第4章 運命が“顕現”する道
はじめまして、Orrochi_Zです。インドネシア出身の新人作家です。
本作で使用している用語や表現に、至らない点があるかもしれません。
その際はどうかご容赦ください。
お読みいただき、ありがとうございます。
門をくぐった瞬間、アーランは一つ理解した。
ここは違う。
形の問題じゃない。こういうダンジョンは、昔、嫌というほど見てきた。
でも今は、全部が――重い。
冷たい空気が肌に貼りつく。ただの温度じゃない。
妙な圧があって、呼吸が浅くなる。
湿った土と、古びた鉄の匂いが混ざって、鼻を刺した。
彼はすぐには動かなかった。
足が、そのまま通路の中で止まる。
暗い。
最初の数秒、ただ立っていた。
目が慣れるのを待つ。
ぽつり、ぽつりと音が増えていく――水滴、壁の向こうで何かが擦れる気配。
やがて、淡い青い光が灯る。
一つ。
それから、また一つ。
まるで勝手に灯る松明みたいに。
通路がようやく見えるようになる。
古い石。ひびだらけ。
薄い苔がところどころに張りつき、隙間からは細い根が伸びている。
場違いな場所で、無理やり生きようとしているみたいだった。
アーランは、ゆっくり息を吐く。
「……もうゲームじゃないな」
歩き出す。
ゆっくり。でも迷いはない。
ブーツの音が狭い通路に反響する。
一歩ごとに、やけにくっきりと響いた。
現実すぎる。
視界にウィンドウが浮かぶ。
【新規クエスト】
【ダンジョンラットを5体討伐】
アーランはちらっと見るだけ。
「まだ同じシステムか……」
言い終わる前に――
キーッという音。
近い。
すぐに振り向く。
壁の石の隙間から、何かが這い出てくる。
最初は遅い。だが全身が現れた瞬間、ぴたりと緊張した。
ネズミ。
だが、サイズが異常だ。
体高はふくらはぎほど。くすんだ黒い毛。
赤い目が、まっすぐこちらを射抜いてくる。
アーランは動かない。
待つ。
そして――
先に動いたのは、向こうだった。
突進。
速い。
記憶よりも、明らかに速い。
「……っ!」
アーランは体を横にずらす。
わずかに遅い。
爪がアーマーをかすめた。深くはない。
でも、それで十分だった。
これはシミュレーションじゃない。
間を置かず、反撃。
剣が短く、鋭く走る。
一撃目で、モンスターの体を捉える。
真っ二つ。
体は光の粒になって崩れた。
【EXP +10】
数秒、残光を見つめる。
――その時。
また音。
一つじゃない。
二つ。三つ。
ゆっくり振り向く。
あちこちの隙間から、別のネズミが現れ始める。
今度は単体じゃない。
まるで、最初から待っていたみたいに。
アーランは息を吸う。
「……やっとそれっぽくなってきたな」
剣を握り直す。
動いた瞬間、アーランも動く。
下がらない。
前へ。
速い。でも無謀じゃない。
一体斬って、すぐ位置を変える。
軽い動き。でも、どこか慎重だ。
ゲームの時みたいな雑さはない。
左から一体が跳ぶ。
剣の側面で受ける。
小さな衝撃が腕に伝わる。
重い。
現実の重さ。
体を回し、至近距離から突き。
即、崩壊。
だが――息を整える間もなく。
背後からの一撃。
肩に当たる。
体が少し押し出される。
痛み。
「……やられたか」
舌打ち。
深くはない。でも、十分だ。
油断はできない。
腰を少し落とす。
意識が変わる。
ただ斬るんじゃない。
読む。
ネズミたちの動きに、微かなパターンが見え始める。
完璧じゃない。でも予測はできる。
一瞬の隙を待つ。
そして――動く。
剣が一方向を薙ぎ、すぐに反転。
二体、ほぼ同時に崩れる。
最後の一体が逃げようとする。
だが、アーランの方が速い。
一歩。
一閃。
終わり。
静寂が戻る。
残るのは、自分の呼吸だけ。
【EXP +10】
【EXP +10】
【EXP +10】
アーランはその場で止まる。
胸がゆっくり上下する。
疲労じゃない。
別の何か。
体の奥に、奇妙な感覚があった。
温かい。
胸から全身へ広がっていく。
自分の手を見る。
「……これが、EXPか?」
数値じゃない。
感じる。
体が少しずつ変わっていくような。
軽い。
鋭い。
ステータスを開く。
EXPバーが伸びている。
だが閉じる前に――
画面がちらついた。
【ERROR】
眉をひそめる。
表示が変わる。
【クラス:ソードマジシャン】
【状態:ロック】
【ソース:—】
「……?」
ソースが空白。
選んだ覚えはない。
なのに、所持扱いになっている。
短く息を吐く。
「バグか……それとも、異常か」
新しい通知。
【新スキル:エレメンタル・インフュージョン】
剣を持ち上げる。
さっきの流れを感じ取ろうとする。
最初は何も起きない。
だが、意識を集中させると――
刃に、薄い光。
青。
不安定。でも確かにある。
アーランはわずかに口元を緩める。
「……使えるな」
剣を振る。
空気が、より鋭く裂ける。
重い。
そして――“生きている”感じ。
だが――
また音。
さっきとは違う。
数が多い。
アーランは止まる。
すぐには動かない。
ゆっくり顔を上げる。
暗い通路の奥――
赤い目が、浮かぶ。
一つ。
そして、増えていく。
壁。
床。
上。
顎に力が入る。
「……多すぎる」
小さな足音。
一斉に。
近づいてくる。
アーランは下がらない。
体勢を整え、息を止める一瞬。
そして――
動く。
次の戦闘は、もう綺麗じゃない。
動き続けるしかない。
一体斬って、二体避ける。
いくつかの攻撃が、かすめる。
一つは、足首を噛みかけた。
後ろへ跳ぶ。
距離を取る。
すぐ、入り直す。
剣が光る。
動きが速くなる。
完璧じゃない。だが、足りている。
数秒が、やけに長い。
そして一体ずつ――
崩れていく。
静寂。
アーランは通路の中央に立つ。
呼吸はさっきより重い。
アーマーには傷。
それでも、目は死んでいない。
【レベルアップ】
【2 → 3】
それを味わう余裕はない。
何かがおかしい。
終わるのが早すぎる。
静かすぎる。
一歩、進む。
――止まる。
音。
上から。
顔を上げる。
天井に――
何かが張り付いている。
形は曖昧。
ネズミじゃない。
普通のモンスターでもない。
だが――見えた。
目。
大きい。
暗い。
システムが割り込む。
【WARNING】
【未登録エンティティ】
アーランは動かない。
むしろ、剣を握る手に力が入る。
ここに入って初めて――
本当の“危険”を感じた。
ただのモンスターじゃない。
ここに“いるはずのないもの”。
ゆっくり息を吸う。
「……やっと、出てきたか」
剣が再び光る。
一歩、踏み出す。
天井から、その存在がゆっくり降りてくる。
――そして、周囲の闇も一緒に動いた。
本作の舞台は、インドネシアのいくつかの都市をもとにしており、特にジャカルタを中心に描かれています。
ぜひお楽しみいただければ幸いです。
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