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『正しいバストアップ術は』・・・大雪様著


 コテン コテン


 朝起きた時、理恵は奇異なものを発見した。

 それは、昨日七宮家に、一緒にお泊まりした果竪の姿だった。


 しかし……果竪は居間でコロコロとでんぐり返しをしている。


「果竪……何してるの?」

「でんぐり返し」


 見れば分る。

 途中上手く回れなくなると手をバタバタさせる姿が可愛い――なんて思いつつ、理恵はふと感じた視線に顔を上げた。


 ソファーに座る、修が居た。


「果竪ちゃん!! 凄いよ、最高だよ!!」

「こうしたら、胸大きくなるんだよね?」

「勿論だごはぁっ!!」


 理恵の右アッパーによって、修の体が天井へと叩付けられた。



 経緯を聞かされたアルファーレン達魔王軍と、凪国側メンバー、そして榊、オウランは思った。


 何この子、すんげえ可愛い――と


「あのね、少し胸大きくなったかな~」

「計ってみます?」


 蒼麗はとても現実的だった。

 きちんとした数字が出ないと判断しない彼女は、将来的に数字を扱う仕事が適任だと思われる。

 既にメジャーを手にし、果竪の胸囲を測っていく。


「え~と……Aの70」


 ガァァァァンという効果音を、その場に居た全員が聞いた。


「変わってない……」


 パタンとその場に倒れる果竪。

 慌てたのが、凪国メンバーだ。


「果竪、しっかりして!!」


 そう言うのは、身長/3サイズ(B/W/H)=167/91(E)/58/92の明燐。

 豊満ながらも華奢な肢体が男の情欲を激しくかき立てる。


「カジュ、むねきにしない」


 そう言うのは、身長/3サイズ(B/W/H)=158/88(D)/58/89の玉英。

 豊満だが、繊細な肢体は聖女の美貌に娼婦の様な絶妙なアンバランスさに成り立っていた。


 そんな二人に共通するのは、その胸の大きさ。

 それも、思わず顔を埋めたくなる様な張りと瑞々しさ、そして柔らかさを持った色つや共にバッチリという、大きく豊満な胸の持ち主達。


 慰めになるどころか、果竪のコンプレックスを大きくえぐった。


 しかも、恵美やチヒロ、雪那、はたまたリアナージャも慰めてくれるが、寧ろリアナージャの爆乳はトドメをさしているとしか思えない。

 ぶるんぶるんと揺れるその乳に、果竪はぺいっと頭を撫でようとする手を振り払う。

 因みに、蒼花は最初から関わらない。


 胸が大きい人は敵だ


 なので、当然果竪が泣きつく先は


「蒼麗ちゃぁぁぁんっ」

「泣かないで、果竪さん」


 果竪が勝手に築く貧乳同盟の一員である蒼麗だった。


「理恵ちゃぁぁんっ」

「なんかすんごく複雑なんだけど……」


 果竪に抱きつかれるという事は、いわば貧乳と言われているようなもの。

 しかし、そもそも果竪がショックを受ける原因となったのは、修兄ちゃんのせいだ。


 そんな修兄ちゃんは今、片割れである魔王様にゲシゲシと踏まれていた。


「果竪ちゃん、胸の大きさなんて微々たるものよ」


 雪那が優しく言う。


「そうだよ! 大きいと肩こるよ」


 チヒロがお菓子で釣ろうとする。


「ってか、旦那様に大きくして貰えばいいと思うわ」


 恵美の言葉だった。

 が、言い切ったところで、愛する魔王にガシっと真顔で肩を掴まれる。


「恵美、やめなさい」

「にいさま?」

「確かにお前の言うとおりだろう。しかし、萩波と果竪は夫婦歴が長いにもかかわらず、胸の大きさが変わらないと聞く。つまりそれは、萩波が揉んでも無駄だったという事だ」

「にいさま――」


 ドスッと、アルファーレンの横の壁に突き刺さる水の刃。

 果竪を慰めようとしてフラれた萩波によるものだ。


「ふっ、図星か」

「黙りなさいこのロリコン」

「お前もだろう」


 え?自分はロリコンだって認めちゃうんだ。


「ってか、果竪妃、どうして旦那とかまで拒むんだ?」

「そうじゃのう? 宰相も茨戯も、朱詩まで拒まれたぞ」


 アマレッティとリアナージャが二人して首を傾げる。

 すると、蒼花が興味なさそうに呟いた。


「あの上層部の男ども、任務で女性化する事あるのよ」

「ほぅ?」

「で、その時の姿が、これまたとんでもない美女で、胸がでかいの」


 美女のタイプはあれど、皆その体つきは男を誘う娼婦の如き艶めかしく蠱惑的な曲線を描いているらしい。


「胸が大きい男も敵です」


 果竪がぷいっと蒼麗の腕の中で顔を背ける。


 ってか、それだと省略しすぎて変態にしかならない


 正確には、男性が女性化した際に胸が大きい男だろう


「揉んでも駄目なのでしょうか?」

「駄目じゃないよ~、普通は大きくなるし~」


 榊の質問に答えたのは、朱詩だった。


「男娼やってた時も同僚の妓女達はみんな大きくなったもん~」


 朱詩が男娼をしていた事は、アルファーレンや榊達も知っていた。

 この、自分達でさえ惑わせ狂わせる魔性の色香と、体液全てが媚薬という恐ろしい存在は、敵に回せばとんでもない厄介な存在だと認定されている。


 最初に朱詩と知り合った時、手が伸びなかった者の方が少ない。

 それどころか、この状態でかなり色香を自制していると言われて嘘だと叫んだぐらいだ。


 天性の、生まれながらの男を狂わせる存在


 アルファーレン達は何があっても朱詩だけは敵に回したくないと心に固く誓った。

 でなければ、一生幸せな結婚を望めない体にされてしまうだろう。


 だが、細胞レベルで、他人を淫らな気持ちにさせる朱詩の美貌は、汚れない清楚可憐な天使そのもので、その色香もまた、妖艶ながらも清楚な高貴さを含むという相反する二つのものを、絶妙なバランスで共存させている。

 そしてそれこそが、朱詩の壮絶なまでの魅力になっていると言えよう。


 まあ、とにかくできる限り関わりたくない相手だった。

 しかも、彼の後に入浴するなんてとんでもない。

 体液の一種たる汗が混じり込み、強制欲情させられてしまう。


 なので、朱詩は本国同様、七宮家でも別風呂に入らされていた。

 しかも、商魂逞しい榊と手を組み、朱詩の入った後の風呂の水を媚薬として売り出す始末。


 そんな男でありながらあらゆる男を狂わせる朱詩は、ある意味胸の大きさとか問題でないぐらい女の敵だろう。

 しかし朱詩の凄いところは、そこで女性から嫌われない所である。

 寧ろ大人気。

 炎水界では、お婿さんや恋人にしたい男のトップ10に入るというから驚きだ。

 だが、それも全ては、朱詩の色香と美貌によるものらしいが。


 そんな朱詩の性技の知識と実技は凄まじく、だからこそ、その発言も信頼出来るのだが……


「ならば、何故果竪の胸は大きくならないのじゃ?」

「そもそも、果竪の胸って揉めるだけの余裕ないし」


 再び、果竪が頭を殴られた様なショックを受けて倒れた。


「むしろあれで揉めるなら、神だよ神」


 神はお前達だ、とリアナージャは心の中でツッこむ。


「そ、それでものう、何とかして胸を大きく出来る方法を授けてやれんのかのう? 不憫過ぎて見ておれん」


 果竪に払われた手を見ると、なんだか心が悲しくなってくる。


「だから、揉めばいいんだよ。回数増やして、とにかく揉め、激しく揉め」


 揉める余裕がないのに揉めと言う朱詩に鬼畜要素を感じた一同だった。


「けど……胸で思い出すわね」

「何をだ?」


 アルファーレンの質問に、茨戯がソッと涙をぬぐう。


「昔のこと。そう……凪国が建国してから五年目の事よ」


 その言葉に、玉英と果竪を除く凪国メンバーがハッと顔を上げる。

 それは、今もあまり思い出したくない出来事だ。


「ある屋敷にね、果竪と萩波とアタシ、そしてアタシの部下と、朱詩で滞在していた事があるのよ」


 一人報復に飛び出した朱詩を捕まえた後、本国に一時的に戻れなくなって滞在していた屋敷だった。


「その時に……あいつは言ったわ」


『果竪の胸を激しく揉むことになりました』

『違いません。朱詩に果竪の胸を大きく出来ないのはお前のせいだ、もっと激しく揉めと言われました』

『今までの揉み方では足りないようです。やはり、もっと回数を増やさないと駄目ですね』

『アホとは何ですか! 夫婦の大切なコミュニケーションです! 今だって、浴室に飛び込み果竪を激しくめでたいのに我慢しているのですよ!! 仕方ないですから、隠しカメラだけで我慢しているというのに』


 凍り付いた場。

 凄まじいブリザードが吹き荒れる中、茨戯はフッと疲れたように微笑む。


「アタシ、その時確信したの。こいつはアホだ、この国王はアホだって」

「誰がアホですか」


 お前だ


 その場に居た全員の想いが一つになった瞬間だった。


「って、何僕のせいにしてるんだよ!!」


 朱詩が怒るのも当然だった。

 勝手に責任転換、しかも可愛い妹分へのセクハラ行為をする為の免罪符にされるだなんて冗談ではない。


「しかもアンタはその後にこうも言ったわよね?」


『真っ平らだろうが、えぐれていようが、月並のクレーターだろうが構いません。果竪が果竪であればそれで良いのです。寧ろ胸を大きくするなどという、果竪の場合は半永久的に有り得ない、所詮は無駄でしかない豊胸に対する挑戦などしなくてもいいです』


「貴様は鬼だ、悪魔だ、魔王だ!!」

「黙りなさい魔王!! 私の何処が鬼ですか!! しかも魔王は貴方でしょうがっ」

「お前の方がよほど魔王らしいわっ!!」

「侮辱すると許しませんよ!!」


 そうしてドンパチやり始める二人を無視し、他の面々は茨戯に質問していく。


「そういえば、定期報告でそれについて聞いたな……」

「明睡?」


 朱詩が興味深げに聞けば、明睡は疲れたように笑った。


「茨戯からの報告内容が三つあったんだ。一大事と、そうでもないのと、まあまあまずいのと」


 そして自分は一大事を最初に選択し――


『果竪が胸を激しく揉まれたわ』


再び凍りついた場。


「ってか……それが一大事なのか」

「他に一大事はないのかのう」

「いいのか、凪国はそれで」

「優先順位のまず第一位が王妃様ですしね」


 アマレッティ、リアナージャ、レミレア、榊がそれぞれの感想をもらす。


「あの時は、流石に俺もこの変態国王と罵ったな」

「いや、夫婦なんだから胸もんだっていいじゃん」


 蒼花がツッこみを入れれば、凄まじい形相を浮かべる凪国メンバーが居た。


「何を言うのです!! 夫婦だとて許せる事と許せない事がありますっ」

「そうだよ!! 果竪みたいな見た目も幼い子に胸揉み?! それこそ犯罪だよっ」

「セクハラだ」

「オニイさまのロリこん」


 そうして変態認定される凪国国王。


 それを聞いた彼等は思った。


 なんで、そんな相手に仕えているのだと――


 魔王軍はおろか、榊やオウラン達の世界でも、凪国の存在そのものが七不思議の一つとして認定されたのは、それからほどなくの事だったとか……



終わり

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