菜を知ってる奴らから結構な暴言や嫌がらせを受けた」


確証があった訳ではないだろうが、それが図らずも正解だった。

今でもあの時に、紗菜に投げつけられた言葉の数々は忘れられない。


『望月。あんな動画あげて、嫌がらせのつもりか?お前には人の気持ちがないのか?』

『有名人にでもなったつもり?やってることは最低なのに評価されて良かったわね』

『アンタの自己満足でどれだけの人が傷つくか考えたことある?』


そんな言葉を受けても、紗菜は否定したり、反論をすることもしなかった。

それを肯定と受け取った周囲は、更にヒートアップしていった。


『私は大丈夫です。私はこの四人が一緒にいられれば十分ですから。だからみんなは関係者だってバレないようにしないとダメですよ』


紗菜はそう言っていたが、オレは見ていられなかった。


「でも今の紗菜ちゃんを見る限り、そういった心配はなさそうだけど?」

「あぁ。今はもう大丈夫だ」

「人の心は簡単に嫌悪感から変化しない。逆はあるけどね。何かしたんでしょ?じゃないとおかしい」

「高校二年のセリフじゃないぞ…年齢詐称してないだろうな…?」

「アンタやっぱり殴られたいの…!!」

「悪かった。ほんの冗談だ」


そうは言ったが、アイドルという華やかなイメージの裏にはかなりの苦労があるのが見えた様な気がした。


「で、どうやって紗菜ちゃんへの嫌がらせを止めたの?」

「止めてないさ。矛先が変えればいいんだから」

「変えるって?どこへ?」

「映像は遠距離から撮られたものばかりで、撮影状況なんて調べようもない」

「だからどうしたっての?」

「『オレが隠し撮りした』って言った」

「はぁ!!??アンタ正真正銘のバカじゃないの!!それとも本当に変態扱いされるのが好きとか………?」

「んな訳あるか!?それしか思い浮かばなかったんだから仕方ないだろうが」

「でも、そんなウソ誰かが否定すれば直ぐにバレるでしょうが…」

「そうでもないぞ。中学生なんて、より衝撃的な話の方を信じるからな。広や紗菜の否定なんて聞きもしなかった」

「そう………あれ?李華ちゃんは?」

「誰よりもオレを『変態』『盗撮魔』と罵ってたな…」

「はっ……あはは……」


のあから乾いた笑いが出るのも仕方ない。

李華の平気で兄を切り捨て自己保身に走る様は、我が妹ながら鮮やかだった。

それに、そのお陰でオレの大ウソにも信憑性が増し、誰もが紗菜を擁護するようになった。


「そんな感じで今に至る訳だ」

「慎弥はそれで良かったの?」

「普通にしていればみんなそのうち飽きると思っていたからな。それに高校生になれば盗撮なんて話、ネタにしかならないだろ?紗菜よりオレの方が一年早く卒業なんだ。良いことずくめだろ?」

「私が言いたいのはそういうことじゃないんだけど?」


のあの声には少し悲しみの色があった。


「きっと慎弥が紗菜ちゃんと距離を置いてるのってそれが理由でしょ?自分が一緒にいると被害者のハズの紗菜ちゃんが疑われるから…」


**********


知らなかった。

私と同世代の人が、多くの人の為になればと考え、叶わずに傷ついていたことに。

そして、誰かの為に全ての責任を被ろうとした少年は、私の中でかつてのマネージャーの姿とリンクした。

とても優しくて強い人。

だけど、慎弥が大切にして守ろうと思う人ほど、その煽りを受けて深く思い悩んでしまうことを私は自身の経験で知っている。


「(あれ?でも彼女はどうなったの?)」


紗菜ちゃんと一緒に映っていた少女。

慎弥の話では全く彼女の存在には触れなかった。

紗菜ちゃんは『あの子はもう存在しないんです』と言った。

紗菜ちゃんの言葉と、この地で起こった災害。嫌な考えが頭をよぎる。


「(ねぇ。彼女はあなたにとってどんな存在だったの?)」


私は答えの出ないモヤモヤを抱えたまま、その質問を胸にしまいこんだ。






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