愛と正義のひーろー! 4・・・さくら書く
ある日、凪国の王城に小包が届いた。
「確かに明燐の筆跡です」
宰相明睡が請け負ったその小包、重くはない。さっそく宰相が箱を開けて中を確かめた。
「・・・玉英さまからの手紙同封されてますよ、王」
開いて一番最初に目に付いたのは、内包された手紙。
血文字のように真っ赤な墨で赤々と書かれたそれ。
「・・・不幸の手紙・・・?」
いやいや、まさか。
ぺらりと開き、ざっと眼を通し、ふっと笑った萩波はおもむろに。
ぐしゃっと手紙を握りつぶした。
「しゅっ萩波?」
「・・・ふふふ。不幸の手紙並みに不吉な手紙でしたよ。おーのーれー、玉英!」
果堅を見つけたなら連絡よこせば良いものを!
わたしの果堅「で」遊んでいるなんて・・・!
「明睡。出立の準備を! 果堅を迎えにいきますよ!」
・・・幸い、うるさい奴らは黙らせたから(粛清)、咎め立てする勇気のある奴はいないでしょう。
さあ。
「王妃を迎えに行きますか」
萩波・・・にっこり笑顔がとんでもなく真っ黒い何かに見えて仕方がないよ!
「しかし・・・なんだ、この同封された服・・・」
黒い滑らかな生地で仕立てられた服は、手触りといい、縫製といい、職人技とうなることの出来る代物だった。
「ん? 萩波、ここに・・・」
明睡が何かに気づき、布地に顔を寄せた。
下手な女よりよほど麗しい顔が小さく歪む。
黒地に黒で刺繍された、模様と見まがうすばらしい刺繍。だが、その瞳は、模様と見せかけて描きこまれた、間違いようもない単語を読み取っていた。
間違ってるはずはない。
はずはないのだが、良いのかこれ、仮にも大国の王に向かってこの単語・・・。
明睡は見てみないふりをしようか、悩んだ。
そして萩波と言えば。
同封されていた手紙を、しぶしぶ読み進むうちに、この黒服は果堅が手縫いで仕上げたものと知ったのだ。
「果堅・・・!」
感激に染まった艶麗な顔。花開いた大輪の華より尚麗しいその風貌に、慣れているはずの明睡でさえ、道を誤りそうになる。
「明睡。この衣装、果堅が、わたしのために、夜通し一針一針縫ってくれたものだそうですよ・・・」
「・・・それは・・・(怨念込めてないよな?果堅!)」
「ぜひこれを着て某所へ来て欲しいと・・・デートですよね! 明睡、これは紛れもなくデートのお誘いですよね!」
紅潮した頬、どんな男も道を誤るだろう、その色気は悲しいかな、果堅にだけ、効き目が無い。
「・・・忘れてないだろうけど、そこには玉英さまもいるんでは・・・」
「ああ、果堅・・・」
うっとりと衣装に顔をうずめて微笑む姿に、華が恥じらうように、そっと閉じた。
そんでもってその当日。
「・・・着るのか、それ本当に着るのか!」
よく見ろ。目ぇかっぽじってよっく見ろっ!
「その刺繍「鬼畜」って描いてあるんだぞ!」
流れるようなすばらしい流線型の刺繍で、ものすごい完成度だ!
ところどころ涙のしみらしきものが目に入る。嫌がる果堅に、玉英が無理やり刺繍させたに違いない・・・と思いたい。
もしかして、よぎる過去に涙していたのかもしれないが。
ってか、それ着たお前を見ると、一国の王の威厳が・・・。
「決め台詞は自分で考えろ、ですか。では・・・今夜は寝かせない? ふっ、いつものことですね。・・・では・・・」
「・・・とりあえず、全力で逃げろ、果堅!」
明睡が空に向かって叫んだ。
*********
「にいさま、これ・・・」
そっと頬を染めた恵美が、恥ずかしげに瞳をそらしながら、布を差し出した。
滑らかな深い翠の衣装だ。
所々にあしらわれた刺繍は金糸で、派手な色合いの衣装だったが、なるほどと唸らせる意匠のものだった。
「・・・恵美?」
「あの、これを着て、あの一緒に・・・」
「・・・これを?」
「えと、にいさまとお揃いにしようと思って、頑張って作ったの!」
「・・・つくった・・・?」
はい。と頷く恵美を前に、魔王は暫し恵美と服を見つめた。
だ、だからこれを着て、一緒に・・・。
麗しの魔王は微笑を口端に乗せた。
「着よう」
腕のカフスを止めている姿は、恵美でなくても胸をざわめかせる。
翠の服に身を包んだ魔王様は、青銀の髪をひと払いすると、恵美を振り返った。
洗練された佇まい。静謐な眼差しが恵美の瞳を縫いとめる。
目が離せない。
その人が音もなく歩を進め、恵美の正面に立ち、腰に腕を回し、抱き寄せるのだ。
目が離せるはずも無い。
吸い寄せられるように身を預け、指先に誘われるまま顎を上げ、唇に訪れを待った。
唇に優しいそれが舞い降りて、恵美は幸福に胸を震わせた。
たっぷりと甘い唾液を堪能し、息も絶え絶えになった恵美を見おろし、魔王は眼を細め笑った。
ささやく。
「・・・どうした? そんな顔をしていると、止まらなく、なるぞ・・・」
「あ、ん。にい、さま・・・」
喘ぐように呼吸する赤い唇に、魔王はまた、唇を落とした。
・・・予定の時間までまだ間がある。
もう少し、可愛い吐息を聞いていよう。
おもむろに、魔王は恵美の身体をソファに押し倒した。
********
「榊。これを受け取ってもらえませんか?」
雪那が頬を軽く染め上げて、榊原 亮を見上げた。腕には畳まれた服と思しき物体が。
深い青の衣装だった。
所々に施された銀糸が、着るものを選ぶ代物だ。
しかし榊が纏えば、それはこの世のだれよりも鮮やかに着こなすだろう。
・・・たとえそこに鬼畜と書かれていようとも。
愛しのお嬢様が差し出したものならば、あまんじて着てみせよう。
洗練された振る舞いで、他の者の口を封じて差し上げよう。
きっちりと着付けて、首の周り、袖のカフスまで神経を通して、榊は雪那を振り返り見た。
「・・・いかがですか、お嬢様」
どこへなりと、お連れください。・・・お供いたします。
榊が艶然と微笑んだ。
*********
「オウラン、オウラン。あのね・・・」
「・・・また、何を一生懸命作っているのかと思ったら・・・。ナンダコレハ」
「えとね、玉英ちゃんデザインの、鬼畜戦隊ごれんじゃー。何かね、オウラン鬼畜レッドなんだって。はい」
心を込めて縫いました。
ひと針ひと針、怨念込めて。
「・・・きゃああ、睨んじゃダメだってば! だって玉英ちゃんがそう言えって・・・」
「レッド・・・レッドね。では、お前は?」
「えへ! お揃いなんだよ? 私ね、トマトレッドなんだ!」
「トマトレッドね。・・・ふうん」
・・・では、俺が食べてもいいんだな・・・?
赤いトマト。食べごろだな?
そう囁いて、チヒロが持っていた服を奪うと、着付ける代わりに、チヒロの衣装を剥ぎ取った。
「・・・!!!みゃああっ!」
「・・・とりあえず、一回喰ってから、付き合ってやる」
「オ・・・オウランッ!」
「・・・諦めろ」
どうやらチヒロは散々に喘がされて、ぼろぼろの状態で皆と落ち合うことになりそうだ。
*******
まじまじと刺繍された言葉を見詰め、理恵は物思いに沈み込んだ。
「玉英さんは、大好きな人にって言ってたけど、どうしたってこれ、「好きな人」にあげるべき服じゃないよね・・・」
一緒に縫ったけど、教えられたとおりに作ったけど、どうしたって「好きな人」に始めてあげるプレゼントじゃないでしょう。
「・・・だって、これ、どう見たって「鬼畜」って刺繍されてるもん・・・」
好きな人。と考えて、一番初めに浮かんだひとの面影を、理恵は必死で追い出した。
レミレア。
「ち・・・ちちちちがっ! 違うっ! 断じてすすすすす・・・好き。じゃない・・・!」
これはあれだ。キリエの記憶と混在した結果陥った錯覚って奴に違いないわけだから、わけだ!
・・・支離滅裂なのは分かっているけど、これはダメだ。
だってどうしたって、レミレアが!
「・・・鬼畜のはず無いじゃない・・・」
そうだ。レミレアに一番似つかわしくない言葉だとさえ思う。
魔族の癖に純粋で、魔族の癖に、熱血の変な奴。
魔族の癖に明るくて、魔族の癖に優しくて、だれより、好きだ、と思える人だ。・・・や、魔族だけどさ。
「・・・鬼畜・・・鬼畜ね・・・」
その言葉にふさわしい人物には心当たりがある。お隣の修兄ちゃんだ。
まあ、ただの鬼畜じゃないけどさ。やさしさ持った鬼畜。なんだそれ・・・?
でも、本当にただの鬼畜だったら、あっさり潰すのに良心も痛まないのに・・・。
はあ、とため息ついていたら。
「なー理恵ー。ねえさんが、理恵の所に行けば良い物が貰えるって言ってたけど、なに、なに?」
窓からひょいと顔を出した、夜の貴公子の声に、理恵は文字通り飛び上がった。
びょんと跳び上がった理恵の手に握られた、服を目ざとく見つけたレミレアは、それと似た物を、恵美が持っていたことを思い出していた。
「・・・ああ。これか?姉さんも、魔王様に渡すんだーってにこにこしてたぞ」
に・・・にこにこ!? 良いのか、恵美ぃっ!!
理恵は妹の正気を疑った。だって翠の服を嬉々として縫っていた妹は、丁寧な果堅の、泣きながら指導していた刺繍までも、完璧にやり遂げたのだ。きっと翠地に、金で鬼畜と描き出されているに違いないのだ・・・。
でも、また違う光景も目に浮かぶ。
どんなものを差し出しても、あの魔王は恵美がそれを作ったと言う事実だけで、全て認めることだろう。
「・・・いまごろ、きっと魔王様は喜んで袖を通しているわね・・・」
「そうそう! で、俺のこれ?」
「あ、こ、これは、違うの。レミレアには、にあわな・・・」
レミレアの目には淡い黄色の衣装は、ひまわりみたいで好ましかった。
さっと理恵の腕から奪うと、まじまじと見つめた後、にっと笑う。
「・・・うっ。な、なに、よ」
「ここ・・・血滲んでる」
レミレアは淡い黄色の衣装の縫い目の一部を指差した。確かに赤いしみが転々とついていた。
「あ・・・」
「血、滲んでもがんばって作ってくれたんだな?・・・ありがとー」
それから、理恵を見たままふっと出し抜けに微笑んで、理恵の所在無げに伸ばされたままの腕を取った。
理恵の左右の掌を掌の中で返して、まじまじと見つめる。
それから血の滲んだ指をぱくんと銜えた。
理恵の身体が跳ね上がる。
「レッ・・・れみ、れ、あ」
「・・・んー? 痛かったろ? これ、手縫いだから、姉さんが、皆も怪我してたって言ってた。姉さんの傷はきっと魔王様が治しているからいいけど、お前の傷が心配でさー・・・。変なとこ頑固だから、痛いも言わなかったんだろー? 姉さんが心配しててさ。そしたら、リア様が癒やしの鱗くれたんだー。・・・効くといいな」
んべっと舌を差し出すと、舌の先に三角の鱗が張り付いていた。レミレアが笑う。
「こうして体温で温めて、患部を舐めれば、治るんだって・・・お。治った治った。さっすがー」
リア様伊達に年を取ってねえよなー?
などと不穏な言葉を呟いたレミレアの前で、指先に残る暖かな疼きに、理恵の胸は高鳴って仕方がなかった。
・・・それを、得意の探索の目を使ってリアナージャが逐一盗み見していた。身悶える。
「青いのぉっ! あそこまでお膳立てしてやったのに、なーぜーに、押し倒さんのじゃあああっ!!!」
・・・と、叫んでいた。
********
・・・そして。
「ひどい・・・」
俺には愛のこもったコスチュームプレゼントしてくれないの?
・・・と理恵と恵美を見て、嘆く修の姿があった。
それを柱の影からちらり見ていた明燐が、音もなく近寄って行って、そっと修に手渡した代物。
「理恵の処女の血に濡れ(不器用な理恵ちゃんが指刺し、指切り、血塗れにした、ボツ衣装)黒光りする、鬼畜シルバーの衣装ですが・・・」
「もらったっ!」
俺のだ!誰にもやんねーぞ!
修は空に向かって叫んでいた。
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「うフ。悪役がセイゾロイ・・・」
暗躍する清楚な美女達。
「鬼畜ブラック、萩波。鬼畜レッド、オウラン。鬼畜グリーン、アルファーレン様、鬼畜イエロー。レミレア君。鬼畜ブルーが榊さんで、鬼畜シルバーが、小埜 修殿ですか・・・」
「むー!むぐぐぐぐううううー!」
玉英の胸に抱かれて衣を乱す果堅の姿・・・哀れ。
「ああ、はいはい。果堅はそのまま転がっててくださいねー」
と、どっちが悪役かわかんない発言をする明燐だった。
悪役は揃った!
「でも早速食べられてるぽいんですけど、良いのですかそれで?」
「デモ約束ノ日ハ近イ・・・」
「えー・・・どこに集合するんでしたっけー・・・?」
「むーがー!(助けてー!大根まーんっ!!!)」
「・・・果堅、助けを呼ぶ相手が違いますわ・・・」
「ウフ。カジュ、イイコト、シマしょ・・・?オニイサマヨり、きもち良くシテアゲる」
「むううがあああああっ!!!」
果堅の明日はどっちだー!