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愛と正義のひーろー! 8・・・さくら書く

 「ここにいたのね、朱詩!」

 茨戯は鼻歌歌いながらそぞろ歩いている朱詩を見つけた。

 「明睡が血迷っちゃって、現世に降りちゃったのよぉっ! ちょっと行って引っ張ってきてくれない? できれば王も!」

 きっと周りに多大な迷惑かけてるに違いないんだから!

 まくし立てるように言葉を並べ立てた茨戯の美々しい顔を見て、きょとんとした朱詩だった。

 ・・・が。

 「やだよ~、面倒くさい。俺、これから厨房に行くんだから」

 茨戯は朱詩の持っている袋に目を留めた。そういえば、そろそろ昼時だ。

 「・・・あんた、また・・・」

 「なに? 茨戯ったら、人の恋路、邪魔する気?」

 にしゃぁ~と笑う。

 その人を食ったような顔に、さしもの茨戯もぐっと息を詰まらせた。

 「そんなことしないで、正々堂々告白しなさいよ!」

 「いつかね」

 「朱詩!」

 なんでこうもネジくれて臍が三十回転位した挙句、元の状態に戻ってんのかしらっ!

 「~~~それは私が厨房に届けておくから、あんたはさっさと現世に降りなさい!」

 「~~~ちぇ・・・じゃ、ちゃんと食べさせてよ? 入れなかったって分かったら、次からこの倍量いれるからね!」

 「小梅を、大梅にする気か、貴様!」

 「だってそうでもしないと、他の男に持っていかれちゃうもん。小梅はちっちゃくて可愛いし、健気だし、かと思えば上層部にだって言いたいことはちゃんと言える貴重な人材なんだよ? 笑った顔なんか見せられた日には、なに? 小梅のくせに俺のこと誘ってんの? って勘違いするくらい、可愛いのに」

 任務で何日もここを離れる俺の身にもなってよね?

 それでなくてもこの顔と体のせいで、男として見てもらってるか分からないってのにさ。

 仕事に明け暮れてる間に、好いた女を奪われてました! なんて失態は起こしたくないんだよ。

 

 「・・・小梅の良さを知っているのは、俺だけでいいんだ」

 

 あいつの可愛さも、あいつの笑顔も、泣き声も、怒鳴り声も、視線も興味もすべて、意識する全てが俺の事だけで、埋まっていたらいい。


 「小梅の目に映る、男なんか、いなくなれば良いのに」


 小梅に目をつけた奴は全部俺に夢中にさせてやるけどね。


 「だって、俺は小梅に触れられないのに、他の奴らが触れるなんて、不公平だろう?」


 「朱詩」

 茨戯の心配そうな顔を間近で見つめて、朱詩は笑った。

 「・・・ま、茨戯だってさ、葵花が他の男のものになったら・・・」

 その瞬間繰りだされた拳をひょいと交わして朱詩は笑った。

 「・・・ほら、わかってるじゃないか・・・」


 魂が求めている、たった一人に振り回されて、いる事を。


 「いいさ。葵花に免じて降りてやるよ。首根っこひっ捕まえて、引きずって来れば良いんだろ~」


 だから、小梅、よろしくね? 


 そう言い捨てて凪国を出て来た。明睡と萩波を見つけたら、連れ帰るつもりで、サ。



 「・・・ううーん・・・」

 なのに、なんだろう、この、力の抜けまくった諍いは。



 ・・・明睡は人間の男を切り捨てようと追い掛け回してるし。

 「くっ、この、おとなしく刀の錆になれええっ!」

 「嫌です。そんなの御免こうむります。なにせ、私にはお嬢様を幸せな花嫁にするという使命がありますからね!」

 緊縛の花嫁なんて、最高でしょう?

 「くっ! この、腐れ外道!」

 「嫌ですねー。シスコンには言われたくないですよ!」


 ・・・萩波は絶賛亀甲縛り中の果堅にノックダウンされて下半身がえらいことになってるし、引き止める明燐と熾烈な戦い繰り広げてる。

 「そこをどきなさい! 明燐!」

 「どきませんわ! どいたら最後、果堅に襲い掛かるおつもりでしょう?」

 「妻がこんなおいしい状況で、文字通り吊るされてるのに、頂かない夫がいると思いますか?」

 「・・・そこは自制するべきでしょう!」


 ・・・玉英サマはいつもより多めにどっか行っちゃってるし・・・。

 「ウフ。ウフフ。ししょー、コノママコウスレバ・・・」

 「あら、かわいい」

 にこにこほんわり。

 春の日向ぼっこのような表情で、白い衣装に身を包んだ少女が二人。なんだこの二人。

 だけど施すは緊縛。しかも何気に玉英さんたら・・・。

 「だ、だめっ! 紐パンさっき解かれてるの! こ、これ以上広げられたら・・・!」

 「~~~カワイイッ!」

 羞恥に身悶えして叫ぶ果堅に、玉英が抱きついたので、せーふ。

 ・・・ところで、玉英サマ。

 「ししょー、ってだれ?」

 朱詩の問いに答える人はいなかった。

 でもまあ、いいや。

 朱詩は状況を目いっぱい楽しむことに決めた。

 楽しいことは好きだ。

 こんなに生き生きと駆け回っているなんて。

 「小梅も、連れて来れば良かったかな・・・?」

 ついでに、あの縄業使って小梅こそ縛ってみたい。

 大体この場にいる男たち、自分の女以外は興味ないみたいだし。

 ある意味、ものすごく安全で、安心して小梅「で」遊べたみたいだなあ・・・。

 

 手の中には、ここに来る前さんざん店員を脅して値切らせた、高性能ビデオカメラがある。

 「ふふふ。家電芸人飼いならしておいて良かった・・・」

 朱詩は自分の魅力を活用し、最高級のカメラを手に入れていた。

 「珍しいよね~。天界の神人と、魔族と、天使が一堂に会していてサ。それに、神と同等に渡り合える力を持った忠人なんて、さ・・・」

 明睡の技は、伊達ではない。

 命がけで戦って、命がけでもぎ取ってきたものなのだ。

 それをああも容易く交わされちゃ・・・。

 「立つ瀬ないよね、明睡? でも・・・ほっといてもいいよね?」

 命にかかわる邪気は無い。

 王にも果堅にも、明燐にも、玉英にも、だ。妹命のイっちゃった感じの明睡は置いておくけど。

 むしろ本気で相手を消しにかかってるみたいだけど、別にいつもの事なのでいい。

 「みんな、楽しんでるじゃないか」

 茨戯が見たらキレるかもね。ものすごく心配してたのにな~。

 ま、いざとなったら、毒でも何でも仕込んでやるから、せいぜい奮起しておくれ。

 朱詩の思考回路はどこまでも物騒で、無邪気なまでに残酷だ。


 「明睡は放っておいて・・・果堅の姿を残そうっと!」


 あんな見事な緊縛術。

 もろもろの色事に長けた自分ですら惚れ惚れするほどの、緊縛術に、朱詩は惚れこんだ。


 「う~ん、縄に愛がこもってる・・・」


 あんなふうに縛られたら、身も心も縛り上げられて相手の言いなりになっちゃうだろう。

 過去自分に縄を打った奴らの中に一人でもあんなふうにボクを縛り上げた奴がいたのなら、今頃自分はそいつの物になっていただろう。

 恐怖を煽るために縛りつけてきた奴らには、到底分からないことだろうがね。

 

 実際。

 果堅の表情は艶かしさを湛え、いつも元気な大根王妃が、今じゃすっかり淫美だ。

 あの果堅がだよ!

 あの果堅すら、とりこにした(してないしてない)縄術。

 小梅で試したら・・・。

 「あ。やべ」

 ・・・少し、疼いてしまった。

 「ふうん。このボクを惑わせるなんて、なんて緊縛技だ・・・これはぜひともビデオに収めとかなきゃ・・・」


 朱詩による、縄術解読のための、資料集め(ビデオ撮影)が始まった。

 誰のための記録なのか知ったら。小梅はきっと家出する。



 *******



 「・・・ほぅ。では、ここを?」

 「はいそうです」

 「これはこっちかな?」

 「あ、そうです」

 青銀の魔王の問いかけにふんわりと微笑んだ雪那は、次いで尋ねたオウランにも丁寧に応じていた。

 「皆さんとてもお上手ですね!」

 彼らの手元を見て取って、雪那は頬を染め、微笑んだ。

 秀麗な美貌を誇る男たちが、自分の友人を手際よく縛り上げていくのを見つめて、雪那は感嘆のため息をついた。


 ・・・愛に満ち溢れている!


 「ああ・・・。恵美ちゃんも、ちいちゃんも、愛されてるねぇ・・・」

 ため息を吐くように零れた言葉に、男性陣が反応した。

 「無論」

 私は恵美を全身全霊で愛している。

 「あたりまえだ」

 チヒロはかけがえの無い人だからな。

 「わあ、熱愛・・・」

 雪那は感極まったように身を震わせた。


 ・・・が。


 「雪那ああああっ!!! それなんか根本的に間違ってるからっ!」

 理恵が修に回し蹴りを食らわしながら叫んだ。

 「そもそも、縄が無くても愛は語れるわ!」

 重心を戻し、流れるように回転しながらひじをみぞおちに食い込ませる。

 「おぐぅっっ! 愛がイタいっ!」

 「やかましわ、ロリコン!」

 じゃんぴんぐにーどろっぷ、炸裂。

 足蹴にされるたび、ゾンビのように立ち上がる修は、むしろ乙女の敵にしか見えない。

 手の中の縄が無くたって、認定外道だ。

 「理恵たんっ! こわがらないで! 痛くないように縛ってあげるから! 貧乳が寄せ上げで盛り上がるように綺麗に縛って、あげるからっ!」

 「いらんわー!」

 渾身の回し蹴りが決まって、修がゆっくりと倒れていく。

 だがその表情は至福。

 「・・・理恵たん・・・ふふ・・・白地にピンクの花柄レース・・・そこも可愛く縛ってあげるのにぃ・・・」

 スカートの中を脳に焼き付けて、変態が目を閉じた。

 目を覚ます前に股間の滾ってるものを、つぶしておくのが一番かもしれない。と理恵は思った。



 ・・・ちなみにその頃のレミレアはというと・・・。

 荒縄で縛り上げられてる、恵美を見たとたん、鼻血噴出し再起不能になっていた。

 「・・・使えぬのぅ・・・」

 「・・・なにこの、純情君・・・」

 「レミレア・・・」

 ・・・魔王執務室では居残り組のリアナージャが鏡を前に、目を細めて呟いた。

 アマレッティが頭を抱えて呻き、レイ・テッドが天井を見上げた。

 「うぬう・・・ちぃとばかり過保護に育てすぎたか?」

 「あれで夜の眷属・・・育て方間違ったか?」

 「あの程度のお色気・・・と、言いたいところですが、夜の眷属だからではないでしょうか、お方様がた」

 もし、もしですぞ。

 目の前で嬢様の縄ドレス姿を披露されたら・・・。

 「吹くな」

 「吹く」

 竜族の長と獣族の長は即答した。

 ・・・恵美の艶姿なら仕方がない。

 女神というだけではなく、夜の眷属でもあるのだから。

 「理恵殿が逃げて正解でしたなぁ・・・」

 理恵殿まで縛られていたら、今頃レミレアの理性は跡形もないでしょう。

 「そうじゃなぁ」

 「そーだな」


 淫魔族の力を発揮して、意のままに操っているはずだ。


 「・・・ま。アルファーレンが居るから、たいしたことは出来ぬがなぁ・・・」

 「はは。まったく」



 *******


  

 そのうわさの魔王様はといえば。

 「に、にい、さ・・・あぁ・・・」

 恵美の瞳が戸惑いに揺れる。

 その瞳に優しく微笑んでも、アルファーレンの手は止まらない。

 やさしく丁寧に、拘束していく。

 それでも身をよじる娘に、時折耳元で何かをささやけば。

 真っ赤になった恵美が瞳を揺らし、やがて目を閉じた。

 「・・・いい子だ。恵美・・・」

 満足そうに微笑んで、青銀の魔王は娘を戒める縄を引いた。

 「あんっ」

 思わず飛び出した喘ぎに、瞬間、目を見開いた娘が、恥らうように目を伏せる。

 愛しい娘を胸に抱きながら、魔王は優美に口元で弧を描いた。


 ・・・実にこの状況を楽しんでいた。



 *********


 

 そんで、もう一人の当事者。

 「ちょっ・・・、ちょっと待って、お、おうらん!」

 じたばたと往生際悪く暴れるチヒロだったが両手をとられ、後ろ手に拘束されてしまった。

 決してきつい戒めではない。

 何しろ拘束しているのはオウランだ。

 細心の注意で怪我しないように、傷が残らないように心を配りながら行っていることはすぐ分かる。

 ・・・なら、しなきゃいいじゃーんっ!

 涙目になりながらそんなことを考えていたら、明睡との戦いの合間に榊が。

 「あ、オウラン殿。目隠しもなかなかのアイテムですよ? 涙目を凝視すると心が揺れちゃう方には最適です」

 「そ・・・そんな情報いらないよぉっ!!!」

 チヒロが涙目で叫んだのを間近で見てしまったオウランが、ぐっと心臓わしづかみ! になったのは仕方がない。

 「・・・く。このままじゃ、理性が吹っ飛びそうだ」

 いや確実に、飛ぶ。

 それほどに縄のドレスが似合っていた。

 なんだこれ、絶妙じゃないか!

 「ぇ、オウラン、大丈夫?」

 なのに、お前は心配そうな顔で、小首を傾げるもんだから・・・。

 「・・・今日はここまでだ。これ以上は俺が持たん」

 「・・・・・・はぃ?」


 さっさと縄をほどかれて、チヒロはオウランにいつものように抱き上げられた。

 ・・・いつものように、俵抱きだ。足が地面に届かない。


 玉英と戯れている雪那に向かってオウランが話しかけた。

 「雪那殿。この縄、頂いてもよろしいか?」

 材質といい、より方といい、絶妙だ。縛っても肌に擦れひとつ残さない。すばらしい。

 「あ、はい。どうぞー」

 赤いので良いですか? ピンクのもありますよ?

 ・・・などとずれた事を呟く雪那に。

 「感謝する。次に訪れる時は土の精霊を伴おう。貴方の農地に祝福を与えてもらうために」

 「わあ」

 オウランが瞳を輝かせて、礼をとった。チヒロもオウランの肩の上で必死だ。

 このまま帰ったら、まずいことになりそうだ。

 と、言うか、なる。

 絶対、なる!

 「オ・・・オウラン、おろし、て」

 「では、また」

 

 それに答えて雪那が優美に礼をとった。


 

 金色の渦に消えていく二人を見つめる雪那の後ろでは、明睡と榊の熾烈な戦いが、続いていた・・・。


 あ。

 明燐と萩波の戦い?

 やっぱりね、腐っても(げーふげーふ)王。


 「ア、オニイさマ、ズルイイイ!」

 「さ、果堅、このままタワーデートしましょうね!」


 明燐に手刀を入れて気絶させた後、見事な手際で玉英を縛り上げ・・・。

 「朱詩!」

 「え、俺?」

 ぽすっと玉英と明燐を手渡された。


 「じゃっ! わたし、急ぎますから!」

 果堅と転移する間も、萩波は無駄に色気を振りまいていた。



 残された魔王様も恵美を抱き上げ、転移する前に一言。


 「よほど、果堅妃にアテられたようだな。果堅妃も、罪な娘よ」


 まあ、あの縄姿では、仕方がない、か・・・。


 さて、恵美。


 「夜は、長い」


 今宵は私の腕の中で、花開くが良い。

 孤高の魔王はうっそりと、微笑んだ。



 

 ・・・そんで手渡ったビデオが、これだった、とか・・・。

 ひーろー物が怪しい緊縛物になってしまいました・・・。

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