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夜の王ナージェなきあとの世界はどうなったか?
『虚偽戦争』と『贖罪の百年』
それは経典にのり教科書に載りそしてあるものは口伝で延々と世界に残されていった。
魔あるもの全ての王と呼ばれ深遠の王と呼ばれたものを討ち取った勇者と、その勇者を助け導いた聖女そしてその旅に付き添った仲間達は英雄と呼ばれた。
凱旋の折は旅の帰りによる全ての村や町で花びらがまかれ、手厚いもてなしがなされた。
そしてある町に差し掛かったときその勇者達のまえに一人の黒いフードを被った青年が立ちふさがりこう告げた。
「呪われし罪人よ、お前達は後に一人は永遠に殺され一人は永遠に購い、そのほかは全て石と火をもって死ぬだろう。」
怒り狂った勇者はその青年の首を長剣で切り落とした。
転がり地に落ちた首は何処かで見たような顔だったが、誰もそれを思い出せず、青年の遺体は川に投げ込まれ首は豚の餌にされた。
そしてやがて聖都につき聖王と神官の名によってその名は称えられた。
その厳かな場にどこからか声が響き、ポタリ。と何かが勇者と聖女の額に落ちた。
驚いて二人がそれをぬぐうとそれは赤い色をした液体であった。
天井に飾られし一つの石造のめから落ちたものであった。
「呪われし罪人よ、お前達は後に一人は永遠に殺され一人は永遠に購い、そのほかは全て石と火をもって死ぬだろう。」
それは創生の三神の使途の一人アハルの像だった。
その顔はまさに帰途の旅の途中で、勇者が首を切り落とし豚の餌にされた青年のかおであった。
場は騒然としたが王や、神官たちは「たちの悪い悪戯だ」と、取り繕いその場を納めた。
だがその場にいた誰もが胸に不吉な予感を抱いていた。
そして、その予感は一月もしないうちに現実となって人々を襲った。
宵闇の王が死んだ日から、どんどんと夜の時間は短くなり、ついには夜はなくなり昼のみが世界を支配した。
これを聖都は「闇の王の呪いがとけ神の時代が来た」とした。
そして「闇の民」とされる生き残ったエルフや獣人、妖精たちは狩られさらに数を減らしていった。
そんな日々が続くうちに、先ず風が止んだ、風が止んだことで海はその躍動をとめ、魚達や海草は腐り、悪臭を放つようになった。
そして大地が痩せていった、昼のみが連日続き、日照りよりも酷い有様に作物は枯れひび割れていった。
そして風がやみ、大地が枯れたことにより、多くの屍が川や湖に投げ込まれた、人々はまだ水には浄化作用があると信じていたのである。
だがその水も腐り多くの流行り病を吐き出した。
人々はやがて自分達の過ちに気付き、汚染された土地を自分達で焼くしかなかったのである。
そして人々の憎しみは聖都とそれに付き従った国、勇者と聖女、その仲間達に向ったのである。
聖女となる少女の額にはみな生まれつき白い環の痣があり、その痣がある赤子はすぐに神殿に引き取られ神殿の教えを叩き込まれる。
ひたすらに偏った神の教えを刷り込まれ、偏った善意と正義感を持った人形のような少女は自らの行った行為を神の裁きと信じて疑わなかった。
聖女は聖都に帰った後勇者と結ばれ幸せな時を過ごしていた。
聖女は基本神殿の奥に住み人々とまみえることはない。
世界が苦しみに満たされてゆく中聖女への怨嗟の声はたかまっていった。
勇者も神殿の中でささやかながら愛する人との幸せをかみ締めていた。
だが、神官たちは次第に二人の事を遠巻きにするようになった。
二人はよそよそしくなった周りに首を傾げるが、ある日一通の手紙が届いた。
それは中間たちの訃報を知らせるものだった。
それぞれ故郷に帰った仲間たちは
魔法使いの女は魔女として木に括り付けられ石でなぶり殺しにされた後、火をかけられて火あぶりに
神官見習いの少年は無理やりおびただしい量の火で熱した石を身体につめられ苦しみながら焼け死んだ
訃報を知らせた剣士は自分の生もおそらくそう長いものではないだろうと締めくくられていた。
二人は自分の目を疑い何度も何度も手紙を読み直した。
崩壊の足音はすぐそこまで来ていた。
そしてついに二人は暴徒と化した人々のてによって神殿より引きずりだされた。
勇者は抵抗しあるきこりの腕を斧ごと切り飛ばしたが、その跳ね飛ばされた腕は勇者の首を切り落とした。
聖女は裸に剥かれその後飛礫や武器で何度も何度も切られ打たれ人の形を無くした肉塊となった。
だがその額の環だけはどんなに切っても叩いても傷つけることが出来なかった。
切り落とされた勇者の首は晒され、身体は枯れ井戸に投げ込まれた。
だが晒された勇者の首はいつまでも腐ることなく、晒し台の上にあった。
そしてこれより100年間人類は夜の無い時代を迎えるのである。