Wizard VS Knight 【魔導師】【対】【騎士】 Bパート
戦闘メイン回、後半パートです。レムが持つ普通とは少し異なる価値観、思考。それらを含めた、人間関係をお楽しみください。
「協力を感謝します、シエル・アシュホード」
騎士ノーラ・クリスタとアリス・フローベルが姿をくらましてしばらく。
シエルやレムが騎士と戦闘を続けていた現場にクリスタが到着。シエルに向けて敬礼を示す。
「構わないわ。こちらもククルちゃんのことは気になっていたし、ミュウたちを居住区まで送り届けてもらったからこれでおあいこ。と言っても、私たちが到着してすぐに向こうは撤退しちゃったから、どれだけ役に立ったかはわからないけどね」
シエルが魔導師の隊を引き連れてククルの元にいち早く戻る事が出来たのは、クリスタを始めとする数人の魔導師がミュウを救助。そのまま安全な場所まで送り届けてくれたからだ。
突然の襲撃のせいで状況が混乱しかけていただけに、ブリッジで全隊の指揮を執ることに専念できるのはクリスタとしても都合がよく、緊急措置としてクリスタは他の魔導師やシエルに現場指揮を任せ、早々に方舟に帰還した。というわけである。
もっともシエルの言葉通り魔導師隊が到着してほんの数分のうちに騎士は撤退したのだから、クリスタが一時方舟に帰還したのは無意味。そう言えなくもないのかもしれない。
「騎士がお姉ちゃん……とはいえ、実際の血縁関係にあるわけではないのでしょう?」
「ええ、ククルちゃんの話を聞いた限りではね。ククルちゃんが施設で最初に気が付いたとき、あの騎士の女性が身の回りの世話をしてくれたり物事を教えてくれたって」
「報告にあった、レムと戦闘を繰り広げていた騎士のほうですか。名前がないと少々面倒ですし、『姉』とでも仮称しておきましょう。もう一人はアリスと名乗っていたのですよね」
ノーラ自身が名乗っていないこともあり、方舟の側がノーラの名前を知ることはなかった。名前を知ったところで何が変わるものでもないが、少なくとも騎士を虫の一種でなく、一つの個として見るぐらいのことは出来たかもしれないのだが……。
「ククルの姉とアリス。お嬢様に並ぶ力を持つであろう者二人に狙われるとは……不運どころの話ではないな。ご子息がいなければどうなっていたことか」
やれやれと息を漏らし、クリスタはレムの方へと視線を傾ける。と、レムは魔導機杖とククルとを見比べ、じっと何かを考え続けているようであった。
ほんの少しの後。考えがまとまったのだろう。レムは急に顎を上げ、視線をククルに傾ける。
瞬間、ざわりとした寒気がクリスタの背を襲った。
「……! まずいっ。下がれ、ククル!」
「えっ?」
Sword
クリスタがレムの強行に反応する事ができたのは、妙な予感があったからだ。騎士の目的がククルの救出なら方舟の、いや、ミュウ・アシュホードへの危害を最小限に留めるにはどうすればいいか……。
二つの【剣】の衝突が疑問の回答となって、ばちり、空中に激しい火花を響かせる。
「……? どうして止めるんです? この子を処分すれば、騎士が方舟に仕掛けてくる理由がなくなるじゃないですか」
「そういう問題ではない! それに、ご子息のお考えは少々極端に行き過ぎている。この子を犠牲にすれば騎士の攻撃が止むという証拠もなしに、当てずっぽうで強攻策に出るなど――」
「止まないって証拠もないじゃないですか。どのみち機甲虫の仲間や適合者の可能性が高いなら、安全策は処分することじゃないんですか?」
「……そういう、歪んだ理屈を」
「はい、ストップ。二人とも少し落ち着いて」
クリスタとレム。二人の背中をぽんっ、と軽く叩き、シエルは刃を仕舞うように優しく諭す。
「魔導師の敵はあくまでも機甲虫。魔導師同士で争うのは、どちらに非があろうと足の引っ張りあいにしかならない。でしょ? それに問題の中心、本人たるククルちゃんを無視して外野が勝手に熱くなるのもおかしいわけだしね」
はっとして後ろに目を向けてみると、ククルは戸惑ったまま、きょろきょろと周りを見回し続けていた。自分を迎えに来てくれた姉を追い返した上でのレムの手の平返し。それに加えて見慣れない大人がたくさん集まってきたことで、軽い恐怖心を抱いているのかもしれない。
「ククルちゃんの不安を拭い去ってあげる。ククルちゃんを安心させてあげる。まずはそっちが大事なんじゃないかな?」
「それはそうですが、ご子息の考えは行き過ぎていて」
「母親代わりとしては、見過ごすことが出来ないと」
「……っ。過去、数え切れないほどの間違いをおかして、今度こそは。それだけです」
魔導機杖を剣から杖の形状に戻し、クリスタはレムとの鍔迫り合いを終わらせる。
妹を失い、敬愛していた存在。リーゼを見捨てて、リーゼが方舟に帰還してからは、彼女の命令に従うことを絶対として。
「ねえクリスタ。私の杖、まだ補充は終わらない?」
服の裾をぐいっと引っ張られて振り返ると、ククルが、不安そうな眼差しでそう問いかけてきた。
「お姉ちゃんが誰かを傷つけるのも、お姉ちゃんが傷つくのも見たくない。私が帰れば、それで問題は解決するから」
理屈の面だけで見ればその通り。アリスという方はともかく、少なくとも『姉』を自称する騎士が方舟に執着する可能性は低くなるだろう。
ただ……それも可能性というだけだ。ククルを大人しく差し出したとして、それで騎士の攻撃が止むという証拠がない。それにククルが適合者なら状況は違うといえ、リーゼの事例を繰り返すだけになるだろう。
それはつまり、自分を守るためにまた、大切なものを犠牲にするというわけだ。この子は本物のククルではないが、だからといって……。
「大丈夫」
さぁーっと優しく頭を撫でて、クリスタはククルに微笑みかける。
「今回こちらとククルの姉がぶつかってしまったのは、双方の事情がわかっていなかったからだ。次にやってきた際は、こちらの事情を説明する。ククル、貴公からも戦う必要はないと姉に伝えて欲しい。貴公とて二度とここに来られないでは寂しいだろう?」
「それは……うん」
何をやっているんだろうな。
ククルをあやすように言葉を言い聞かせながら、クリスタは自分自身にそんな疑問を抱いてしまう。客観的に見てみれば、クリスタの考えは明らかに地に足がついていない。
矛盾だらけで穴だらけ。感情だけが先走りすぎていると言っても良いだろう。
必要以上の犠牲を出したくないと言えば聞こえがいいが、実際には、ククルに妹の姿を重ねかけているだけなのだ。
虫を相手に話し合いとは……本当に馬鹿げている。
「結局ククルちゃんの保護に落ち着くか。良いことだけど、そうなるとレム君のことが心配かな」
ちらりとレムに目を向けた後。シエルはクリスタの元まで飛んでくる。
「ねえクリスタ。レム君のことなんだけど、あの子、今晩は私の家で預からせてもらってもいいかしら? それと、ククルちゃんもね」
「えっ? シエル・アシュホード。それは幾らなんでも……ご子息がククルをどのように思っておられるかは、貴方とて十二分にわかっているでしょうに」
「うーん。わかってるからこそ、かな。ククルちゃんとレム君の関係、放置しておいたら悪くなる一方だと思うのだよね。ミュウやククルちゃんと一緒にいたってことは、少なくともレム君、あの騎士が来るまではそこまで悪い感情をククルちゃんに抱いてなかったのだと思うし」
「だからと言って……」
「心配に思うのはわかるけど、ひとまずは任せてみてよ、ね」
優しそうな笑顔でそう諭されてしまうと駄目だとも嫌だとも言えず、クリスタはただ任せます、と頭を垂れることしか出来ないのであった。
方舟よりも遥かに北東。砂の粒と枯れ枝、枯れ葉。小さく砕けた骨の破片や機甲虫の甲殻が落ちているだけの寂れた荒野。背後に巨大な山脈が生え揃うそのふもとで、騎士ノーラ・クリスタはアリス・フローベルの胸倉を思いきり掴みかかっていた。
「貴公は、どういうつもりか!」
「どういうって、ひどい言い草ねぇ。命の恩人に対してさ」
「恩人だと? 貴公が余計なことをしなければククルを助け出せたものを」
「……? 妄想と現実がごっちゃになっているのでないの? 私が手を出してあげなければ危なかったでしょうに。と、どうしたの?」
「決まっている。あの艦に対し再度の攻撃を仕掛ける。ククルの姿を確認できた以上、一分一秒を待つ必要すらない」
「……重たい。いいじゃない一日ぐらい放っておけば。それに助けると言ってももうマナがないんでしょ? なら、無理をしてもレム君に返り討ちにされるだけ。体勢と戦力を整えた上での再度のアタック。本気で助ける気ならそれが適切ではないの?」
「何が狙いだ」
「あん?」
「失礼だが、貴方が善意で協力してくれているようにはどうしても思えない。何かしらの裏がありその上でと、そう思えてならないのだ」
「ふぅん」
まじまじとノーラの顔を覗きこみ、やがてにやり、とアリスは不適なまでの笑みを浮かべ始める。
「ノーラちゃんは不器用な生き方が好きなのねえ」
「なに?」
「賢くないと言う意味よ。仮に私に裏があったとして、それを指摘するのは良くないでしょ。私の意図がどうあれ利用しつくしてやる。それぐらい不相応で、身の程を知らない馬鹿の方がまだ可愛げがねぇ」
「…………」
「おや、ふくれっつら。そう怒らないで欲しいね。ただ図星を突いてあげただけなのだから。しかしマナが切れかけているのは事実。レム君とやりあえるかどうかは別として、万全を期すためにはぐっと堪えてマナを補充するのが正解だろうね。この辺りにもマナは溢れているんだ。一休みすれば、コロニーに戻るぐらいのマナは吸収できるでしょうに」
マナをエネルギーの源とする機甲虫の女王固体や騎士という種には、吸魔ファンと呼ばれる特殊な装置が体内に内蔵されている。マナ自体はコロニーに備蓄してあるといえ、マナが底をつく=死である以上、緊急でマナを取り入れる機能は彼女らにとって必要不可欠ということだ。
Transference
指先をぱきりと折り曲げ、アリスは【転移】の術式を呼び起こす。
「で、どうする? 再度のアタックを仕掛けるというなら、協力してあげないこともないのだけど」
「いらない。貴方の協力など必要ない。前にもそう伝えておいたはずですが?」
強い口調でノーラがそう答えると、アリスは少しだけ、不満そうに唇を尖らせる。
「頑なな。そうやって、貴方は無駄に意地を張ろうとする……まあ、別にいいのだけどね。ただ私の申し出を断ったこと、後々後悔しても知らないよ? 大人しく私の言うことを聞いておけばよかったって、そう思ってしまうかもね」
含みのありそうな言葉を言い残し、アリスはすーっと姿をくらましてしまう。
時折吹き荒れる風が枯れ葉を転がしていくだけの、ほとんど無音とも言える静かな景色。
マナが底をつきかけている今の状態で飛翔を使い、無駄な消費をしたくなかったのだろう。ノーラはざんっと、両足で地面を踏みしめて歩き出す。
不思議なものだな。
そんな考えが脳裏を横切ったのは、あれほど歩けないことにコンプレックスを抱いていたのに足が完治してからというもの、ほとんど歩くことがなくなってしまったからだ。
コロニー内部は入り組んでいる上に高低差が激しいから飛んだ方が移動しやすいし、外を偵察するなら空中を移動するのが当然。
幼い頃は自由に地面を駆け回りたいなんて思いを抱いていたのに、いざ自由を手に入れてみれば地に足もつけず、ふわふわと宙に浮いてばかりいる。
「……黒い痣? 内部で出血でもしているのか」
ふと自分の両足に目を向けてみると、右足の膝が酷く変色していることに気がついた。動かせないことはないが、マナが戻り次第再生を行っておいたほうが良さそうだ。
足が完治したと言ってみたものの、実際には完治とは程遠い。神経が通ってないおかげで痛覚を感じず、結果的に歩けるようになったというだけだ。
爆弾を抱えているのは今も変わらない。いや、むしろ今の方が進行の具合は酷くなっているはずか。
細長い指先を眺め、ノーラはぱきりと間接を折り曲げる。
子供の頃に姉さんと医者の先生が話していたことが確かなら、私の足が動かなくなったあの病はまだ進行途中だったそうだ。年々進行の度合いが強くなり、数年後には全身が動かなくなる。動かそうとすると激痛が走る。そんなことを言っていた。
神経が死んでいるわけではないから痛みを無視すれば動かせないこともないが、そんなことは実現不可能。……人間の持つ常識の範疇では。
とはいえ、痛みがないと言っても身体へのダメージは確実に蓄積され続けているだろう。ククルを助け出した後はあの子に戦闘経験を積ませて、私は母様の守りに専念する。
案外、そういうのも悪くないかもしれない。
「ん、あれは……」
遠くの方に動くものの姿を捉え、ノーラは瞳に搭載された望遠レンズの倍率を上げる。
「先ほどの人間の小隊、数が増えているな。回収に来たというところか」
仕掛けて止めを刺す。そんなことを少しだけ考えてみたが、止めた。
まだマナが十分に回復したわけではないのだから、無駄な事に労力は使わない方がいいだろう。
飛べるだけのマナが戻り次第、コロニーに帰還して体勢を整える。癪な話だが、その間だけはククルを人間に預けておくしかない。
本当に、癪な話ではあるのだが……。
方舟の居住区。W地区、シエルが経営する料理店に向かう道の途中。
レムは魔導機杖を肩に担ぎ、ククルの動作一つ一つに目を光らせ続けていた。
ククルが機甲虫と近い関係にあるとわかった以上、放置しておくわけにはいかない。だから監視を続けて下手なことをさせないようにする。すぐに排除してしまえれば気が楽なのだが、クリスタもシエルもそれを良しとは思っていないらしい。
ただ、百歩譲ってそれはいいとしても……。
「シエルさん、ククルが適合者というのは聞いていますよね。機甲虫に渡さないために匿うのはいいとしても、わざわざミュウと一緒にいさせる必要はないんじゃないですか?」
「あら? 二人ともが同じ場所にいた方がレム君としても守りやすいと思ったのだけど、駄目だったかしら。それに、賑やかなほうが楽しいじゃない」
どこかずれた返事を返されて、レムは思わず首を捻ってしまう。ミュウはともかく、ククルまでをわざわざ守る必要はないだろうに……。
「レム、次にお姉ちゃんが来たときには、変なことをしたりしないでね」
「変なこと?」
がしゃりと魔導機杖を奏でながら振り返ると、後をついて来ていたククルがぽつりぽつりと言葉を口にし始める。
「レムはお姉ちゃんのことを誤解してる。私が勝手に施設を出たから心配して来てくれただけなのに、悪者だって一方的に決め付けて……戦う必要や理由なんてなかったのに」
「騎士は機甲虫の一つ。戦う理由がないって、それだけで理由としては十分すぎるんじゃないの?」
人間よりも機甲虫の側が生態ピラミッドの上位にいる以上、自分や仲間の身を守るために戦うのは当然だろう。話が出来るといっても、それがそのまま話が通じるに繋がるとは限らないのだから。
「お帰り、おかあさん。と、レム? ククルちゃんも」
「ただいま、ミュウ。フォットも戻ってきてるわよね。悪いのだけど、今日一日レム君とククルちゃんを預かることになったから、よろしくね」
「よろしくね? って、えっえっええぇぇーー。ちょ、おかあさん。ちょっと待って! いきなりそんなこと言われたら困るし、わたしにも心の準備が」
「なーにを焦っているのだか。それじゃあミュウ、レム君とククルちゃんをお願いね。私はお店を見ていないと」
「あ、お、おかあさん!」
早々に店の奥へとシエルは消えてしまって、レムとククル、ミュウの三人がその場に取り残される。
相変わらず、凄くばたばたしてる。
シエルを見送りながらそんなことを考えて、レムはぼんやりと魔導機杖に目を傾けてみる。すると、搭載されているマナの残量が底をついていることに気がついた。騎士との戦闘の後、ろくに給魔作業を行っていなかったからだろう。出来ればすぐにスタンドに持っていき、すぐにマナを補充しておきたいのだが。
「…………」
「どうしたの、レム。なんだかすごく難しい顔をしてるけど」
「大したことじゃないよ」
そんな風に言って、レムはククルの方へと振り返る。と、ほんの一瞬。びくりとククルが身体を強張らせる。
「ククル、たしかフォットさんに杖を貸してもらっていたよね。僕の側で返しておくから、すぐにこちらに渡してもらっていいかな」
「えっ、レムに渡す……の? それは少し困るかも」
「困るってなんで」
「何でって……」
少しだけ口ごもり、ククルはいかにも答えづらそうに口を開く。
「怖い、から。レムは私のことをよく思っていない。傷つけようとした。だから、身を守るものが何にもないのに一緒にいるのは……怖い」
「君が妙な考えを起こさなければ危害は加えないよ。少なくとも、今だけはね」
言葉の端にちらちらと刃をちらつかせながら、レムはなぜミュウのそばにククルを置こうとするのか、と考えてしまう。
ククルとミュウの距離が近いというのは、間接的に人質を取られているようなものだろう。ククルを排除するだけなら簡単な話だが、ミュウが巻き込まれたり人質に取られる事があれば目も当てられない。シエルさんだってそれをわかっているはずなのに。
ぐっと魔導機杖を握り締めながらレムが溜め息を漏らしかけた拍子。今まで部外者も同然であったミュウがちょ、ちょっと、と突然に騒ぎ出す。
「な、なんでレムとククルちゃんの二人が険悪になっちゃってるの。それに、レムが傷つけようとしたってどういうこと?」
「簡単だよ、この子が適合者だからっていうだけ」
「てきごう? それって私と同じ、機甲虫に狙われているっていう」
「うん。機甲虫の騎士の適正がある人間のこと。向こうの狙いがわかった以上排除すれば楽なのに、何故かみんなそれに反対していて」
「は、排除? 駄目だよレム。そんな物騒なこと言ったら。もう少し落ち着いて、考え直して」
「……? ミュウも適合者っていう同じ立場にあるんだから、ククルが一緒にいたら命を狙われる危険があるでしょ? だったら危険を減らすために追い出したり排除したりする方がよほど安全だと思わない?」
「止めてよ、レム。そんな悪い考え方」
「悪い? 別に間違った点はどこにも――」
「止めてったら!」
ぱんっ。
小気味良い音が響いて、隣で見ていたククルが驚き、目を丸くする。
同時に、レム自身も硬直してしまっていた。なにが起きたのかわからないというわけではない。それどころか、ミュウの手の動きまでを正確に目で追う事が出来ていた。
それなのにかわさなかったのは、かわせなかったのは、ミュウの瞳にうっすらと涙が浮かび上がっていたからだ。
どうして泣いていたのか、何が悲しかったのか。
それがわからなくて、レムはひりひりと痛みの残る頬にずっと手を触れ続けていた。
ノーラ=本当のククルについては、読んでいるうちに薄々感づいている方がいたかもしれません。ただ、そうなるといまククルを名乗っている子供は? そもそもなぜククルという名前なの? と、新しい疑問が湧いてくるかもしれません。
その辺りを主軸においての後半戦、よろしければ最後までお付き合いください。