ずっとずっと
「別れよう」
大好きだった彼。
その彼から、別れを切り出されてからはや一年。
私にもようやく、気になる人ができました。
その人は、私の隣の席の「佐田 真」。
無口で、二クラスしかないこの学校で、私が唯一つい最近まで一言も話したことがなかった。
しかし、新入生が入ってくる4月。
クラス替えで、彼の名前を見つけると、私は小さな小さなガッツポーズを作っていた。
なぜ、そんな行動をとったのかは分からなかったけど。
ようやく、クラスに馴染めてきた6月中旬。
先生の思いつきで、席替えをすることになった。
私の席は、一番前の窓側。山と、海が見渡すことができる、とても涼しい場所だ。
席を移動し、ぼーっとしていると、
「よろしく。」
静かな声。
彼が、初めて私に向けてかけてくれた声。
私は、それだけで天にも昇る気持ちだった。
私は、気付いた。
彼を好きだという気持ちを。
きっと4月から、いやもっと前から、前の彼氏と付き合っていたころから
「佐田真」という人物が好きだったんだと、ようやく気付いた。
彼が見せる、かすかな微笑み。
私は、はにかむように笑うその笑顔が大好きだ。
彼の仕草一つ一つに、ドキドキしている自分がいる。
私は、日に日に彼のことが大好きになった。
ある日の放課後。
「なぁ」
上から聞こえる低い声。
隣の佐田の声だった。
「お前さぁ、今日一緒に帰らない?」
突然のお誘い。
私は、言っている意味が分からず、
「えっ、なに?何で?」
パニックを起こしてしまった。
今まで、話しもしなかった男の人からのお誘い。
パニック起こして当然だと思う。
「いいから、行こう。」
私は、彼に引きずられるようにして学校を出て行った。
学校を、飛び出して10分ほどして、私はガマンできずに言ってしまった。
「ちょっと佐田君、手首痛いんだけど…。」
学校をでてから、私の手首を彼は強い力でずっと握り続けていた。
「えっ?」
私の手首を、思わず彼は離した。彼は私の手首を握っていることに
自分でも気付いていなかったようだ。
私の手首は真っ赤になっていた
「ゴメン、痛かったよな。」
彼の優しい言葉。
手首の痛みよりも、私を心配してくれる彼の顔のほうが気になっていた。
「とりあえず、そこのお店にでも入ろう。冷やしてもらえるものをもらわなきゃ。」
「へっ!?いいよ、大丈夫だし。」
「大丈夫じゃないから、俺心配してるんだろ?とりあえず行くぞ。」
また、私は彼に引きずられるように近くの喫茶店に連れて行かれた。
今度は、手首じゃなく手をつないでくれた。
彼の手のひらがじっとりとぬれていたのがわかった。
私は、それが嬉しかった。彼が私を少しでも意識してくれているようで…。
「ゴメンな、本当に大丈夫か?」
彼は、私に氷を渡しながら言う。
「さっきから言ってるじゃん?だいじょうぶだって。」
今まで、あんなに無口だと思っていた佐田君とこんな風におしゃべりできるなんて。
そういえば…。
「何で佐田君、『帰ろう。』なんて私に言ったの?」
「ん?」
「だって、今までそんなに話したこと無かったし…。」
そこで、私は今までの佐田君との会話を思い出していた。
「あっ、消しゴム忘れた…。」
「はい。」
佐田君が私に消しゴムを投げてよこす。
「…どうも。」
素っ気無い、御礼の仕方。
緊張してそれだけしか、言えなかった。
「こんな言い方、絶対嫌われる」
私は、こんな言い方しかできない自分が嫌いだった。
「あっ!」
風に流され、隣からプリントが飛んできた。
「ごめん。」
隣からの声。低くて甘いバスの響き。
「はい。」
私は、手を伸ばしプリントを彼の元へ。
一生懸命届けようとして。
「ありがとう。」
「・・・。」
私は、言葉を続けることができなかった。
たった一言の、
「どういたしまして」
さえ。
でも、こんな私を無理やり彼は連れ出したんだ?
佐田君が答える。
「いや、一回話してみたいなぁと思って。俺に怯えてるみたいだから。」
私のそっけない態度はそんな風に、彼の印象に残っていたんだ。
今までの、自分がやっぱり嫌いだ。
「佐田君に、怯えているわけじゃないよ。ただ、佐田君無口で、用事がないと話しかけてくれ無いから、私嫌われてるのかな、なんて思ってただけ。」
「そうか。俺、お前と喋るときはどうも…。」
その続きが気になって、彼の一言、一言を聞き逃さないように耳をすませていた。
「緊張しちゃうんだよね。」
私は、その一言が嬉しかった。
彼も、私と同じ。
そんな気がして。
不自然な沈黙。
「あのさ…。」
彼が、口を開く。
「俺、お前のこと好き。」
いきなりの言葉。ここで言わなきゃ、これから先、ずっといえないまま。そんな気がする。
それに、今までの、私でいたくない。
「わ、わ、私も。」
声が、うわずりながらも答えていた。
「そっか、良かった。俺、勢いで言っちゃったから振られるかと思った…。」
「私、まさか佐田君にこんな風に言われるとは思ってもいなかった。」
二人の言葉が重なって、なんていっているのか分からなかった。
私たちは、口を大きく開け、周りの目も気にせず、笑っていた。
話すのも、ままならなかった片思いの彼に告白されるなんて。
そう思うと、何て私は幸せなんだろう。
好きな人に、スキって言ってもらえるなんて。
また、沈黙。
でも、今度は、不自然ではなかった。
「あ、あのさ」
彼が、いきなり口を開く。
今日の放課後まで、彼がこんなに喋る人だとは思っていなかった。
「何?」
「明日、近所でお祭りがあるんだけど、一緒行く?」
初めての、デートのお誘い。
「うん、行く」
私はもちろんこう答えた。
明日の、お祭りのことを話しながら私と彼は長い時間、この場所で過ごした。
家に帰っても、幸せの余韻は消えることなく私を包み込んでくれた。
私は、今日の幸せなことを思い出しながら眠りについた。
良いことは長くは続かない。
でも、悪いことも長くは続かない。
彼と出会えて、本当に良かった。
この幸せな時間ができる限り続くようにしたいと思う。
私は、昨日から始まった新しい恋に、いつまでもドキドキしていたい。
佐田君の隣で。
読んでくれてありがとうございます。
少し、長い短編となってしまいました。
時間をかけて、「小説」らしきものに、近づけていけたらと思います。