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翌朝、日の出とともに起床しいつもと変わりなくバケツに水を入れて鶏小屋まで歩く。

お爺様と剣の稽古をしていたアルベルト様が汗を拭きながら私の後についてきた。


「おはようございます」


「おはよう」


これもいつもと変わりない毎日。

鶏小屋の掃除をして、アルベルト様は餌を撒いて卵を回収して籠に入れた。


「今日俺も姫様と一緒に城へ帰ることにしたよ」


足元でウロウロしていたペロを撫でながらアルベルト様は言った。


「はい。寂しくなりますね」


私の答えにアルベルト様は不満そうだ。


「もっと寂しいって言ってほしい」


「十分寂しいですよ」


「休みの日はこっちに来るから。飲めなかったレモンジュースを飲ませてね」


「はい」


アルベルト様は立ち上がると私をそっと抱きしめた。

緊張して私の鼓動がアルベルト様に聞こえていないか心配になってしまう。


「正式に婚約したら今度はちゃんと結婚を申し込むから。思い出に残るような立派な演出するから期待していて」


レモンを抱えながらの告白でも嬉しかったがアルベルト様は気にしているようだ。

思わず笑ってしまった私にアルベルト様の顔が近づき、唇が重なった。


「ずっとサラの事は可愛いなって思っていたけれど、一緒に過ごして家庭的でハーブティーを入れるのも得意で料理も得意なサラの事がもっと好きになった。これからも一緒に過ごしてくれると嬉しい」


「こんな田舎がいいと言ってくれて一緒に過ごしてくれて嬉しいです。アルベルト様と過ごせるなんて夢のようだわ」


ペロが立ち上がって抱きしめ合っている私たち間に割り込んできた。


「ペロもこれからずっと一緒だ」


アルベルト様は私とペロを一緒に抱きしめて幸せそうに微笑んだ。




お昼前には姫様はアルベルト様とお爺様の護衛付きで城に帰って行った。


「お姫様帰っちゃった」


笑顔で見送っていたバイウェイ隊長のお子様二人は姫様の姿が見えなくなると落ち込んでしまったので母と私が慌てて慰める。


「大丈夫すぐ会えるわよ」


「そうそう、もしかしたら一緒に住めるかもよ」


「本当に?」


「ちょっとお母さま、あまり期待を持たせない方がいいじゃない?」


姫様の立場上隊長さんと結婚するのは難しいだろう。

子供にそれが理解できるだろうか。

心配する私に母はウィンクをした。


「あれは絶対に上手くいくわよ。あれだけ愛されて折れない男は居ないわよ。それに王様もきっと喜んで娘の幸せに手を貸すわよ」


自信満々の母の言葉は数か月後真実になった。





「ペロ!おやつだぞ!」


アルベルト様は庭に出てペロを呼んでいる。

午後のおやつを上げるつもりだろう。

吠えながら近づいてきたペロは嬉しそうにアルベルト様の顔を舐めまわしアルベルト様もされるがままだ。


「アルベルト様もおやつですよ。お茶にしましょう」


お盆に乗せていた、レモンジュースとチェリーパイを庭にあるテーブルに置いた。

アルベルト様と私は正式に婚約した。

アルベルト様が婿にくる形で、結婚したらこちらに住むことになっている。

休日には必ず我が家に来て、家族の一員として過ごしている。

祖父はやっと剣の相手ができたと喜び、父も息子ができたと喜んでいる。

母は美形を見ていると心が癒されると喜び家族全員が喜んでいる。

姫様はあれから数週間後正式に、バイウェイ隊長にお嫁に行くことが決まった。

とうとう隊長が折れたのだ。

姫様を降嫁させるにあたり、身分を与えようとしたがバイウェイ隊長は断ったとのことでその代わり大きなお屋敷を頂いたとのことだ。

アルベルト様と姫様が駆け落ちしたと言う噂はすぐに消え、むしろ姫様をお守りするため身を隠したという事になりアルベルト様の株が上がったらしい。

そして、隠れた先の領地で運命的に出会い婚約したと言う噂が流れ、私もうわさの人となってしまった。

姫様と私は文通友達になり、レシピの交換などもしている。


「そのチェリーパイは姫様が作ったんですよ。昨日、バイウェイ隊長が届けに来てくれました」


「へぇ、美味しいよ。だいぶ腕を上げたね。でもサラが作ったものが一番おいしいけれどね」


アルベルト様はチェリーをフォークに刺して見ている。


「どうせこれはサラが作ったやつでしょ」


「よくわかりましたね。作り置きしていたコンポートを姫様にお分けしました」


「愛の力だね。しかし姫様のお菓子の代表作はチェリーパイになりそうだな。城でキッチンの片隅で作っては皆に分けているらしい」


「姫様、がんばっていますね」


一途な姫様に感動をしているとアルベルト様が近づいて私を抱きしめた。


「早く結婚してここに住みたいよ。すべてが愛おしい」


田舎の暮らしごと愛してくれるアルベルト様に感謝しつつ、私も抱きしめ返した。


「もうすぐですよ。一緒にハーブの庭でも作りましょうね」


「いいね。俺の夢だ」


抱き合っている私たちの間にペロが顔を入れてくる。

アルベルト様は私とペロをギュッと抱きしめた。


アルベルト様と結婚しても私の毎日は変わらないだろう。

毎日、鶏に餌をやり、野菜の世話をして、料理とお菓子を作る。

愛しい人にお菓子を作る楽しみが増えることはうれしいことだ。

アルベルト様が我が家に住むまでにはハーブの種類を増やして美味しいハーブティーを入れる勉強をしよう。

少しでも彼が喜んでくれるように。




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