第1章妖怪飛脚 YOSIWARA余情 追加2
まだ続きあり
☆YOSIWARAの門☆
与平らは、今回はいつもと違う、お大尽の遊びをYOSIWARAて堪能することになりそうだ。いつもは、親方の言いつけで、連絡や仕事の手配で、YOSIWARAにやってきていた。
YOSIWARAは、その頃には、高級な店ばかりエリアでありで、若衆たちには、敷居が高かった。
その日、親方は、自分の世話している若衆たちに向かっていった。若衆たちには、与平ももちろん入っている。
「今日は、仕事を早く切り上げて、皆で、YOSIWARAでお大尽の遊びを堪能することにした。今日は、俺たちにも、YOSIWARAでお大尽の遊びを堪能することができるぞ。こんなチャンスには、俺は二度と巡り会うことはないような気がする」
親方の予言は当たった。お大尽の遊びに必要な最高グレードの料亭と最高の花魁たちの手配はもう済んでいる。
与平や、親方が世話している若衆の一行は、YOSIWARAの門にやってきた。
この若衆を、料亭で会を開き、有名で、一級品の花魁を座敷に呼ぼうという準備は万端:調っている。
あとは、親方が来るのを待つだけだ。
これは、普段なら親方や親方の若衆、与平らにとって、まさしく身分不相応な、無謀な振る舞いであった。
与平らが座敷に呼ぼうという花魁は、本来は「高嶺の花」、YOSIWARAの案内書「吉原細見」によって判断するには、本来は俺たちには縁のない、その評判と名前だけしか知り得ない存在の花魁であった。一言に言えば、特級品の花魁たちであった。
しかし、本当にそんなことが夢のようなことが可能か? YOSIWARAにたどり着いても、与平らの心から、不安は消えていなかった。
超高級花魁と一夜の恋。少しの疑念もないかと言えば嘘になる。与平や与平とともにやってきた若衆の中には、ここに来ても、YOSIWARAでの豪華宴会を信じきれない気持ちはあった。
肝心の親方がまだ現れていなかった。
親方から言ってきた待ち合わせ時間が迫っている。このことから与平や若衆の不安は増大していった。
「それにしても、話がうまくいきすぎる。あまりにも出来過ぎた話だ。それにしても親方のいうお大尽を遊び、真に受けても良いのだろうか?」
与平らと親方の合流が遅くなり、必要のない心配に頭を悩ますことになった。
豪華宴会に必要な手はずは万全に整っているはずなのに、それでも、なにもかもが不確実に思えてしまった。これが待つ身のつらさというものであった。
実は、その日、YOSIWARAでは、宴会や会合のあらゆる予約という予約が、入っていた予約の全てがキャンセルになり、そのために超一流どころの花魁までもが「お茶を挽く」異常事態が、発生していたのだ。これは、単なる偶然か? あるいは、親方はこうなることを何かの手段で親方は予見していたのか?
その日は、ずっと以前から、予約が捌ききれないほどの数入っており、YOSIWARAは前代未聞の大盛況の一夜を体験するはずであったのだが、前の晩からなぜか急にキャンセルが入り始めた。当日になってみると、料亭や置屋の関係者は、やがてこのキャンセル具合が数の多さがただごとではないことを知ったのだ。
普段ならいくら金をつんでも相手にもされないような料亭を訪ねていき、与平は、親方に言われたように、「突然で申し訳ないが、一介の職人が本日一晩宴会を開くことはできないだろうか」と、おっかなびっくりで料亭の番頭にきいてみた。
与平の問い合わせに、大料亭の番頭が、大いに喜んで、与平や仲間の若衆のために、職人や土方のために、最高の料理と花魁の宴会を設定してくれるというのであった。しかも、格安プランの料金で。
こういうことは、普段のYOSIWARAでは、起こりえないことであった。100年待ってもこんなことが再び起こることはない。料亭『吉野家』の番頭は断言した。
確かに、かってこんなことがあったろうか? この日に限ってYOSIWARAのすべての店が例外なく、閑古鳥が鳴く非常事態に至っていた。この期に及んで、どこの料亭でも、客を選んではいられない。そんな一日であったのだ。
「いいじゃないか。お前たちが得をする機会がやってきた。おまえたちには一生縁がないように一流どころの花魁を今日は俺たちの宴席に呼べる。その幸運に、理由なんか必要はないだろう」
そう、与平の報告を聞いた親方は言った。
しかし、親方は、自分の予知能力について話すことはなかった。
「気にしても仕方ない。確かに、親方の言うとおりだ」
若衆の兄貴分で、教育係、現場の監督も任されている春児という兄貴分は親方に同調して、言った。
与平や若衆たちは、親方が来るのを待つ間、普段は興味を持たない夜のYOSIWARAを散策してみた
与平らがやってきたYOSIWARAは、とっくに日が落ち、屋台がすでに並んでおり、いろんないい匂いが漂い、与平の行く先々で溢れていた。それほど、人通りは、閑散としていた。
ところで、与平の身なりは、1級の花魁の相手としては、惨めを超えて、悲惨の領域に入っていた。
与平は、今日それに気づき、客として恥ずかしくもあった。
しかし、それでも結局与平らは、、仕事帰りの汚れた、着古した仕事着で、打ち合わせとか、店との交渉したときと同じ格好でYOSIWARAにやってきていたのである。
親方がやってきたら、料亭に行く前に近くの風呂屋に入れば良い。与平らは考えていた。