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【幼児化王妃の危機 雪那編 忘れられた約束①】・・・大雪様著

こんばんわ、さくらさくらさくら様♪

大雪です。


続きを書き上げましたので、またまたお送り致しますvv


今回は雪那が結構大変なことになってます(汗)




 建物は警察署だった。

 広い駐車場にはパトカーの他に、一般の車が数台停まっている。

 『常葉警察署』と書かれた文字が建物入り口の上に見えた。


「って事は、ここは常葉地区の中?」

「みたいですわね~」


 なんと、既に目的地に居たらしい。


「ラッキー! じゃあ七宮家の別荘も近くにあるって事だよね!」


 なら、そこまで行けば雪那を休ませられる。


「でも、雪那の別荘の場所が分かりませんが」

「それは警察署で聞けばいいよ。ついでに地図も貰えるか聞いてみよう」

「婦警さんごっこのアイテムも欲しいですわ、お姉様」

「…………」


 蒼麗は妹を無視して入り口へと向った。

 しかし、扉を押そうとした時、ふとその手を止めた。


「お姉様?」

「なんか……暗すぎない?」


 中は昼間にも関わらず薄暗かった。


「経費削減の為に照明を消しているだけでは?」


 経費削減……不況の波はここまで押し寄せているという事か。


「気にしすぎだよね」

「もし何かあっても私が守ってあげますわ、お姉様」


 妹の言葉に蒼麗がクスクスと笑う。


「それ逆だよ、蒼花。普通は姉が妹を守るものだよ」


 そうしてゆっくりと扉を開けた。





 オイデ



 誰?



 オイデ



 誰なんですか?



 サア


 エラバレタコヨ――



 ひんやりとした空気にぶるりと体を震わし、雪那は起きた。

 ぼんやりとした頭で、ゆっくりと体を起こすと硬い感触が手に触れる。


「ここは……」


 そこは何処かの休憩所だった。

 暗い中、壁際に設置された自動販売機の光が唯一の光源というように、辺りを照らしている。

 自分が横たわっていたのは長椅子だった。

 他にも、幾つかの椅子とテーブルが置いてあるのが見えた。

 また、近頃禁煙で撤去されている筈の灰皿が幾つもあり、自動販売機の横には新聞や雑誌が置いてあった。


「私……確かバスに乗っていて……」


 それで、突然バスが霧に覆われて……それで……


 雪那の中に少しずつ記憶が蘇っていく。


 そうだ……バスが化け物に襲われて、私……


 意識を失う前に、榊の声を聞いた気がする


 凄く焦っていて、恐怖に彩られた声



 いつも余裕な榊の滅多に見ない表情に、すぐさま彼の側に駆け寄って慰めたかった。

 まるで捨てられた子供のような彼を抱きしめたかった。


 けれど……それは敵わなかったらしい


「榊……」


 榊は何処にいるのだろう?


 どうして彼は側に居てくれないのだろう?


 その時だった。


 カツンと音が聞こえ、雪那は顔を上げる。

 背の高い人影が、廊下の奥に見えた。


「榊……なの?」


 その言葉に反応するように、足音が遠のいていく。


「ま、待って!」


 長椅子から立ち上がり、人影の見えた廊下に向って走り出した。

 それが、恐怖の幕開けとも知らずに。





「誰も居ないし……」

「ですね~」


 署内は暗いだけでなく、全くの無人だった。

 最初は誰か居ないかと声をかけ続けるも反応がなく、最終手段として部屋を一つずつ回ったが誰一人として見つけることが出来なかった。


「ストライキかしら」

「いや、警察がやったらまずいでしょう」


 警察でなくてもまずいだろう


「街全体でのお祭りとか行事とかあるんだろうか?」


 常葉地区こと常葉町は、周囲を山々で囲まれた閑静な田舎だが、同時に美しい観光地でもあった。

 また特徴として、幾つもの社寺が存在しているのがウリらしい。

 何でも、遙か昔は強い力を持った聖地の一つだったという言い伝えもあるそうだ。


 もしかしたら、そのお祭りで人手をそちらにまわしているのかもしれない


 しかし――


「それでも、居残り組は居るよね」


 でも、誰も居ない


「う~ん……」

「お姉様、喉が渇きました」

「あ、じゃあ休憩所に戻ろうか。雪那さんも心配だし」


 休憩所に置いてきた雪那も、もしかしたら目を覚ましている頃かもしれない。

 一応書き置きは残してきたが、心配は尽きない。

 勿論、最初は蒼花を雪那の側に残していくつもりだったが、激しく拒絶されてしまい、代わりに自分の神獣を置いてきた。


「來、ちゃんと見ててくれるかな?」


 まだ幼い神獣である來は、子供らしく気まぐれなところがある。

 雪那を放って遊びに出かけないとも限らない。


「わたし、コケ・コーラが飲みたいですわ!」

「はいはい」


 蒼麗は肩から下げていたポシェットから財布を取り出す。

 あの霧の中で蒼麗が持ち出してきた唯一の荷物が、いつも持っているポシェットだった。


 一応、最低限のものが入っているポシェットを、小型バスを探しに行く際にも無意識に持ってきていた。


 因みに、他の荷物はワゴン車、小型バスに乗っかったまま行方不明だ。

 きっとそれらも現実世界の何処かに放り出されているだろう。


「これだけでも持ってこれて良かった」

「いつも思ってますけど、何が入ってますの?」

「うん?え~と、携帯にLEDライトの懐中電灯と、後は巾着袋に入っている換えの電池、ライターとマッチ箱が幾つかと」


 どれも防水加工ばっちりの代物だ。


「アーミーナイフに救急セット」

「救急セット?」

「うん。包帯や絆創膏とかの普通の救急セットの他に、神力の回復飴や回復札とか入ってる奴だけど」


 うんって……どう考えても姉のポシェットに入る筈がない。


「あ、これ錬金術で作った袋だからね。制限はあるけど、大きなものでも入るよ。一番大きなもので、大型段ボール箱ぐらいの大きさかな」


 またとんでもないものを作ったな……


「あとは携帯の充電器だね。蒼花は?」

「私ですか?」


 蒼花も蒼麗とは違うが、ウェストポーチを持っていた。


「私は、LEDライトの懐中電灯と携帯、携帯の充電器、ゴールドカード数枚に、聖水を幾つかですわ」

「聖水?」

「ええ。この前学校の実習で作ったのがそのまま入ってたみたいです」

「そうなんだ~。って、ゴールドカードって……」


 こんな田舎町で使用出来るのだろうか?


 いや、地図を見ればホテルとかあったし、そこなら使えるだろう。

 しかしお店やスーパーではたぶん無理だ。


「ま、まあ私がいくらか持ってきてるし」


 そうこうするうちに、休憩所にたどり着く。

 大喜びで自動販売機に走る蒼花に蒼麗は苦笑した。


「どれにしようかな~」


 自動販売機は三つ。品揃えも豊富らしく、妹の迷う声が聞こえる。

 それを背後に聞きながら、蒼麗は雪那が眠っている長椅子に視線を向けた。


「……あれ?」


 雪那の姿がない。


「あ~~、起きちゃったかな」


 しかし、周囲にもその姿はない。


 もしかしてトイレだろうか?


「蒼花、ちょっとトイレ見てくるから」

「私も行きますわ」

「え?いや、蒼花は飲み物買ってて欲しかったんだけど」


 だが、姉について行くと聞かない妹に、蒼麗は諦めながら休憩所の隣にあるトイレのドアを開けた。

 

 人気はなかった。


「何処に行ったのかな……」

「お姉様を捜しに行ったのでは?」

「そうかな~?」


 休憩所に戻ってみるが、やはり雪那は居ない。

 戻って来た様子もない。


「何処にいったのかな~?」



 キャァァァァァァァァァァァ



「っ?!」

「今のは雪那かしら? って、お姉様?!」


 妹の手を掴むと、そのまま声の聞こえた方に走り出す。

 何かに驚いたというよりは、命の危機が迫っているかのような叫びだった。

 廊下を走り抜け、曲がり角を滑るように曲がりきる。

 左右に分かれた道の他に、前方に階段が見えた。


「どっち?!」


 すると、再び叫び声が聞こえる。


「階段っ!」


 階段を駆け上がった蒼麗が二階の廊下に出た時だった。

 遠くに雪那の姿が見えた。


「雪那さんっ!」

「いやぁぁぁぁぁぁっ!」


 雪那が悲鳴をあげて叫びながら必死に両手を振る。



 まるで何かから身を守ろうとするように――





「いやぁぁぁぁぁぁっ!」


 暗闇の中で雪那は叫んだ。

 自分に襲い掛かるそれを必死に振り払っていた。


 そんな雪那を、警察官の服に身を包んだそれがケラケラと嘲笑う。


 雪那がその人に追いついたのは、人影を追いかけてからほどなくの頃だった。


 階段を駆け上り、暗い廊下の向こうに佇むその人に榊と叫びながら駆け寄った。

 しかし、すぐに服が違う事に気づいた。


 その人物は、警官服を着ていたからだ。


 ぼんやりとしたオレンジ色の照明が灯っていなければ、例え近づいたとしても気づかなかっただろう。

 最初に見た時に気づかなかったのも、一階の方が暗く明かりが殆どなかったせいだ。

 無礼を詫びた雪那は、とりあえず此処が何処なのかを聞こうと顔をあげた瞬間、凍り付いた。


 目が……鼻が……いや、顔そのものがなかったのだ。


 以前は警察官として、困っている人達を安心させるように微笑んでいただろうその顔は、一個のグロテスクな肉塊へと変貌を遂げていた。


 雪那が悲鳴をあげた瞬間、それは襲い掛かってきた。

 警棒を振り上げ、近くの照明を壊しながら雪那を追い詰める。

 照明が一つ消えるごとに周囲が闇に包まれた。


 榊、榊、榊!!


 雪那は必死に榊を呼んだ


 そんな雪那の顔を、警察官がのぞき込む。


 ………ダ


 え?


 エラバレタコ


「何を……」


 エラバレタコ


 エラバレタコ


 サア――ワレラトトモニコイ


 その化け物が雪那の腕を掴む。

 ぬちゃりとした感触に、雪那が絶叫する。


「雪那さん!」


 ガッと強く肩を掴まれ、振り向かされた雪那が息をのむ。


「……蒼麗……ちゃん?」


 そこには、ワゴン車に乗っていた筈の蒼麗が立っていた。




「あ……」


 雪那が瞳を閉じたかと思うと、その体が崩れる。


「きゃっ!雪那さん?!」

「完全に気絶しましたわ」

「ど、どうしよう……」

「また休ませるしかありませんわね」

「う、うん……ってきゃあっ!」


 突然背中に衝撃を受けたかと思えば、ジジジという鳴声が聞こえた。


「來?!」


 それは、蒼麗の神獣――來だった。

 姿は人間界に居る齧歯類のチンチラにそっくりの來は、その大きな足で蒼麗の背中を蹴って頭の上にのる。


「降りて」

『嫌』


 そう書いたプラカードを蒼麗に見せる。

 何時もの事ながら、何処にそんな大きなプラカードを隠しているのか。


「ってか、雪那さんの側に付いててって言ったのに何処に行ってたの?!」

『側に居たよ』

「は?」


 居たって……


 が、首を傾げる蒼麗を來は無視し、新たなプラカードを見せる。


『此処おかしい』

「は?」

『雪那やばい、雪那まずい』

「いや、だからどういう事?」

「とりあえず、此処から出た方が良いみたいですわね」

「でも、この状態の雪那さんを動かすのは危険じゃない?」


 雪那の顔色は先ほどよりもずっと悪い。

 体中に冷や汗をかいている。


 何かよほど恐ろしい事があったのだろう


 それは先ほどの様子からも容易に予想された


 けれど蒼麗は首を傾げた


 自分達が駆けつけた時、雪那は一人で悲鳴をあげていた


 もしかしたら、自分達が駆けつける前に誰か居たのかも知れない


 しかし、周囲の気配を探っても何の気配も感じられなかった


 とすれば、一体何を見たのだろう?


「移動するかどうかはお姉様に任せますわ」


 蒼花の言葉に、蒼麗は來を見た。

 相変わらず、ここから離れた方が良いというプラカードを出し続ける來に、蒼麗は決断した。


「わかった。此処から出よう」


 蒼麗の言葉に、蒼花と來が頷いた。



 雪那を再び背負い、蒼麗が歩き出した後、蒼花と來がその後をついていく。

 階段を下りて休憩所を通った時だった。


 パサリと、雑誌置き場から新聞が落ちる。

 それを戻そうとした蒼麗を蒼花が止めた。


「私が戻しておきますわ」

「そう?」

「ええ。それに飲み物も買いたかったし」


 そう言うと、蒼花は心配する姉を先に行かせた。

 一人残った蒼花は新聞を手に取った。

 すると、姉と共に行った筈の來が蒼花の頭の上にのっかる。


「貴方も気づいてるんでしょう?」

『まあね』

「ふふ……雪那は見事に囚われてしまったみたい」


 そう言うと、蒼花は新聞を開く。

 そこに書かれている日付は――


「十年前――雪那は七歳という事か」


 その新聞を戻し、他の新聞も見るが全て十年前の日付だった。


「雑誌と違って、新聞は毎日変えるものなのにね」


 呟いた瞬間、蒼花の持っていた新聞が紅い点が現れる。

 それはみるみる内に、新聞全体に広がり真っ赤に染まった。

 ぐっしょりと紅く濡れたそれは、まるで血に染まったようだった。


 ふと、周囲を見ると景色が変わっている。

 あちこちが赤錆に包まれ、床には血だまりが出来ていた。


「小賢しい」


 厳しく言い捨てると、再び景色が変わる。

 そこには、もう赤錆も血もないただの休憩所。

 手に持っている新聞にも異変は見られない。


「ふん……お前達如きがこの私を取り込めるものか」


 奴らにとって計算違いは、自分達がここに来てしまったことだ


「まあ、でも……あの魔王達にとっては不利みたいだけどね」


 過去には歴代の魔王すらも召還し、おのが駒とした奴らにとって、魔族は格好の駒たる存在。


「捕らえて利用する手段はごまんとあるという事か……」


 歴代最強と名高い魔王アルファーレン


 彼を始め、此処に向っていた魔族は魔王と同じく歴代の中でも最も優秀で最も強い力を持つ


 しかし――今回だけは彼等にとって不利な条件が揃いすぎた


「聖地……か」


 人だけでなく、数多の魔物も贄とされ歪んだ場所には最も相応しくない名を呟き、蒼花は静かに新聞を戻したのだった。




――続く

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