その41:奴隷少女との生活ー2
海の遥か彼方ーー水平線から顔を出した太陽の光が、港町に今日という新しい1日の始まりを知らせる。
結局一睡もしなかった俺は、窓際で頬杖を付きながら遠くで輝く朝日を眺めていた。真っ白な髪が窓から吹き込む風にサラサラと揺れ、目にかかったそれを指でよける。
海が近くにあるために独特の匂いがする風……だが不思議と嫌な感じはしない。
猫耳を立てて周囲の音を聞くと、朝早くだというのに既に働き始めている人がほとんどだ。
漁師の朝は早いとは聞いていたが、夜明け早々にお仕事を開始とは……それで夕方まで働くわけだから10時間以上の労働……とある社長の名言である『驚きの白さ』もビックリのブラック企業である。
さて、今日の予定はどうしようか? などと思いながら、窓際の椅子から立ち上がった俺は少女の目が覚めるのを朝食の準備をしながら待っていることにした。
◇ ■ ◇ ■
朝食のメニューは体力が低下している少女を配慮して栄養、消化の良さ、食べやすさを意識したスープにした。
え、部屋に台所なんてあったけて? んなもんいらん!
魔力で宙に浮いている野菜や肉などの材料を【武器召喚】で呼び出した剣で切り刻んでいく。
ちなみに【武器召喚】とは、【アイテムボックス】に収納している武器を魔法で直接召喚して使役する魔法のことで、F◯15のとある王子をイメージして試しにやってみたところ、なんとイメージ通り簡単にできてしまった。
両手を塞がれないので、たいへん実用的で便利な魔法である。
「あとは材料を混ぜるだけか」
具材となる野菜などを切り終えたので、召喚した武器を【アイテムボックス】へ収納する。そのときに青白い粒子となって消えるのが、個人的にグッドだと思う……どうでもいいか。
次に魔法でサッカーボールほどの大きさの水球を生み出し、その下に火属性の初歩魔法である【ファイア】を使って火を出現させる。これぞオールマジックの異世界式給湯、エコである。
沸騰したら【ファイア】を解除し、熱湯の水球に具材をまとめて放り込む。
ネタに走るとしたら『ここにスープの具材があるじゃろ? これをこうして、こうじゃ!』……疲れているせいかテンションがおかしい。
実のところ俺は、王都の一件|(なぜか一部の記憶が思い出せないが)以来一睡もしていない……というよりは眠れない。重度の不眠症だ。
それでもここまでたどり着けたのは、ひとえにこの体のスペックが高いからだろう。
「んっ……」
スープが完成したことで手持ちぶさたになり、軽く放心状態になっていた意識がわずかな音により覚醒する。
ベッド近づいてのぞきこむと、朝日を受けて眩しそうに身をよじる少女の姿が目に写った。
「おはよ……もう朝だよ」
頭を撫でながら、できるだけ優しい声で話しかける。そしてさらっと、自分の膝と枕をすり替える。
そう、膝枕である。
むさい野郎がやったら罰ゲームにしかならないが、今の俺は超絶の美幼j……美少女なので許される! かわいいは正義なのです。
「んっ、かぁ……さま」
少女のこぼした寝言が俺の胸を締め付ける。
「あっ……ご主人、様」
そして目を開けた少女と至近距離で目が合う。涙で潤んだスカイブルーの片目と、同じ色の俺の目が視線を一直線で結んだ。
「え……あっ、その、えーと」
不自由な体で全力で慌てふためくその姿のなんと愛らしいことか……目を白黒させ、頬を赤く染める顔のなんとかわいらしいことか。
「くっ、ふふ……はははは」
思わず笑いが込み上げる。
こんな風に笑ったのはいつぶりだろうか? などと思いながらひとしきり笑ったあとに再度俺は、少女と会って初めての朝の訪れを知らせた。
「おはよ」
胸の締め付けは、いつの間にかなくなっていた。
そのあとは流れ作業だった……スープを飲ませ、そのあとすぐに寝かせる。今日1日はそんな流れで終わりを迎えた。
『回復魔法で一気に治せばいい』と思う人もいるだろう。
【回復魔法】は若干苦手だが使えることには使える。それをしないのは、回復魔法は傷は癒せるが体力までは回復できないからだ。
失われた体の一部を元通りにするにはそれなりの体力が必要となる。
体力が低下している今の状態でそれをやると、最悪の場合死ぬ可能性があったため、俺は少女の体力回復を優先して行うことにしたのだ。
そしてあの俺特性のスープだが、だてに前世農業を学んでいたわけではない。野菜や作物だけでなく、それに関連した畜産や食品加工、栄養学までも学んでいた。
その全ての知識をフルで生かし、完成したのがこのスープだ。
そしてその効率を高めるために、少女に合わせて調節した俺の魔力を流し込んでいくこと1時間。
「ふぅ、終わった」
少しのミスが命取りになるこの荒治療は高い集中力が要求されるため、精神面での疲労がやばい。
「さて……あとは」
しかしここで音をあげるわけにはいかない。
腰かけているベッドでは出会った当初が嘘のように回復した少女が、やはり穏やかな寝息をたてている。
(この子には悪いが、寝ている今のうちやらせてもらうか)
()の中だけ聞くと犯罪臭がやばいが、安心してください。
X ヤらせて
◯ やらせて
カタカナじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!
思考力が低下して、代わりに深夜テンションなみにハイになってるな……某カフェインファイターもびっくりなレベルだ。
「よし、あと一息」
そして自分の左肘から先の腕を俺は、
「っ~~~~~~!!!」
一切のためらいなく右手の手刀で切り落とした。
すぐさま意識を集中させると赤黒いオーラが右腕を包み、それが霧散するとまるでコマを戻した動画のように腕が元通りになっている。
「はぁ、はぁ……あとはこれを繋げれば完了か」
切り落とした自分の右腕を複雑な心情で拾い、いつもより速い脈拍を鎮めることを意識して一度深呼吸をしてから次の作業に取りかかる。
少女の体力は俺特性スープと、魔力補給によるゴリ押しで何とかなった……問題は俺自身の体力が持つかだ。両手を見ると疲労限界がきたのかプルプルと小刻みに痙攣している。
「それでも、やるっきゃ……ねーだろ!」
視界が歪み、目眩がする……そんな自分自身に渇を入れ、魔法で強制的に脳の処理速度を上げる。そして少女が知覚できないほどの速さで、少女の右腕の壊死した部分だけを空間ごと魔法で切断した。
一瞬血が吹き出たが、すぐさま切り落とした俺の右腕を切断面に当てて治癒魔法で接合する。その際に俺の腕が細胞レベルで少女の腕と接合させるようなイメージで治癒魔法をかけていく。
そのすべてが2秒以内の出来事だった。
治療した少女の右腕を見ると、まるで最初からそこにあったように違和感がなかった。さすが俺である。
「あれ……ははは」
目から液体がこぼれ落ちる感覚がして、目元を手の甲でぬぐってみると、手の甲が真っ赤になっていた。
「血涙って……まじか」
そう遠くないうちに倒れるーー直感でそう感じた俺は、少女に必要になるであろうものを【アイテムボックス】から取り出す。
「うっ……ふわぁ~~」
あらかた(最後の方は何を取り出したのか覚えていないが)出し終えたその時、ちょうどタイミングを見計らったかのように少女が目を覚ました。眠そうに目をこすり、小さなあくびをするその姿は可愛いでは足りないくらいにチャーミングだ。
「ご主ーーーーーー!!」
もう何を言っているのかすら理解できない……少女のシルエットが歪みぼやけていく。脳内に直接ノイズが流れているようだ。
(聞いているか知らないけど、頼んだぜ……女神さんよ)
自身に封印されている二心同体・一蓮托生の女神に独り言のような頼みごとを残して、俺の意識は深いまどろみに落ちていった。
まいど、こんばんは四葉です。
月末更新……そういえば中学時代、夏休みの宿題は最終日に徹夜で終わらせる派でしたね。
さっ、今月は何話更新できるか(フラグ)……予定では少女視点の話を書くつもりです。
さてさて、我らが主人公はどう思われてるのでしょうね(2828)?
では、また。
※ハント君……このメッセージはアップデート後には削除され る。なお当局は一切関知しない。




