第3話:世界の再構築(オーバーライト)
前書き
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
第3話では、物語がいよいよ加速します。
僕たちの知っているジャカルタが完全に「上書き」され、デスゲームと化した**『Darkness Tale Online』**のシステムが牙をむき始めます。
自分の母親を含め、周囲の人間が感情のない「NPC」に変わっていく光景……。
もし現実でそんなことが起きたら、と想像するだけでゾッとしますよね。
アルランが「生き残り試験」に放り込まれ、覚悟を決める瞬間をぜひ見届けてください。
それでは、第3話をお楽しみください!
ジャカルタの空が震えている。その振動は、心臓の奥深くまで響いた。
俺はブンダランHIを囲む黄金の結界の境界線で足を止めた。廃墟と化したアパートから母さんを背負ってここまで走り抜け、肺が焼け付くように熱い。境界を越えた瞬間、外側の刺すような冷気と化け物どもの唸り声が嘘のように消えた。まるで見えない壁が、狂った世界とこの場所を切り離しているみたいだ。
噴水の近くにあるベンチに、そっと母さんを下ろした。彼女はただ、硬直したままそこに座っている。焦点の合わない、虚ろな瞳。そして、その頭上には相変わらず忌々しい緑色の文字が浮かんでいた。
【メイドNPC — レベル1】
俺は奥歯を噛み締めた。拳を握る爪が手のひらに食い込む。周囲を見渡せば、似たような「残骸」がそこら中にいた。サラリーマン、学生、主婦。かつて人間だった者たちが、今はただのバグったプログラムのように、同じ場所を数歩歩いては戻るという動作を繰り返している。彼らの頭上にも同じ文字がある。【町人NPC — レベル1】。
「みんな……こうなっちまったのか」
彼らに意識はない。この新しい世界を彩るための「背景」に成り下がってしまったんだ。その時、目の前に例のウィンドウが割り込んできた。
[ステータスウィンドウ]
[名前:AzureBound]
[ステータス:アノマリー(異常値)]
「AzureBound……」 俺のゲームでの名前だ。それが今の俺の証明。だが、一番下の「アノマリー」という言葉が引っかかる。生き残った人間が『プレイヤー』になるのだとしたら、なぜ俺だけがバグ扱いなんだ?
考える余裕は与えられなかった。空が再び激しく震え、紫の空を覆う赤い亀裂が巨大なスクリーンへと姿を変えた。そして、感情を削ぎ落とした女のような、冷徹な機械音声が脳内に直接響く。
[グローバル・アナウンスメント]
[『ダークネス・テイル・オンライン』の同期が完了しました]
[現実上書き(オーバーライト)完了率:55%]
[新しい世界へようこそ]
一瞬の静寂の後、爆発的なパニックが起きた。
「なんだよこれ! ゲームかよ!」
「おい、目の前に変な画面が出てるぞ!」
人々が混乱に陥る中、空の文字が血のような赤に変わる。
[警告:モンスターが出現しました]
暗いビル影から、聞き覚えのある卑しい唸り声が聞こえてきた。緑色の肌、血走った赤い目、錆びたナイフ。ゴブリンだ。画面の中で何千匹と殺した化け物が、今はその生臭い腐臭を漂わせて現実に立っている。
「ギギッ!」
一匹が俺に狙いを定め、跳躍した。俺は動かない。ナイフが喉元に迫る瞬間――。
[縮地発動]
景色が青く歪み、次の瞬間には俺は奴の背後にいた。あまりの速さに、ゴブリンは何が起きたか理解すらしていない。俺は手近な剣の柄で、そいつの項を叩き折った。化け物は光の粒となって霧散する。
[EXP +10]
次々に襲いかかる奴らを、俺は影のように動いて片端から片付けた。ものの数分で、結界付近にいたゴブリンは全滅した。生き残った連中が、信じられないものを見る目で俺を見ている。
「あいつ……一人で全部……?」
「動きが見えなかったぞ……」
そんな視線はどうでもいい。俺の視界では、エラーを起こしたシステム画面が激しく明滅していた。
[プレイヤー・スキャン中...]
[分類:エラー]
[最終判定:アノマリー(異常値)]
「……やっぱりな」 俺はこの世界の「ルール」の外側にいる。
その時、空の文字がまた更新された。最悪の数字と共に。
[地域:ジャカルタ]
[登録プレイヤー数:12,482名]
一千万以上いたはずの人口が、たった一万二千人。他はみんな消えたか、NPCにされたということか。そして、追い打ちをかけるような指令が下る。
[地域クエスト:生存試験]
[目標生存者数:1,000名]
[制限時間:72時間]
「なっ……千人だと!?」
「残りの一万人はどうなるんだよ!」
無情な宣告が続く。[失敗条件:プレイヤー資格の剥奪。残存個体はNPCユニットへと強制変換されます]
死ぬことすら許されず、永遠に魂のない人形にされる。それが敗北の代償。
突如、広場の中心のアスファルトが裂け、地底から巨大な石の門が姿を現した。そこから溢れ出す冷気に、周囲のプレイヤーたちが恐怖で後ずさりする。
[イベント:ダンジョンの出現]
[初回クリア報酬:ユニークスキル]
絶望に震える群衆を余所に、俺は一人、その暗闇の口を開けた門へと歩き出した。「ユニークスキル」。この狂ったシステムを壊すために必要な力だ。
「世界をゲームに書き換えたのがお前らのやり方なら……」 門の前で立ち止まり、俺は深く暗い奥底を見据えた。
「俺は、そのルールを書き換えるプレイヤーになってやる」
俺は躊躇なく足を踏み入れ、闇の中にその姿を消した。
後書き
第3話、いかがでしたでしょうか?
ついにアルランがブンダランHIのダンジョンへと足を踏み入れました。
「アノマリー(異常値)」である彼は、他のプレイヤーとは違う直感を持っています。ただ生き残るだけでなく、この狂った世界のルールそのものを「書き換えよう」とする彼の姿に、ワクワクしていただけたら嬉しいです。
果たして、暗闇の先で彼を待ち受けるモンスターとは?
そしてシステムが約束した「ユニークスキル」の正体とは……?
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皆さんの反応が、第4話を執筆する最大のモチベーションになります。
それでは、次のダンジョンの入り口でお会いしましょう!




