『子宝飴の余波』・・・大雪様著
『子宝飴の余波』
明燐「う~ん」
紫蘭「明燐さま? 何してるのですか~」
明燐「まあ紫蘭!! 実は魔王様達への捧げ物を考えていたのです」
紫蘭「ああ、アルファーレン様という、我らが陛下に負けず劣らずのロリコン道を極められた素敵な殿方ですね!」
本人が聞いたら憤死する――いや、むしろ「エミーへの愛に一変の曇り無し!」とか叫びそう。
明燐「そうですわ」
紫蘭「それで何を差し上げるんですか?」
明燐「子宝飴を差し上げようかと」
紫蘭「素敵です!」
それこそ相手が憤死する事間違いないが、二人を止める者は居なかった。
明燐「でもただ差し上げるのも面白くないのですよ(私が)」
紫蘭「では花束のように千本ぐらい纏めてブーケ状にして送るとか」
明燐「それは素敵ね」
突っ込みの大切さを、この場に誰かが居れば深々と思い知っただろう。
紫蘭「そうですわ! 明燐さま、こういうのはどうですか? 実は人間界のバレンタインデーでは、殿方にチョコを渡す際に女性は際どすぎる露出の激しい服を身に纏い、よせてあげた胸の谷間にチョコを挟んで渡すそうです」
明燐「っ! それを子宝飴で行えば!」
紫蘭「そうです! きっと魔王様達は喜んで下さる筈!」
そして二人の悪巧みは実行に移された――。
数日後――。
恵美「お兄さま」
アルファーレン「ぐぉぉぉぉぉっ!」
恵美の美しい白い胸の谷間から顔をのぞかせる、凶悪なブツ。
皺、色、艶、張り。
浮き出る血管その他完全にリアルすぎる極悪非道のそれ。
臨戦態勢ヘイカモン!!状態の猛々しく天を向く怒張。
それが、愛しい妹の胸に挟まっている――!!
アルファーレン「恵美いいぃぃっ」
恵美「お兄さまあぁぁぁんっ」
因みにこの時、理恵やチヒロ、雪那も同じ事をして伴侶を惑わせ混乱させていたという。
*
凄まじい轟音が凪国王宮に轟いた。
敵襲か?!と緊張感が走ったのもつかの間。
血走る眼をしたアルファーレン達の来訪に、王宮の者達はふっと警戒態勢を解いた。
なぜなら、その手に握られていたのは、あの子宝飴。
しかも包み紙から出されてテカテカと光り輝いていたり、少し溶けかかっていたり。
だからあえて皆何も言わずに彼らを通した。
アルファーレン「侍女長っ!」
明燐「まあ、魔王様。どうされました? 御礼なら手紙で宜しくてよ」
榊「ってか、私のお嬢様に良くもこんないかがわしいものをっ」
明燐「まあ! 雪那さんへの代物は、榊様のブツを忠実にリアル再現してみましたのに」
榊「素晴らしい代物をありがとうございます」
アルファーレン「貴様! 裏切るのかっ」
明燐「魔王様、レミレア君、そしてオウラン様の場合も同じですのに」
レミレア「そ、そうなのか――」
明燐「ええ。レミレア君のは、若さだけが先走る我慢しきれない早漏さを全面に」
レミレア、9999ダメージ。
明燐「オウラン様のは、優しく相手を思いやる反面、狡猾に全て奪い尽くす様な狼的要素を全面に」
オウラン、笑顔で凍り付く。
明燐「そしてアルファーレン様と榊様は」
朱詩「明燐!」
明燐「まあ、朱詩」
朱詩「ってか君! また僕達の所に子宝飴おいただろ!」
執務机の引き出しを開けた瞬間、飛び出てきた大量の子宝飴。
そればかりか、人間界の祭りで使われていただろう、リアルなそれが描かれた布。
そして――。
それを茫然と見つめる夫や婚約者、恋人達を目撃してしまった愛しい少女達からの
冷たい、視線。
明燐「それぐらいで壊れる愛なら、粉々になって下さい」
朱詩「君は悪女か!」
いや、希代の悪女だろう。
アルファーレン達はうんうんと頷く。
明燐「まあ! 自分達の思い通りにならないからといってなんて酷い言い草! それだから梅香にも怯えられるのですわっ」
朱詩「煩いわぁっ!」
明睡「ってか、なんでここにアルファーレン達が――」
茨戯「その手のものって……同類の被害に」
明燐「魔王様のは、魔界一の剛直かつ極悪非道さを醸し出しつつも愛しい女性には駄目駄目のヘタレっぷりさを。知っていまして? 魔王様のは少し振動を与えるだけでぐにゃりとヘタれるように作りました」
ヘタれるようにって何?!
明燐「そして榊様のは、紳士で余裕の経験者を装いつつも、愛しい女性と合体した瞬間破裂するように」
破裂しちゃ駄目じゃん!!
朱詩「いや、その前にどうして魔王達のそれをリアル再現出来るんだよ」
明燐「測らせました」
アルファーレン「はから?!」
榊「せただと?!」
明燐「奴隷は何処の世界にも居ますから」
奴隷って言った?!
明燐「おほほほほほほ!」
紫蘭「あ、明燐さま」
朱詩「げっ、また厄介なのが」
紫蘭「また人間界の奴隷の皆様からの奴隷志願書が届けられましたよ~」
その数およそ三万枚。
目を剥くアルファーレン達を余所に、明燐は懐から取り出した扇で口元を隠して微笑む。
明燐「近頃は奴隷志願者が多くて困っているの。玉瑛様も手伝ってくれているのですけど」
玉瑛「ムチでびしびしスル、楽シイ」
と、現れた玉瑛は相変わらず麗しく、それでいて右手には子宝飴を、左手には果竪を抱えていた。
アルファーレン「待て、その二つを」
玉瑛「ヤボな事キクな」
果竪「うわぁぁぁんっ! 助けてぇぇぇっ!」
玉瑛「カジュ、わたしのタベテ」
やっぱりその飴はお前のか。
果竪の口元に近付ける玉瑛の笑顔のなんと美しい事か。
と、そこにまた厄介なのが来た。
萩波「玉瑛! 果竪が食べるのは私のものだけです!」
その悲壮極まる決意に満ち溢れた言葉に撃ち抜かれたのは果竪――ではなく、アルファーレン達。
そうだ!!
愛しい少女が食べるのは、自分のもの!!
こんな紛いものなんて!!
明燐「生きている限り、いつかは勢いを無くすものです」
アルファーレン「貴様は悪魔かっ! とりあえず、もう二度と送ってくるな!」
明燐「分りましたわ」
明燐は確かにそう言った。
それで全てが終わったように思えた――筈だったのに。
一月後、魔界と人間界、そしてオウランの住まう世界にて子宝飴が大ヒット商品として流通していた。
『勢いが衰え悩む方々への救済アイテム! 愛しい相手も癖になる幻の子宝飴』
そんなキャッチフレーズと共に売られたそれは、末永く各世界にて繁栄する事となる。
タダでは起きない女――明燐。
もしかしたら彼女こそが凪国の真の支配者かもしれないと、アルファーレン達は子宝飴に囲まれながら思ったという。
終わり
これを頂いてしまったら、閣下も本望でしょう。