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第1章妖怪飛脚 YOSIWARA余情 追加1

「YOSIWARA余情」の続きです。全体の半分いかないくらいのところです。

あの 大飢饉で、ジパングのありとあらゆるところにある町で飢饉のため多くの人間が死んでいった。


それから時が過ぎた。十年が過ぎ、さらに数年が過ぎた。


与平は、今でもだれもの頭に鮮明に記憶の残る、あの年の大飢饉の冬を地域の中で奇跡的に生き延びていた。


あの時、与平に何が起こって生き延びることができたのか?


死にかけた中で、与平は、あの時何を見たのか? それについて、与平は語らなかった。


与平が自分のことで人に話すのは、自分がいつの頃からか、誰の子とも分からない幼児を親切な夫婦に育てられ、飢饉の時からすればとても恵まれた家庭で、成長していったこと。その時のその親切な夫婦に実の子のように育てられた頃の幸せな思い出だけである。


与平は、独立心の強い子供で、この親切な育ての親の元から離れていった。


そして、与平は、旅を始めた。


やがて、与平は、居場所を見つけた。


与平は、江戸は、浅草寺せんそうじ)門前町の繁華街の近くに住む、とある親方に世話になっていた。


与平は、その親方の抱えている大勢の若衆と呼ばれる、若者の一人として働き、少しづつ、大事な仕事を任されるようになっていた。


与平は、仕事はできても、ちょうど思春期のなかなかソワソワの落ち着かない年頃であった。


与平は、YOSIWARAという大人の町で暮らしているせいもあり、異性には、人並みに関心がある様子であった。


ところで、与平が大切にしているもののひとつに、『吉原細見』というものがあった。与平は、このYOSIWARAの遊女の名を記した案内書を肌身離さず大切に持っていた。


与平は、このボロボロの『吉原細見』という案内書を道で拾ったといっていた。


与平は、『吉原細見』、この案内書に登場するYOSIWARA界隈の遊女のことを含め、YOSIWARAの仕来りに詳しかった。ときどき、親方の指示で、用事のためYOSIWARAに頻繁に出入りしているため、YOSIWARA全体の内情や噂にも詳しかった。


与平が、読み込まれボロボロになった『吉原細見』、YOSIWARAの遊女の名前を記したこの案内書を肌身離さず持っており、いろいろ花魁について情報を集め、それに基づいて、与平は、自分の心の中に、自分の花魁番付を作っていた。


与平がボロボロのYOSIWARAの遊女の案内書を始終持ち歩くというのは尋常なことではなく、与平がその『吉原細見』でよからぬことを毎日想像しているのでは、与平は、よからぬ人物として周りでそういう噂になることもあった。


与平の親方がそんなある日、与平のことを呼んだ。


与平が、親方のところにやってくると、親方は浮かない顔をしていた。


与平は、警戒した。与平は、仕事のことで小言でも言われるのだろうと思った。


与平が親方のところにやってくると親方は姿勢を正し、咳払いをした。


親方の話し方は、いつもよりかしこまっていた。


「俺は、お前たち若い衆の親方だ。お前たちは若くて未熟なところもあるが、お前たちには仕事でずいぶん力になってもらっている」


親方は続けた。


「だから、俺は、お前たちのことをいろいろと世話を焼いてやる必要がある。この若い衆の世話というのは、親方の大事な仕事だと言うことは俺も十分に承知している。ということで、今日は、与平、お前を呼んだ話というのは、YOSIWARAで、若い衆を慰労する宴会を開こうという話だ」


親方の話を、聞いてはじめは、親方の言っていることの意味が飲み込めなかった。


親方は、そんな与平の為に意味深なイヤらしい顔を作って見せた。


ようやく親方の話が飲み込めた与平は、言うに言えない暗い顔つきになった。

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