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オリはアヴィスブルグの城下町にあるしがない彫金師の家で育った。
アヴィスブルグは技術国家であり、魔石や珍しい鉱石、それを掘るドワーフたちの護符、それに妖精やエルフ達のための細工物を作るために数多くの彫金師や工房が数多くあった。
だがそれも、100年前の侵略戦争によって多くのものが略奪され、その技を持つ彫金師たちもほとんど殺されてしまった。
さらに女王が死んだことによって世界のマナのバランスは崩壊し、魔石は屑石となり、金銀宝石の類も鉱脈ごと枯れてしまった。
それでも、生き残った宵の民は焼け野原となったアヴィスブルグの城壁を直し、花を植え、家を建てていった。
女王亡き後もその亡骸は王座に据えられ、その屍の残留魔力よりアヴィスブルグには昼を遠ざけられ、アヴィスブルグとその周辺の森だけは短い昼と黄昏のみを繰り返すことが出来た。
森はただ静かに、長い時をかけて再生していった。
やがてその森の周辺にはその恩恵を得ようと人間達の集落が出来るようになった。
夜の民は怒り、森の周りに目に見えぬ城壁を張り巡らせ、そしてそれでも森へ入るものは容赦なく殺していった。
そして同じ頃昔聖都と呼ばれた土地で、一人の少女の額に赤い環が浮かんだ。
少女の名はエリューノ・ド・バリエ。のちに贖女と呼ばれる事になる少女である。