片鱗
天才が見せる片鱗に気付く人もまた、天才です
月に一度、団地広場に移動図書館『走る物語号』が来てくれる日、色んな本を読もうと団地や近辺の本が好きな児童達が集まります。
本を借りる事はもちろん出来ますし、前回広場に『走る物語号』がきた日に借りた本を、この日に返しに来る児童もいます。
『走る物語号』が来ている日時は、第三土曜日の正午から14時までの僅な間です。
楽しい時間は少しだけ、という決まりを作って、本の貸し借りを行っているからです。
「こんにちは!
色んな本を読んで、たくさん幸せな世界を楽しんでね!」
『走る物語号』を運転する宅さんは司書の資格を持っていて、そして少しだけ絵本を書いた事がある、物語が好きな人です。
「こんにちは、先月借りた本を返しに来ました」
そう云いながら二冊の絵本を個別にして袋に入れて持ってきたのは、『走る物語号』の常連さん愛未ちゃんです。
「こんにちは、いつも読んでくれてアリガトウね!
大事に袋に入れてくれたんだね!」
「こちらこそ、楽しい時間をアリゴサ(アリゴサゴザイマス)です!
飲み物と一緒に入れてたんで、袋に入れました」
「小さいのに気が利くね!
本当にアリゴサ。
お貸しした本は、『舌切り雀』と『オズの魔法使い』だったね……二作品とも良いお話だよね?」
「う~ん……」
愛未ちゃんは渋い顔を見せて、二つに結んだ三つ編みを両手でキュ……と握って呟きました。
何かを思っている時、愛未ちゃんはこの仕草をします。
「この『舌切り雀』だけどね、正しい文法だと『舌切られ雀』だと思うの」
「おっ……ウム、確かに……」
小さい年齢に逆風を浴びているような見を耳にして、宅さんは納得してしまいます。
「更に云うけど『雀のお宿』の方がタイトルとしてふさわしいとワタシは考えるの。
舌をメインに書かれたタイトルだと、雀が可愛そうだし、嫌なお婆さんが一番に思い浮かんでくるの」
愛未ちゃんの顔をみれば、嫌なお婆さんの顔を思い浮かべているのが一目瞭然です。
「タイトルに目を付けるなんて、大人でも無いよ。
鋭いね」
宅さんの手は返却された本を二冊返却ボックスに納めながら、パソコンのリストに記録を残しています。
聞きながら作業するのは、宅さんの得意技です。
愛未ちゃんもまた、話しながら新しく入荷された本を品定めしていきます。
二人はまるで書店員さんのようです。
書店員さん……ではなく、宅さんは『嫌なお婆さん』を思い出しながら、記録リストのデータを保護しました。
「でもまあ、ラストは『嫌なお婆さん』が怖い思いをして……その、ザマア、になったんだよね」
『ザマア』の部位を小声にしていますが、小声なだけあり、そこだけクリアに聞こえてしまいます。
児童一同、一瞬だけピタリと静止しました。
「大きいつづらにしないで、小さいつづらにしておけば、お化けには会わずに済んだのにね」
「はい、論破あ!」
「んえ?」
論破、出ました。
新しい本をやや上に翳して、愛未ちゃんが良い声を発射させました。
「我輩は思う……つづらは実は、最初は空っぽで、『嫌なお婆さん』が『欲』を持って選んだ瞬間、お化けが沸いたんだぞよ。
同じ大きいつづらを選ぶにしても、お爺さんと分けようという心で選んでいれば、宝が沸いたものと思うぞよ!」
つづらの中身は持ち帰る時の心で変わる。
まさか小さい年齢の児童からそんな言葉を云われるとは、思いもしません。
「しかしだ、我輩は思うぞ。
雀の舌を平気で切る輩に、物を分け合うという心が在るわけ無いぞよ!」
「おおおっ!」
大人顔負けの口調で意見する愛未ちゃんからは、文豪の気配が漂っています。
「後、宅さん……『ザマア』なんて云ってはいけないぞよ」
「さあせん……あ、なら『オズの魔法使い』は最高だよね。
あれは、嫌な人物は西の魔女くらいかな?
冒頭でのチラ見せ、しかも天に召された後の登場。
オズワールドに跳ばされたドロシーが、ライオン、カカシ、ブリキのキコリと願いを叶える為、旅をするファンタジー……好きなんだよな」
宅さんは小さい頃から『オズの魔法使い』が好きで、原作ノベルを長年大事に持ち続けているんです。
「我輩も好きぞよ、ファンタジーの王道ぞよな!」
少しばかり話し方が個性的ですが、そこが愛奈未ちゃんの良い所です。
宅さんはキラキラした瞳で粗筋を語りだしました。
「共に旅をする仲間が種族を越えてるのが良いよね!
ライオンは勇気を貰いに、カカシは脳みそを貰いに、ブリキのキコリは優しさを貰いに行くっていうのが素直で、好ましいよ!」
「表向きの粗筋ならそうだがな、我輩は思うぞよ!
あの三人は既に欲しい物を持っているぞよ!」
「え?
だって、在ったら初めから旅には……」
本を片手で開いたまま胸に当てて、愛未ちゃんは物語の人物のように笑みを見せて意見します。
「ライオンは勇気が無いと申していたが、本当に無ければ何が起きるか分からない旅には出ない!
そして、カカシは脳みそを希望しておったが、本当の本当に脳みそが無いのなら、先ずそれすら分からない……それどころか『脳みそ』という概念すら無いぞよ!
最後にブリキのキコリ、彼は自身は優しさが無いと思い込んでいたが、優しさが無いモノならば、周りのモノ全てにずさんな対応で接していたと思うぞよ!」
やはり鋭いです。
「そんな幼いのに、どうすれば気付けるんだい?」
「知りたいか?
若いの」
「はい!」
風変わりな会話を続ける二人を、他の児童達は本そっちのけで楽しんでいます。
「毎月恒例、『物語劇場』……本より実は、あの二人を見にきてんだよな!」
「天才が二人も揃えば、良いドラマが始まるぜ!」
「毎日見たいくらいだわ」
『走る物語号』は、すっかり劇場舞台に変わっていました。
めでたし、めでたし。
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