episode3 最強の遊び人
~25年前~
無月「お、『クロスゴマ』のタッグ大会が開かれるのかぁ、応募方法は往復はがき?やり方わかんねぇー」
謙吾「どうしたの兄ちゃん?」
無月「今月の特集ページに大阪での大型大会の詳細が載ってて、その応募方法を調べてたんだ」
謙吾「出場するの?」
無月「俺はもう小学生じゃないから、世界大会には出場できないからな」
謙吾「ふーん、でもこれタッグトーナメントじゃん、翔太兄ちゃんと組むの?」
無月「そうなるかなぁ、コマ友達は特にいないし、後で電話してみるよ」
翔太兄ちゃんとは、兄さんの一つ下の親戚の子だ。
兄さんは当時中学生、『クロスゴマ』のメインターゲットは『小学生』。
その大会は『中学生の部』とクロスゴマでは珍しい小学生以外の部門だった。
無月「母さん、この大会に行きたいんだけど、翔ちゃんのとこに交渉お願いしたいんだけどσ(*´∀`照)」
犬星母「まったく、仕方ないわね、連絡入れておくから応募は自分で記入しなさいよ」
無月「りょーかい、ありがとう」
その当時、兄さんは深夜一人、スタジアムでコマの調整するくらい『クロスゴマ』にハマっていた。
謙吾「兄ちゃん、寝ないの?」
無月「大会で攻撃型コマを試そうかと研究中なんだ、先に寝てていいよ、深夜は持久コマしか回さないから安心して」
謙吾「わかった」
~大会当日~
クロスDJ「さぁ、いよいよ大会だ、参加者の皆は準備オッケーかな♪」
ギャラリーから歓声が沸き上がる。
謙吾「(兄さんはともかく、翔太兄ちゃんはそれほどコマ遊んでないはずだけど、大丈夫かな)」
出場者は二人一組の24チームほどの大会だ。
その当時、アニメではタッグ大会が題材になっていた、その影響から小学生の部とは違ったテイストのイベントという感じた。
兄さんは地元の大会でも結果を残すほどのコマバトラーだった、僕も1度入賞したことはあるけど、兄さんほどやり込めてはいなかった。
クロスDJ「さぁ1回戦を開始するぞ、みんな準備はいいかなぁ」
クロスDJ「それじゃいくよ、3・2・1、ゴーシュート!」
謙吾「兄ちゃん、珍しく攻撃型コマを選択しているのか」
クロスゴマ初期シリーズでは、防御型や持久型のコマが好まれ、『安定性』が重視され、大会ではシェアを独占していた。
ジャッジ「スピンアウト、青チームの1勝です」
翔太「あ~負けちゃった」
無月「大丈夫大丈夫、後は俺に任せて♪」
ジャッジ「2戦目の準備をお願いします」
モブA「これなら楽勝だなぁ」
モブB「コマのカスタムも軟弱極まりない」
謙吾「(`ーωー´)イラッ」
翔太兄さんが使用していたコマは無月兄さんが準備、調整したコマだ。
謙吾「(大会の傾向を知るために色々なカスタムを試してるっぽいな)」
その当時、兄さんは攻撃・持久・防御、3つのコマの自分が思う最強のカスタムコマを用意していた。
ただ、こういった大会では、セオリー通りでないコマを使用する者が出てくる。
兄さんもその一人、兄さんが選択したコマは「攻撃型コマ」パーツも通常は選択肢に入らないカスタムだった。
ジャッジ「スタジアムアウト、赤チームの勝利です」
無月「(* -∀-)ドヤッ♪」
モブB「攻撃型コマをあそこまで使いこなすとは…想定外だ」
モブA「まだ3戦目がある、そこで勝つぞ」
ジャッジ「それでは、最終戦3・2・1ゴーシュート!」
観戦者「(ほぉ壁蹴りか、攻撃型コマを選択して、尚且つ高等テクまで使うとは、噂には聞いていたがこれほどとは…)」
壁蹴りとは、攻撃型コマのテクニックの一つ、攻撃型は機動性が高くどうしても自滅スタジアムアウトする確率が高い、その確率を下げるためにわざと壁に向かってシュートすることで、初動の自滅を防ぎ、攻撃型の特性を活かした早期決着で勝利を狙うシュートテクニックだ。
謙吾「それにしても、いつも防御コマで出場してる兄ちゃんが、大きい大会で攻撃型コマを使うとは思わなかったよ」
無月「まぁ中学生で大型大会はそんなないからね、挑戦してみたくてさ」
翔太「毎回先鋒で負けちゃってごめんよー|•́ω•̀ )シュン」
無月「急に誘ったのに出場してくれただけで十分だよ、俺が勝つから楽しんでいこう♪」
この兄さんの言葉は実現された、決勝まで先鋒である翔太兄さんは全敗。
二番手の無月兄さんがすべての試合を3戦目まで持ち込み逆転勝利で勝ち上がる。
そんなこんなで無月兄さんはまさかの全勝無敗で決勝を迎えた。
謙吾「マジで決勝まで来ちゃったよ」
無月「うーん、強敵はいなさそうだなぁ…残念」
謙吾「(兄ちゃん、楽しそうではあるけど、試合内容的には退屈っぽいな)」
翔太「決勝…緊張するなぁ」
そして、決勝戦。
クロスDJ「さぁ、いよいよ決勝戦だ!準備が整ったら決勝を始めてくれ!」
決勝戦では、決勝戦でのみ使用されるスロープが用意された『特別スタジアム』での試合となった、この試合に関しては、どのバトラーも未体験のスタジアムで戦うことになる。
決勝戦が開始される。
クロスDJ「おぉっと、これは特殊チップだね!」
特殊チップとはコマの上部パーツに装着できる付属パーツだ。
それぞれのチップに特殊なルールが書かれていて、それを相手に強いるという感じた。
決勝まで真っ向勝負で勝ち上がった無月兄さんは「決勝まで来れば相手は『特殊ルール無効』を使うだろうから、1度だけ大会で使ってみたいんだ」と言っていた。
謙吾「(兄ちゃんの読みは外れちゃったみたいだな…)」
決勝の相手は新発売の新型コマを使用してるどちらかというとスポーツ系の少年達だった。
モブC「(対戦相手、ガチな人っぽいじゃん…まじかよ)」
モブD「まぁ待て、組んでる奴はここまで全敗だ、勝ちを拾える可能性は十分ある」
1戦目はいつも通り、翔太兄さんが先鋒だった。
謙吾「(あれは、無月兄さんが愛用している防御型コマじゃん)」
決勝まで無月兄さんは翔太兄さんに様々なタイプのコマを使ってもらっていた。
謙吾「翔太兄ちゃんには防御型コマが相性いいだろうって判断か」
クロスDJ「それじゃ1戦目を開始するよ♪3・2・1、ゴーシュート!」
スロープを駆け下りスタジアムに流れ込む、二つのクロスコマ。
「ジャキーン」
スタジアムに突入したベイは互いにぶつかり合う。
翔太のコマは安定して回っている。
翔太「やっぱ防御型のコマだと安定して安心感があるなぁ」
モブC「くそぉ、あのコマ、なんて防御力だ…微動だにしない」
クロスDJ「青チームのスリープアウト、赤チームの勝ちだ、さぁ2戦目の準備をしてくれ」
インターバル。
翔太「ふぅ、なんと勝てたよぉ(*´꒳`*)」
謙吾「結構余裕だったじゃん、すごいよー」
無月「謙吾、相手を甘く見るなよ」
そっとコマを謙吾に見せる無月。
謙吾「こ、これは…」
翔太が使用していたコマの上部パーツは一部が白化していた。
謙吾「兄ちゃん、これって」
無月「対戦相手もここまで勝ち上がってきただけの実力があるのと、この『特別スタジアム』のスロープによって、通常では発生しない衝撃が生まれているのかも知れない」
謙吾「兄ちゃん、ここは持久型を使うべきじゃない?攻撃型だとこの衝撃に耐えられるか不安だよ」
無月「今回は攻撃型でいくよ」
謙吾「えぇ~、大丈夫なの?」
無月「今使ってるコマの上部パーツは衝撃に脆く、相手のアタックをクッションのように受け止める、言わば『エアバッグ』みたいなもんなんだ、この上部パーツなら恐らく1戦くらいなら耐えられると思う」
謙吾「そうか、なら後は兄ちゃんの判断に任せる」
翔太「(なんか凄い難しい話してる)」
クロスDJ「さぁ2戦目を始めるよ!選手の二人は準備を始めてくれ!」
コマの準備の後、両者シュートポジションに着く。
無月「(これで最終戦か、もっと強い相手と当たりたかったな)」
クロスDJ「いよいよ試合の開始だ!みんなも一緒に声を上げていくよ~!3・2・1、ゴーシュート!」
勢いよく射出される両者のコマ。
「ジャキーン」
両者のコマがスタジアムに着地しぶつかり合う。
謙吾「シュートは成功したみたいだ、頑張れ兄さん」
無月「(いけ、アリエル、お前の力を見せてやれ)」
「ガッキーーーン!」
無月のコマの連続攻撃により相手のコマをスタジアムアウトさせる。
クロスDJ「決まったーーー!!勝者は赤チームの無月君だ!これにより、赤チームの優勝決定だ!」
謙吾「やったー、兄ちゃん凄いよ」
翔太「優勝だー」
無月「( _ _||| )」
謙吾「どうしたの兄ちゃん?優勝したのに」
無月「衝突の衝撃が予想以上に凄かったみたいで、下部パーツの留め具がどっか飛んでっちゃったみたいでさ…」
スタッフ「ん?パーツが無くなったのかい?」
謙吾「そうみたいなんです」
スタッフ「それなら、テストプレイ用のコマから留め具だけあげるよ、ハイ」
スタッフから留め具パーツを渡される無月。
無月「ありとうございますー(*´∇`*)」
クロスDJ「さぁ表彰式だ!優勝赤チーム、準優勝青チーム、入賞おめでとうー!」
一同「ありがとうございますー」
大会は無事終了を迎える。
兄さんはクロスDJからサインを貰っていた。
謙吾「これからどうするの?」
無月「今、世界大会の関西代表戦が同じ会場で開かれているから、それの観戦だな」
謙吾「りょーかい」
翔太「世界大会かぁ楽しそうだね」
無月「どんなコマを代表の子が使ってるか楽しみだね」
~代表戦ブース~
クロスDJ「さぁタッグ大会から引き続き、実況を務めさせてもらうクロスDJだ!」
代表戦が開始される。
分布としては、やはり防御型と持久型がシェアを占める形となっていた。
謙吾「(やっぱ、攻撃型は兄ちゃんみたいにテクがないと使いこなせないってことか)」
攻撃型の最大の弱点は『自滅』、その確率を如何に下げるかが焦点となっている。
そのため、かなりリスクが高く『安定志向』が定着してしまっているのである。
~代表戦決勝前~
無月「ここからじゃあんま見えないな…」
少年バトラー「あのぉ…」
無月「ん?お、代表戦に出場してる子じゃん」
謙吾「(はは~ん、兄ちゃんのこと知ってる子っぽいな)」
少年バトラー「僕のコマ、ちょっと見てもらいたくて」
無月「え、いいのΣ( ºωº )」
コマを渡される無月
無月「( •᷄ὤ•᷅)むー」
そのコマの上部パーツはジャイロシステムを使用した特別コマの内部パーツだった。
無月「こんなパーツあったっけ?」
少年バトラー「ステルスサイクロンって言います」
無月もすべてのパーツを所持しているわけではなかったので、そのパーツの存在は把握していなかった。
無月「(それにしてもこのパーツ、反則すれすれの過度な塗装が施されているな…)」
無月「ありがとう!決勝頑張りなよ、応援してる(๑•̀o•́๑)۶ ファイト」
少年バトラー「ありがとうございますー」
その場を立ち去る少年。
謙吾「兄ちゃん、難しい顔してどしたん?」
無月「もしかしたら、遠い未来、俺は大人達と戦わねばならない時が来るかもしれん」
謙吾「どういうこと…」
後から聞いた話だけど、その塗装は勝率にも影響するほどの厚さがあったらしく、ステルスサイクロンについても『大人』でなければ把握が難しい類のパーツだったらしい。
大人になってから兄さんにその当時の話を聞いた時に「あのコマを使えば選抜は抜けられたとしても、世界戦では通用しない、恐らくプレイスキルがバトラーには備わってはいないように思えた」そうだ。
現にその子は世界戦を制してはいなかった。
~現代~
無月「まずはメインホールから見回ろうか」
陽月「メインホールは地下1階、1階、3階の3フロアだそうです」
無月「φ(・ω・ )フムフム...」
入り口で貰ったパンフレットを眺める無月。
無月「まずは1階、次に地下1階、最後に3階の順で巡回しよう」
陽月「地下1階からの方がよくないですか?」
無月「1階はステージと販売ブースのフロアだから、まずは1階で人の流れの様子を見よう」
陽月「わかりました」
無月「(なんで俺が仕切る形になっているんだろうか…)」
陽月「(ルン♪ ((o''∀''o)) ルン♪)」
~数カ月前~
爽やかな声の男「鳳、君に犬星無月の監視役に就いてもらいたい」
小鳥遊「え、なんですかそれ…」
爽やかな声の男「そんな顔をするな、彼については先日のフリーライブで確認しているだろう?」
小鳥遊「それはそうですけどぉ…」
爽やかな声の男「監視役に就いてくれるなら、上に休暇の交渉をしてもいい、加えて最新ゲームも提供しよう」
小鳥遊「え、それホントですか~(´。✪ω✪。`)✧*。」
爽やかな声の男「(予想以上にチョロいな…)」
爽やかな声の男「コホン、でどうかな?」
小鳥遊「やりますー⸜(*ˊᗜˋ*)⸝」
小鳥遊「でも、彼は私を認知しているのに、どう監視するんですか?」
爽やかな声の男「それについては専門家を呼んでいるから安心しろ」
どこかに連絡を入れる爽やかな声の男。
グラサンの男「ハーイ、この子が例の子ねぇ」
爽やかな声の男「先生、よろしくお願いします」
小鳥遊「(・。・) キョトン…」
爽やかな声の男「この人は特殊メイクのスペシャリストだ、つまり、君には変装術を学んでもらう」
小鳥遊「変装術?(-ω-)ハニャ?」
爽やかな声の男「君が目の前に現れたら、彼は流石に緊張するだろう、それに彼は極度の慎重派だ、周囲を警戒して気付いても白を切る可能性がある」
小鳥遊「確かに…(ライブでもめっちゃ遠くで観てたしなぁ)」
爽やかな声の男「それに人気者の君がそのままの容姿で行動すれば大混乱になる、そのための変装術だ」
小鳥遊「でも、声はどうするんですか?彼なら絶対気付いちゃいますよ」
爽やかな声の男「とあるメカニックから、便利なアイテムを預かっている」
チョーカーを机の上に置く爽やかな声の男。
小鳥遊「これで声の問題が解決するんですか?」
爽やかな声の男「このチョーカーには特殊な電気信号を喉の神経に流し、声色を全く別の声質に変化させることができる代物だ」
小鳥遊「そんな便利なアイテムが…ついに時代が追いついたか」
爽やかな声の男「(コイツ、たまに中二病スイッチ入るよなぁ…)」
グラサンの男「そういうことだから、取り急ぎ変装術を指南するわよぉ~♪」
ここからイベントまでの期間、変装術のレッスンが始まるのだった。
~現代~
~サブ会場~
無月「それにしても凄い人だ」
陽月「もうへばったんですか?」
無月「キャラカフェ行こうよ、お腹すいた」
陽月「駄目です、ブース内でなく、外かコンビニで手短に済ませましょう」
無月「ρ(-ε- )イヂイヂ」
常設のパンフレットフロアで電話を掛ける男
電話男「売れそうな商品は大体把握しました、ハイわかりました」
無月「( ᯣ _ ᯣ ) じ〰️っ」
陽月「どうかしました?」
無月「陽月さん、あそこの男を監視するぞ」
陽月「了解です」
陽月「(真剣な顔つきだ…さっきまでとは大違い)」
異様に近づく無月
無月「( ᯣ _ ᯣ ) じ〰️っ」
電話男「(なんだアイツは…)」
無月に警戒し、メイン会場の方へ去っていく男。
陽月「注意喚起しなくてよかったんですか?あれ多分転売ヤーでしょ」
無月「転売を生業にする人間に正論を投げても意味はない、話が通じるならそもそも転売などで生計は立てない、もっと地に足の着いた仕事を選択するはずだ、そうでないと人生つまらなくなってしまう」
陽月「それだと問題は解決しないと思いますけど」
無月「転売屋に大打撃を与えられる可能性があるとすれば、それはイベント関係者とメーカーさんの連携による『複数の対策』だ、俺たちが直接注意喚起してもトラブルに繋がる可能性が高いし、何より今イベントを楽しんでいるお客様達の楽しい時間を奪いかねない」
陽月「( ´ºωº` )ポカーン」
無月「とりあえず、次は外のブースを見回るぞ」
陽月「ハイ」
野外でも体験会やライブイベントが開かれている。
『クロスゴマ』の体験会を見つける無月。
無月「|・ω・`)コッショリ」
陽月「何してるんですか」
無月「いや、昔遊んでいたバトルホビーの体験会が開かれていてさ」
陽月「もう、バトルホビーなんて子供がやる遊びじゃないですか」
無月「ははは…勿論、中学生の頃の話だよ(;´▽`A``」
無月はとある理由から数カ月前まで最新シリーズを遊んでいたことは伏せていた。
陽月「(嘘がつけない性格なのね)」
理由は伏せるが、鳳は無月が最近までクロスゴマを遊んでいたことを知っている。
若い男A「あそこに限定コマが置いてあるから、あれを大量買いして転売しようぜ♪」
若い男B「人数がいれば購入してもいいと言われたぜ、チームの奴らに連絡しよう♪」
無月「おい、そこのお前、ちょっと来い」
若い男A「なんだよ、おい、離せって…」
男を強引に連れ、イベントスタッフさんに何やら交渉する無月。
イベントスタッフ「えぇ、コマバトルで負けた方が大量のコマを対戦相手に提供する?そ、そんなこと容認できませんよー」
陽月「ちょっと、無月さん、どういうことですか」
無月「(`•︵•´) キッパリ!!」
陽月「(これは絶対引かないやつだ…)」
「まぁ、面白いじゃないですか」
横から割って入る男。
イベントスタッフ「あなたは、轟将騎さん」
轟「そのバトル、僕が立会人になりましょう」
目を合わせる無月。
無月「(まさかこんな形で遭遇するとはな…)」
イベントスタッフ「かなりの特例ではありますが、こちらのスタジアムを使い、対戦を行ってもらいます」
ギャラリーA「何あれ?なんかのイベントか?」
ギャラリーB「なんか玩具のコマでバトルするみたいよー」
若者B「お前、使うコマあるのか?」
若者A「何言ってんだ、さっき大量に買った限定コマがあるだろうが」
若者B「あ、そうか、あれにはシューターも付いてるんだっけか」
取り出されるメタル加工が施された限定コマ。
陽月「無月さん、クロスゴマ今持ってるんですか?」
無月「ポカ━( ºдº )━ン...」
陽月「ないんですね」
イベントスタッフ「えー、貸出ベイがありますので、こちらの複数のコマから選択お願いします」
青、赤、黄のクロスゴマが並べられる。
無月「この赤いコマは確か」
陽月「(大丈夫かなぁ…)」
無月「このスカーレットガルーダTPでお願いします」
イベントスタッフ「(新発売のガルーダを選択したか、もしかして経験者か?)」
轟「(彼がどんなバトルをするのか見物だな)」
謙吾「どうやら面白い場面に間に合ったようですね」
轟「君は確か、無月君の弟さんだよね」
謙吾「ご存じでしたか、どうも初めまして、犬星謙吾です」
轟「轟将騎だ、よろしく!」
握手を交わす二人。
謙吾「さぁバトルが始まるみたいですよ」
轟「ところで無月君はクロスゴマ強いのかい?」
謙吾「強いっていうより、兄さんが遊びにハマると侮れないって感じですかね」
轟「侮れない?」
謙吾「遊びにハマった時の兄さんは誰よりも頼りになる、子供の頃からそうなんです」
轟「僕も噂は聞いていたよ、面白い奴がいるってさ」
謙吾「自分よりも他人が大事なんてこと掲げちゃう人ですからねぇ、弟としては結構心配になってます(;´▽`A``」
轟「まぁ、彼なら大丈夫さ」
イベントスタッフ「それでは、3ポイント制1本勝負、両者準備をお願いします」
シュートポジションに立ち、構える両者。
若者A「ん、左利き?」
グリップを装着せず、シューター単体の状態で無月は右手でシューターを持ち、左手でワインダーを握る。
轟「彼って左利きなのかい?」
謙吾「兄さんは左利きですよ、ただ、クロスゴマの時は左手でシューターを持って、右手でワインダーを引くんです」
轟「それはなんでだい?」
謙吾「兄さんが言うには、クロスゴマに必要なのは、『パワーではなくシュート精度』だそうです、つまり、力任せにワインダーを引き切っても勝率は上がらないという考えです」
轟「そんな彼が左手でワインダーを引こうとしている、どういう意図なんだろうか」
謙吾「多分、正確性よりも本気で倒したい場面ってことだと思います」
轟「なるほど、滅多に見れない試合ってことか」
無月「(スカーレットガルーダは高さを変化させることができるコマ、相手のコマは連続攻撃特化のコマ、ここはハイカスタムとあの技を使うべきか」
イベントスタッフ「それでは、バトルを開始します、3・2・1、ゴーシュート!」
若者A「いっけー!」
ギャラリーA「なんだあの構えは、打ち出したコマが超斜めになって回ってるぞ」
無月はシューターを前に傾け、ハイカスタムに設定したガルーダを傾ける形で打ち出した。
「ガッシャーン」
両者のコマがぶつかり合う。
若者A「よし、サイクロンダッシュだ!」
最新クロスゴマのギミック「サイクロンダッシュ」外周部分に設置されたギザギザのラインに軸パーツが噛みあい、予測不能の高速ダッシュを実現するクロスシリーズならではのギミックだ。
超高速アタックがガルーダに襲いかかる。
無月「ガルーダ、カウンターアタック…」
過剰に傾いたガルーダが高速ダッシュしてきた相手コマの中段パーツにカウンターを決める。
「ジャキーーーン」
バラバラに分解される限定コマ、バロストというコマのロックが外れ、自らバラバラに分解されるギミックであり、そのバロストを誘発させることでポイントを得られる。
若者A「くそぉ、負けちまった」
無月「3ポイント制だから、まだ試合は終わってないぞ」
イベントスタッフ「無月選手、2ポイント獲得、両者準備をお願いします」
轟「あんな勝ち方もあるのか、奥が深いね」
謙吾「数カ月前に母から、あの子がシュートの練習をしてるわよって聞いてましたが、あれだったんですね」
2戦目が始まる。
イベントスタッフ「それでは、2戦目を始めます、3・2・1、ゴーシュート!」
若者B「限定コマを大量にゲットできるチャンスだ、勝てよー」
若者A「他人事だと思いやがって、こうなりゃやけくそだー」
無月「(今度は純粋な低重心とサイクロンダッシュを活かす)」
「ギュル、ギュルルーン」
ガルーダは限定コマを置き去りにし、超高速で外周へと向かう。
無月「ガルーダ、実力を魅せろ!サイクロンダッシュ・F!」
「ガキーーーン」
ガルーダのサイクロンダッシュによるアタックを受け、大きい穴に吹き飛ばされる限定コマ。
イベントスタッフ「勝負あり、無月選手が3ポイントを獲得し、5ポイントを先取!無月選手の勝利となります」
若者A「くそぉ、これで俺たちがコマを大量提供するのか…」
無月「君達が大量に購入したコマを俺が定価で買い取ろう、それでこの件はチャラだ」
若者B「それってあんた得してなくないか?」
無月「俺の目的は本来お客様の元に届くべき商品を奪還することで君達を懲らしめることじゃない」
若者A「それじゃこれ合計で〇〇万円だ」
無月「(๑°⌓°๑)ポカーン」
額に驚く無月。
謙吾「ヤバイ、あれはお金が足りない時の顔だ」
轟「僕が行こう、君はお兄さんにバレないようイベントを周ってくるといい」
謙吾「助かります、兄さんを頼みますね」
轟「そのコマの代金、僕が出そう」
無月「いいんですかぁ助かります.。.:*・'(*°∇°*)'・*:.。.」
轟&鳳「(カワ(・∀・)イイ!!)」
無月「コホン、限定コマは誰かに高値で売るために存在しているじゃない、企業さんとコラボによって、クロスゴマが盛り上がるようにと発売されているものなんだ、今後は過度な購入は控えてもらえると助かる」
若者A「わかったよ、ただ、最近物価の上昇で小遣いがなくてさ…」
無月「少しづつ、日本は変わりつつある、しばらくすれば京都でも雇用の見直しが実施されるはずだ、安心しろとは言えないが、まだまだ若いんだ、徳を積める人間になりなよ」
無月「グッ(๑•̀ㅂ•́)و✧」
若者A「(めっちゃいい人やん…)」
若者たちと別れ、陽月の元へと向かう無月。
無月「ところで轟さん、そろそろステージイベントがあるんじゃ…」
この日は超人気アニメ「英雄学園」の人気声優3人が集うイベントが開かれる予定だ。
轟「あっ、忘れてた、ごめん、急いでステージに向かうよ」
陽月「(轟さん、完全にオフモードじゃん)」
轟「凄いバトルだったよーまたねぇ~♪」
無月「コマの件ありがとうございましたー」
陽月「無月さん、コンビニでドーナッツ買って来たので、休憩がてら向こうで食べましょ」
無月「ありがとうー腹ペコだったんだー」
二人の警護はまだ続く。
謙吾「流石兄さん、『最強の遊び人』は伊達じゃないねぇ」
猫山「異名としては、無月から取って『零の星』とかカッコいいかもですねぇ」
謙吾「いいねぇ(・∀・)ニヤニヤ」
子供「ママ、あそこのお兄さんたち、なんであんなニヤニヤしてるの?」
お母さん「もう、怪しい人達を指さすんじゃありませんっ!」
無月の活躍について話しながら、白い目で見られる二人であった。