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その32:ある忍の戦い (side佐助)

 俺は"しのび"だ。


 国を影から支え、事によっては処理する。


 忍には階級があり、大きく分けて 下忍→中忍→上忍 の三つだ。

 俺の階級は『上忍』……忍の中でも一握りの実力者だ。


 そんな俺だが、家族が……妻と娘がいる。

 妻は、代々の家業である服屋を引き継ぎ、日々仕事に勤しんでいて。娘は、妻に似た綺麗な顔立ちをしていて、明るい性格は昔の俺によく似ている━━━と、だけ聞けば、順風満帆な男だとお思う事だろう。


 しかし、俺の職業……つまりは"忍"である事を、俺は家族に話していない。城に務める役人……そう言う事になっている。


 そんな俺に、桜木王国の国王直々の任務が下った。

 この国を訪れている亜人族の少女を拉致する━━━と言った内容だった。


 国王である桜木王は、表面上では完全無欠の才能溢れる国王だ━━━が、その裏では見初めた女を、片っ端から誘拐させては壊れるまで弄ぶ外道。


 産ませた子は数知れず、飽きた女は何らかの罪を着せて処刑する……しかし表の顔が、そんな裏を書き消してしまう━━━いや、最初から王が外道だったかと言えば、答えは断じて否だ。


 一人娘の桜木姫を溺愛し、政治面・文化面で才能を遺憾なく発揮。国民からの支持も絶大で、正に才色兼備の理想の国王だった。しかし……妃である桜木王妃が、病のため若くして他界してしまった時から、王は変わってしまわれた。


 そんな時だ……王が猫人族の少女に会ったのは。


 その少女は、とある大名の奴隷だった。何でも大陸の奴隷商人が仕入れてきた唯一の猫人族だったらしい。

 それ以来王は猫人族の奴隷を探し回り……そして見つからなかった。


 この島国には猫人族がいないのだ。なので大陸から定期的に来航する奴隷船を待つしか無いのだが、ここ数年の間、大陸からの渡航船の数は"0"だ。


 理由は、四大精霊の内の一柱である水の精霊(ウンディーネ)が崇拝する神、『水神リヴァイアサン』がこの島国の近海に住み着いてしまったからだ。

 5000人単位の討伐隊が結成されて沖へ向かったが……誰一人として帰って来なかった。


 俺は、そんな国……国王はおかしいと思っているし、それをどうにかしようと行動した事もあった。しかし、その行動が俺自身を縛る呪いとなってしまった。


 下忍や中忍なら、消されていた事だろう……しかし俺は上忍であり、なまじ能力が高いために処刑される事は無かったが……その代わりに、二つの契約を強制された。


 一つ、王直属の忍として、王のどんな命令でも絶対に遂行し完遂する事。

 二つ、家族の監視を黙認する事。


この2つのどちらか……あるいはどちらも反した場合は、家族共々消し去るとの事だ。

 

皮肉なものだ……国に仕え、国の将来を想い行動した結果がこの有り様だ……。


 ◇◼◇◼◇


 任務の決行前夜。


「━━━それでね!てっ、聞いてるの?お父さん!」

 

「あ、あぁ……すまない糸奈」


 俺は久しぶりに娘話を聞いていた。

 職業柄、家を空ける事の多い俺にとって家族との時間は何よりも大切だ。


「もぉー……久々に帰って来たのにぃー!」


そんな怒った顔も、大変可愛らしい。このを守るためなら、俺は何だってやれる。


「あ、あははは……で?それで何があったんだ?」

「うん!それでね–––––」


 それから俺は、夜遅くまで娘の話に耳を傾けていた。

 しかし俺はこの時に、娘の話しを聞いた事を後悔していた……任務対象が娘と親しい事を知ってしまったからだ。

答えは決まっている……だが思わずにはいたれない。

俺は……俺はどうすればいい?


◇◼◇◼◇


任務は予定通り遂行した……筈なのだが、王座に座った王が醜悪な顔つきで憎々しげに睨み付けてくる。


「此度の失態を、貴殿はどう感じておる?サスケよ」


失態……か。

娘と親しい少女を、身を削る思いで誘拐したというのに……だが、それを口にすることは出来ない。


「はっ!此度の脱走を許してしまったのは、私の失態でございます……。ですがそれは、王の安全を確保するためでありまして━━━、」

「ほぅ……貴殿は余のせいだと申すか。では何故、部下に追えと命じなかった?」

「そ……それは」


せめてもの情けだ……方法は知らないが、地獄から脱出した少女を再び突き落とす事は……俺には出来なかった。


「まぁ、良い。だが二度目は無いぞ?もしも次、同じ様な失態をしたならば……、妻と娘の命は無いと思え」


任務は完遂したので契約違反にはならなかったらしい……だが後がない。

ギュッと手が白くなるほど握り、俺は自身を呪う。大切な家族を守り切れない己の力不足を。


唇を噛みしめながら答える。


「御意……」


◇◼◇◼◇


地平線から顔を出した太陽から射し込む朝日が、王都に新しい今日の始まりを教えてくれる。

桜木城天守閣の屋根から、少し霧がかる城下町を見下ろし、物思いにふける。


これまでの事、これからの事……いずれにしろ俺はまともな死に方はできまい……。小一時間程考え事をしていると、警笛が鳴り響く音が聞こえてきた。


この難攻不落と名高い桜木城に、白昼堂々攻め込んで来る人物は……一人しか心当たりがない。


「来たか……」


俺は戦場へ向かう……己の罪を償う為に……。



感想、評価、ブクマをよろしくお願いします!

誤字雑字の報告も大歓迎です!


◇◼◇◼◇


まいど、四葉です。


あと数話程、主人公以外の話を書こうと思っています。

で、そこから一気に仕上げて王都編終了!!……と計画しています、はい……スローライフへの道は長いですね。


ではまた!


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