プロローグ:魔法屋、ガトールーク
白い壁の城を高台に抱いた、ロッキンラインの城下町。
この地ロッキンレイに、ひとりの青年が暮らしていた。
ガトールーク=リストクラッサ。
これが彼の名である。
年齢は、ついこの間23になった。
彼は、年老いた神官ジェニファントとともに暮らしている。
ジェニファントは、彼の育ての親だ。
ガトールークは孤児だった。
彼がまだ赤ん坊のうちに、ジェニファントが引き取ってきたのである。
彼の容姿は、不可思議だった。
若葉色の髪に、赤紫色の瞳。
長い前髪はピンで留める。
身長は並の男と比べてとても小さく、身体も非常に華奢である。
そこに童顔が重なって、女と間違われることもしばしばだ。
確かに人型をしてはいるが、彼を初めて見た人間には、彼を異形であると考えないものはまずいない。
加えて、幼い頃から変わり者であった。
興味を持ったものは何でも拾ってきた。
ジェニファントに怒られたこともあるが、彼はへこたれない。
木の実の種、虫の死骸、怪我した小鳥、魔物の卵、
─────見つけたらとにかく教会に持ってくる。
そんな幼いある日、彼が拾ってきたのは、一冊の、光魔法の魔法書だった。
くすんだ赤色の布の表紙に、金色で何やら刺繍された、分厚い本。
ガトールークはもちろん、古代文字なんか読めなかった。
中身の意味も分からない。
しかしそれは、彼の夢になった。
いつかこの本を絶対に読むんだ。
いったいこの古そうな本には、何が書いてあるんだろう?
────そして、今に至るのである。
彼は、小さな魔法屋を営んでいる。
裏口を出てすぐ教会があり、寝るときだけ帰るのだ。
それ以外は、滅多に来ない客のために店番をしながら本を読んだり、魔法屋の地下室で魔法の練習をしている。
それにも飽きると、集めた古典の中に出てくる気になるものを探しに、小さな冒険に出たりする。
あの光魔法の書は、もう全て解読した。
既に第一言語のように古代文字を読み解くことが可能だ。
彼はこんなことばかりに、自分の時間ばかりに意識を費やしているために、同年代の友人は数少なく、もう23なのに、嫁の来手もない。
しかし彼は、そんなことはお構いなしだった。
彼は幸せだった。
好きなことに囲まれて気楽に暮らしているだけで、彼の世界は輝いて見えた。
彼の日常は、不思議に満ちていた。
また、彼自身も────────。