藤堂春馬の試練
「桜庭さん」
「ん?」
いつものように部室でダラダラと過ごしていると、春馬君がぎこちない笑みを浮かべ、話しかけてきた。ちなみに今日は、私とカイトと春馬君だけだ
「あの……ついてるよ」
「え、どこ?」
「右肩のところ……」
私は急いで肩をはたく。
「いや、ゴミじゃなくて……」
「へ?」
私の手が止まる。
嫌な予感がして、背筋に冷や汗がつたった。
「もしかして────」
「幽霊!?!?」
がたん! と今までお昼寝モードに入っていたカイトが椅子から立ち上がりながら叫んだ。
さすが、超研の部長だ。
……なんて感心している場合じゃない!
「え、ちょっ、本当に”憑いてる”の!?」
「うん……」
「……」
金縛りにあったようにそこから動けなくなる。
急に、右肩がずーんと重くなったような気がした。
「えー、何にも見えねぇー」
いかにも残念そうにカイトがつぶやく。
少しくらいはこっちの心配をしてよ!
「な、な、どんな奴? 男? 女?」
「女、だね。わりと若い」
「おおー!」
それって一番怖いやつじゃあ……。
「は、はやくとってよ!」
「ごめん、僕除霊とかできないんだ」
「なんでよっ! 春馬君専門家でしょ!?」
「べ、別に見えるだけで専門家ってわけじゃないから……」
すると、カイトがとんでもないことを言い始めた。
「いいじゃねぇか、祓わなくて。幽霊に憑かれるなんて滅多に無いんだぞ!? むしろ歓迎するべきだ!」
「無理!!!」
どこまでオカルト好きなんだ!
「あ、じゃあ説得してみようか。桜庭さんから離れるように」
「できるの!?」
「少しくらいなら……」
「さっすが! 早く!」
春馬君はさっそく、少し緊張したように私の右肩────正確には右肩に憑いていると言う女の幽霊────に向かって優しく話しかけた。
「この子も困ってるんだ」
「うん。分かるよ。でもね……」
「それは……辛かったね」
「もう大丈夫だよ」
どんな会話が交わされているのかは全然分からない。
でもすごく優しく、笑顔を絶やさず、春馬君は説得し続けた。
「うん。そうだよ」
「うん……うん。……うん?」
「え?……あ、え??」
「いや、それはちょっ……」
……なんか、春馬君があたふたし始めた。
「春馬ー?どうかしたかー?」
「……」
珍しい。春馬君の笑顔がひきつっている。
「……僕に憑かれた」
「え……」
春馬君は頭を抱えながら言った。
「よくあるんだ。なんか幽霊に好かれる体質らしくて……」
「いいなぁ!」
カイトの目が輝く。
「あー……。じゃ、お先に失礼しまーす」
自分から幽霊が離れたことを知ると、私はバックをつかんで急いで部室を出た。
よくあることなら、春馬君は大丈夫だろう。
……え?なんで逃げたのかって?
幽霊と同じ部屋にいるなんて、まっぴらごめんだからね。
ま、カイトは願ったりなシチュエーションなんだろうけど。
春馬君、ご愁傷様でしたー。