その43:奴隷少女との距離
遅れてすみません(二重の意味で)
俺が気絶してから約一ヶ月が経った。
目が覚めて最初に見た光景は、泣きながら抱きついてきた狐耳美少女の姿だった。
一瞬「ここが最果ての理想郷か!?」……とも思ったが、少し遠くで困ったような笑みを浮かべて立っているエリスがいることに気がついて、ここが現実であることに僅かな安堵を覚えた。
実際に気絶していたのは四日程度らしい。その間に変な夢を見ていた気がする……が、今でも思い出そうとしても頭の中に靄がかかったように思い出すことができない。仕方がないので、気のせいだったと思うことにしておいている……ただ、
「ご~しゅ~じ~ん♥」
目が覚めてから、奴隷ちゃんの甘えが方がハンパない……いや本当に。
俺が倒れている間に、いったいどんな心境の変化があったのだろうか? エリスに聞いても「やれやれだぜ」と、なんともムカつく仕草でお茶を濁されるだけだった。
あー、そうそう。俺の目が覚めてから変わっていたことが三つある。
まず一つ目は、俺が気絶している間に宿の宿泊期限が切れてしまったようで、現在俺たちは港町の郊外にある林にいる。
林に生えている樹の中でも、一際大きな樹の根元がちょうど俺たち全員が入っても余裕がある天然の洞窟のようになっており、そこを少し改造して現在の拠点としているわけだ。
ちなみに、エリスは霊体化して俺の中で休んでいる。なんでも、実体化するのはえらくエネルギーを消費するらしく、その効率も凄まじく悪いらしい(俺の中ではエネルギーを消費せずに存在していられるようだ)。
そんな低燃費女神は、俺の記憶にアクセスして日本のサブカルチャーを日々満喫しているらしい……けれどもいきなり念話でネタをぶちこんでくるのは遠慮してほしい。
まぁ、その話はまた後日。
そんな俺だが、目が覚めてからただ怠惰に奴隷ちゃんとイチャイチャしていたわけではない。ないったらない。
しかし、いつまでも『少女』や『奴隷ちゃん』では呼びにくいので名前を教えてもらおうとしたところ、恐らくトラウマから来る発作がおきてしまい名前どころではなくなってしまった。
しばらく時間を空けて落ち着いたところで、奴隷ちゃんの方から「私に名前をつけてください」と頼まれ、散々悩んだ末に思いついたのが『火無華』という名前だ。
奴隷という悲惨な人生を歩んだこの少女に、もう二度と災いの火の粉が降りかからないように……華のような笑顔をずっと咲かせられるようにという願いを込めた。結果は泣いて喜ぶほどで、こちらとしても考えた甲斐があったと、名付けたこちらまで嬉しくなってしまった。これが二つ目。
そして三つ目が、なんと……なんと俺の身長が元通りになったのだ! せいぜい小学校低学年ほどしかなかった身長が、今は元の高校生くらいだと思う。
初めて俺の元通りの姿を見た火無華は、おもしろいくらいに動揺して取り乱していたのを今でも鮮明に覚えている。まぁ……本人にとっては、新たな黒歴史を生み出してしまったと落ち込んでいるようなので、あまりこの話には触れないでおこう。
そして今に至るわけだが、
「な……ねぇ、火無華? 俺……私どうしてもこの喋り方じゃなきゃ駄目?」
「むぅ~……ご主人くどい! 絶対にそっちの方が可愛くて似合ってる」
「そう言われてもなぁ……」
作業する手を止めて、何度目かもわからない確認をする。
この喋り方にはしっかりとした理由がある……決してそっち系の道に目覚めたわけではないということだけ明記しておこう。
理由というのも目が覚めた直後の、名付けて『火無華号泣事件』で、あまりにも泣き止まないものだから「何でも一つ言うこと聞くから」と言ってしまったのが事の発端で、そのときの"お願い"が『女の子らしい喋り方をする』といった内容だった。
自分から言っておいて後から「あっ、あのときのやっぱナシね!」というのもアレなので、こうして喋り方を女の子らしくするべく、日々奮闘している。
違和感があるが、それと同時に懐かしさを感じているのもまた事実だ。忘れもしない……王都まで凛と旅したあの思い出を。
「ご主人……また悲しそうな顔してる」
「え?」
やってしまったと、心の中で反省する。
なるべくそんな顔は見せないように意識しているが、ふとした拍子に表へ出てしまう。恐らく密かな自慢となっている猫耳は、某燃え尽きたレスラーのようにペタンと垂れていることだろう。
謝ろうと思い、「ごめんね」と、言おうとした瞬間だった。
「ごめーーむぎゅ!?」
押し倒されたと思ったら、言いかけた口が塞がれた……物理的に。マウス トゥー マウスである。
「んっ、チュ……ぷはぁ」
解放された口から熱を帯びた吐息が漏れる。身長が戻った影響で、いつもは火無名を見下ろすことが多いが、押し倒されている状況の今は同じ高さに彼女の顔が見える。
「い、いきなりなにすんだ……なにするの」
動揺したせいで口調が戻ってしまったが、すぐに気が付き、瞬時に誤魔化す。
火無華は顔を真っ赤にしながらも、まっすぐ俺の顔を見ている。俺の通常時の瞳色と同じ、快晴の透き通る青空を映したような綺麗なスカイブルーの右目……左目がないのが悔やまれる。
余談になるが俺の力を持ってしても、彼女の左目は治らなかった。それは俺にとって……いや、『竜』にとって目が特別な存在だからだろう。
「ご主人……」
頬を赤く染め、潤んだ右目が俺の左目を真っ直ぐに貫く。
「私はご主人の過去を……全部、じゃないけど知ってる」
「!?……あぁ、なるほど。あの女神か」
驚きは一瞬で、俺はなぜ火無華が俺の過去を知っているのかを理解した。あの女神なら、それくらいのことは可能だろう。
「だから何でご主人が、時々悲しそうな顔をするのかわかる……けどーー」
火無華は顔を一瞬下に向けたと思ったら、顔を勢いよく上げて珍しくいつもより大きな声で叫んだ。
「今、ご主人は一人じゃない!」
「!?」
嗚呼。心を打たれた、というのはこんな感じなのかーーと、他人事のようにそんなことを思った。
「そう、だね……うん」
目を閉じて、自分でもわからない何かを独り言のように納得する。再び目を開けて映ったのは、あと少しで鼻と鼻が触れそうなほど近くにある火無華の顔だった。
「ご主……きゃっ!」
言いかけた火無華の言葉を無視して、俺は片手で彼女の頭を少し強引に自分の胸元に抱き寄せた。押し倒された態勢のまま火無華の体温を感じていると、冷めた心が少しづつ温まっているような気がする。
「さっきの仕返し……許してね?」
「むぎゅっ、ご主人……ずるい」
そう言いながら、赤くなった顔を隠すように俺の胸に顔を埋める火無華が愛しくて、彼女の背中に回した両手に少し力がこもる。
今いる現場に物騒な巨大アーティファクトがあるのも気にせずに、俺たちはお互いの体温を交換し合った。
まず、遅れてすみません……今日の18時に予約投稿したと思ったら、明日の18時になってました。
私の頭は仕事を放棄したようです……そしていつもの。
まいど、四葉です。
悪い意味で予告通り遅れてしまいました。その分と言ってはなんですが、内容は「キタコレ」と、つい言ってしまうような内容にしました。
結局最後は、『幼女×少女』の百合百合・イチャイチャで終わってしまいましたが、次回から少し進展があるかな?と、四葉は予定しています。
あと細かな仕様変更が見て取れたと思いますが、この先のことを考えてのことですので、何とぞご理解をお願いします。
そして何と文字数が十万文字を越えました。
これも日頃より本作をご愛読していただいている皆様のおかげです。誠にありがとうございますm(__)m
これからも、本作とうちの子をよろしくお願いします。
では、また。




