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家に帰ると、子供たちは姫様と遊んでいて笑い声が屋敷に響いている。


「子供の声があると家が明るくなっていいわね」


キッチンへ向かうとお母さまがお昼ご飯を作っていた。

手を繋いだままの私たちを見て口に手を当てて大げさに驚いている。


「あらぁ、もしかして孫の顔がすぐ見られる感じかしら」


「お母さま・・・」


何て言う事を言うのだと思ったがアルベルト様は母にニッコリと微笑んだ。


「そうですね」


「えっ?」


驚く私の顔を見て、アルベルト様は意地悪く笑った。


「アローム様とお話してくる」


レモンをテーブルに置くと速足でキッチンから出て行ってしまった。


「お母さま知ってたの?」


レモンをボウルに入れながら聞くと母は頷いた。


「最近、お父様に聞いたのよ。アルベルト君が実はウチに結婚を申し込んでいたって。でも私たちに言うと余計なお世話をするから本人たちに任せなさいって釘を刺されたわ。でも良かったわね。おめでとう」


親に言われると少し照れくさい。


「ありがとう」





お昼ご飯を食べて午後になると遊び疲れたのか子供たちはお昼寝をしてしまった。

微笑みながら姫様はミンティちゃんの頭を撫でている。

子供を見守る女神の絵を見ているような美しい光景に私は一瞬動きが止まってしまう。


「どうしたの?」


入口で立ち止まっている私にアルベルト様が後ろから声を掛けてきた。


「姫様がお綺麗で、あまりにも美しい光景に見惚れていました。」


「まぁ、お綺麗だよね」


アルベルト様は慣れているのか姫様の美しさを気にした様子もなく部屋へと入っていく。


「姫様、書類にサインをお願いします」


渡された書類にサインをしながら姫様はアルベルト様を見上げた。


「バイウェイ、今日はもう来ないのかしら」

「さぁ、どうですかね」


美しい姫様の傍にいて、なぜ私の事を好いてくれているのかさっぱり分からない。

アルベルト様は書類の確認していると、子供たちが起きてきた。

目を擦りつつ、あたりを見回し姫様が傍にいることに気づいて近寄って膝の上に頭を乗せた。

本当に姫様に懐いており、私たちにはちっとも懐かない子供達。


「のどが渇いた」


「ちょうどレモンを買ってきたのでレモンジュースを作りますね」


私が言うと姫様が頷いた。


「ありがとう。いいお天気だから外でいただきましょうか」


庭にあるテーブルと椅子を見て姫様が言うと子供たちは喜んで庭へと駆け出していく。

平和だなぁと思って子供の背中を見ていると、アルベルト様が腰の剣を抜いて駆けだした。

あまりに突然の事で、動けないでいるとドアからお爺様も剣を片手に走ってきた。


「なにかあったのですか?」


驚いて声を出せない私のかわりに姫様が立ちあがってお爺様に聞いた。


「敵が入り込んだ気配がする」


お爺様は姫様を背後に守りながら辺りを見回した。


「アルベルト様は庭に・・」


庭を見ると剣を持ったアルベルト様が険しい顔をして前を見ている。

目線の先には二人の男が子供を抱えて立っていた。

子供の首にはナイフが当たっている。


「ひ、人攫い?」


驚いて叫ぶ私にお爺様が否定した。


「違う、狙いは姫様だ」


姫様は青い顔をして子供のもとへ駆け寄ろうとしてお爺様に止められた。


「あの子たちが危ないわ。そこの者、私が目的でしょう?」


姫様が大きな声で言うと男たちは頷く。

黒ずくめで顔は見えない。


「私が行くからその子たちは離しなさい」


姫様は凛として男たちに告げた。

怖がる様子もなく男達をじっと見つめている姫様に男たちは顔を見合わせる。


「マリアンヌ姫様をお連れできればそれでいい。命も取らないし怪我もさせない」


「そういう問題じゃないんだよ」


アルベルト様は剣を構えながら攻撃する隙を狙っている。

お互い睨み合っていると、どこかからか飛んできたナイフが黒い男の肩に刺さった。

もう一人の男にもナイフ飛んできて腕に命中する。

その隙にアルベルト様が男に飛びかかりあっという間に二人を斬りつけた。

子供たちは泣きながら男たちの手を離れ姫様に駆け寄ってくる。


「無事か?」


息を切らせてバイウェイ様が姫様と子供のもとへとやぅってきた。


「今、剣を投げたのはバイウェイ隊長?」


恐怖でまだ動けない私が言うとお爺様が頷いた。


「バイウェイそいつらは?」


「隣国の王子の手の者です。王子は攫ってでも姫様を自分のものにしようと思ったらしいです」


「金でも積んで攫おうと思ったか。子供を人質にとるとは糞みたいなやつらじゃな」


庭ではアルベルト様が斬った男たちが動かないように見張っている。

するとバタバタと足音が聞こえ数人の騎士がやってきた。


「遅い!」


アルベルト様が文句を言うと、騎士の人達は息を切らせている。


「バイウェイ隊長が早すぎるんですよ。こいつらを捕まえてバカ王子が命令した証拠をつかんであっちに言えば、姫から手を引くと思うって王様からの伝言です」


お爺様が軽く手を振って答えた。


「うちの庭が汚れるから早くその者たちを連れて行ってくれ」


「はい!失礼しました」


騎士達はあっという間に倒れている男たちを縛って連れて行ってしまった。


「姫様、遅れて申し訳ございませんでした」


バイウェイ隊長は姫様の前に跪いて頭を下げた。


「私の事よりも子供たちに何もなくてよかったわ」


先ほどの出来事にも動じず姫様はいつも通りにっこり笑って子供たちの頭を撫でている。

そんな姫様を見上げてバイウェイ隊長は苦痛に顔を歪めた。

いつも無表情の彼の顔が変わるのは初めて見た。


「姫様の身が何より大事でございます。私の娘たちの身代わりなど今後もお考えになりませんようにお願いいたします」


「どうして?バイウェイの宝物だもの、私にとっても宝物よ。命を懸けて私も守るわ」


「止めてください。お願いです。私はマリアンヌ姫様にそのようなことを言っていただくような人間ではないのです」


「バイウェイが亡くなった奥様を愛していることは知っているわ。2番目でもいいの。愛を返してくれなくてもいいわ。私から逃げないで・・・お願いよ」


剣を持った敵の前では凛としていた姫様だったが、泣き出しそうな声でバイウェイ隊長の顔を覗きこんだ。

どうしたものかとアルベルト様とお爺様を見ると軽く首を振っている。

口を出すなという事らしい。



「どうして、どうして姫様は私にそこまで想いをよせてくれるのですか。子持ちの私など姫様にふさわしくありません」


「ふさわしいかどうかは私が決めるわ。バイウェイを愛しているからよ。それだけではダメなの?」


「どうして・・私なのですか・・美しい姫様にはもっとふさわしい方がいます」


バイウェイ隊長は俯いて涙を流している。

子供たちは心配そうに近寄って抱きしめて困ったように姫様を見上げた。


「姫様・・どうしよう。お父さん泣いている」


「そうね。私にふさわしい人は貴方よ、バイウェイ。私を受け入れてほしいわ」


涙を流して俯いてしまっているバイウェイ隊長を姫様は子供ごと抱きしめた。


「席をはずそう」


お爺様に言われて私はアルベルト様に背中を押されて廊下へと出た。

廊下には父と母が心配そうに立っていた。


「どうなると思います?」


私が聞くと、アルベルト様は肩眉を上げる。


「バイウェイ隊長が折れると思う」

「そうじぁな。あんなに愛を伝えられたらさすがの堅物も折れるじゃろう」


お爺様も頷いた。




しばらく二人は話し合いをしているようで、バイウェイ隊長は事件の処理をしに帰って行った。


アルベルト様はまだ休暇中だと言って我が家に居る。


「長い間、お世話になったわ。そろそろ城に帰ります」


寝る前のハーブティーを淹れて姫様の部屋を訪れると、姫様は畏まって私に言った。


「まだ家にいて下さって良いんですよ。隊長のお子様もいらっしゃるし」


私が言うと姫様は微笑んだ。


「もう迷惑はかけられないわ。それにバイウェイが前向きに考えてくれるって言ってくれたから」


「え?良かったですね」


あの隊長さんがそこまで言うのは凄いことだ。

姫様の愛の力に負けたのだろう。


「彼の傍にいられればそれで私は幸せだわ」


幸せそうな姫様の顔を見て私も嬉しくなった。


「羨ましいです」


「あら、アルベルトといい感じだって聞いたわよ」


フフッと笑う姫様に私の顔が赤くなる。


「姫様みたいな愛ではないですよ・・・」


「そうかしら?あのアルベルトが必死になってあなたの愛を勝ち取ったのよ。凄いことだわ。アルベルトはあの見た目だからお嬢様たちに人気で大変そうだったけれどやっといい人が見つかって良かったわ」


「そうなんですね」


赤い顔を隠すように両手を当てている私に姫様がそれは美しく笑った。


「幸せになってね」


「姫様も、幸せになってください」


「ありがとう。ここに来れてよかったわ」


「またいらして下さい。一緒に料理を作りましょう」



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