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ちなみに女は職人に向いていないというのが頑固なドワーフであるイルダ親方の考えである。



中にはそんな事は無く、女性でも立派な匠になれる工房はあったが、このイルダ彫金工房は完全なる男社会である。

女は男に仕えるために生まれ、男は女を養ってやっているのであるというのがここの親方イルダ親方の格言である。

オリは常々なんで隣の工房に引き取られなかったんだろうと悲しくなる。

隣のオルテ彫金工房は男女関係無く、見習いになればお給金もでて一人前になれば店を構えることも出来るまるで温かい家族のような工房だった。

オリはただ一日中家事に追い回され、きっとそのうちいけ好かない兄弟子たちの誰かに払い下げられるんだろうとおもうと目の前が暗くなった。

酔っ払った親方がそんなことを話しているのを時折耳に挟んでいた。

最近兄弟子達のにやにやとした視線で妙に落ち着かないし、このままでは自分の人生はめちゃくちゃになって・・・もうなってるけど、これ以上めちゃくちゃにされるのだけはどうしても嫌だった。


今日はちょうどナージェ様の100回目の命日である『慰霊祭』であり、町中が窓から女王を痛む意を表して黒地に月と三つの星を刺繍した布を下げ、城門や川に花を手向ける。

職人達は亡き女王にささげる装身具を城に納めに行く。

もちろんこのイルダ彫金工房もだ、そしてオリは留守番である。


今日この日を逃したらもう自分には後が無い。


さえない召使として人生を終えるか、それとも自分の力で人生を切り開くか。


(偉大なる歴々の宵王よどうか私をお守りください。)


屋根裏部屋に戻り息を殺して耳を澄ますと下卑た笑い声と表の戸の開閉音が聞こえて窓からそっと見下ろすと親方と兄弟子の5人が出て行ったのが見えた。急いで、古いワンピースを裂きそれで数着の着替えと私物を包み縛る、それを鞄のように肩から下げるとこの日の為に鍵を壊しておいた勝手口から外にでて、石が積み上げられた壁を登り、隣の工房の勝手口に声をかける。


「エーシェラ!エーシェラ!来たわよ!お願い下に台を置いて頂戴!」


すると音も無く扉が開き、中から少女が出てくる。

オリの唯一の友人であるエーシェラは菫色の髪に金色の瞳と爬虫類の尾を持つ竜尾族ダルゴナの娘でやはりその外見故に人間に狩られた一族だが好戦的な戦闘種族であるダルゴナは襲ってきた人間達を多く血祭りにしたことでも知られていた。


「しー!!大きな声出さないでオリ!うちの親方はまだ出発してないんだから!」

「ごめん!でもはやく私ここから逃げ出したいの!分かるでしょ?」


エーシェラは木箱を出してくると石壁の上に上ったオリの足元に置いきオリの身体を支えながら降りるのを手伝った。


「分かってるわ。ってか今日まであんたはよく我慢したわよホントに。でもホントに行っちゃうのね・・・あんたがいなくなると寂しいわ。」

「手紙書くよ。」

「絶対かいてよ!」


お互い友人との別れを惜しむが、時間がそれを許してはくれない。


「慰霊祭に乗じて外壁を越えるわ。幾日か外で過ごした後、どこかのお邸で働き口を探すつもり。」

「外?あんた森の外に出るの?」

「森の外には出ないわよ、運がよければ妖精の住処か、慰霊祭で仕入れをした荷馬車の積荷の荷下ろしとかの仕事にありつけるかと思うの。」

「なにそれすごい計画性が無いじゃない!!」

「でも、本当に今日しかないの!分かってくれるわよね?もうこんな暮らしいやなの!いまの暮らしを続けるくらいなら森で暮らすのだって天国だわ・・・。」


そういいオリは身体を離すと裏口へと回る。


「身体に気をつけるのよ!ちゃんとした職についてちゃんと手紙かくのよ!!」

「ありがとう、エーシェラ。約束するわ。」


オリは裏通りを抜け、城へと向かう人々の間をすり抜けながら城門へと向った。

外壁の外は取り囲むように森が広がり、森には妖精族や精霊、森の中で肩を寄せあって暮らす少数民族などもおり、普段あまり街に入りたがらない彼らもこの日ばかりは皆、亡き女王への奉げモノをするために城を訪れるのである。


その森の外には卑しくも女王を殺しておきながら、その恩恵にすがろうという卑怯な人間達の集落がある。

人間達が森に立ち入ることは禁じられているが、それをやぶって森に入る人間は何人もいた。

森には女王の遺骸に残されたマナで保たれた宵闇が僅かばかり存在していた。

その一部に現れた宵闇を妖精や精霊は掬い取り森のマナの薄い場所へ拡散してゆく、そうしてこの森のなかのマナを循環させ再生してきたのだ。

枯れた泉を沸かせ、萎れた花を咲かせ、森をざわめかせ、大地に若芽を芽吹かせる。

100年というその年月をこの森の中だけでもと、本来陽気で暢気な妖精と本来滅多に姿を見せないというはずの精霊が汗水たらして働いているのである。

随分と人間に狩られ個体数も少なくなったというのに、生き残った者達がこの森に逃げてきたことよりマナの循環がいっそう豊かになり今では森のあちこちで姿を見かけるようになった。


だがそれも、今日はおやすみ。


森の中には蛍花に灯りがともされあちこちに飾られている。

妖精は人間を嫌うが宵の民には友好的である。

数日ぐらいなら彼らの集落の近くで夜を明かすくらいは許してくれるだろう。

そもそも慰霊祭が終わり、城門がしまっても宵の民なら城門を抜けることが出来る。

なんだかんだ理由をつけて閉門に間に合わなかったといえばいいのだ。


女というだけで家事を押し付けられる生活にはもう戻りたくない。

自分の力で働き収入を得るのではまだしも、ただ働きの上に一日中罵倒され下着にすら困るような日々にはうんざりなのだ。

城壁を抜け、森の中を抜ける。

薄暗いその森の中でもところどころに飛び交うマナの粒子や蛍花の灯りが幻想的な雰囲気をかもし出している。




ただ当ても無く森の中を歩くうち少しだけ不安になった。



これから自分はやっていけるのだろうか?


もしかしたら、全然やっていけないかもしれない。


それは困る。でもあの家には戻りたくない。




ならやっていくしかない。




どうして自分はこんな目にあわなきゃならないんだろう?

せめて孤児ではなく、きちんとした家庭にさえ生まれていればこんなことにはならなかったのに。


オリはそう思いながらぶらぶらと森の中を歩く、もちろん外壁の外に出たのは初めてではないが、森の中で寝起きした事は無い。

あてもなく彷徨ったあげくえらく開けた丘に出たなー、とオリが思った瞬間額を金槌でぶん殴られたような衝撃にオリは気を失った。




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