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異世界で無職と少女が  作者: ええジャマイカ
4/7

4 将来性

【この章に登場する用語】

エレウォン: 中世ヨーロッパ風文明社会が広がる異世界

エイク語: ニルストリアで話されている言葉

イリリア: 主人公の住んでいた世界、俺達の世界、

      日本、アメリカ、中国などのあるこの世界を指すエイク語


【人物】

一色大: 主人公

ルーカ: ナイス・インで働く少女

エリオ: ナイス・インの主人。ルーカの父親

ウィリー: アメリカ人旅行者。ルーカの婚約者



 俺がルーカと結婚する?

 なにを言っているんだこのおっさんは。


 ルーカはまだ子供だし、俺は20以上も歳が離れてるし、生活基盤も持っていない異世界人の旅人だし、つーかそもそもこのおっさんはルーカをウィリーと結婚させるのではなかったのか?

 だいたいルーカはまだ子供だし、ウィリーは40くらいも歳が離れてるし、生活基盤も持っていない異世界人の旅人なのに、エリオはどうして結婚させようと思ったのだろう。

 

「ルーカはウィリーと結婚すると聞きましたが」

「うん、そうだ」

「どういうことですか」

「ルーカはお前に懐いているようだ。ダイもルーカのことを気に入ってるだろう? お前にそのつもりがあるなら、ウィリーとの話はキャンセルして、ルーカをお前にやろう。ウィリーには俺のほうから話す」

 

 ウィリーはキャンセルなんてそう簡単に納得するのだろうか。

 なんだかだいぶいい加減なようにも感じるが、ともあれ、俺自身はルーカと結婚なんて考えられない。

 

「ルーカのことはかわいいと思いますが」

「うむ」

「俺は結婚する気はありません」

「なんでだ」

「なんでって。だってルーカはまだ子供ですよ。結婚相手として考えられません」

「そりゃあ、今は子供かも知れないが」


 エリオは続けた。

 

「あと数年もすりゃあ、いい女になるぞ」


 !?

 たしかに。

 エリオの言う通り、10年後のルーカはかなりの美人になっているだろう。

 そう考えると、ルーカと結婚というのは、たしかにとても魅力的な案かもしれない。


 ……いやいやいやいや。いくら将来有望だからって、子供と結婚っていろいろとどうなのよ。光源氏じゃあるまいし、今は21世紀だぞ。ここエレウォンはまるで中世ではあるが。

 

 俺の心が一瞬動揺したのを見透かしたように、エリオはさらに付け加える。

 

「おまえなら金30でいい」

 

 ……。

 なるほど。

 俺は理解した。

 ルーカは、男は金がないと結婚できないと言っていたが、そういうことなのだ。


 エレウォンでは男は結婚しようという場合、金銭を新婦の家に納めるのだろう。

 そしておそらく、娘を持つ親は、自分の娘をできるだけ高額の金銭を出してくれる相手に嫁がせようとするのだ。

 結納金のようなものだろうが、えげつない見方をすれば、嫁を金で買うとも言えなくもない。

 

 俺は黙り込んだ。

 ウィリーはルーカを買ったのだ。

 エリオはルーカを俺に売りつけようとしてるのだ。

 エレウォンではこれは当たり前のことで、エリオに娘を売るという意識はないのかもしれない。おそらくそうだろう。

 しかし、穿った見方なのかもしれないが、俺にはルーカを売り買いする話のように思えてしまう。

 

 そう思い始めると、気分のいい話ではない。

 俺が金でルーカと結婚することも。ルーカがウィリーに金で買われることも。

 

 俺は不機嫌な顔になっていたのかもしれない。

 エリオは話題を変えた。

 

「ところで、ダイはいつまで旅してるつもりなんだ?」

「決めてない。そうだ、俺は旅行者だ。いつかはイリリアに帰る。ルーカと結婚することは出来ない」

「イリリアでは、ダイはなんの仕事をしてるんだ?」


 俺は言葉に詰まった。

 

「エレウォンでなにか商売を始める程度の金は、ダイは持っているだろう。ルーカと結婚するならば、お前は俺とファミリーだ。エレウォンに住んでもらうことになるが、お前がエレウォンで商売をしようってときには、俺がいろいろ手助けをしてやれると思うぞ」


 まるで、俺が日本に戻っても居場所がないことを、見透かしているかのようだった。

 

 たしかに、1年後になるか2年後になるかあるいはもっと先になるかはわからないが、日本に戻っても俺には仕事はない。エイク語を使えたところで需要なんてないだろうし、エレウォンの経験など日本の企業でなんの評価もされないだろう。

 日本を出るとき、もし可能なようであればエレウォンに移住という考えもなくはなかった。その可能性はまずないと思ってはいたが。

 

「ウィリーがルーカと結婚したがってるんだろう? どうして俺に話を持ちかけるんだ?」

「ルーカはウィリーよりもダイに懐いている」

 

 ルーカの気持ちを思うんだったら、ウィリーとの結婚なんて許諾しなければ良かったのに。

 いや、ルーカもウィリーと結婚することを嫌がってるわけではないか。

 

「それに、ダイのほうがウィリーよりもずっと若いしな。将来性もあるだろう」


 エリオは英語でグッド・フューチャーと言ったのだが、俺はそれを将来性と解釈した。

 なるほど。

 彼の目からは、俺に将来性があるように見えるのか。

 

 日本を発つ前、俺は自分の将来になんの希望も持てなかった。自分に将来性なんてないとしか思えなかった。

 何もしなければそれこそ将来はどんどん悪くなっていくだけとわかっていたが、かといって、何をしたところでその先に明るい未来が待っているとは思えなかった。

 未来があると言われたのは新鮮だった。

 エレウォンでなら、俺に将来性が、明るい未来があるのだろうか。

 

 とりあえず、10年後に若くて美人の嫁がいる可能性はあるらしい。

 

 「あと数日の間なら、ルーカとウィリーの結婚も取り消せるだろう。3日待つ。考えてみてくれ」

 

 俺が思案している様子を見て、エリオはそう言い残し、席を立った。



次回は世界設定の説明になると思います。

各章の冒頭にこの小説独自の用語、人物説明を付けてみました。

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