あの日の後日談・・・さくら書く
魔界の天気は最高。
絶好の虐殺日和。
・・・まあ、のどかだった。
「・・・貴様、また来たのか・・・」
天界はよほど暇なんだな。
そんな胡乱な眼差しの魔王閣下を前に、天界の凪国の王、萩波は微笑み、彼の後ろに控える側近達は、申し訳なさそうな顔をした。
なんかもう、たそがれ入ってふてくされている宰相の姿が哀れだった。
「ご機嫌麗しゅうございます」
「・・・貴様の目は節穴だな」
絶好に不機嫌な声で魔王が返せば。
「嫌ですね。挨拶もできないほど、不遜なお方だとは思いませんでしたよ」
けっと吐き捨てるように、萩波が返した。
「・・・こうして顔を突き合わせているだけでも、ありがたいと思え!」
ばちいっと目線が合わさった。
良い男二人の、眼付けが開始された。
秀麗な美貌ながら、その眼力は凄まじいものがあった。
ぎりぎりとにらみ合う二人。気のせいで無ければ、周りの気温が下降しはじめた。
氷河期並だ。ツンドラだ。
「ふ。また世迷い事を尋ねに来たのか?あいにく、私は、神人などにかまっている余裕はないぞ」
「はっ!この前はベストショット五枚で簡単に言いなりになったくせに?」
それを耳にした魔軍幹部がうんうんと頷いている。
・・・あの写真は最高だったよなあ。
と、写真をチラリ垣間見ていたアマレッティが呟いた。
・・・どう隠し撮ったらあんな良い笑顔撮れるんだ?
と、横目で掠め見たレミレアが自問する。
・・・ってか、あれってさ。
・・・犯罪だよな・・・。
・・・犯罪だな・・・。
・・・間違いなく、犯罪だよ。だってさ・・・。
・・・半裸だったんだよ・・・。
うちの王様ってば、果堅絡むと理性うしなうよなぁぁぁ・・・。
と、どことなく遠い目をしている萩波の側近一同。
でかい溜息が哀れを誘う。
明睡に至っては、黄昏つつ、己が先見の明を恨んでいた。
萩波はできる男だ。
頭脳も、体術も、剣もすべてにおいて、努力を怠らない萩波。磨きに磨きぬかれた、計算されつくした男。
・・・なのに・・・。
果堅絡むと、途端に理性吹き飛ばしちまうからなー・・・。
だふー・・・と魂まで抜け出しそうな溜息ついて、だけど、これ以上頼りになる男はいない、のも事実。
・・・ヤナ事実だな・・・。
どんなに策略家でも、腹黒くても!
補って余りある、その誠実そうな美貌がものをいうのだ。
腹ん中で何考えているのか分からない、鉄壁の外面がモノを言いまくるんだ!
・・・まあ、果堅にも効きすぎて、距離を取られているのが哀れを誘うが・・・。
麗しくも理想的な完璧な君主を、演じれば演じるほど、果堅の心が小さく竦んでいくのを知っていた。
明睡は思う。
知っていながら、それで良いとも思っていた。
果堅が、いてくれるなら。
それで良いと思っていたんだ・・・。
・・・まさか、十二で、萩波に喰われるなんて思ってなかったしな!!!!!
大事に大事に仕舞っておこうと思っていたのに・・・。この外道っ!!!
でもまあ、質問内容は、どうすれば果堅を気持ちよくしてやれるかだし。
相手を思いやる心は悪くないと思うのだ。
・・・たとえ質問する相手に問題があっても。
「ちゃんと濡らしてやっているのか?あの体では、男を受け入れるのはキツイだろう」
「失礼な。精一杯奉仕してます。ただ・・・」
「ただ?」
「もう良いかな?と思ってねじ込むと、泣いてしまうんですよ」
と言い切った萩波に。
「「「それはまだだっ(まだだろうがっ!)(まだじゃあっ!!!)」」」
アルファーレンと、アマレッティ、リアナージャの怒声が重なった。
「貴様・・・おなごの体を何と心得よる・・・」
ゆらりとリアナージャが立ち上がり迫った。気のせいか、怒りの波動でびりびりと、窓が揺れている。髪が蛇に変わっていた。
「・・・仕方ないでしょう! 果堅は可愛いんです。我慢なんか早々できませんよ! 早くねじ込んで、ひとつになりたいと願って止まないのです! 泣いた顔すら、可愛いんですから!!!」
・・・それは、ダメダメだろうよ。
魔界陣営と凪国陣営(約一名をのぞく)の心がひとつになった瞬間だった・・・。
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「あー・・・。まあ、ナニがダメか分かっただけでもめっけもんじゃねえ?」
アマレッティが呟いた。
「貴様に足りんのは自制心だな」
「先走った愛情は十分だがな」
「おなごに対するいたわりが、足りぬのぅ」
萩波は、さくさくと切って捨てられて、ぐうの音も出ない模様・・・。
魔族に自制心とか、いたわりとか、説かれてどうするよ、萩波・・・と、側近一同の心の声。
おもむろにアルファーレンが話し出した。
「・・・想像してはどうだ。あの果堅という娘が、貴様を受け入れて、歓喜に鳴く姿を」
ちなみに私は毎日毎晩、エミーの艶姿を想像しているぞ!
それ、披露して良い情報なのですか、閣下・・・と、たそがれる、魔軍幹部。
「そうじゃの。わらわもよく想像するぞ。エミーがわらわの楔を欲しがって鳴く姿や、わらわの楔で、あんあん、鳴く姿をな!」
がしゃんっと、鋭い爪と、凍った刃が繰り出された。
ぎりぎりとにらみ合い、剣と爪を戦わせる二人。
唸るように、アルファーレンがリアナージャに迫った。
「・・・夢の中のエミーも全て私のものだっ!」
「あー。わかった、わかった! それはこっちに置いておこうな!」
仲裁に走るアマレッティ。
しかし口には出さぬが、彼とて脳内で、エイミールにあんなことや、こんなことをしているのは、証明済み!
「まぁ、あれだ! ようは、どれだけ相手を喜ばせる事ができるかだなっ!」
「愛しい娘の痛みに耐える姿も確かにいじらしくてそそるがのぅ!やはり、欲しがらせて鳴くように仕込まねば、男ではないの!」
「男ではない、と・・・?」
・・・萩波、激しいショックに打ちのめされた模様。そこに畳み掛けるようにして、アルファーレンが止めを刺した。
「・・・がっつき過ぎだ。馬鹿者め」
・・・いや、魔王閣下、あんたに「だけ」は言われたくないねっ!
魔軍幹部と凪国側近達の心がひとつになった瞬間だった。
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うふふ。この間の、大雪様の小話読んで思いついたお話です。
いやさ、閣下。萩波、あんたにだけは、「がっついてる」って言われたくないと思うのよ・・・。