愛の矢の正しい使い方 2 ・・・さくら書く
・・・その日、たまたま、浴室の前を通りかかった、ある意味被害者のレミレア。
浴室内から漏れ聞こえる、艶声に、脳天かち割られた。
しかもしかも、「やああん、にいさまあああ、だめえええ」である。
鼻血で死ねそうな気が・・・した。
しかもちょっびっとだけ、お花畑も垣間見た。満開の花の中で、微笑みながら手をふっているエイミールに羽が生えていた。
・・・いや待て、オレッ!!!
レミレアは、すぐさま踵を返すと、羽を広げ、魔城の最上階へ飛び立った。
窓の外から大声で叫ぶ。
「アマレッティ様!リアナージャ様!ねえさんが襲われてる!!!」
それも、魔王に。
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白濁した液体に塗れたエイミールが、浴室から助け出され、麗しの魔王様が、兄弟に渾身の一撃を喰らっている様を、天界、凪国の水鏡の前で、ふてくされた表情で眺めている萩波。・・・と、朱詩。
大きく安堵している、宰相と茨戯。
じつに対照的だ。
「・・・よ・・・良かった・・・。突っ込まれる前で・・・」
と、涙ながらに崩れ落ちる、宰相・明睡。
よかったね、理性の人。
「この危険物、燃やして良いよね?いつ誰に使われるか、怖いったらないわっ!(・・・特に自分の王が)」
茨戯がそう言って、束になっている愛の矢を、まとめて燃やそうとして振り返る。
「ちぇー。もう少しで大人の階段昇れるところだったのになー」
と、水鏡をまじまじと見詰める、朱詩。
単に、楽しければ何でも良いと、ありありの模様。
「・・・ふん。悪運の高さがここに出るのでしょうね!!!」
水鏡を見たまま、高笑いを上げる、萩波。
悪運?悪運なのか? 幸運の間違いだろうっ!!!と、萩波を涙目で見上げる宰相。
これって、ものすごーく人為的で操作的で、神という立場にありながら、なんて悪魔的な行いなんだよおおお!!!
よほど、「がっついてる」発言が気に入らなかったんだな。(あったりまえでしょおおおお!!!)
・・・もうこれ以上、刺激してくれるな、魔界の王よ・・・と、黄昏も酷くなっていく。
うちの王様の方が、どす黒くて救いようがないって思ってしまうから・・・。
腐っても王。爛れてても王。
ここ一番って時は、本当に頼れる凄い男なのに・・・。
「まあ、でもこれで、もう、「がっついてる」なんて言わせませんよ!!!自分こそ、幼い妹にがつがつして、襲い掛かっているじゃありませんか!!!でもこれで、もう、エイミール嬢とのお風呂タイムはなくなりましたね!!!」
・・・この私ですら、果堅とお風呂に入ったのなんて、数えるほどなのに!生意気なんですよ、あの魔王!!!自分が相手に好かれているとアピールしたいのでしょうがねっ!!!
「・・・王・・・それぐらいにしておいたほうが・・・」
茨戯がどことなく震える声で、萩波に言った。
だが、萩波は後ろを振り返ることなく、茨戯の言葉をスルーした。・・・振り返っておけばよかったのに・・・。
「ふふ。ちょっと、ほとぼりが冷めた頃に、またまとめて撃ち込んで上げますからね!!!」
だから、愛の矢、燃やすなんて許しませんよ、茨戯!・・・と。後ろも振り返らず茨戯に命令する萩波。
「・・・まとめて?」
「ええ。もちろん!あなた方が止めても私は必ずやり遂げますからね!今度は、百本と言わず、二百、三百、まとめて・・・」
水鏡の前で上機嫌だった、萩波の顔色が、だんだんと悪くなっていった。
・・・いや、むしろ急降下、だ。
知らず、汗が噴出した。
「・・・百本、打ち込んだんだ・・・」
へぇ。
と、低く響く声。
けして声高に叫んでいるでもなければ、糾弾しているわけでもない。
ただ、事実を確認している、だけ。
なのに、その場に居合わせた者たちの顔色が格段に悪くなっている。
筆頭は、萩波。
だらだらと汗。振り返るのが怖い。
でも。
萩波は振り返った。
茨戯が泣きそうな顔で、「だから、そこら辺で止めとけって言ったのにぃっ」と、呟いていたが、視界の隅に追いやられていた。
萩波が目に写すのは、最愛にして最良の妻。
・・・果堅だった。
「あ、あのですね、果堅!」
「・・・アルファーレン閣下に百本、打ち込んだから、エミーはあんな姿なのね?」
怖い。
あまねく魔物、魔王でさえも余裕で戦える、余裕で返り討ちにできる萩波が。
果堅の静かな怒りに鳥肌を立てていた。・・・全身に。
・・・と。
果堅が、ゆらりと踵を返し、愛の矢(・・・むしろ、欲望の矢)の束をひとつ、鷲掴みにした。
「か・・・果堅?そそそれは、危険物だから、触らないほうが・・・」
宰相が、勇気を振り絞り進言するが、果堅は答えない。
「よっ」と。愛の矢の束を手に取った果堅。
大きく振りかぶって。
上段の構えから。
ピッチャー(果堅)投げたああああああぁっ!!!!!
キャッチャー(萩波)すかさずかわそうとした!が!!!
「萩波! 私の愛がうけとれないのっ!!!」
ああっ!
キャッチャー、動けなあああああああいいいっ!!!
およそ、三百本の愛の矢が、萩波の胸に突き刺さり、消えていった・・・。
ふ。と不敵に笑って。
「あ、わたし、エミーの看病に行ってくるわね。エミーが良くなるまで、帰らないから」
にこにこと、宣言、した。
********
それって・・・。
この状態で禁欲しろと・・・?
悲嘆にくれた眼差しで、萩波は最後の望みとばかりに、溢れる色気で、果堅に手を差し伸べる。
愛の矢なんぞ、なくたって。
毎日、毎晩、寝ても覚めても、果堅ばかりの彼。
果堅禁断症状?
それこそ冗談じゃない。
「か、果堅!」
「がっつかないのよね? アルファーレン閣下は、ケダモノになったけど、「私の」萩波なら、・・・だいじょうぶよ!ねえ?」
伸ばされた手の先で、果堅がニコヤカに微笑んで。
「いってきます」
魔界へ向けて転移した。
・・・余談だが、悲嘆にくれる萩波の顔を、誰もまともに見ることはできなかったと言う。
・・・もっと余談だけど、欲望に身悶えしながら、萩波は、地獄のオアズケを生き抜いた。
・・・果堅の名を呼ぶその哀れさは、筆舌にしがたいものだったと言う・・・。
えー・・・。
あー・・・。
自業自得・・・?ぁ、怖い、怖い。
おしまい!
・・・えー・・・。
私が書くと、どんなに色男で、頭が良くて、鬼畜男子でも。
ヘタレになることが判明いたしました!!!
萩波好きの皆様。
・・・ごめんなさい・・・。