第1章妖怪飛脚 YOSIWARA妖怪事情 3
まだまだこれから!
「『科学(science)』と妖怪とは、全く別のもの。むしろ、互いに相反する位置関係の存在ではありませんか? 」
そういう疑問が、NAGASAKI出島の商館のカピタンの話を聞いているショーグンヨシムネの心に浮かんだ。
NAGASAKI出島の商館のカピタンは、ショーグンヨシムネの心を読み、ショーグンヨシムネの疑問に答えるような方向に、話の流れを変えた。NAGASAKI出島の商館のカピタンの話の内容は次のようになる。
* *
人間は、原始の時代から長い時間をかけて「科学(science)」という知的活動によって力を得るようになった。人間は、「科学」によって、自分の周りの世界を理解し、「科学」によって自分の周りの世界の動作原理を突き止めた。
そして、人間の「科学(science)」という知的活動は、その範囲を拡げていき、今度は人間は、自分たちが、突き止めた自分たちの周りの世界の動作原理や世界の仕組みに則って様々な工夫を行い、発明を行い、力を得るようになった。
人間にとっては、はじめは、畏れていた自分たちを取り巻く周りの世界であったが、「科学」という知的活動が生んだ力によって、自分たちの周りの世界と協調し、自分たちの周りの世界から力を手に入れていった。最後に人間たちは、自分たちの周りの世界を下僕として利用し、支配し始めた。
このような結果、人間は、変わっていった。
人間は自然を敬い、畏れていた神への信仰を失い自分たちの周りの世界や、自分たちの心の中から、神や信仰の居場所を奪ってしまった。これは、人間の心に棲み着いた「科学的な発想」が原因であるとも言えるだろ。
しかし、「科学」は、人間に不幸をもたらすことはないという、人間たちの思惑は外れ、「科学」と言うもののせいで、もともとの神の居場所やもともと信仰があったところに隙間が生じてしまうこととなった。以来、心の隙間は、何かによって埋められることはなく、人間たちの心に、空虚な隙間となって残り、この空虚な世界や心の隙間から、人間たちの心に、孤独感や孤立感が生まれ、いつの間にか人間の人生とは、孤独感や孤立感に耐えて、孤独感や孤立感をやり過ごし人生の終わりを待つ、そんなものになった。
多くの場合、人間の心には、人間の孤独感や孤立感につけ込み、人間たちの心に迷信、悪霊、妖怪の類が棲みついた。
そして、信仰のない、神のない世界とは、あるいは時代とは、些細な創でも癒やされるとこのない、ささいな憎しみも人の心に深く残りなくなることはない時代であり、世界である。また、この世界、この時代においては、悲しみも人の心に長く、長く留まるという時代であり、世界である。
ショーグンヨシムネは、出島のカピタンに少し気分を害したようだった。ショーグンヨシムネは、言った。
「しかし、日本は貴方の国とは違う八百万の神の国だ。それを私は幸いに思う」
しかし、ショーグンヨシムネの考えは、すぐにNAGASAKI出島の商館のカピタンによって否定された。
「百年前のヨーステンのドラゴン事件以来、私たちの世界とあなたの国ジパングは、同じ運命を歩んでいるのです。人間は、『科学(science)』をさらに活用し、世界の完全な独裁者となろうとしています。人間達の『科学』は、急速に発達、発展しています。それは、かってないほどの勢いです。世界がどう変わるのか、人間の心は、世界の変化に耐えていけるのか、先のことは私にも分かりません」