外伝 猫山インタビューpart1
──数カ月前。
ピピピピッ。
謙吾のスマホが鳴る。
謙吾「はい、あ、兄さんか、どうしたの?」
謙吾「そうか、やっと白単をチャレンジ戦で倒したのか、兄さんにしては時間かかったね」
謙吾「どうやら3月から公式が色々と動くみたいだよ、よかったね」
謙吾「うん、それじゃ無理しないでね」
ピッ。
スマホを切る謙吾。
謙吾「さて、僕は待ち合わせ場所に向かうか」
某喫茶店。
カラカラ。
猫山「お、謙吾さん、チィーッス、こっちです」
来店すると待ち合わせ相手の猫山が手を振る。
謙吾「で、今回は何のインタビューかな、僕も忙しいんだけど」
猫山「それはっスねぇ、無月さんの好みの女性や好意を寄せてる相手がいるのかどうかを聞きたくてですね」
謙吾「(さては、兄さんに逃げられて、俺から聞こうって寸法か)」
謙吾「好みの女性は明るくて自分を引っ張ってくれるくらい積極的な女性だよ、極端に無口な女性や騒がしくて周りに気を遣えない女性は苦手かな」
猫山「φ(・ω・ )フムフム...」
猫山「それで、意中の相手はいるんですか?」
謙吾「単刀直入だね…」
猫山「これが仕事ですから」
謙吾「まぁ最近は兄さんも色々と大変らしいから、順を追って説明するね」
猫山「お願いしやす」
謙吾「まず、兄さんが異性で応援しているのは、『女性声優』『Vtuber』の2ジャンルの人達だ」
謙吾「女性声優さん達はカードゲーマー出身である兄さんでも昔から知っている人達が多い業界」
謙吾「Vtuberさん達はここ3年で必要と判断して、兄さんが個人的にリサーチを開始した業界」
猫山「φ(・ω・ )フムフム...」
謙吾「ただ、V界は兄さんが思っていた以上に過酷な状況だった、だからそちらにメモリを割いてここ2年間は活動していた」
謙吾「その結果、兄さんは過酷な一匹狼状態に陥った」
猫山「?どういうことですか」
謙吾「猫山さんも知っているだろうけど、Vtuberって職業は『基本的に顔出し』をしない職業なんだ」
謙吾「つまり、兄さんが認識しているのはあくまで『Vの容姿』であり、現実ではその人達を認識できないんだ」
猫山「確かにあちらは仕事上、顔出しをするわけにはいきませんからねぇ」
謙吾「そういうこと、ここまでは普通の『Vアイドル』と『ファン』の関係性」
謙吾「ただ、兄さんの場合は少し特殊で向こうには容姿を知られている可能性があるんだ」
猫山「それって」
謙吾「そう、兄さんはその人達を応援している以上、その人達を危険に巻き込むわけにはいかないから、疑心暗鬼になりかねない『気を遣う』状況が多くなった」
猫山「そうは言っても、一般人が皆気付くわけじゃないんだから、話をするくらいバレないんじゃ」
謙吾「兄さんはあくまで『何の利益も発生しない一般ファン』、もし、兄さんがキッカケでV界の人が顔割れした場合、ファンはどういった行動をすると思う?」
猫山「暴走したファンがネットで暴れたり、無月さんにネットや現実で誹謗中傷する可能性がありますね」
謙吾「そういうこと、ここ最近は経済状況も良くない、一番危険なのは『ネジが外れた一般人』なんだよ」
謙吾「だから兄さんは何かに気付いたり、近づかれた時にはスルーを決め込むんだ」
猫山「それって辛いっスね…」
謙吾「打ち明ける人がいないわけじゃないけど、兄さん的には詳細はあまり伝えたくないとは言っていたね」
猫山「V界の人達に対して無月さんはどう思ってるんですか?」
謙吾「数年前よりかは声優さんとVtuberさんの壁は緩和されたと思う、だけど、兄さんは『対等』には決してならないと言ってる」
謙吾「いくら人気者になろうと、どれだけお仕事をこなそうとも『顔出し』していない以上、差別化は生まれる」
謙吾「もし、その壁すらなくなってしまったら、声優さんや芸能人さん達の『生身』で戦っている勇姿を否定することになりかねない」
謙吾「僕にそう言い放ったよ」
猫山「確かに」
謙吾「交友関係や恋愛については、顔出しをせず激務をこなしている『Vアイドル』とでは、流石の俺でも厳しいと言ってたね」
猫山「やっぱり、身バレ関係が原因ですか?」
謙吾「家は父がどうしようもない人でね、兄さんと母がいないと家系は成り立たないんだ」
謙吾「そんな状況で交友相手の身バレも気にしなくちゃならないってなると、いくら兄さんでもかなり厳しいよ」
謙吾「その子をサポートすることだけに兄さんが全力を注げれば可能だろうけど、兄さんにはやらなければならないことが多いから、まぁ無理だよね」
猫山「相手がどういった容姿なのかもわからない、自分は秘密を抱えなければならない、V活動を継続したまま仲良くなろうとする、流石にハードル高すぎっスよ」
謙吾「だから兄さんは女性声優の『小鳥遊 真璃』を『現実に存在している女性』として一番応援しているんだ」
猫山「φ(・ω・ )フムフム...、それでいつからですか?」
謙吾「確か、12年前だったかな」
猫山「じゅ、12年前!!」
謙吾「昔放送されていたアニメのヒロインを演じてて、そのアニメの主人公が兄さんの好きな男性声優さんだったらしいよ」
謙吾「だから野球漫画の『MAX』でも小鳥遊さんがヒロイン役を務めていて、『見るしかねぇ』ってリアルタイムで視聴してたはずだよ」
猫山「ほぇー」
謙吾「3年前にネットで状況収集や応援に没頭していた時、頭痛で寝込みそうになっているのを『小鳥遊 真璃』の『青い鳥』を聴いて何とか持ちこたえたって言ってたね」
猫山「なるほど、でも…これ僕に話して大丈夫だったんですか」
謙吾「兄さんが『暴走する子が減るならどんな不利益でも俺は受け入れる』と言ってたから大丈夫だよ」
猫山「無月さん、絶対お話しとかしたい人でしょ」
謙吾「そりゃそうよ、本当は配信や動画にコメント残したい勢のはずだよ」
謙吾「ただ、一部ファンはラインを超えた悪口を言ったりする人が多いから、兄さんは基本的にコメ欄を閉じちゃうし、ここ最近は『配信』を観るのが怖いって言ってたよ」
猫山「メモφ(・ω・`)」
謙吾から聞いた内容をメモする猫山。
猫山「それで、無月さんは配信辞めちゃったみたいですけど、再開はされないんスか」
謙吾「一応ログインすればアカウントは復活するらしいけど、ここ最近は母が体調崩すことが多くてね…父も相変わらず我儘だし、ちょっと厳しいと思う」
謙吾「その代わり、空いた時間でゲームプレイやオフラインでのイベント参加に時間を割くとは言ってたよ」
猫山「まぁちょっと羽休めも兼ねて、カードゲームや旅行でもやってほしいっスね」
謙吾「とりあえず、無理しない程度に元気でいてほしいね」
喫茶店店長「(無月、超苦労人やん)」
作者「嫌われてもいいと思ってこの話を書きました」
謙吾「作者は別に『Vアイドル』を否定しているわけではありませんからね」
作者「一番大事なのは、『やりたい活動』を継続したうえで悔いの残らないV活動を終えた後、いい人が見つかって幸せになれればファンとして安心できますというお話です」
作者「私にはどうしても『二兎を追うものは一兎も得ず』という考えで動かれている方が多いのではないかと常日頃からV界の方々を応援していて感じています」
作者「今何をしたいのか、一番大事なものは何なのか、今一度考えてみてください」