勇者の条件
真柄、林崎、鷲尾の方へと向かうと、そこにはさまざまな武器が用意されていた。
剣、日本刀、槍、銃火器…。
瑛慈たちが合流すると、真柄が話し始めた。
「これで全員だな」
真柄は、瑛慈を助けたときに装備していた大剣を手に取る。
「君たちは、適性検査の時に武器を持たされたはずだ。あれは勇者適性の他に、魔法・武器への適性度、魔力量の検査も兼ねていた」
すると、林崎は日本刀を抜き、鷲尾は銃を取り出した。
「たとえば私は大剣、林崎は日本刀、鷲尾は銃だ。人それぞれ、武器との相性がある。
私は元々剣道を習っていたが、日本刀との相性が一番良かったというわけではない。
ただ、相性がいいからといって、必ずしもそれが一番とは限らない。
相性の良さというのは、あくまでも、力を最大限まで引き出せるということだ。
すでに扱いやすい武器があるのなら、そちらを推奨する」
「では、好きな武器を取れ。相性がいい武器なら、"何か"を感じるはずだ」
瑛慈は傍らにあったサーベルを握った。
しかし、何も感じない。
そもそも、"何か"とはなんだろう?
周りを見渡すと、すでに決めている者もいれば、その"何か"を感じ取っている様子の者もいる。
久遠は何も取らずに、真柄と話していた。
「何を話しているんだろう?」
瑛慈はその後も武器を取り続けた。
日本刀、レイピア、槍、斧、ハンマー、銃…。
どれも重さを感じるだけで、ピンとくるものはない。
「俺に合う武器なんて、あるのか…?」
半ば諦めながら、鍔が十字型の直剣を取る。
それは、適性検査の時に持ってた剣とよく似ているものだった。
瑛慈が握り締めると、先ほどまでと感覚が違う。
重さはある。だが、なぜだか軽やかに振れる。
空にかざし眺めていると、林崎が話しかけてきた。
「それが君と相性のいい武器か。勇者にはぴったりの剣だな」
勇者にはぴったりの剣…。
確かに、ゲームやアニメで見るような形の剣をしている。
ありきたりで、いかにも、という印象も否めない。
それでも、自分と相性が良いと言われるのは、なんだか嬉しかった。
「全員、武器を取ったな?
では、その武器が本当に相性がいいか見極めてやる。
俺たちに打ち込んでみろ」
そこで、一人のクラスメイトが手を挙げた。
「先生、銃や弓といった武器を選んだ人はどうすればいいんですか?」
答えたのは、真柄ではなく鷲尾だった。
「遠距離武器は相性の良し悪しが一目で分かる。
現在、警察や自衛官が持つ警護用の銃は、魔力を籠めた弾を撃つ仕組みになっていて、誰でも魔物と交戦できる。
でも、ここにある銃は実弾じゃない。魔力弾を撃つものだからネ。
向いていない人間は、弾すら出ないんだヨ」
鷲尾が真柄に向かって銃を構え、躊躇なく引き金を引いた。
その刹那、雷鳴のような轟音とともに、閃光が真柄へと放たれる。
真柄は一歩も引かず、大剣を正面に構えた。
閃光は刃に直撃し、激しく爆ぜた。
「真柄班長は頑丈だから、もし当たっても大丈夫だヨ」
大剣を地に突き立てたまま、真柄は微動だにしない。
「弓矢も同じ。矢に魔力を籠めれば魔物にダメージは与えられる。
でも、正直言って弱いし不便だ。
銃との違いは、弓は魔法を放つイメージに近いってことネ」
そう言うと、近くの弓を手に取り、構える。
弦を引き絞ると、指先に集まった魔力が矢となり、白く瞬いた。
放たれた瞬間、雷鳴のような音が空気を引き裂き、閃光となって一直線に真柄へと走る。
真柄は慌てることなく、一歩踏み込み、大剣を振るった。
重い刃が閃光を断ち、矢は空中で砕け散る。
破片となった魔力が、稲妻のように地面を奔った。
「こんな感じだネ。真柄班長になら遠慮なくやっちゃっていいヨ」
鷲尾は真柄を気にすることなくあっけらかんと言った。
「銃は一発の威力は弱いけど、魔力の消費が少ない。
弓は一発の威力が強い分、魔力消費も大きいって覚えておいて。
もちろん成長すれば、魔力を抑えながら強力な一発を撃つことも可能だヨ。
じゃあ、遠距離武器を選んだ人から、どんどん撃っちゃって」
真柄は呆れたように鷲尾を見てから、林崎へ指示を出した。
「悪いな。近接武器を選んだ者の相手をしてくれ」
林崎は日本刀を構え、短く言った。
「了解」
その構えだけで分かる。
圧倒的強者。隙がまったくない。
「誰でもいい。好きに打ってこい」
その言葉と同時に、蘆屋朔が短剣を手に飛び込んだ。
「……んじゃ、遠慮なく打ち込みますんでっ!」
何度も打ち込む蘆屋。
その動きは、明らかに普通の者の動きではなかった。
だが、それをいなす林崎もまた、常人の域を超えている。
日本刀がわずかに揺れるたび、短剣の軌道がずれていく。
刃がぶつかる音は、ほとんど聞こえない。
次第に、蘆屋の呼吸が荒くなった。
踏み込みが浅くなり、切り返しが遅れる。
「………あっ」
誰かの声が漏れた。
次の瞬間、短剣が地面を打つ音がした。
何が起きたのか、分からなかった。
さっきまで蘆屋の手にあったはずの武器が、林崎の手の中にある。
「悪くない動きだ。だが、これはあくまでも武器の見極めだ。そう熱くなるな」
林崎は日本刀を収め、短剣を蘆屋へ返した。
「…くそっ…」
悔しさを滲ませながら、蘆屋は後ろへと下がっていく。
「さぁ、次は誰だ?」
林崎が全員を見回す。
その中から、久遠が前に出た。
しかし、その手には何もない。
「君、武器はどうした?」
林崎の問いに、久遠は静かに答えた。
「…俺は、ボクサーだったので。素手で大丈夫です。魔物も倒したことあるので」
林崎は一瞬驚いた顔をして、真柄を見る。
「構わん。力試しだと思って受けてやれ」
そう言うと、真柄は別の日本刀を投げた。
「だが、まともに受けるなよ」
林崎は首を傾げつつ、渡された日本刀を抜いた。
「よく分かりませんが、班長の指示なら従いますよ…」
久遠へ向き直り、構えた。
「では、いきます…」
すると、たった一歩で間合いを詰め、瞬く間に懐へと飛び込んだ。
よく見ると、手足に微かに赤いオーラのようなものが纏っている。
左フックが、鋭く弧を描いた。
林崎の顔を掠めるも、体を半歩ずらすだけで避ける。余裕のある動きだった。
だが、続く右ストレートを見た瞬間、林崎の目が変わった。
無駄のない直線が眼前へと迫る。
躱せないと判断したのか、刀で受けた。
衝撃が空気を震わせ、林崎は後方へ跳ぶ。
刀身に亀裂が走り、乾いた音とともに、日本刀は中ほどから折れてしまった。
全員が息を呑んだ。
「…なるほど。これは、まともに受けないほうがいい…」
林崎は、折れた刀を見下ろし、静かに息を吐いた。
そこへ、遠距離武器の見極めを終えた真柄が歩み寄った。
「久遠。拳で戦う奴は初めてだ。だが、さすがに危険すぎる。研究所に掛け合って専用の武器を用意してもらおう」
久遠は拳を下ろし、静かに下がった。
その時、少し違和感を覚えた。
拳が当たる直前、ほんのわずかに力が弱まったように見えたのだ。
気のせいかもしれない。だが、彼は全力を出してない。そう思った。
その後も見極めは続いた。
中には女生徒もいた。第一班の巴琴子だ。
武器は薙刀。
凛とした佇まいで一礼すると、頭上に掲げて構える。
間合いを詰め、薙ぎ払う。
林崎は刀で受け止めた。
巴は構えを崩し、再び一礼して下がる。
瑛慈は、その所作の美しさに思わず見惚れていた。
「…最後は、天満瑛慈だな」
慌てて前に出て、剣を抜く。
まるで本当に勇者になったかのような錯覚に陥る。
瑛慈は剣を握り締め、一撃、二撃、三撃と打ち込む。
すべて簡単に受け止められる。
それでも、不思議な感覚があった。
重いはずの剣が、細い木の枝のように軽。
いくらでも振れる気がした。
だが……斬ってしまうかもしれない。
その思いがよぎり、瑛慈は剣を止め、鞘に収めた。
「何だ?もういいのか?」
林崎も鞘へと収め、尋ねた。
「はい。この剣とは……相性がいいみたいです」
真柄が再び前に出た。
「よし。全員決まったな。
では改めて、資格について説明する」
最上位の特級聖騎士・特級射撃士は、世界でも数人しかいない。
取得条件は、魔将の討伐・とACOの承認。
1級聖騎士・射撃士は、昇級試験での合格もしくは、任務での実績が必要となる。
また、特事室や上位階級所持者からの推薦による特例昇級もあるようだ。
2級聖騎士・射撃士も条件は同様。
この上位階級を取得することが、勇者パーティーへの参加条件となる。
一方で、下位にあたる1級・2級騎士および射撃手は、基本的に昇級試験での合格が条件だが、
こちらも推薦による特例は存在する。
そして、この学校の卒業条件は、下位階級の1級以上を取得すること。
3級は民間資格で、あくまでも自衛を目的としたものだという。
「昇級するには、試験に合格するのが一番手っ取り早い。だが、この世界は実力主義だ。力をつけ、勇者パーティーの参加条件である上位階級を目指せ」
しかし、現実はそう甘くないようだった。
「……俺、1級騎士さえ取れれば、それでいいんだよな…」
「俺も。最悪、2級でも持ってれば、警備会社の就職に有利だし…」
そんな声が、ちらほらと小さく聞こえてくる。
全員が魔王と戦う意志を持っているわけではない。
それも当然だ。この学校が教えるのは、魔物と戦う術や魔法を扱う知識であって、一言も「魔王と戦え」「勇者になれ」とは言っていない。
彼らにとっては、自分の生命を守る方法さえ身につけられればそれで十分なのだ。
同じ魔王災害の被災者だとしても、これほどまでに熱量の差が生まれるのか。
自分も、かつてはそちら側だったんだ…。
だが、それを責めることはできない。
自分の生命を、家族を、大切なものを守ることに必死なのだから。
死んでしまっては元も子もない。
生きてさえいれば、次に繋ぐことができる。
瑛慈は自分の意志を固めるように拳を握り締め、真柄へと問いかけた。
「先生。勇者資格は、近接と遠距離武器の上位階級の2種取得でもいいんですか?」
真柄は静かに答える。
「魔法が使えないのなら、それでも問題はない。だが、勇者を目指すなら、魔法資格を取るべきだ」
その理由を瑛慈が尋ねる前に、真柄は続けた。
「万が一、武器が使えなくなった時でも、魔法で戦える。
そして、魔法を学ぶことは、魔力の扱いを知り、相手の強さを測れるようになる。
勇者とは、何者にも恐れず、立ち向かう勇気を持つ者ではない。戦わないという判断ができる者なんだ」
真柄は最後に全員を見回して言った。
「だから、魔法を使えなくとも、学ぶことは必須科目として全員に受けさせている。
魔法を知るということは、魔王と魔物を知るということなんだ」
その言葉を区切るように、終了のチャイムが鳴り響いた。
「次は全員、魔法の授業に合流してもらう。
今持っている武器は支給品だ。訓練用だが魔物とも戦える。取り扱いには十分気を付けろ」
瑛慈は、手にした剣を見つめた。
ようやく、勇者としての第一歩を踏み出したのだ。
ほんの少しだけ、自分の可能性が見えた気がした。
勇者になれるかどうかは、まだ分からない。
だが確かに、微かに見える光の先に、目指すべきものがある。




