その2:マジっすか
チュンチュンと、鳥のさえずりが聞こえる。「コレが世間で言う"朝チュン"か!?」......と、どうでもいい考えが頭をよぎる。
木々の間から差す木漏れ日が光の筋になって、まるでスッポットライトのように俺を照らしている......目を閉じていても日の光が眩しい。
「うっ、ん......っ?!」
徐々に意識がハッキリしてくるにつれて、周囲に違和感を感じて起き上がり周りを見てみた。
地面の感触は、俺にとっては慣れ親しんだ土だ。しかし、周囲を見回しても木、木、木、木......どこを見ても"木"しかない。
俺がいた場所は森の中だった。
「ここどこ?......ほぇ?」
自分でも間抜けな声が出たもんだなと思ったが、問題なのはそこじゃない......"声"......そう、声が前の俺......いや前世よりも明らかに高くなっている。まるで女の子の声みたいだ。
そして俺はやっと自分の格好に気がついた......黄緑を基調とした色合いで、大きな袖口に、股下10センチまでしか隠せないような丈という極めてあざといデザインの浴衣のような和服を着ていた。
「なっ!?」
見てしまった......やけに胸のある部分が膨らんでいることに...... サー、っと全身から血の気が引いていくのがわかる。嫌な予感がしながらも、そのまさかではないことを祈り、自分の胸を触る。
「......」
そこには二つの山があった......大きすぎず、小さすぎない程よいサイズの山が。
お、おおおお落ち着くのだ俺!!今触ったのは......あ、あれだ!!少し柔らかいだけの大胸筋だ!!そうに違いない!!......柔らかい大胸筋って何じゃそりゃー!
全力で現実逃避を始める俺をさらなる衝撃が襲う。
「はっ!」
まさか、いやいやそんなまさか......と思い、ゆっくり胸から手を離して、今度はその手を股に伸ばす......が、
無かった
本来ならそこにあるべきものが無かった......俺のネオアームストロング・サイクロンジェット・アームストロング砲は......マイサンは何処かへ逝ってしまったのだ。
生まれたときから共に成長してきた俺のムスコが......そこで俺は気がついた......いや、気づいてしまった。
「俺......女の子になっちゃった......」
# # # # # # # # # #
「いや〜、我ながら見事なキャラクターメイキング!」
無事に村雨圭を自分の世界に転生させて、テンションがハイになっていた女神。
だが、そんなテンションはある神物が入ってきたことによって氷点下まで急転直下することになる。
「どうゆうつもりかしら?......フレイヤ」
「っ!?......や、やあツクヨミ......久しぶりだね」
某金属の歯車の主人公を発見した敵兵のような反応をするロリッ娘......フレイヤの神室に入って来たのは、巫女装束に身を包んだ、黒目黒髪の美女だった。
顔が真っ青になり、引きつる口元をどうにか笑顔にする。何を隠そう......このいきなり入ってきた神物は地球を担当する女神なのだ。
「突然で悪いのだけど。 あなたの世界に、私の世界から1人転生してないかしら? 死亡者リストに載っていない子が1人消えたから、もしかすると......って思ったのよね」
「はい......すみません!私が殺りました!ーーーって、痛ぁぁああああ!!」
ツクヨミの手刀がフレイヤの頭頂に直撃する 。
「全くあなたは......どうしてこんな子が神になれたのか理解できないわ」
「ひ......酷いよツクヨミぃ〜暴力反対!......って、ストップストップ!」
再び手刀を構えたツクヨミが、逆再生のように手を下す。
「失礼......つい、無意識で」
「無意識って怖!?」
そんなやり取りの中、話を切り出したのはツクヨミだった。
「それでどうする気?」
「はい......その子は、私が責任を持って面倒を見させていただきます」
土下座するフレイヤに、ツクヨミが絶対冷度の冷たい目線を送る。
「責任......ねー」
「な、なんだいその目は......ゾクゾクするじゃないか! って、ぐはぁ!!」
今度はみぞおちに手刀がめり込む。
ピクピクと痙攣しながらうずくまる神物を見て、はぁー、っと小さく溜息をつくツクヨミ。
「まぁ、いいわ。その代わり、しっかりと有言実行して貰いますからね」
「わ......わかってる、よ。 私を何だ、と思ってるのさ......ガク」
「はぁー......どうだか」
そんな密かな女神達のやり取りをしてることなどつゆ知らず、圭はというとーーー、
##########
「どうしよう......」
女になったのは良くはないが、まぁいい。あのダ女神貧乳に全部丸投げした俺にも非はある......問題はこれからだ。
この森をどう抜けるかが課題だ。当たり前だが、現在地がどこかわからない。クソッ......この手にスマホがあれば!
「......よし!とりあえず歩くか」
落ち込むの終了!!行動しない事には何も変わらない。とりあえず、人に会う事を目標として移動を開始する。
〜歩く事こと2時間〜
「つ......疲れたでござる......」
まだ森の中を彷徨っていた。その足取りは酔っ払いのようにふらふらしていて、とても覚束ない。
「み、水......水が、飲み......たい」
歩き続けると当然体力も減るし、喉も渇く。当たり前だ。
---すると、
ザァー
水が流れる音が聞こえる......音の聞こえる方向に、気力を振り絞り歩いて行くとーーー川があった。
すぐに手ですくい、無我夢中で口に運ぶ。
ほぅ、と一息。
「い......生き返った~」
水ってこんなに美味しかったんだな......こうして考えると、前世日本では当たり前な水の有り難みが良く分かる。
日本人が、アメリカで水道水を飲むと腹を壊すらしい。理由は単純で"汚れてる"からだ。
なので、アメリカ人の指す"飲料水"は、コンビニで売ってるペットボトル入りのミネラルウオーターのことを指す。 それほどまでに、日本の水道水は世界的に見ても綺麗なのだ。
ーーーこのとき俺はやっと女になった事以上の衝撃を受けた。
その衝撃の正体は、川に映った自分を見て......いや、正確には頭に生えている耳を見てだ。
そこに写っていたのは猫の耳だったーーーいわゆる猫耳と呼ばれる物が俺の頭についていた。
「本物?」
とりあえず触ってみる。
「ひゃっ!」
狙った訳じゃないのに女の子みたいな声が出る。あっ......もう、女の子でしたちくしょう!!
それはそうと感想だが、くすぐったい......それはもうビックリする程に。そして、まさかと思い腰にも手を伸ばす。
ーーー尻尾
そう、猫耳もあれば尻尾もある......逆に、なぜ今の今まで気が付かなかったのかが知りたい。
尻尾は自分の思った通りに動く。違和感が半端ないが、まぁ、慣れるだろうと割り切る事にする......そうでもしないと身が持たない。
もう一度川を覗いてみる。
肌は陶磁器の様に白く、髪の色は栗色だった。耳と尻尾も同じ色だった。
目の色は、透き通る様なスカイブルー。
自分で見ても可愛いと言える容姿をした美少女だった。
「はははは......マジっすか......」
自分の声とは思えない綺麗で可愛らしい......しかし潤った喉とは逆に、乾いた笑い声が寂しく森の中に消えていった。
これからも本作品をよろしくお願いします!