バレンタインデー
「はい、どうぞ」
私は、部活の人たちにクッキーを配って回った。
その受け取り方は三者三様。
カイトはもらったそばからクッキーを食べ始め、春馬君はニコッと笑い、大量のお菓子が入っている袋の中に私のクッキーを入れる。
そして瑠衣君は、頭をすこし下げて受け取ってくれた。無表情で。
そう。今日はバレンタインデー。
今やバレンタインは、「告白の日」から「友チョコや義理チョコを送る日」となっている。
だから、私のかばんももらったチョコレートが大量に入っている。ふふふ。
これだから、バレンタインは大好きだ。
<ずるいよぉ、悠ちゃんばっか……>
シーナの声が頭の中に響いてきた。
だって、昨日頑張ってクッキー焼いたの私だもんね。食べる権利だって私にある。
<シーナだって手伝ったよ?>
<俺も手伝った!>
あんたらはずっと騒いでただけでしょーが!
「こんにちは」
いつものように3人で喧嘩をしていると、里香ちゃんが部室にやってきた。
「はい、里香ちゃん」
私は里香ちゃんにクッキーを渡した。
「あ、ありがとうございます!」
里香ちゃんが天使の微笑みで受け取ってくれる。
”里香様ファンクラブ”なるものがこの学校にあるという噂だが、本当かもしれない。
「どうぞ。これ、私からです」
「お、ありがとう!……ん?」
里香ちゃんの手には、3つの袋があった。
「え、と……?」
「これが悠さんの分で、これがアルさん、これがシーナさんのものです」
「え……」
そして、里香ちゃんは3つの袋を私の手の中に置いた。
<うお~~! 神様、仏様、里香様!>
<わ~いわ~い>
アルとシーナが歓喜の声を上げている。
「あ、ありがとう! 2人もすっごく喜んでる」
「よかったです」
いや、まさか人格にまでバレンタインをくれるとは……。
里香ちゃんから、後光が見えるよ。
<悠! それ食いたい!>
今!?
<おう!>
しょうがないなぁ……。食べたらすぐ体返してね?
「ちょっとアルに変わるね」
「はい」
そう言うと、私は目を閉じて体の力を抜いた。
すると意識が引っ張られるような感じがして、体の主導権がアルに変わる。
「おっしゃ! いただきます!」
里香ちゃんがくれたのは、マフィンだった。
アルは、それをがっつくように食べる。
「ふ、ふふぁい!」
どうやら「う、うまい!」と言いたいらしい。
里香ちゃんが作ったやつだもん。ホントにおいしんだろうな……。
はやく私も食べたい。
「ふー。うまかった。ありがとな」
「いえ」
すると、戻るぞーと頭の中でアルの声がして、体の主導権が私に帰ってきた。
<アルだけずるいよぉ。シーナも~>
はいはい。
こうしてシーナにも主導権を渡し、シーナはマフィンを食べ始めた。
「おいしぃ~!」
「良かったです」
「だからもう1個」
ぱくっ
……え。
ちょっ! それ私のやつ!
私が必死に止めても、シーナは食べるのを止めない。
結局、3つの空の袋だけが、私の手元に残った。
ああ、私のマフィンが……。
<おいしかったね!アル>
<おう!>
うぅ……。ひどすぎる……。
私はその後家に帰って、もらったお菓子を一日でやけ食いしました。
もちろん、2人には一口もあげずに。
<俺、カンペキなとばっちりじゃん!>
「うるさい!!」
あーあ。里香ちゃんのマフィン、食べたかったなぁ……。