佐々木海人の勧誘
今回は、悠が超研に入ることになった理由のお話です。
突然だが、佐々木海人は幽霊や妖怪、宇宙人といったいわゆるオカルトが大好きだ。それはもう、オタクと言っていいほど。
多分、カイトからオカルトを引いたら何も残らないと思う。ほんとに。
「お前、宇宙人と交信できるのか?!」
「……はい?」
これが、私とカイトが初めて交わした会話である。
やっと高校生活にも慣れてきたころ、いきなり隣のクラスだったカイトが私のところにやって来て、こう言ったのだ。
これを幼稚園生に言われるのなら、まだほほえましいと言えよう。
だが私の目の前に立っていたのは、同学年のれっきとした高校生である。
だから最初、こいつは頭おかしいんじゃないかと本気で思った。
「お前がこの間、1人でぶつぶつ何かと話してるのを見たんだ! あれは、宇宙人と交信してたんだろ?」
「いっ!?」
どうやら周りに誰もいないと思って、口を開いてアル達と喋っていたところを見られていたらしく、それがカイトにとっては「宇宙人と交信している」ように見えたらしい。
見られたくない場面を見られていたと知り、思わず声をあげてしまったのがいけなかった。
カイトにはそれが、図星をつかれたからだと思ったらしい。
「な、俺にも宇宙人紹介してくれよ!!」
「違うから! そんな知り合いないから! ただの独り言だって!」
「そんなに気安くばらせる事じゃないってことは分かってる。でも……このとおり!」
「人の話聞いて!」
放課後だったので教室にはあまり人がいなかったが、それでも残っていた何人かの視線が集まっているのが分かった。
「ホントそれ、誤解だから。じゃ」
「あっ」
私はそれだけいうと、かばんを引っつかんで教室を飛び出した。
……それでその時はさすがにあきらめるだろうと思った。
しかしその考えは甘かった。
その時は、まだ私はカイトのことをよく知らなかったのだ。
「なあなあ、教えてくれよ」
「しつこいっ」
カイトはそれから、しつこく私に付きまとうようになった。
「ねぇアル、あの人どうしたらいいと思う?」
<う~ん……>
私はある日の帰り道、周りに誰もいないことをいいことに、アルと話していた。
<いっそのこと、本当のことを話したら納得するんじゃね?>
「えー、でもなぁ……。言いふらされたら困るし」
<でもこのまんまだとお前、宇宙人とお友達ってことになるぞ?>
「……それはもっと嫌」
<だろ?>
私が歩きながら考えていると、突然後ろからこっちに誰かが走ってくる音が聞こえた。
「やっぱり交信してるだろ!」
「げ!?」
<げ!?>
うわさをすれば何とやら。そう、海人さんでした。
ここまでくると、もうストーカーの域にまで達していると思う。
「今日こそは絶対紹介してもらうからな!」
「あーもう! まずは私の話を聞いて!」
こうして私が多重人格だということを、高校生になってからは初めて話した。
「はー……」
カイトはやっと納得したようだったので、もうこれで付きまとわれることは無いだろう、と思ったのがつかの間。
「すげー! お前おもしれーなっ」
逆にもっと目が輝き始め、しまったと思っても時すでに遅し。
「俺さ、部活作ろうと思うんだ。その名も、『超常現象研究部』! お前、入らないか?」
「やだ」
私の答えは、まさにコンマ1秒の早さだったと思う。
「何でだよ~。あと部員が1人必要なんだ!」
「何なの、そのオカルト好きの集まりみたいな部活は! 私、そういうの興味ないし」
「大丈夫! 多重人格ってだけでOKだから!」
「勝手に私を超常現象にしないでよ!」
私たちはそこが路上だということも忘れ、言い争っていた。
カイトは「うー……」としばらく唸った後、ある言葉をはなった。
「俺の部活に入らなかったら、お前が多重人格だってこと、学校中に広めるぞ!」
「なあ!?」
思わず、上ずった声が出てしまった。
カイトは、なんと脅迫に出たのである。
「部員に、ネットとか得意な奴がいるんだ。そいつに頼んで、広めまくってやる!」
「ちょっ……それ卑怯……!」
「どーすんだ?」
カイトがニヤリと笑った。
完全に、私は追い詰められたのである。
──こうして、今にいたるというわけだ。
「カイトに出会ったのが私の運のつき、だったんだろうなぁ……」
おかげで、こんな変人ばかりの部活に私は入部することになってしまった。
「ん? なんか言ったか?」
「ううん、何でもない」
……でもまぁ、
「よし! じゃあ、次は去年アメリカで目撃されたUFOについてだ! これは──」
楽しいからいっか。