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何者にもなれなかった女冒険者(5)

※東角の刻=午後3時 に相当します


「終わりました。これで……あの錬成像(ゴーレム)の痕跡を辿っていけると思います」



「おおー! すごい、すごいよお姉さん!!」


 落ち着きを取り戻した女冒険者は再び部屋内の机で破片の解析作業を再開し、正午に差し掛かる頃には全てを解き明かすことに成功していた。


 触媒とした妖精の羽根の粉末を始めとして、机の上には様々な器具や素材が散乱している。少なくとも錬金術(キュメイア)について専門外のアルビトラにとってはまるで用途の検討が付かないものが大半である。


 

「アルビトラさんのおかげですよ。

 貴方が傍に居てくれたから、この黄金色(こがねいろ)の破片と向き合えました」


 やりきったような表情で感謝の言葉を口にする。

 頬には未だに涙の跡が残ってはいるものの、目覚めた直後よりは幾らか朗らかさを取り戻しているようだ。



「それで、ですね……やはりこの破片を零した錬成像(ゴーレム)達には

 やはり私が学術院時代に産み出した先進錬成式が使われていました」



「当事者だった お姉さんが断言するんだから間違いなさそうだねぃ。

 痕跡を辿るための手段は直ぐに用意できそうなの?」



「そうですね、破片をサンプルとして活用していけば

 手持ちの器具を少し改造するだけで探知機の代用品を造れます。

 ……十五分もあれば造れますよ」


 要するに樹林帯で披露した錬成物を追跡する技法を、専用の探知機を使って自動化するということであり、それを即興で造れるというのだから驚きだ。

 旅籠屋(はたごや)内の酒場で罵倒されて萎縮していた時とは比較にならないくらいに活き活きとしているな、とアルビトラは感じていた。



「おおー! すごいね、すごいよ!

 だったら、それが仕上がり次第 探しにいこう!」



「はい、サルロスはオルクシア地方全域を見渡しても特に大きな町ですので

 錬成像(ゴーレム)を造るための素材なども流入して来ます。

 まずはその素材の出処から目星を付けて辿っていきたいと思います」



「あの真鍮みたいな装甲……妖精結晶を始めとした錬成像(ゴーレム)の材料が

 いっぱい集まってる場所があったら怪しいってことかな? かな?」



「その通りです。たとえ錬成像(ゴーレム)そのものではなかったとしても

 特殊な素材の流通経路が明らかになれば錬金術師(キュメステス)の居場所を算出できます」



「ん、頭脳派だねぃ! じゃあ、お姉さんに任せるよー。

 荒事になりそうな時は遠慮なく私に丸投げしていいからね!」


 そうして二人は探知機を用意した後に、宿屋を出て町中へと繰り出して行く。

 現在の空模様は清々しいまでの晴天。真上より降り注ぐ陽光が実に眩しい。


 悪夢の残滓も、女冒険者の慟哭の声も、既に風と共に流された後であった。






 [ オルクシア地方 ~ レネ領 サルロスの町 ]


 アルビトラ達が泊まった宿屋は町の南東に位置し、そこから一旦 中央の大通りを経由してから各所を巡って行くことになった。

 出来上がった探知機を駆使して錬成物の反応を探りつつ町の住人にも聞き込みを試みたところ、有益そうな情報として北東の方角に各商会や旧貴族家の蔵が建つ区画が挙げられた。



「あら旅人さんかしら? ゆっくり見て行ってくださいな。

 この大通りには、たくさんの店舗や工房が並んでいて楽しそうでしょう?」


「そうだねぃ、小さな建物がびっしりだよ!

 でも……この大きさでこれだけの商品を取り扱えるものなのかな?」


「ふふふ、そこはこのサルロスならではの仕組みが活かされているわ。

 共用倉庫で商品や素材を保管しているから、これだけの店数が共存できるのよ」


 美味しそうな食べ物の匂いが漂う飲食店の前で、三十代半ばと思しき女性が気さくに答えてくれた。



「この町はエスブルト南部を繋いでる街道に沿って発展してきました。

 一帯を治めていたレネ家は勿論のこと、富裕層を相手にする商人達にとっても

 私財や商材を安全に管理できる蔵や倉庫は重宝されております」


 町の安全を担う警邏隊の若い男性はそのように説明してくれた。

 彼等のような者達は町の至る箇所を巡回している。



「王国から共和国になった途端、多くの貴族は特権を失って没落したもんだ。

 そりゃ当時の混乱ぶりは酷かったもんさ……革命の影響で町中が大荒れだ!」


「……そうですね、あの時は首都ボロルでも大変なことになっていました」


「ああ、都会から来たヒトだったのかい。

 まあ此処だとレネ家だけはしぶとく生き残って、今じゃあ商人達の顔役だぜ!」


 昼間から飲んだくれている中年男性が、やや大げさな口調で当時を語る。

 こうして彼等が往来で好き勝手に語れるのも治安の良さの顕れなのだろう。

 なお国体が変わって暫く経った現在でも、昔からの慣習で付近一帯は『レネ領』と呼称されている。

 


「北東の倉庫街に行ってみたい? 余所もんが馬鹿言ってんじゃないよ。 

 あそこは止めときな! レネ家の連中に目を付けられたらお仕舞だって

 母ちゃん達がいつも口を揃えて言ってたよ」


 共用倉庫について訊いて回ろうとしたところ、斜に構えた少年からそのような話を耳にして、少しだけ大通りを吹き抜ける風が淀んだような気がした。



 ……といった具合に住人達から様々な情報を得ることが出来た。



「話を聞く限りだと治安はかなり良いみたいだねぃ。

 効率的に店舗や工房を増やして、商品を管理してるみたいだし」



「この分ですと錬成像(ゴーレム)に関連する素材が入って来るとしても

 倉庫街に一旦 集積されてから必要な工房に分配されるのかもしれません。

 逆に、私達にとっては好都合です」



「倉庫街に足を運べば、纏めて手掛かりを掴めるかも……ってこと?」



「はい、レネ家の縄張りなのは気掛かりですが一度見に行ってみましょうか」



「いいね! もし本当に怪しそうな物が保管されてるのなら

 荷馬車の行先を探っていけば成果になりそうだし!」


 そうして二人は北東区を目指すことになったのだが、ふとアルビトラが頭上を見上げた後に両手でお腹をさすり始めた。



「んー……」



「ふふ、お腹が空きましたか?

 アルビトラさんはいっぱい食べるヒトですもんね」



「あはは、これだけ美味しそうな匂いが漂ってるとねぃ。

 お昼だし腹拵えしてから向かってもいいかな? かな?」


 気恥ずかしそうな笑顔を浮かべながら、飲食店が立ち並ぶ一角を指差した。



「勿論です、と言いたいのですが私は手持ちが……」



「あ、そっか! 携行食料も切り詰めてたもんね。

 それなら今日のところは私が奢るから、いっしょに食べよ!」



「え、でも……」


 冒険者とは自由身分であり謂わば個人事業主。同じギルドに所属しているのならまだしも、臨時の同行者の衣食住の面倒を見る道理は無い。

 食事等は基本的に自前で用意するのが常識であり、他者から施しを受けるようになってはお仕舞なのだ。


 故に、最初は遠慮しようとした女冒険者だったが、アルビトラに腕を引っ張られて店まで連れて行かれたので逡巡の末に好意に甘えることになった。



「んー、ここが良さそうかな?」


 匂いと直感で適当に店を選び、まずは店員のオススメに従う。

 それが旅先での"春風"のアルビトラの流儀である。


 そうして入店した飲食店は木材と石材を程好く組み合わせて建てられた小さな建物ながら、四人掛けのテーブルが二つ、二人掛けのテーブルが三つ、あとはカウンター席という狭い空間を最大限に活用されており、品の良い内装が居心地の良さを感じさせる。

 

 昼時ではあったが、丁度 二人掛けの席が空いていたので共に腰掛けてメニュー一覧を検める。



「ふんふん、こういう感じなんだー」


「オルクシア地方の定番料理を中心に、手堅く営業しているみたいですね。

 店員のヒトがオススメしていた煮込み皿なら、まず間違いないでしょう」


「そっか! じゃあ、それにしちゃおう」


 そうして二人の眼前には白金時豆や根菜類、鳥の腿肉や腸詰肉などを丁寧に煮込んだ上で香辛料を強めに利かせた一品が大皿に盛られて提供された。



「いただきます! んー……ほろほろだねぃ」


「ご相伴に預かります。

 これは……かなりじっくりと煮込んであるみたいですね」


「うん! それでいて煮崩れしないよう予め軽く炙ってあるから食べやすいよ」


 見るからに嬉しそうに笑顔が緩み、狐尾をゆらゆらと揺らしている様子から相応に気に入ったらしい。


 狐というよりは子犬のようだな……と、女冒険者は感じたものの言葉には出さずに食べ進めることに専念した。



 味付け自体は濃い目だが、かなり具材が柔らかく仕上がっていたために、久しぶりに肉類を口にする女冒険者であっても思った以上に食が進んでいく。

 豆類や根菜類に至っては表面こそカリカリに炙られてはいるものの、内部は半ば溶けかけているほどにねっとりとした食感で香辛料の味わいが後に残り過ぎないよう見事に融和していた。



「(おいしい……そういえばここ数年の食事といえば)

 (携行食料や冒険中に獲った川魚や野草ばかりだったっけ……)」


 女冒険者が一口分ずつ丁寧に匙で掬って食べている一方、アルビトラはあっという間に一食分を平らげてしまう。

 旅籠屋(はたごや)を発つ前に自己申告していたように相当の健啖家であるらしい。



「店員さん、おかわりー!

 日暮れまで めいっぱい調べて回れるよう食べられるだけ食べておこうっと」


「……この一皿でも結構な量がありましたけど」


 唖然とする女冒険者の視線を気にする素振りもなく、同じ料理に加えてパンとコルキオの果実水(ジュース)まで注文するのであった。

 やがて四半刻が経つ頃には、彼女の前に空の深皿が五枚も積まれることとなる。



「ふぅ、ひとまず腹八分目くらいで抑えておこうかな」



「こ、これでもまだ満腹ではないのですか……。

 獣人種の方々の胃袋が大きいことは承知していましたけど

 ルァザ式の大型携行食料といい、改めて度肝を抜かされてしまいますね……」


 そもそも、今回注文した料理は一皿でも一人と半人前くらいの量がある。

 経済的な理由から普段は小食にならざるを得ない女冒険者からすれば、破格の量だというのに五皿でも足りないらしい。



「えへへー、特に動き回る日はいっぱい食べたくなるんだよねぃ。

 だから冒険依頼の報酬の大半は食費に消えちゃうんだー」



「昨日 仰っていた貴方の特異体質が関係しているのかもしれませんね。

 それならやっぱり自分の分は自分で支払いま……」



「あ、それはダメ! 今日は私が奢るって決めたもーん」


 などと軽いノリで断りつつ、ささっと店員に代金を手渡していた。



「じゃあ、そろそろ行こうか! 事件を解決して依頼の報酬を貰ったら、

 今度はお腹いっぱいのご馳走を注文しようよ!」



「……はい! 英気を養わせていただいた分はしっかりと返させていただきます」


 にかっと笑顔を浮かべながら歩き出すアルビトラに対し、女冒険者は慎ましくも朗らかな微笑みを返して彼女の左隣に並び、必死に付いて行こうとする。

 旅籠屋(はたごや)内の酒場で罵倒されて萎縮していた彼女の姿は、既に何処にもなかった。






 [ オルクシア地方 ~ レネ領 サルロスの町 南西区~北西区 ]


 町の中央より倉庫街へと向かう前に、南西区と北西区を軽く見て回った。

 サルロスは中央通りを主軸に楕円形に広がるような構造をしているため、各区画を時計回りに巡ると無駄なく足を運ぶことが出来るのだ。



「この辺りは反応がありませんね。

 やはり調べるなら物資が集まる北東区でしょう」



「目に入る感じだと普通の民家や公園が多いよ。

 たまに貴族の……今は元貴族かな? の御屋敷っぽい建物もあるけどー」


 南西区は平民達の家や公共施設が多く、北西区はそれよりも立派な建物が散見される。また冒険者統括機構(マスカラード)のサルロス支部の建物も見受けられた。。

 とはいえ女冒険者が拵えた探知機は一向に動く気配を見せない。



「さっき一つ目の針が少しだけ動いたけど、それっきりだね」


「はい、そちらは硬質化させた妖精結晶の波長に反応する針ですね」


 この探知機は方位磁石のような円形の器具の上に二種類の針が設えており、それぞれ異なる条件で反応を示す仕組みとなっているらしい。



「元貴族のお屋敷なら、そういった高価な素材を用いた武具を持っていても

 不自然ではありません。いずれにせよ二つ目の針が動かないことには……」


「うんうん、それじゃあこの区画は切り上げて本命の倉庫街に向かおう!」


 北西区と北東区の境目には川が流れており立派な石造りの橋が架けられている。

 並んで橋を渡っている最中、ふと女冒険者の足が停まった」




「どうしたのー?」


「……すみません、河と橋を見ると いつも故郷を思い出してしまうのです」


 その顔には幾許かの影が見え隠れしていた。望まぬ形で首都ボロルより離れなければならなくなった時のことを思い出したのだろう。



「ん、消せない思い出っていうのも大変そうだねぃ。

 私はそういうのが無いから……分かってはあげられないけど

 辛い過去を思い出しても平気になれるよう、目の前の事件解決をがんばろう!」


「はい! 先進錬成式を悪用されたままでは、私は前に進めませんからね」


 より強く決意を固めた瞳にて、女冒険者は再び歩み出した。

 そして二人の視界には頑丈そうな土壁や石壁が積み上げられた建物が幾つも連なる光景が映るのであった。






 [ オルクシア地方 ~ レネ領 サルロスの町 北東区 ]



「……早速、反応が出始めましたね」



「本当だ! 片方の針がぐわんぐわんって動いてるよ! よ!」



「妖精結晶はとても稀少で高価な素材ではありますが

 大きな町なら普通に流通していますからね、問題は此処からです」


 倉庫街に足を踏み入れた途端に少しずつ動き出した指針に目を落としつつ、探るように進んで行く。



「一つ目の針は、精度はそこそこですが範囲を広くしてあります。

 逆に、先進錬成式に反応する二つ目の針は範囲は狭く、精度重視です」



「大雑把に探ってから、怪しそうな場所で二つ目の針も動いたらアタリ! だね」



「ええ、ですがサルロスが大きな町とはいえ

 必ずしも手掛かりが見付かるとは限りませんからね……その時は、すみません」



「ん! 長期戦も覚悟しなきゃだね。ここで反応がなかった場合はどうするの?」



「その時は……妖精結晶の流通経路から辿り直していこうと思います。

 隣のガティナ領の城塞都市カルシャヌなどは、

 国境の防備のために多くの武具や錬成像(ゴーレム)を揃えているそうですし」



「いいね、いいね! 

 次善の策もしっかり考えられるのは、お姉さんの強みだよ」


 ここで成果が得られずとも、まだまだ打つ手を見出せる。

 二つ名持ちの冒険者であるアルビトラに褒められて少しずつ自尊心を取り戻しつつある女冒険者の足取りは、徐々に引き摺るような重さが薄れていった。


 故に、だろうか? 幸か不幸か、彼女の躍進ぶりに呼応するかの如く二つ目の針が微かに(うごめ)き、特定の方角を指し示し始めたのである。




「……ッ!! 針が動いています。

 先進錬成式が使われている錬成物が……この近くに?」



「ふむふむ、ここから少しだけ北のほうに進んだ場所ってことだね」


 現在、アルビトラ達が居るのは食品関連の蔵や倉庫が並ぶ区画。

 少し離れた場所には商会や研究機関が利用する資材庫などが密集している。



「…………」


 ふと、アルビトラはその場で空を見上げた。



「(……これは一雨 来そうだねぃ)」


 正午付近までは快晴であったのに、いつの間にか分厚い雲が流れてきて頭上を覆い尽くそうとしている。

 それに東角の刻を時を越えて暫く経っており、あと半刻もすれば日暮れを迎えることになるだろう。



「こっちです、アルビトラさん!」


 空模様を伺うアルビトラとは対照的に女冒険者の視線は探知機の針と、それが指し示す方角のみを向いている。

 事件解決への光明が見え始めて気が逸りだしているのかもしれない。



「手掛かりっぽい物が倉庫に有りそうだったら どうするの?」


「可能でしたら、そのまま倉庫内に入って実物を検めたいですね」


「んー……お姉さんからしたら、一日でも早く 錬成像(ゴーレム)を何とかしたいもんね」


 倉庫に忍び込むのなら深夜まで待った方が良い、とは思ったが女冒険者の心情を鑑みて喉まで出掛かった意見は呑み込むことにする。




 それから二人は幾つかの角を曲がりながら北へと進み、時折 探知機の針を確認しながら慎重に倉庫を一棟一棟 視て回った。そして……辿り着く。



「こ、此処は……」



「あの紋章、見覚えがあるよ!」


 探知機が示した場所は十メッテほどの高さの堅牢な石造りの建物で、周囲を鉄柵で囲われている。

 この倉庫の入口に刻まれている紋章に、二人は真っ先に着目した。



「大きな(くちばし)、羽根を畳んだ鳥の紋章……まさか」


 鞄の中よりタルヴォアから預かった指輪型の印章を取り出した。そこには眼前の倉庫のものと瓜二つな家紋が刻まれている。

 女冒険者は少なくない衝撃を受けて、その場で硬直してしまった。



「お姉さん、こんな時だけど向かって右側の角から誰か近付いて来るよ。

 たぶん倉庫を警備してる歩哨だと思うけど」



「え、私達以外の足音なんてしてませんでしたよ……」



「不気味なほど静かに歩いてる、まるでヒトじゃないみたい」


 頭上の狐耳をぴくりと動かしながら指差し、女冒険者が件の方角へと向き直る頃には左掌で刀剣の鞘を掴んだ次の瞬間には勢いよく地面を蹴って跳躍していた。




「貴様、ソコデ何ヲシテイル。ココハ タルヴォア家ノ私有地ダ」


 アルビトラが跳んだ直後、無機質な声色で問い掛けられた。


 現れたのは上質な革鎧と革靴を身に付け、鉄製の平たい兜で頭部を覆った男性の兵士。手には槍、腰には短剣を帯びている。



「(この井出立ち……あの時の馬車を護衛していた方々と同じ装備だ)

 (それに胴着にタルヴォア家の紋章が刺繍されている……!)」



「返答ナシ。不審者ト定メ、排除ス……!!」


 兵士が槍の穂先を傾けようとした時、頭上より夕日に紛れて何かが降ってきた。

 ガツン! と鈍い音を響かせながら、兜を的確に避けて首筋狙いの強烈なる一撃が決まる光景を女冒険者は目の当たりとする。

 


「ガ……グ、ァ……」


 まるで糸の切れた操り人形のように不自然に両膝を地に着け、そのまま前のめりに昏倒する。その傍では鞘を振り被った体勢のまま残心を試みる狐人(フォクシアン)の冒険者の姿が在った。



「あ、アルビトラさん!」


「んー、ヒトの頭を叩いた時の感触じゃなかったねぃ。

 足音も呼吸音もしなかったし……これは、ひょっとすると?」


 首を傾げる素振りを見せつつ、一切 隙を作らずに鞘を構え続けていると……。



「――損傷警備、再起動」


 ぎこちない動作で腕を動かし、槍を支えにして無理やり立ち上がる。

 遠目から視れば純人種の警備兵ではあるが、その動きはどこか機械じみた不気味さを醸し出していた。



「お姉さん、探知機をこのヒトに向けてみて」



「これは、まさか!」


 言われた通りに兵士へ探知機を傾けると、先進錬成式が用いられた錬成物に反応する針が一瞬だけ彼が居る方角を示し、再び倉庫の方へと回っていく。



「すごいね、遠目からだと普通の純人種にしか視えないよ。

 まあ、ところどころ怪しかった部分はあったけど!」


 一陣の風が凪いだ。


 女冒険者が一度(ひとたび)瞬きをする頃には、いつの間にか兵士を挟んで数メッテ先にアルビトラが移っている。否、それだけではなかった。




「ガ……ギギ……」


 兵士の首が撥ね飛ばされ、残った胴体も垂直真一文字に斬り裂かれていた。

 納刀する際の、鍔と鞘が克ち合う微かな金属音が鳴り響くと同時に一切合切が分断されて、石畳の地面に転がっていく。


 血飛沫も臓物の飛散も起こらなかった。代わりに断面より捻子や歯車といった小さな部品が剥落し、黒くて粘着性のある液体が僅かに零れるのみ。



錬成像(ゴーレム)ですね。

 ここまで精巧にヒトを模した錬成物は私も初めて目にしました。

 というよりも、この皮膚の部分に使われているのは……」



「うん、皮膚は人工物じゃなさそうだね。

 たぶん生きてるヒトから剥いで素材にしたんじゃないかな? 悪趣味だよぅ」



「タルヴォア様の生家で、このような非道な代物が常用されているなんて……。

 信じたくはないですが実物を目にした以上はどうしようもありません。

 急いで倉庫の中を調べていきましょう!」



「でも、どうするの? この感じだと歩哨はまだまだ居そうだよ」


 『風紡(キリム)』を駆使して兵士を模した錬成像(ゴーレム)の残骸を一纏めにしながら尋ねる。

 流石のアルビトラといえど、全ての警備兵を気付かれることなく無力化して倉庫内に侵入するのは、不可能ではないが骨が折れることだろう。



「ここは警備を気にしながら忍び込むよりも、正面から踏み込もうと思います。

 短時間で調べて、事件に関わっていそうな代物を探して直ぐに出ます」



「ふむふむ、怪しまれるより先にぱぱっと探索するんだね」



「はい、何も成果を得られなかった時は大変なことになってしまいますが

 探知機の反応に加えて、この不気味な兵士……何も無い筈がありませんから!」


 隣国の貴族家が保有する倉庫に踏み込むのだから、もし事件に関わっていないとなれば、ただでは済まないだろう。それを承知で女冒険者は強行策を選択した。

 事件解決の糸口を掴めたことに加えて、タルヴォア家の所業に動転している状態だからこそ発揮し得る行動力なのかもしれない。



 そうして二人は沈み掛ける陽光を背にして堂々と倉庫の正面入り口へと渡ると、錬成像(ゴーレム)ではない生身の係員を見付けて話し掛けることにした。


・第1話の5節目をお読みくださり、ありがとうございました。

 当初は倉庫の調査を終えた後まで含める予定だったのですが

 かなりの文字数になってしまいそうなので、ここで一旦区切らせていただきました。


・続く6節目はなるべく近日中に更新いたしますので、

 どうかお楽しみいただければ幸いでございます。

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