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愛と正義のひーろー! 5・・・さくら書く

・・・某国の首都にはただいま建設途中の巨大なタワーがある。

建設中にありながら、すでに世界中の似たような電波塔のすべてを抜いて世界一の高さになっている、そこ。

建設関係者でなければ近寄れない、そこ。

近寄ったら危険ではすまない、そこ。


・・・なのに、その天辺のクレーン部に吊るされている少女が一人・・・。


哀れ果堅は、攫われたヒロインよろしく縄でグルグルにされてこれ見よがしに吊るされていた。足元には何もない。ひるる、と風が鳴いているだけ。


脳裏をよぎるは散々な王妃時代。

萩波に近づきたい姦しい貴族の姫に、背中を押され大階段から落ちたこともあった。雪の降る中、大木に吊るされたこともあった。

夜討ち朝駆けは当たり前だったあの頃。

毒殺、撲殺、刺殺、絞め殺し、撃ち殺し、ありとあらゆる手段でもって命を狙われた。

今思えば、それらすべてから守ってくれた、萩波と仲間たちはとても有能で、そのぶん冷酷だった。

果堅に嫌味を言ったら三倍返し。

かすり傷なら十倍返し。

傷を残したら一族郎党皆殺し。

追放なんて生ぬるいとばかりに、殺しつくしていた。

清廉な神気が、まがまがしさを帯び、禍津神マガツカミになるのも時間の問題のように思えた。

このままここにいては、彼らを堕としてしまうと、心震わせたあの頃。

「ああ、なつかしいなー・・・」

・・・いや、懐かしんでどうする。だが今じゃ、そんな心配は皆無だ。

彼らは変わらず溢れる神気で世界を照らし続けてくれている。


ぶら~ん。

縄でグルグルにされた身体を揺らして、ブランコみたいだと果堅は笑った。

ぶら~ん。

こんな目に合わされていても、果堅にとって玉英は、大事な萩波の妹。

愛しかった。

信頼では言葉が足りない。

親愛では心が通いすぎた。

こうした「お遊び」にだって、義姉としてお付き合いしても良いかな、と思うほどに玉英が可愛かった。

ぶらら~ん。

・・・義妹の方はそれ以上を激しく切望していたが・・・。


「うフ。ウフふ。ツルサレテイルかじゅモ、カワイイ・・・!」

もにゅ。もぞもぞ。もにゅにゅ。

「ひいいやあああああっ!」

後ろから抱き付かれ、前に伸ばされた両手で、無い胸を散々揉み込まれ、果堅はアブナイ橋を渡りそうになった。

乱された衣の中に繊細な手がするりと入り込んで、そこここを刺激していく。腰が砕けそうだ。

とろんとした淫靡な美貌の義妹が艶やかに彩られた唇を近づけてきて、重なる唇。蹂躙する舌先。

豊満な胸を惜しげもなく果堅の身体に押し付けてくる。やわらかい絶妙の弾力。男だったら天国だろう。むしろ縛られて弄ばれても、至上の極楽ヘブンに違いない。

・・・だが、悲しいかな。

相手は、果堅。

(む~むむむ~!!! むね、がああああっっ)

・・・玉英のテクはすさまじかった!

「や、あ、あぁんっ! ちょ、玉、ぇいっ。ここ足場無いの、危ないわっ!」

「うふ。かじゅ、シンパイ、シテるの・・・? うレシイ」

・・・どうやら足場は確保されているようだ。

鉄筋が建築業者の職人技で組まれていた。・・・いつ、組んだんだ・・・?

「モウスグ、アクヤク、そろう・・・」

だから、それまで。

「イイコト、シマショ・・・?」

大輪の華が微笑んだ。

「た・・・助けてええぇえっ!!!」

しゅ、と最後の生命線、紐パン(玉英選)の紐を解かれ、かろうじて隠されたそこに、玉英の白魚のような指が伸びた。

「かじゅ、ダレニねがう・・・?」

なに!?

何を願うって?

「・・・タスケ、だれ?」

そ、それはやはり!

ひらめいた真っ白いすべすべな肌。

ふさふさの緑の面影。

魅惑のそれ! しかし、それを口にする前に。

「---ダイコン、ツブス」

玉英の赤い瞳がきらんと輝き、およそ美少女とは思えないドスの効いた低い声が響いた。

果堅は愛しい大根を守るため(違)愛しい夫を人身御供に差し出した。

「萩波! 萩波ですっ! 萩波に激しく助けてもらいたいですっ!」


「ウフ。うふフ。そぅ、オニイサマ・・・」

じゃあ・・・ロリコンの公開鬼畜を全力でつぶして愛しい果堅を独り占めにしなくちゃね。


・・・玉英は恋敵をロックオンした。


***********



「・・・大丈夫か・・・?」

アルファーレンは大きく喘いでいた恵美を抱き起こした。

かろうじて身に纏ったままの衣装は、危ういところまで暴かれている。

はだけられた背中、そこに残るあざに唇を押し当て、アルファーレンは手際よく恵美の衣を直してやった。

可愛い身体を衣に隠し、長い黒髪を手に取った。

さらり、とブラシで櫛梳る。

昔、こうしてエイミールの髪を梳かしたものだ。しなやかな髪は今は黒く、けれどもあの頃と同じように、指に馴染んで、あの頃のように幸せな気持ちにしてくれる。

「・・・にいさま、本当に上手・・・」

「・・・ふ、造作もない」

ふんわりカールだってお手の物だ。見事なツインテールのできばえに、アルファーレンも満足そうな顔をした。

すべての世話を一人でしていたのだ。ほかの誰の手も掛けたくはなかった。

上達するのは当たり前。

髪型。服。靴。可愛い小物に、お菓子に、音楽に、本に、花。

すべて最高を選び抜いた。

肌に優しい石鹸、シャンプー。リンス、トリートメント。クリームにもこだわって風呂上りには塗りこめてやった。

何でもそろえたが唯一与えなかったもの。

「果堅妃は、良くしてくれるのか」

・・・同年代の、友人だ。

質問に恵美は目を丸くして、それから花のように微笑んだ。

「はい! とても、良くして頂いてるんです。にいさま」

「理恵は当たり前だが、あの雪那という娘に、チヒロと言ったか?・・・仲が良いのだな」

「友達ですから! 学校にはもっとたくさん友達がいますよ、にいさま」

恵美の微笑みに胸が温かくなっていく。

それでは、この妹は、決して不幸だったわけではないのだ。両親の不幸は確かにあったが、それはこの娘を、すくませる物ではなかったのだ。

だが、それも一人だったら、わからなかった。

「・・・理恵がいてくれて良かったな」

思わずつぶやいた言葉。

それに恵美が目を丸くして、嬉しそうにうなずいた。

「理恵ちゃんがいてくれたから、私はこうして笑っていられるんです」

大切な人だと、お前が言う。それに、正直妬けもする。

心から、キリエに感謝する日がこようとは、思ってもいなかった。

だが、今ならお前がキリエと共に転生してくれて良かったと、そう思うのだ。

私の手の届かないここで、お前は悲しみに飲まれても、前を向いていてくれた。

二人、手を取り合って進んでくれた。

お前を支えてくれていた。

「・・・その存在に、敬意を」

魔王は、しばし目を伏せた。


「あ。にいさま、大変、時間に遅れます」

みんなもう揃ってるかもしれませんよ。

「・・・大丈夫だ」

あわてて立ち上がろうとした恵美をすかさず抱き上げて、青銀の魔王は微笑んだ。

「楽しみですねー、にいさま。私あのタワー、間近で見るの初めてなんです!」

「・・・そうか」

嬉しそうに頬を染める恵美を見て、アルファーレンは微笑んだ。

お前が喜ぶことならば、どんな茶番だとて演じてやろう。

・・・あのタワーの動力部に技術を提供したと、レイ・テッドが言っていたな。

魔界から持ち込んだ魔鉱石は、この世界を揺るがす、レアアースも真っ青な代物だった。

しかも、魔王はじめ魔軍幹部の純粋な魔力が源で、空気を汚すこともなければ、動力変換のために汚染物質を生み出すこともなかった。

何一つ壊すことのない動力源。

しかも、補充する者たちは、皆々、規格外の魔力量保持者だ。むしろ無尽蔵のエネルギー体。

山を切り崩すことも、海を埋め立て危険物質を処理することもない。夢のような物質。

ためしにひとつある機関に提供したら、それこそ世界中から血相変えて科学者、各国技術者が魔王の元にやってきた。

・・・その中に、いた。

新規タワーの施工者はこの国だった。

技術立国しているこの国は、資源に乏しく他国に依存する有様だ。高純度のエネルギーはさぞ魅力だったろう。

だが、示される金額は国家予算もかくやという額であるに違いない。そう思い込んでいただろう、青い顔の首脳。

だが、アルファーレンは商談にあっさりと首を縦に振った。

あわてる首脳に一点だけ、注文して。

「・・・良いだろう。必要な分廻してやろう。そうだな、この国を拠点にしても良い。・・・この学校ひとつ、わたしにくれたなら」

そして示されたのは、どこにでもある普通の学校だった。進学率が高いがそれだけで、別に特筆するものは何もない学校。

「・・・私の婚約者がここに通っている。いつもそばにいたいのだ。私が望むのはそれだけだ」

五月蝿い教育委員会とやらを黙らせろ。教師も前面変更だ。私のあの子のそばに男教師がいると思うだけで虫唾が走る。

何、教師のあてはある。

「・・・ああ、それから・・・」

この国の婚姻は女性は十六からだったな?・・・ふ、実にいい国だ。

淫行条例? 青少年保護法? ほぅ、だが愛し合う二人には無縁の法律だな?

同意? 当たり前だ。私たちは愛し合っているからな。

がくがくうなずく首脳を見て、アルファーレンはうっそりと、微笑んだ。

竣工した暁には、恵美を連れて最上階でデートと言うのもありかもしれない。

眼下にきらめく光を見ながら、お前を抱くのも心地良いだろう。

その時はもちろん、貸切だな。

あの時の首脳に揺さぶりかけるか。魔鉱石をちらつかせれば、言うがままだな・・・。

魔王閣下はデートスポットのチェックに余念がない。



**********



示された日時。

そこに立つ者たちは、精錬とした眼差しで空を見上げた。

「・・・ええと・・・あれ、まさか」

チヒロが眉をひそめてつぶやいた。

傍らのオウランが片方の眉をぴく、と上げた。

「・・・わああー。たのしそう」

雪那がボケたことをつぶやいて、榊が「お嬢様・・・」とため息吐きつつ首を振った。

「雪那、あれ楽しそうじゃないから!」

理恵が冷静に突っ込む。

「俺、飛んでこようか?」

この暗さならばれないだろう? とレミレアがたずねる。

「ご心配傷み入ります。けれども、結構。果堅はきっと私を待っておりますから」

にっこりと微笑んだ萩波。その凄烈な美貌と、黒一色の某パンマンの衣装。

鬼畜って描かれてなかったら、それはそれは、夢のようなワンシーンだっただろう。

なんたって、囚われのお姫様を助けに行く王子様だ。

乙女の夢間違いなし。

・・・ただし、相手が悪かった。



「・・・待っているのは、大根ではないのか?」

アルファーレンが冷静に突っ込んだ。



びしっ。


世界が終わる音を、聞いたかもしんない・・・。



次回!

高笑いする玉英!

その腕の中には快楽にとろけきった、愛しい妻の姿が!

あなたなら、どうする。


・・・あ、あれ?玉英悪役になってる・・・?

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