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【幼児化王妃の危機 雪那編 忘れられた約束⑤】・・・大雪様著



 常葉地区の歴史が詰まっているだろう図書館は、田舎に相応しくない大きな建物だった。


「暗いですね~」


 ここも電気がついておらず、中は酷く暗かった。

 しかし、ライフラインが生きているのだから電気はつく筈だ。

 だが、カチカチとスイッチを押しても電気が付かない。


「ブレーカーが落ちてるのかな」


 となると、配電室に向わなければ。


「蒼花、ちょっとブレーカーあげに行ってくるから待っててくれる?」

「一人でですの?」

「うん。みんなでぞろぞろ行っても仕方ないし」


 そう言うと、蒼麗は雪那達にも声をかけようとした。


「いやぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ちっ! 離せ!!」


 悲鳴をあげ続ける雪那と何かを攻撃している修の姿に蒼麗はあっけに取られた。


「何してるの? あの二人」

「疲れがたまっているだけですよ」


 笑顔で言い切る蒼花だが、少し周波数をあわせれば図書館の内部が赤錆にまみれたオドロオドロしい内装へと変わる。

 無事な本棚もあれば倒れている本棚もあり、足下には血にまみれた書物と共に、腐乱した肉片らしきものが散らばっている。

 そして誰も居なかった筈の室内に、数体の紅い物体が立っていた。


 肉の塊


 そう表現するのが正しいのか分からない


 だが、皮膚を完全にそぎ落とされて血塗れになったそれは、もともとが人間だったとは到底予想しえないおぞましさを放っている。

 それらが、雪那と修に襲い掛かろうとしているのだ。


 二人の反応も当然である。

 しかし、一度姉の周波数に……呪いも何もかも影響を受けない姉にあわせれば、たちまち誰も居ない静まりかえった以外は何の変哲もない図書館がそこにあった。


「あの二人にも周波数あわせを練習させないと」

「周波数?」


 首を傾げる蒼麗に蒼花はクスクスと笑った。


 本来、幽霊など有り得ないものが見えるのは、それが存在する世界、またはそれ自身との波長が合ってしまい同調してしまうからである。

 だから逆にその同調を解くように、霊との波長が合わないように自ら操作すれば、見えなくする事も可能なのだ。


 十二王家の子供達は全員が習得している。

 だから、蒼花も周波数を合わせて取り込まれかけている雪那達の居る世界に行く事も出来れば、逆に元の世界に――何の影響も受けていない姉の居る場所に戻ることも出来る。


 だが、修はまだ良いとして、雪那がそれを習得出来るかどうか……。


(出来なければ、お姉様の側につけておきましょう)


 たとえ雪那が引きずり込まれかけても、姉と一緒にいれば大丈夫だ。

 無意識に呪いとの波長をずらし続ける姉には、向こうも手出しは出来ない。


「雪那さん、修さん、なんか大変な時にすいませんが配電室に行ってくるので――」


 パタリと気絶した雪那。


「ひぃぃぃぃぃっ! 雪那さん?!」

「恐怖の臨界点を突破したらしいですわね。でも気絶だから大丈夫ですわ」


 にこやかに言い切る蒼花だった。





「くそ……酷い目にあった」

「修さん、無理しないで休んでても良かったんですよ?」


 ふらふらとした足取りで自分と共に配電室に向う修に、蒼麗は労りの言葉をかけた。

 そんな蒼麗を見て、修は考える。


 妹と違い、その体型は正しく幼児体型ど真ん中。

 渦巻き眼鏡を外せば妹と同じ顔なのに地味な印象が強く。

 左右の三つ編みの髪をほどいても野暮ったくのろまな印象しか抱かせない容姿。

 女性としての色気も魅力など微塵もない。

 お子チャマそのもので、妹とはその真逆だった。


(妹の方はマジで凄いからな、マジで)


 華奢な身体つきに似合わぬ豊かな胸。

 顔立ちが繊細な分、身体つきだけは妙に官能的。

 清楚な顔に、妖婦のような豊満な身体は見る者全てを悩殺するといって良いだろう。


 男ならば即座に飛び込みたい


 何が何でも手に入れたい


 手段を問わずに自分のモノにし、妻とし


 自分の子を孕み産んだならば、どれほどの快感を覚えるだろうか


 だが――


「蒼麗ちゃん」

「はい?」

「君ならきっと良い男と結婚出来る、頑張るんだぞ!!」


 悪魔の様な性格の双子の妹とは真逆で優しい蒼麗の方が、きっと長く暮らしていく分には良いと思う。


 修は女性を見る目だけは確かだった。


 一方、修の苦悩?なんて全く知らない蒼麗は、ただ単純に将来を応援されただけと受け取った。


「あ、ありがとうございます」

「ああ、それと俺は大丈夫だから。それより君を一人で行かせる方が危ないな」


 恐怖の世界で雪那を守っていた修は、蒼花の振るった金属バットで側頭部を強打という荒技でもってこちらの世界に戻ってこれた。

 が、衝撃でふらふらしていた自分に待っていたのは、蒼花からの無慈悲な命令。


 すなわち、配電室に行く蒼麗の手となり足となり、最後は盾となって儚く散ってこいという――


 しかも最後の部分に特に力を入れていた事から、寧ろ散らせる事が目的のような気がしてならない。

 だが、雪那が気絶してしまっている以上、連れて歩く事は出来ないという蒼麗の言うことも最もであり、こうして同行する事にした。


 ただ以外だったのは、蒼花が姉と一緒に行かないことだった。

 まあ、逆に雪那と同じく異世界に飲み込まれやすい自分が残るよりは、周波数をずらせる蒼花が残る方が良いのは確かではあるが。


「どうしました?」

「いや、いつも仲良しなのに、今回に限って蒼花が君と離れるなんてって思って」

「ああ。私が強く御願いしたからだと思います」

「そうなのか?」

「はい。別に配電室へは一人行けば事足りるし……それより、雪那ちゃんの様子がおかしいから付いている人が多い方が良いと思って」


 警察署では妹を押さえきれず、かといって來をつけていたにも関わらず、恐い目にあわせてしまった。


「だから、此処に居る時はできる限り雪那さんの側に居てって頼んだんです」


 勿論、妹は嫌がった。

 だから、新たな人手が来るまでと条件をつけたが。


「朱詩が来るまでか」

「はい。本当は修さんにも雪那さんの側に居て欲しかったんですけど」


 しかし、それは妹に阻止された。


「來も居るから大丈夫だとは思いますけど」

「來って、あの神獣の事かい?」


 修は以前に出会った蒼麗の神獣を思い出す。

 神獣の時はふわふわ毛玉のプリティーさん。

 人形になった時は、それは愛らしいロリコン達のアイドル――絶世の美幼女。


 だが、あまりのその可愛らしさにふらふらと近寄れば、全力で威嚇された。

 そしてアルファーレンに馬鹿にされた。


「ええ。そういえば修さん、仲が良いですよね、來と」


 邪気のない笑顔で微笑む蒼麗に修は遠い目をした。


 触ろうとすれば威嚇され


 お菓子をあげようとすれば「近づくなロリコン」という眼差しで見られ


 可愛いねと褒めれば、防犯ブザーを鳴らされた過去


 リアナージャとアマレッティからは生ぬるい目で見られた挙げ句


『幼くとも危険物指定物は分かるという事じゃ』

『子供って変態に対して敏感だからさ』


 俺は変態じゃない!!


 全世界の美女と美少女、美幼女の味方!なだけだ


 だが、それを宣言した瞬間、理恵からは愛の右ストレートを食らった


 しかし何よりも腹立たしいのはあれだ


 來が、アルファーレンには懐くのだ


 何故だ?!


 俺の方がこんなに優しいのに


 俺なんて全世界の美女達に平等に優しいのに


 美女達を侍らし、平等に激しくつっこむのに!!


「修さん?やっぱりまだ体調が優れないんでは」

「くっ!こうなったら何が何でも無事に帰って俺の凄さを分かってもらわなければ!!」


 來や恵美や理恵、雪那にチヒロに!


 この俺のイチ物を見せつけながら!


 そうして、五人を侍らせてあんな事やこんな事をして


 次々と妄想を膨らませていく修


 それを具合が悪いからだと心配する蒼麗


 もし、この状態を魔王軍の誰かか、凪国の誰か、それか蒼麗の幼馴染みの誰かでも見てくれていたならば、静かに蒼麗を淫行条例違反から引き離しただろう。


「あ、配電室に着きましたよ」

「よし、行こう!俺の下半身の更なる栄光のために!!」

「は?かはんしん?栄光?」


 頭に疑問符を浮かべる蒼麗を他所に、修は配電室の扉を開けた。





「……修兄ちゃん……殺す」

「私も僭越ながらお手伝いしましょう」


 あれは自分達の汚点だ


 全力で修の排除を企てたのは、理恵とレイ・テッドの二人だった。


「ってか、この鏡!力とか通らないの?!通れば今すぐにでも修兄ちゃんを黒こげにして、蒼麗ちゃんから引き離すのに!」

「すいません、その鏡にはそこまでの力はないんです」


 それどころか、この世界では力も満足に使えないのだ。


 狭間の世界に飛ばされた際、レミレアと離された理恵は、気づけばレイ・テッドと二人でこの何もない空間に立っていた。

 それからどれほどの時間を彷徨っていただろう。

 最初はレイ・テッドがパニックになる理恵を宥めながら辺りを彷徨い、此処が狭間の世界である事が分かった。

 だが、それだけだった。

 どれほど歩いても他の仲間達には出会えず、気配すらも感じられない。

 しかも、彷徨うことで体力を消耗していく理恵に、レイ・テッドは仲間捜しを一時諦めた。

 このままでは理恵の身が危ない。

 そうして先に狭間の世界から現実世界に戻る事を決めるも、レイ・テッドの渾身の空間移動の術は発動せず、力ずくで壊そうして放った力は全て吸収されてしまった。


 そればかりか、この狭間の世界は常に辺りの景色が代わり、ある時は砂漠かと思えば、ある時は暗闇となり、ある時は自分達の住む世界によく似た光景を作り出す。

 しかし、それらは全て幻であり、そこに居る住人達は自分達を取り込もうとして襲ってくる。

 彼等は自分達がそうされたように、新たな犠牲者達を取り込むことだけを目的とし、逃げても逃げても追いかけてきた。


 今は霧の世界


 あの小型バスを取り囲んだ霧のように、視界も全て真っ白に覆い尽くす。

 二人は離ればなれにならないように、それぞれの手を手錠で繋いでいた。


 何故手錠?


 それは、理恵が修から没収したまま出し忘れていたものだった。

 それを持って自分の部屋に忍び込もうとしていた修。


 何をしようとしていた?


 何を目的として来た?


 勿論、的確な目潰しで阻止してやったが


 だが、いつもろくな事をしない修も、今回ばかりは役に立つものをくれたと褒めていた


 なのに――


 それはほんの偶然だった。

 疲れ果てた理恵に、レイ・テッドが何か食料はないかと懐を捜した際に、ポロリと出て来た掌よりも一回り以上大きな丸い鏡。

 それをのぞき込んだ時、眩しい閃光が放たれ、収まった時には鏡に蒼麗達が映り込んでいた。


 驚きに慌てて鏡に向って呼びかけるが、鏡の中の蒼麗は気づかない。


 そこで、レイ・テッドが思い出した。

 その鏡は、蒼麗がアルファーレンから注文を受けて作った鏡らしく、鏡を触りながら考えた相手の姿が映るのだという。

 ようは、アルファーレンは授業で会えない時も常に恵美を見続ける為に、蒼麗に注文した代物だ。


 そう、たとえトイレの中でも


 しかし、そこは常識人の蒼麗


 トイレやお風呂などでは妨害ノイズで映らないように作成したらしく、ひどくアルファーレンが悔しがっていたが、それについては理恵に伝えなかった。


 恵美命の理恵の事だ。

 そんな事がばれたら、まず間違いなく魔王を抹殺しに行くだろう。


 そう――あの時の蒼麗のようになるかもしれない。


 レイ・テッドはふっと一月前の事を思い出した。


『くぅぅ! 私と離れている時の恵美の姿を、一分一秒と言えど見れない時があるなんて! 蒼麗、何故なんだ!』


 そうして血眼で十二才の少女に詰め寄る魔王に、リアナージャとアマレッティがソッと涙をぬぐう。


 今はああだが、昔は冷酷非道の魔王と言われた時も……ああ、あったかもしれない


『いや、見えてますよ。トイレやお風呂は別なだけで。ついでに寝室とかもノイズ入れたかったのに反対したの、アルファーレン様ですよね?』

『当たり前だ! 私には恵美を見守る責任と義務がある! そう、何時いかなる時でもどのような角度からでも恵美を見守る! 例え火の中、水の中、そう――恵美の秘めたる部分は勿論トイレの便器の中から!! 可愛らしい白桃の様なお尻は背後のトイレのドアからゴブホォォォ!!』


 アルファーレン様がおかしくなった


 そう悟った蒼麗が反射的にアルファーレンを平手で張り倒したが、その場に居た魔王軍達は皆口元を手で覆いながら泣き崩れていたらしい。


 だって、それが元からなんて誰も言えなかったから


 今更だろうと言い切る蒼花の言葉に誰もが否定出来なかったあの哀愁漂いし時


 救いだったのは、危うく盗撮という犯罪の片棒を担がされかけた蒼麗が無事だった事


 どうしよう……魔界は変態揃いだなんて天界で噂になってしまったら!!


 レイ・テッドはそれ以上思い出すのを止めた――何処までも落ち込むから。


 とはいえ、何故そんな危うく犯罪に使われかけたものをレイ・テッドが持っていたのかと言うと、その鏡を監視カメラの代わりに出来ないかと考え、研究材料として一枚もらい受けたからである。


 通信は出来ないけれど、他の者の無事な姿を見れた


 それは、理恵の疲れた心を癒すのに十分だった


 だが――


「蒼麗ちゃんに……蒼麗ちゃんに……」


 最初に鏡を見たとき、蒼麗が見え、その後に蒼花と修、そして雪那の姿が見えていた。

 意識を失っている雪那と共に残った蒼花と來。

 そして配電室に向う蒼麗が心配で、蒼麗達の姿を映して欲しいと願えば、鏡は理恵の願いを叶えてくれた。


 しかし……蒼麗と修が二人で歩き出してしばらく


 修の欲望入り交じる台詞が次々と聞かれたのだった。


 こいつ殺す


 理恵は決意した


「ふふふふふ……目潰し決定ね」

「り、理恵……落ち着きなさい」


 バックに黒い炎を燃やす理恵。

 その怒りはレイ・テッドですら逃げたくなるほどに熱かった。

 だが、それもこれも十八禁な発言を次々と放つ修のせいであって……。


「レイさん!何が何でも元の世界に戻るわよ!」

「は、はいっ!」


 その瞬間、レイ・テッドは完全に理恵の気迫に飲まれたのだった。




――続く


えーと・・・えええと・・・。

・・・な に や っ て ん で す か 閣 下・・・。

使用目的に激しく抗議したい。

やっぱし、閣下、修兄ちゃんと同類なんだね。反応するのが、全女性か恵美オンリーかの違いなだけって、どんだけ馬鹿なの・・・。

蒼花サマ、修兄ちゃんと一緒に、閣下もきつく締め上げてください。

そりゃ、もう、ぎゅぎゅっとね!

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