第5章 拒絶、そして燃え上がる野心
はじめまして、Orrochi_Zです。インドネシア出身の新人作家です。
本作で使用している用語や表現に、至らない点があるかもしれません。
その際はどうかご容赦ください。
お読みいただき、ありがとうございます。
世界が変わってから、まだ二週間。
だがアーランにとっては、数ヶ月にも感じられた。
ジャカルタの空は、もう完全に明るくなることがない。
薄い灰色の膜が、常に覆っている。
まるで、太陽の光すら何かに阻まれているみたいに。
グランド・インドネシアは、まだ建っている。
だが、もうショッピングモールじゃない。
今は――拠点だ。
中には武装した人々が集まっている。
ただ生き延びるだけじゃない。
すでに“形”ができ始めていた。
警備。
取引。
そして、隅でただ虚ろに座る者。
――少し前。
影が増えていく。
次々と現れるのは、ダンジョンに棲む蜘蛛たち。
ガキッ――
キィィン……
全身に、重い疲労。
「くそ……この程度のモンスターかよ」
アーランは吐き捨てる。
「前のゲームでの俺の実績と比べたら……雑魚すぎる」
だが、小さく息を吐く。
「……まあ、最初の一週間よりはマシだな」
体は、少しずつ慣れてきている。
次の瞬間――
《フラッシュステップ》
連続使用。
残像のように移動しながら、一気に距離を詰める。
そのまま、ダンジョンの出口へ。
スタミナは、ほぼ限界。
それでも――止まらない。
――現在。
そして、その中心。
目立つ紋章。
黒を背景に、交差する二本の短剣。
ギルド――エクリプス。
アーランは入口から数メートル離れた場所で立ち止まる。
すぐには入らない。
観察。
装備の整ったプレイヤーたちが、各所で警備している。
平均レベルは15以上。
中には20近い者もいる。
統率されている。
外の混乱とは、別世界。
「動きが早いな……」
小さく呟く。
予想通りだ。
こういうギルドは、混乱を待たない。
利用する。
ゲーム時代から――変わらない。
アーランは、歩き出す。
中へ。
空気が変わる。
張り詰めている。
だが、制御されている。
低レベルのプレイヤーたちが一列に並んでいる。
希望と、不安が入り混じった顔。
大きなギルド=保護。
それが、この世界の現実。
一方で、エクリプスのメンバーは余裕を見せながらも、隙がない。
視線は鋭い。
誰もが平等じゃない。
アーランはその間を抜ける。
無言で。
受付へ。
そこにいた男は――高身長。
黒いレザーアーマー。
冷たい目。
アーランを見もしない。
「名前」
短い。
「アーラン。ID:AzureBound」
男の手が止まる。
初めて、顔を上げた。
ステータスを見る。
「レベル7……」
小さく呟く。
そして、止まる。
「……ソードマジシャン?」
声のトーンが変わる。
わずかな嘲り。
くくっと笑う。
「まだそれ使ってるやつ、いるんだな」
周囲の視線が集まる。
アーランは反応しない。
「経験はあります」
淡々と。
男は薄く笑う。
「経験?」
少し身を預ける。
「ここで重要なのは、経験じゃない」
指を向ける。
「数字だ」
アーランのステータス。
「レベル7」
そのまま、後ろのメンバーへ。
「見ろ。平均15以上だ」
再び視線が戻る。
「で、なんでお前を入れる必要がある?」
アーランは、すぐには答えない。
想定内。
「システムを理解しています」
迷いなく。
ざわめき。
男が眉を上げる。
「理解?」
「ボスの行動パターン。ダンジョン構造。出現ポイント」
真っ直ぐ見返す。
「無駄に斬ることはしません」
数秒の沈黙。
そして――
小さな笑い。
「みんな同じこと言う」
首を振る。
「お前だけじゃない。このゲームをやってたのは」
声が冷える。
「それに――ソードマジシャンは微妙だ」
腕を組む。
「前衛?火力が足りない」
「魔法?マナが足りない」
一拍。
「中途半端は、すぐ死ぬ」
空気が変わる。
それは評価じゃない。
現実。
アーランは黙ったまま。
男は続ける。
「必要なのはタンクかヒーラー」
列を指す。
「せめて純粋なDPSだ」
視線が戻る。
「お前は違う」
アーランは息を整える。
拳がわずかに強くなる。
だが顔は変わらない。
「それ以上の価値があると言ったら?」
男は答えない。
ただ見て――
首を振る。
「レベル20なら考える」
平坦な声。
「今は――無理だ」
体を少しずらす。
道を空ける。
「どけ」
感情はない。
だからこそ、はっきりしている。
拒絶。
アーランは数秒動かない。
周囲は、すぐ元に戻る。
誰も気にしない。
やがて――
一歩、下がる。
それ以上、言わない。
そのまま去る。
外へ。
足取りは落ち着いている。
だが――思考は違う。
外の空気。
自由。
そして、冷たい。
アーランは立ち止まる。
曇った空を見る。
「……まあ、いい」
怒りはない。
過剰な失望もない。
なぜなら――
分かっていた。
ああいう場所は、“可能性”を見ない。
“数字”しか見ない。
「なら――」
拳を握る。
「数字を上げるだけだ」
振り返る。
歩き出す。
速く。確実に。
近くの商業エリア。
いくつかのNPCはまだ機能している。
違和感はあるが、動いている。
補給店へ入る。
店員は無機質な視線。
だが反応はする。
購入。
HPポーション。
マナポーション。
転移石。
必要最低限。
すぐ出る。
時間はない。
一日目。
簡単なクエスト。
修復。
配達。
他のプレイヤーが見向きもしないもの。
だが――
アーランには違う。
“道”だ。
全てを素早く終わらせる。
無駄なく。
二日目。
ペースを上げる。
クエストだけじゃない。
狩り。
低レベルモンスター。
外縁エリア。
安全ではない。
何度か、かすめる。
何度か、読み違える。
だが――
全て覚える。
修正する。
三日目。
体が変わる。
軽い。
速い。
安定している。
【レベルアップ】
【7 → 8】
止まらない。
四日目の夜。
何もない場所に立つ。
呼吸は重い。
体は疲れている。
だが、目は死んでいない。
【レベルアップ】
【8 → 9】
【9 → 10】
【10 → 11】
【11 → 12】
ステータスを見る。
「……まだ足りない」
剣を持ち上げる。
刃に、薄い光。
「早く上げるなら――」
視線は、街の外。
より危険な領域。
「リスクを取るしかない」
北門。
セーフゾーンの境界。
プレイヤーたちが立っている。
迷い。恐怖。
アーランは止まらない。
そのまま通過。
外へ。
空気が変わる。
冷たい。
重い。
モンスターの気配が、はっきりする。
剣を抜く。
青い光。
「ここからだ」
さらに奥へ。
「……これはもうゲームじゃない。書き換えられた世界だ。
だから――強くなるしかない」
本作の舞台は、インドネシアのいくつかの都市をもとにしており、特にジャカルタを中心に描かれています。
ぜひお楽しみいただければ幸いです。
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