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『傍観者』・・・大雪様著

こんばんわ、そしてお久しぶりです♪

大雪です。


えっと――またまた小話ですが、書き上がりましたのでお贈りしたいと思います!


今回は、灰が主役みたいな話になってしまって、送ろうかどうしようかと迷ったのですが……宜しければ読んで頂ければ幸いです♪


ではでは、下からどうぞ~♪


分厚い眼鏡にぼさぼさの髪


身に纏う服はくたくたのよれよれ


髭こそ生えてないしオッサンとも言わないが、その一目見て地味としか言いようのない姿なのに


よくよく見ればすらりとした指先が、手がまるで魔法のように美味しい料理を作り出す



トントンと聞こえる包丁の音が実に心地良い――



「もう少しで出来ますよ」


その言葉に、わ~いと喜ぶのは恵美と雪那の二人だった。


部屋に備え付けではなく、客船の厨房で料理を作るのは料理人ではなく客である灰その人。

普通ならば自分達の聖域に勝手に入り込まれるなんてプライドが許さないだろうが、穏やかで人好きのする雰囲気を漂わす灰に、いつの間にか料理人達もその行動を楽しそうに見守っていた。


「お前、凄く手際がいいな」

「ありがとうございます~」


料理長も感心するほど、灰の手際は素晴らしかった。

同時に三つも四つも料理を作りながら、巧みな包丁さばきと火加減で次々と完成させていく。


美味しい匂いが厨房に充満する


勿論見た目も美しく、かといって食べるのも躊躇われるような冷たい美しさではなく、思わず手を伸ばしたくなるような美しさだった。


「さてと、あとはメインだけですね」

「美味しそうです~」

「早く食べたいです!」


雪那と恵美がきゃっきゃっと期待に満ちた眼差しを向ける。

が、そこに突如混じった殺気じみた眼差しに二人は固まった。


「恵美ちゃん」

「雪那ちゃん……」


二人は同時に振り向いた。


「……私にはさせないくせに」


地獄の底から這い上がるような声で呟く希子に、雪那と恵美は互いに抱きしめあった。


「希子ちゃんが怒ってる」

「角生えてる」

「希子にさせたら船が沈みます」


希子には料理をさせてはならない。

というか、家事一切をさせてはならない。

させたが最後、海の藻屑になると思え。


それが、この船の船員達の合い言葉。


上のお達しもそうだが、希子の凄まじい家事による破壊の惨状を目の当たりにしてしまった船員達はその合い言葉を心に深く刻み込んでいた。


希子の姿を目にした料理人達から次々と悲鳴があがる。


いわく、魔王が降臨されたと


因みに、きちんとした本業の魔王は別にきちんと船に乗っているが、彼らはそんな事は知らない。


それよりも、目の前にいる『料理は兵器』が合い言葉の魔王の存在に慌てふためいた。


できならば近くの港で降ろしたかった。

けれど、次の港まではあと一週間かかる。

だがそれ以前に何の落ち度もない?客を強引に降ろすなど


すればこの船の名に傷がつく。


というか、どうして彼と一緒にいるのにここまで出来ないんだろう――


希子の同行者である灰の家事は完璧だった


その料理の腕前は一流の料理人達すらも唸らせ


掃除はプロの掃除婦達すらも恥じ入るほどの完璧さを誇り


洗濯に至っては、どんなシミも彼の腕にかかれば簡単に落ちていた


家事の魔術師


船員達は彼をそう呼ぶ


そして思う


その一割でも希子にあればと


だが、それ以上にどうしてその素晴らしい腕前でもって希子の家事能力を人並みまで引き上げてくれなかったのかと


「もうすぐ料理が出来ますから、食堂で待ってて下さい」

「私も手伝う」

「やめて下さい。核弾頭でも作成する気ですか」


因みに、一昨日人目を盗んで作り上げたケーキは榊が食べる寸前に爆発した。異変を察知したアルファーレンがそのケーキを海へと投げ捨て、海面に消えると同時に大爆発を起こしたのだ。


灰曰く、海の水と化学反応を起こしたのだと言う


化学反応


その昔、料理と錬金術は同じだと言った人がいるらしいが、その人の言葉は正しかったが、いくら錬金術と同じとはいえ、毎回害のあるものを作成する者はなかなかいないだろう


「どうやったらケーキが爆発するんですか」

「あ、あれはっ!ちょっと調子にのっててそこらにあるものを入れちゃっただけよっ!」

「というか、調理場にあるものだけでどうして爆発が起こせるんですか」

「奇跡?」


いやだそんな奇跡


その奇跡のせいで危うく榊は吹っ飛びかけた


「とにかく、黙って待ってて下さい。そもそも今回僕が料理する事になった原因はその爆発ケーキのせいですからね」


爆発ケーキのせいである意味料理に対してトラウマとなった榊はその後殆ど食事がとれなくなった。

それに困ったのは料理人達だ。

勿論、雪那達も何とかして食事をしてもらおうとあの手この手を使ったが、榊のトラウマは酷く大きかったらしく、愛するお嬢様の手料理すらも殆ど食べられない始末。

あまりの事に悲しむ雪那に、今回の件で申し訳なさを感じていた灰が腕を振るう事にしたのである。


「私もお詫びするわ」

「気持ちだけで十分です」


寧ろ手を出すなと暗に言う灰に希子は不満そうに頬を膨らませた。


「すいません、希子を外に連れ出して下さい」

「「は~い」」


このままここに居させると何をするか分らないとばかりに、灰の御願いに雪那と恵美が希子を引っ張り出したのだった。



それからどれほど時間が経った頃だろうか――


キンと、何かが張り巡らせた糸にひっかかる


空気が微かに揺れ、微弱だが邪気が漂ってくる


「蜜華の匂いに誘われましたか」


そろそろ夕食の時刻。

料理人達もそれぞれの持ち場に戻り一人きり鍋の番をしていた灰は、眼鏡の下に隠れた瞳で外へと通じる扉を見つめる。


「あれ?灰さん何処に行くんだい?」


背後から料理人の孝史の声がかかる。


「希子の様子を見に行こうと思います~」


「希子ちゃんの――はは、また何かやらかしたのかい?」

「いえ、まだ何もしてませんよ」


そう――まだ、ね


背後でガチャンと閉まった扉に寄りかかり灰は、ずれた眼鏡を指で直しながらクツクツと笑った。

すると、それまでとは百八十度がらりと印象が変わる。

もし、この姿を見る者がいればその壮絶なまでの色香に思わず船から転落していたかもしれない。


「おやおや、これは不味いな」


自分の変化に影響された海面に、灰は少しずつ緩んでいた


それをギリリと引き締める。

すると、あれほど垂れ流されていた匂い立つようなそれはあっという間に霧散した。


「さてと――さっさと希子の所に行きましょうね~」


足下にまとわりつく邪気は、颯爽と歩く灰によって蹴散らされていった。


ほどなく、灰の予想通り希子達はそこにいた。

船のデッキ――プールやジャグジーもあるそこは、普段なら大勢の者達で賑わっている。

しかし、今はその異変に気づいているのか、希子、雪那、恵美の三人だけである。


いや――それもあと少しの事か


灰はちらりとデッキから船の側面を見た。

すると、デッキに向って這いずるいくつもの黒い手が見える。


それらが狙う蜜華は、自分達の危機に気づいているのだろうか


「気づいてないですね~」


黒い手はデッキに上がろうとしては、何か見えない壁に阻まれる。

それを激しく叩くも、数回も叩けばその見えない壁が手をはじき飛ばし、いくつもの黒い手が海上へと消えていく。


その障壁の美しさに灰はくすくすと笑う。


「あれで無意識なんですから……」


希子が作り出す障壁は、蜜華達を狙う全ての者達をはじき飛ばす


それは、記憶を失ってもなお希子の中に残る昔の記憶か


それとも――


「なんかバンバン音がするわね」


自分の所行に全く気づかない希子は、辺りをキョロキョロと伺う。

だが、どうやら何も見えないらしくしきりに首をひねる。


一方、雪那と恵美は青ざめた顔をしていた。

見れば、いつの間にか二人の足を掴む数本の赤い手。

どうやら、黒い手とはまた別のものらしい。


だが――


グシャッ


「わわわっ」


船の揺れでバランスを崩した希子がそれを容赦なく踏みつける。

悲鳴をあげて消える赤い手。


それが何度か繰り返される


さすがは希子


無意識だが最強だ


「恵美、理恵、雪那」


そして――チヒロ


今世紀揃った四つの蜜華


一人は異世界にいるが、それでもほどなくこちらに飛ばされてくるだろう


蜜華


それを手に入れた者はあらゆる願いが叶えられる


しかし、蜜華が四つ揃ったならば


世界は闇に閉ざされるだろう


その昔、光の世紀が始まると共に逃げ出した者達


太陽ではなく、月の世紀を


朝ではなく夜が世界を支配する事を望んでいた彼らは今も


深い深い闇の底でそれを望んでいる


たとえ……原初の神たる月夜がそれを望まずとも


終わりの女神の姿が脳裏に浮かぶ


滅那


今は蒼麗という名の彼女


そして彼女の眷属達の姿も


果てを司る果竪


彼女もまた、主君と共に葬られるのだろうか


遙か昔の四人の蜜華は、欲深き存在によって奪われた


では、今の蜜華達は?


「さてさて、どうなるやら」


蜜華を巡る運命の輪は誰にも止められない


哀しくも残酷なる運命の舞台となる客船は、彼女達をあの場所へと誘うだろう



『四鎖島』



懐かしく、それでいて――


灰はくすりと笑うと、希子達へと足を進める。



終わりを司る女神


果てを司る女神



彼女達はこの続く悪夢に終止符を打てるのか



そして


『私はいつ終われるのかしら』


今もなお悪夢に囚われるあの子を救う事が出来るのか――







終わり



後書き

ちょっとネタバレしてしまいましたね~。

果竪が司るものは『果て』。

なので、終わりを司る蒼麗=滅那の眷属なんですよ~。

因みに、果竪の前世は滅那と共に下界に居ましたが、連れ攫われた滅那を探して上の世界に迷い込んだのが運の尽き。

萩波の前世に捕獲され、物珍しさから愛玩動物として散々弄ばれた挙げ句――孕まされ、妃にされました(苦笑)

やってること一緒だよ、萩波!!まあ、結局は悲劇的な結末を迎えるのですが。滅那を殺した者達に果竪の前世も殺されてるので。

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