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婚約破棄された令嬢は、王国の秘密を知っている

作者: ふたーなる
掲載日:2026/11/03

「セレフィーナ・ヴァレンティア。お前との婚約を破棄する」


王太子ヴィルヘルムの声が、王宮の大広間に響いた。


夜会に集まった貴族たちが、一斉にこちらを向く。


楽団の演奏が止まり、グラスの触れ合う音も消えた。


私は手にしていた扇を閉じ、王太子を見た。


彼の隣には、淡い桃色のドレスを着た男爵令嬢、リリアーヌが立っている。


リリアーヌは目元を赤くし、王太子の袖をつかんでいた。


「セレフィーナ。お前がリリアーヌに嫌がらせをしていたことは、すでに調べがついている。彼女を階段から突き落とそうとしたそうだな」


「そのような事実はございません」


「まだ言い逃れをするか!」


王太子が声を荒らげた。


私は周囲を見回す。


貴族たちは、驚いた顔をしている者もいれば、興味深そうにこちらを眺めている者もいた。


中には、これを待っていたとばかりに口元を緩める者もいる。


十年間。


私は王太子の婚約者として、王宮の仕事を支えてきた。


貴族間の調整。王宮の予算管理。外交文書の確認。王太子が出席する会議の資料作成。


彼が知らないところで、私は多くの仕事を処理してきた。


それは婚約者として当然のことだと思っていた。


いつか彼が国王となったとき、隣で国を支えるために。


けれど、今。


彼は私を切り捨てようとしている。


「セレフィーナ。お前は王太子妃にふさわしくない。リリアーヌこそ、私の隣に立つべき女性だ」


「……そうですか」


私は静かに答えた。


王太子が眉をひそめる。


「何だ、その態度は」


「いえ。婚約破棄の件、承知いたしました」


「なに?」


「殿下のお申し出を受け入れます」


大広間がざわついた。


王太子は、私が泣いてすがるとでも思っていたのだろう。


彼は一瞬、言葉を失った。


「……それだけか?」


「はい」


「お前は自分が何を失うのか、理解しているのか?」


「理解しております」


私は一礼した。


「それでは、失礼いたします」


踵を返そうとしたところで、王太子が声を上げた。


「待て!」


私は足を止めた。


「お前がこれまで王宮で担当していた仕事はどうするつもりだ!」


その言葉に、私は初めて笑みを浮かべた。


「それは、殿下が決めることですわ」


私は再び一礼し、大広間を後にした。


背後で、王太子が何かを叫んでいた。


けれど、もう振り返る必要はなかった。










△△△△

翌朝。


私は王宮の執務室にいた。


婚約破棄は昨夜のことだが、私の仕事はまだ残っている。


机の上には、未処理の書類が積まれていた。


王宮の来月分の予算案。


隣国への返答文。


貴族間の土地問題に関する調停記録。


そして、王太子が今日出席する会議の資料。


私はそれらを整理し、引き継ぎ用の書類を作成していた。


扉が開いた。


「セレフィーナ様」


入ってきたのは、私の侍女であるマルタだった。


「お父様から使いが参りました。すぐに領地へ戻るようにとのことです」


「そう」


私はペンを置いた。


「では、これを最後にしましょう」


引き継ぎ書類は、すでに完成していた。


私はそれを三冊に分け、表紙にそれぞれ名前を書いた。


一冊目は、王太子殿下へ。


二冊目は、財務大臣へ。


三冊目は、王宮文書院へ。


「マルタ。これを届けてちょうだい」


「かしこまりました」


「それから、私の私物をまとめて。王宮から支給されたものは残しておくように」


「はい」


私は執務室を見回した。


ここで過ごした十年間。


決して楽しいことばかりではなかった。


けれど、私はこの場所で多くを学んだ。


そして、もう十分だった。


その日の昼。


王太子の執務室に、私の引き継ぎ書類が届けられた。


「これは何だ?」


王太子は書類を開いた。


そこには、王宮の仕事が細かく記されていた。


予算の管理方法。


各貴族との交渉履歴。


外交文書の確認手順。


そして、今後の予定。


「……何だ、この量は」


彼は書類をめくった。


一冊目だけで、数百ページに及ぶ。


「セレフィーナは、こんなものを毎日扱っていたのか?」


側近が答えた。


「はい。王太子殿下のご負担を軽減するため、ヴァレンティア公爵令嬢が長年担当されておりました」


「なぜ私に報告しなかった!」


「報告はしておりましたが……」


側近は言葉を濁した。


王太子は書類を机に置いた。


「まあいい。財務大臣に任せればよいだろう」


彼はそう言って、書類を閉じた。


その日の午後。


王太子は財務大臣に呼び出された。


「殿下。ヴァレンティア公爵令嬢が担当していた予算管理についてですが」


「うむ。お前に任せる」


「……私一人では無理です」


「何?」


財務大臣は書類を机に広げた。


「王宮の予算は、各部署の支出だけでなく、貴族間の利害調整まで含めて管理されています。これを理解するには、少なくとも数か月は必要でしょう」


「ならば、数か月かければよい」


「その間に、王宮の予算が破綻します」


王太子は黙った。


「……どういうことだ?」


「来月の支払いに必要な資金が、すでに各部署へ割り振られております。今から変更すれば、複数の契約に違約金が発生します」


「それを何とかするのが、お前の仕事だろう!」


財務大臣は深く頭を下げた。


「申し訳ございません。しかし、これまでの調整を行っていたのは、ヴァレンティア公爵令嬢です」


王太子は、初めて顔を曇らせた。








△△△△

ヴァレンティア公爵領は、王都から馬車で三日ほどの場所にある。


広大な農地と、いくつもの町を抱える豊かな領地だ。


私は屋敷の窓から、朝の景色を眺めていた。


畑では農夫たちが作業をしている。


遠くの市場からは、商人たちの声が聞こえてきた。


王宮にいた頃は、朝から晩まで書類に追われていた。


けれど、今は違う。


「セレフィーナ様。朝食のご用意ができました」


マルタが声をかける。


「ありがとう」


私は席についた。


焼きたてのパンに、温かいスープ。


窓から差し込む陽光。


それだけで、十分に幸せだった。


「……静かですわね」


「王宮と比べれば、そうでしょう」


マルタが笑った。


「王宮からの使いも、まだ来ておりません」


「来なくて結構よ」


私はスープを口に運んだ。


その日の午前、父が屋敷にやってきた。


ヴァレンティア公爵。


王国でも有数の権力を持つ貴族であり、私の父だ。


「セレフィーナ」


「お父様」


父は私の向かいに座った。


「王宮から、何か連絡はあったか?」


「いいえ」


「そうか」


父は頷いた。


「王太子殿下は、昨日の婚約破棄について撤回を申し出るつもりらしい」


私は紅茶を飲んだ。


「そうですか」


「お前はどうする?」


「お断りいたします」


父は少しだけ笑った。


「そうだろうな」


父は王太子のことを、決して高く評価していなかった。


ただ、王太子が私を婚約者に選んだ以上、私はその責務を果たすべきだと考えていた。


その責務がなくなった今、父は私の意思を尊重してくれる。


「ところで、セレフィーナ」


「はい」


「王宮の財政について、何か気になることはないか?」


私はカップを置いた。


「……あります」


父の表情が変わった。


「何だ?」


「王宮の支出に、いくつか不自然な点がございます」


私は立ち上がり、書棚から一冊の帳簿を取り出した。


「こちらは、昨年の王宮予算の記録です」


父は帳簿を受け取った。


「何が不自然なのだ?」


「王宮の修繕費です」


私はページを開いた。


「三年前から、同じ業者への支払いが増え続けています。しかし、実際の修繕箇所は増えておりません」


「……つまり?」


「不正な支出の可能性があります」


父は帳簿を閉じた。


「誰が関わっている?」


「まだ分かりません」


私は答えた。


「ただ、王宮の中にいる者でなければ、これほど長く続けることはできないでしょう」


父はしばらく黙っていた。


「セレフィーナ。これは王宮の問題だ。お前が関わる必要はない」


「承知しております」


私は微笑んだ。


「ですが、王宮の不正が領地に影響するのであれば、話は別です」


父は私を見つめた。


「……お前は本当に、私の娘だな」










△△△△

王宮では、問題が次々と発生していた。


予算案がまとまらない。


外交文書の返答が遅れる。


貴族たちの会議が、何時間も続いても結論に至らない。


王太子は苛立っていた。


「なぜ、こんな簡単なことが決められないのだ!」


会議室に怒声が響く。


財務大臣は、疲れ切った顔で答えた。


「簡単なことではございません。ヴァレンティア公爵令嬢が、各貴族との調整を行っておりました」


「だから、それをお前たちがやればよいだろう!」


「……殿下」


大臣は言葉を選んだ。


「これまで、令嬢がどれほどの仕事をされていたか、ご存じでしょうか」


「知らん!」


「それが問題なのです」


会議室が静まり返った。


大臣は続けた。


「王太子殿下は、令嬢が担当されていた仕事の内容を把握されておりませんでした。今になって、そのすべてを他の者に引き継ぐことは困難です」


王太子は机を叩いた。


「セレフィーナを呼び戻せ!」


その命令を受けた使者は、翌日ヴァレンティア公爵領へ向かった。


しかし、屋敷で彼を迎えたのは、公爵だった。


「娘は王宮に戻らない」


「ですが、公爵閣下。王太子殿下が……」


「婚約を破棄したのは王太子殿下だ」


公爵は静かに言った。


「娘はその申し出を受け入れた。今さら何を求めるというのだ」


使者は言葉を失った。


「王宮の仕事は、王宮の者たちで解決するべきだ」


公爵は扉を閉じた。


使者は王都へ戻った。


報告を受けた王太子は、顔を赤くした。


「何だと! 公爵が拒否しただと!」


側近が慎重に答える。


「婚約破棄をなさったのは、殿下です」


「そんなことは分かっている!」


王太子は書類を投げた。


「セレフィーナは私の婚約者だったのだぞ!」


側近は何も言わなかった。


その言葉が、今となってはどれほど身勝手なものなのか。


王太子自身が、まだ理解していなかった。









△△△△

私は領地で、王宮の帳簿を調べ続けていた。


父が用意してくれた資料に加え、過去十年分の記録を確認する。


修繕費。


備品購入費。


外交費。


それらの中に、不自然な支出がいくつも見つかった。


同じ業者への支払い。


実際には存在しない建物の修繕費。


購入されたはずの備品が、王宮のどこにも見当たらない。


私は帳簿を閉じた。


「……これは、思っていたより大きな問題ですわね」


マルタが心配そうにこちらを見た。


「セレフィーナ様。王宮に報告なさいますか?」


「いいえ。まだ証拠が足りません」


私は別の帳簿を開いた。


「まずは、支払い先の業者を調べましょう」


公爵領の商人たちに協力を求める。


王都に店を持つ商人。


王宮と取引をしている職人。


過去に修繕工事を請け負った者たち。


数日後、ある商人から返答があった。


「ヴァレンティア公爵令嬢。こちらの業者ですが、実際には工事を行っておりません」


「どういうことですか?」


「書類上は工事を行ったことになっています。しかし、現場には誰も来ていないそうです」


私は目を細めた。


「支払いだけが行われていた……」


「はい」


「その業者の代表者は?」


商人は一枚の書類を差し出した。


そこに記されていた名前を見て、私は息を止めた。


王宮の財務局に所属する高官。


王太子の側近の一人でもある人物だった。


「……なるほど」


私は書類を受け取った。


「これで、ようやく入口が見えましたわ」






△△△△

それから一週間後。


王太子ヴィルヘルムが、ヴァレンティア公爵領を訪れた。


私は応接室で彼を迎えた。


「セレフィーナ」


王太子は、以前よりも疲れた顔をしていた。


「久しぶりですわね、殿下」


「……王宮に戻ってほしい」


私は紅茶を口に運んだ。


「お断りいたします」


「まだ話を聞いていないだろう!」


「聞く必要がございませんので」


王太子は立ち上がった。


「王宮がどれほど混乱しているか、お前は知らないのか!」


「存じません」


「お前がいなくなったせいで、すべてが滞っている!」


私はカップを置いた。


「それは、殿下が婚約を破棄なさったからです」


王太子は黙った。


「……私は、あの時、感情的になっていた」


「そうですか」


「リリアーヌの言葉を信じてしまった。お前に嫌がらせをされたという話を……」


「その件については、すでに否定しております」


「分かっている。調べた結果、彼女の証言に矛盾があった」


私は王太子を見つめた。


「それで?」


「……婚約を、もう一度結び直したい」


私は少しだけ笑った。


「殿下」


「何だ?」


「私は、婚約破棄を受け入れました」


「だが、あれは間違いだった!」


「殿下の判断が間違っていたことと、私が再び婚約を結ぶことは、別の問題です」


王太子は言葉を失った。


「私は、もう王太子妃になるつもりはございません」


「なぜだ!」


「殿下の隣に立つことに、価値を見いだせなくなったからです」


王太子は拳を握った。


「……お前は、私を見捨てるのか」


私は静かに答えた。


「見捨てたのは、殿下です」


彼は何も言えなかった。


その時、応接室の扉が開いた。


父が入ってきた。


「王太子殿下。娘との話は終わりましたかな」


王太子は顔を上げた。


「公爵……」


「王宮の問題は、王宮で解決してください」


父は淡々と言った。


「娘は、もう王宮の人間ではありません」


王太子は立ち尽くした。


私は立ち上がり、一礼した。


「お帰りの際は、お気をつけくださいませ」







△△△△

王太子が帰った翌日。


私は父と共に、王宮へ向かうことにした。


目的は、財務局の不正について報告すること。


王宮に戻るつもりはなかった。


しかし、王国の財政に関わる重大な問題を放置するわけにはいかない。


王宮に到着すると、財務大臣が出迎えた。


「ヴァレンティア公爵閣下。そして、セレフィーナ嬢」


「お久しぶりです、大臣」


「……ご足労いただき、感謝いたします」


私は書類を差し出した。


「王宮の修繕費に関する不正の証拠です」


財務大臣は書類を受け取った。


ページをめくるたびに、彼の顔色が変わっていく。


「これは……」


「十年分の帳簿を調べました。支払い先の業者は、実際には工事を行っておりません」


「その業者の代表者は……」


「財務局の高官です」


大臣は深く息を吐いた。


「すぐに調査を開始いたします」


「お願いいたします」


その日の午後、財務局の高官は王宮に呼び出された。


彼は最初、すべてを否定した。


しかし、帳簿と証言が揃っていた。


不正な支出は、十年にわたって続いていた。


そして、その一部は王太子の側近たちにも流れていた。


王太子は、玉座の間で報告を受けた。


「……私の側近が?」


「はい」


財務大臣は答えた。


「王太子殿下の名を利用し、王宮の予算を不正に流用しておりました」


王太子は顔を青くした。


「なぜ、今まで気づかなかったのだ……」


大臣は答えなかった。


王太子が気づかなかった理由は、明白だった。


彼は王宮の仕事を、セレフィーナに任せきりにしていた。


彼女が処理していたから、問題が表面化しなかった。


そして、彼女がいなくなったことで、隠されていた不正が露見した。


王太子は拳を握った。


「……セレフィーナは、これを知っていたのか」


「はい。公爵令嬢が調査され、証拠をまとめてくださいました」


王太子は顔を伏せた。





△△△△

数日後。


王太子は、再び私のもとへ使者を送った。


今度は、王宮から正式な書簡が届いた。


内容は、王太子との婚約再締結の申し出。


そして、王宮の仕事への復帰要請。


私は書簡を読み終え、机の上に置いた。


「……随分と都合のよい話ですわね」


マルタが尋ねた。


「どうなさいますか?」


「お断りします」


私は返書を書いた。


婚約再締結は拒否する。


王宮の仕事への復帰も拒否する。


ただし、不正の調査については、必要な資料を提供する。


それだけだ。


返書を封じ、使者に渡した。


その翌週。


王太子から、再び書簡が届いた。


今度は、個人的な手紙だった。


『セレフィーナ。私は、ようやくお前の価値を理解した。どうか、もう一度だけ、私に機会を与えてほしい』


私は手紙を読み、しばらく考えた。


それから、封筒に戻した。


「マルタ」


「はい」


「こちらを王宮へ返送してください」


「お返事は?」


私は封筒の表に、短く書き添えた。


『受取拒否』


マルタは一瞬、目を丸くした。


それから、笑った。


「かしこまりました」




△△△

王宮の不正は、国中に知れ渡った。


財務局の高官は職を失い、関係者たちは処罰された。


王太子の側近たちも、次々と地位を失った。


王太子自身は、直接不正に関わっていたわけではなかった。


しかし、王宮の仕事を把握せず、側近たちの不正を見逃していた責任は重い。


国王は、王太子を呼び出した。


「ヴィルヘルム」


「……はい、父上」


「お前は、王太子としての責務を果たしていない」


王太子は顔を伏せた。


「セレフィーナ嬢に仕事を任せきりにし、彼女を不当に断罪した。その結果、王宮は混乱し、国の財政に不正が発生していたことも見抜けなかった」


「……申し訳ございません」


「お前は王太子の地位を返上し、王宮の外で自らの責務を学び直せ」


王太子は、何も言えなかった。


その日、ヴィルヘルムは王太子の地位を失った。





それから半年が経った。


私は公爵領で、新しい生活を送っていた。


王宮の不正は解決し、王国の財政も少しずつ立て直されている。


王太子だったヴィルヘルムは、地方の行政官として働いているらしい。


彼がどのような生活を送っているのか、詳しくは知らない。


知る必要もなかった。


私は領地の市場を歩いていた。


商人たちが商品を並べ、子どもたちが走り回っている。


農夫たちは収穫の話をし、町の人々は笑っていた。


私は足を止めた。


「セレフィーナ様!」


市場の店主が声をかけてきた。


「今日は新しい果物が入っております。いかがですか?」


「では、いただきましょう」


私は果物を受け取った。


甘い香りが広がる。


王宮にいた頃、私はいつも忙しかった。


誰かのために働き、誰かの期待に応え、誰かの隣に立つために。


けれど、今は違う。


私は自分の意思で、この場所にいる。


「セレフィーナ様。お父様がお呼びです」


マルタが駆け寄ってきた。


「何かしら?」


「王宮から、新しい国王陛下の即位式への招待状が届いたそうです」


私は少し考えた。


「……そう」


「ご出席なさいますか?」


私は市場の景色を見回した。


人々の声。


店先に並ぶ商品。


穏やかな日差し。


「いいえ」


私は笑った。


「今の私には、こちらの方が大切ですもの」


マルタも笑った。


「かしこまりました」


私は再び歩き出した。


王宮で過ごした十年間は、決して無駄ではなかった。


けれど、これからの人生は、誰かのためだけに生きるつもりはない。


婚約破棄された公爵令嬢。


それが、今の私だ。


そして、それで十分だった。

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