清風高校3大ミステリーその1(前編)
受験が無事終わったので、1年ぶりに再開しました。
これからもよろしくお願いします。
「突然だが、諸君らは『清風高校3大ミステリー』というものを知っているかね」
いつも通りの放課後。珍しく部員全員が部室にそろったある日、カイトが突然そんなことを言い出した。口調がいつにもましてウザい。
「存在は聞いたことはありますが、内容はよく知りませんね……」
里香ちゃんの言葉に、カイトが「うむ」とうなずく。
「我々は今まで数々の怪奇現象、超常現象について議論を重ねてきた。しかーーーし!!」
突然大声を出すもんだから思わず身体がビクッとする。
「我々が通うこの清風高校にミステリーが存在するというのに、それを解明せずして何が超研かッ! 今こそ我々の日々の努力を証明する時が来たのだぁ!!」
こぶしを掲げて叫ぶカイト。それを見て拍手を送る春馬君と里香ちゃん。そして通常運転の瑠衣君。私は内心めんどくさ……と思いながらも、一応拍手を送った。
そもそも「日々の努力」って……。カイトがただ妖怪やら幽霊やらについてレクチャーしたり、UFOはいるのかみたいな中身のない議論を交わしていただけな気がするんですが……。
しかしカイトはみんなの拍手を賛同の拍手と見なして、カバンからなにやらメモ帳を取り出した。
「この数日、俺は先輩や先生などに聞き込み調査を行い、やっとのことで3大ミステリーが何なのかを調べ上げた。まずは、1つ目のミステリーを解明したい」
うわ、ただでさえこの部活変人集団とか言われてんのに、先輩とか先生に変な質問しないでよ……。これ以上目つけられるようなことしてどーすんのさ。
そんな私の危惧など露にも考えない困った部長さんは、意気揚々と発表を始めた。
「それでは発表する。『清風高校3大ミステリー』その1――――『誰1人一度も声を聞いたことのない1年生』」
「「「……」」」
……うん。思い当たる人物がすごーく近くに1人いた気がしますね。
ってか、ミステリーとかいうから「美術室の絵が動く」とか「勝手に鳴る音楽室のピアノ」とか、学校に代々伝わる七不思議的なの想像してたんですが! まさかの最近できたばっか!
4人が同時に、部室の隅でいつも通りパソコンをしていた瑠衣君に視線を向ける。
「……」
一応聞いてはいたのか、それともみんなの異変に気がついたのか、瑠衣君がパソコンから顔をあげてこちらを無言で見返す。
部室内に、変な沈黙が流れた。
<ぎゃはははっ! マジか、はははっ! それ瑠衣じゃん!>
脳内では部室の空気とは対照的にアルがゲラゲラうるさく笑ってるけど。
アンタは少し黙ってなさい。
「くすぐるか、それとも……」
「いっそのこと、殴ってみては?」
「急に驚かしてみて……」
脳内の声をシャットアウトしている間に、すぐ隣では小声で「どうしたら黒野瑠衣の声を聞けるか」作戦会議が始まっていた。
……里香ちゃん、殴るのはマズイと思うよ、さすがに。それリンチだし。
不穏な空気を感じ取ったのか、瑠衣君が少し落ち着きを失っている。
「……ねえねえ、瑠衣君」
カイトがさっきまでの偉そうな口調をやめ、猫なで声で、しかも君付けで瑠衣君を呼んだ。しかし3人とも、目が笑ってない。
『何でしょうか』
タブレットの文字でいつものように無言で返事をする瑠衣君。
「ちょっとだけ……喋ってみない?」
「まさかの正攻法!」
あれだけ作戦を練っていたのはどこに消えたんだ。思わず突っ込みをいれてしまったじゃないか。
「……(ふるふる)」
黙って首を振る瑠衣君と、「そこをなんとか!」とすがりつくカイト。
もはやミステリー云々より好奇心の方が勝っている。かくいう私も、瑠衣君の声が気になるのは事実だ。
4対1の、沈黙&視線合戦が始まる。
すると、根負けしたのか瑠衣君が口を少し開いた。
「ついにこの時が……!」と4人(+私の人格)が期待した瞬間、
ダッ!
「逃げた!」
一瞬こちらの気が緩んだ隙に、いつの間にか仕舞っていたパソコンの入ったカバンを持ち、脇にタブレットを抱え、考えられないようなスピードで脱兎のごとく逃げ出していく瑠衣君。
カイトが慌てて追いかけるも、数分後に息を切らせた状態で「逃げられた」と部室に戻ってきた。
「一瞬期待したのになぁ~」
緊張から開放され、ため息をついたり机に突っ伏したりする私たち。
――――結局『清風高校3大ミステリー』解明は、1発目から失敗に終わりましたとさ。
「諦めねぇ! 俺は諦めねーぞ!!」
……ここに諦めの悪い人が1人いるけどね。




