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『ウサギと幼女』

大雪です。

えっと、今回送らせて頂くのは、今書いて送らせてもらっているシリーズの番外編のお話です。

とりあえずうさぎ年なのでうさぎを書きたかった――という理由から書いてみました。


受け取って頂ければ幸いです


******


ーーーもらったあああっ! by、さくら



「ウサギしゃんだ~」


 幼児化した果竪がにこにことその毛玉を抱き上げる。

 白い毛の塊にしか見えないそれは、果竪に抱き上げられると小さな耳をピクピクと動かした。


「喜んで貰えて嬉しいです」


 雪那が花のように微笑めば、隣でチヒロと恵美がそれぞれお気に入りのウサギを抱えながら頷く。

 雪那の家の庭でコロコロと転がる丸い幾つもの毛玉ことウサギ達。

 色はそれぞれ違うものの、どの子もとても愛らしかった。

 そのウサギ達は、雪那が友人から里親捜しを頼まれた子ウサギ達で、現在引き取り手を待っている身であった。


「ふっ……やっぱり子供にはウサギね」


 理恵が勝ち誇ったように言えば、隣に居た玉英が面白くなさそうに手に持っていた黒ウサギを理恵に向ってぶつける。

 グハッと女の子らしくない悲鳴をあげる理恵だったが、投げ方が優しかったのは玉英なりの気遣いだろう。


 でなければ今頃スプラッタである。


「ウサギしゃんウサギしゃん!」

「果竪さんは動物も好きだものね」


 蒼麗が話しかければ、果竪がにこにこと笑いながら白ウサギを抱きしめる。

 そんな果竪の首筋に小さな鼻をひくひくさせながら顔をすり寄せるウサギ。

 さすがは動物。安全な相手をきちんとかぎ分けている。


「かじゅ、どうぶつだいしゅき!」

「じゃあ、凪国に住んでいた時にはペットとか飼ってたんですか?」

「いえ、ペットはいませんでしたよ」


 明燐がパタパタと手を横に振る。


「え?ロイヤルファミリーだったら、ペットは必須じゃないんですか?」


 どこかずれた反応をする雪那に理恵がツッこむ。


「いやいや、別に一般家庭でも飼ってる人いるし」

「どうせあの男が嫉妬して拒んだのだろう?」


 ウサギを抱きしめる恵美ごと抱きしめたアルファーレンの言葉に、明燐が苦笑した。


「そうですわね……でも、最終的には飼っても良いと許可されましたわ」

「あの男がか?」


 妻命。

 妻の興味が他に向こうものならば相手を抹殺しかねないほどのヤンデレ。

 いや、ヤンデレに失礼な幼児趣味の変態。


 偉大なる大国の賢君。

 容姿端麗、文武両道、歌舞御曲に優れ、身分も地位も権力も、そして財力すらも持ち合わせているというのに、妻への異常な愛情が全てを残念なものへと変えてしまっている。


 そんな萩波が、ペットを飼うことを許した?


「ええ。まあ……流石に可哀想になってしまったというか……」


 妻を失うことを恐れた萩波は、長年にわたって果竪を王宮に閉じ込めた。

 それも全ては、果竪を王妃から引きずり下ろそうとする者達の企みのせいだ。

 何かにつけてケチをつけ、時には強引に果竪を王妃の座から引きずり下ろそうとした狸達。


 建国当初は特に過激で、暗殺、誘拐はざらに行われた。

 そればかりか、果竪自身が王妃の座を降りようとしていたのを過敏に悟った萩波は果竪を王宮の外に出さなくなった。


 果竪の世界は王宮だけになった。

 広い広い王宮。

 けれど、その門の外に広がる世界はそこよりも更に広い。

 外に憧れ、自由を好んだにも関わらず、果竪は萩波に巧みに言いくるめられ囲われた。


「本当に最悪な男だな」

「萩波だけではございませんわ。私も兄も朱詩も茨戯も……そして上層部……大戦中に共に戦った者達皆が果竪を王宮から出しませんでしたから」


 外に出たいと言う度に、まだ世界が安定してないからと言いくるめ


 王妃は王宮に居るものだと諭した


 建国から百年以上経っても、果竪が王宮の外に出たのは十回にも満たない


 ただ自分達の為だけにあの子の自由を奪った


 他の誰もいらない


 新しい者が果竪の目に触れるのが許し難かったのだ


「狂ってるな」

「それはアルファーレン様達も同じでしょう?長きに渡ってただ一人を追い求めてきたのですから」


 にこりと微笑まれれば、アルファーレンは何にも言えなかった。

 ただ、ばつが悪いように顔を背け、話題を変えるべく口を開く。


「で、何か飼ったのか?」

「いえ、飼おうとは思ったのですが……」

「何も飼わなかったんですか?」


 雪那が興味深げに質問すると、明燐は疲れたよう頷いた。


 それは建国してから五十年ほど経った頃のことだった。




「果竪、それでどれにするの?」

「う~んと、う~んと」


 子犬に子猫、チンチラにウサギに小鳥にと可愛らしい動物の子供達に囲まれながら、果竪は悩んでいた。


「どの子も可愛くて選べない」

「気持ちは分かりますわ」

「じゃあこの子なんてどう~?」


 そうして朱詩が持ってきたのは、子羊。


「将来はバリカンで羊毛取れるし経済的だよ~!!」


 その途端暴れる子羊。当然の反応だ。

 というか、言語を理解している時点でかなりの知能レベルである。


「アタシはこれなんかいいけど」


 そう言うと、茨戯がひっぱり出して来たのはアナコンダだった。


「まあ、素晴らしいですわ!鞄やベルトの原材料に最適ですわね」


 その途端、アナコンダはもの凄い速さで部屋の隅に逃げた。


「私、蛇の皮むきって初めてですの。でも手早く行ってみせます事よ」

「やめてマジで」


 ガッと明燐を羽交い締めにする茨戯の頬に涙が光っていたのは、見間違いではないだろう。


「犬なんか良いのでは?」

「お兄様ってば、面白みがございませんわ」

「ペットに何を求めるんだ」


 妹の言葉に宰相が苦笑すると、横にいた朱詩が子羊をおろした。


「そんなに悩むなら大根でも飼えばいいじゃん~」

「は?」

「大根?」


 茨戯と宰相があんぐりと口を開ける。


「果竪の一番好きなものじゃん~。それにペットって飼い主の心を癒す力もあるんでしょう~?ならばっちり」

「違うわ朱詩!!」

「は?」


 それまで黙っていた果竪がクワッと目を見開く。


「大根はペットじゃない!!私の心の恋人よ!!」


 恋人よ


 恋人よ


 恋人よ


 エコーがかかる筈もない部屋構造なのに、何度も木霊するそれに果竪を除く全員が凍り付いた。


 いや、実際には、エコーする中、一気に膨れあがり部屋を覆い尽くした冷気と発生したブリザードに凍り付いたのだが。


 誰一人として振り返れない部屋の入り口


 そんな中、果竪だけが周囲の異変にキョロキョロと視線を動かし――


「果竪」

「ひっ!!」


 部屋の入り口に立つのは、麗しき美女――ではなく、果竪の夫


「やっぱり、ペットは居ない方がいいですね」


 疑問系ではなく確定。

 その後、果竪が寝室に連れて行かれたのは言うまでもない。




「と、いう事がありましたの」


 誰もが思った。


 果竪、一言多い


 というか、間が悪い


 だが、それ以上に大根が心の恋人って……


「めいりん、あのね、みてみて~」

「はいはい、なんです……」


 明燐は凍り付いた。


「果竪さん、それ……」


 白い毛玉の子ウサギは、毛皮ではなく白い大根の着ぐるみを着ていた。


「かわいいの~」

「いや、動きにくいから脱がせてあげた方がいいです」


 しかし、果竪はこっちの方が可愛いと言って聞かない。


「ぼうかんたいさくもばっちり!!」

「ウサギは毛皮があるから大丈夫です」

「こっちのほうがかわいいもんっ」


 いや、寧ろ着ない方が可愛いです


 と、言わずとも顔に出ていたらしい


 果竪の瞳に涙がたまる。


「こっちの……ほうが……かわいいもん……ふえ、ふぇぇぇんっ!」

「やばっ!泣き出しちゃった!」


 どうやら精神面も退行しているらしい。

 ふぇぇんと泣きじゃくる果竪に雪那達が慌てる。


「泣かないで果竪さん!」

「ごめんね果竪さんっ!」

「大根の着ぐるみも凄く可愛いからっ」


 恵美、雪那、理恵が宥めにかかり、チヒロがよしよしと果竪の小さな頭をなでる。


「果竪、ウサギはウサギのままが一番です」

「かじゅ、よけいなことしちゃの?」


 余計に泣く果竪。

 フォローではなくトドメをさす明燐は、何処までもドSだった。


「かじゅ、ウサギよりもワタシをカワイガッテ」

「いや!それ玉英さんが言うと妖しすぎる!!」


 理恵の突っ込み通り、色気とフェロモンを振りまきながら呟く玉英は、同性ですら思わずむしゃぶりつきたくなるほどの妖艶さを放っている。


「う~ん、どうしよう……あ」


 どうしようかと困り果てていた蒼麗は、音もなく自分の横を通り過ぎていく人物に目を丸くした。



「果竪」

「ふぇ?」

「どうして泣いてるのですか?」

「ウサギしゃんかわいくちたの」


 そうして萩波に自分が抱っこするウサギを見せる。


「かわいいよね?」

「う~ん、かわいいですけど、このウサギはこのままで良いと思いますよ」

「かわいくない?」

「違いますよ。ただでさえコロコロとして可愛いのに、これ以上可愛くしたらヘンな人に攫われてしまうかもしれませんからね」


 果竪のように――


 そう言うと、頬に口づける萩波。

 アルファーレンがロリコンと言う眼差しで見れば、萩波はにこやかに


『お前もな』


 とアイコンタクトを送り、果竪を抱き上げる。

 そうして、果竪が抱っこしていたウサギを明燐に手渡しそのまま立ち去っていった。


 しばらく、その優雅な足取りと残された甘い雰囲気に魅入られていた一同だが――


「この流れで行くと、確実に手を出されるパターンだな」

「でも、今行くと不味いと思うわ」

「確実に半殺しですわね」


 と言うことで


「「「「「「「蒼麗頑張れ」」」」」」」

「私ですか?!」


 大戦時代の仲間でさえ半殺しにする萩波が唯一逆らえない少女


 永遠の別れとなる筈だった果竪を目覚めさせてくれた存在である蒼麗にだけは、萩波は危害を加えない


 それが、あの時萩波が蒼麗に誓った永久の誓い


「ゴーですわ!!」

「うわぁぁん!」


 半泣きになりながらも追いかける蒼麗は、律儀だとアルファーレンは思う。

 と同時に、アルファーレンは、萩波が永久の誓いを行ったと聞いた時の事を思い出す。



 最初に聞いた時は何を馬鹿なと思った。


 けれど、もし恵美と永遠に別れる事になった時


 自分ではどうにも出来ない時


 それを打ち砕き愛しい存在を自分の手に戻してくれる存在が居たならば


 きっと自分も同じ事を行うだろう




『貴方に永久の忠誠を』




 それは、孤高の美しき王が星姫に行った


 主従の誓いである


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