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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第7話「決闘 Ⅱ 」


 ついに「決闘」が始まってしまった。ギャラリーに視線が一気に中心へと集まる。


 先攻はマルーサ、地面を蹴り飛ばしながら真っ直ぐ向かい、拳を振りかぶった。


「うおおおおおお!!!」


「はあッッ!」


 チェリードはマルーサが拳が届く距離まで近づいてきたその瞬間、左手を前に突きだし「防御壁(プロテクター)」を展開。攻撃を防ぐことに成功。


 続いてマルーサ、勢いに乗ったまま「防御壁」に向かって、殴って、殴って、殴りまくった。


「オラオラオラァ!」


 ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! 


 チェリードが知らないうちに、彼は自身に攻撃力が上昇する魔法を付与していた。先程の一発より更に力が増している。「防御壁」と衝突した時の音が鈍くなっていた。


(中々やるな…………だけど!)


 しかし、「防御壁」は攻撃を全ていなし、チェリードの体に傷一つつけなかった。全ての攻撃は無力化されていく。


(…………やっぱりこの能力、「守る」ことにおいてはかなり強いぞ……!)



 チェリードが持つ固有能力「活命の盾(バイタルシールド)」は、「防御壁(プロテクター)」、「反射壁(リフレクター)」、「吸収壁(アブソーバー)」の三つの障壁を使うことができる能力である。


 その中の一つ、「防御壁」は近接攻撃に強く、物理ダメージをある程度無効化することができるのだ。



 殴り続けていたマルーサの勢いが落ちてきた。だんだんと殴る回数が減っていく。チェリードはただ連続で殴り続けるのは十歳にとって容易いものではない。


 このままでは体力が持たないと悟ったマルーサは攻撃を止め、後ろ側にステップしながら距離を取った。


 そして、後ろに下がりながら、


「〈初級炎魔法(イルファ)〉!!」


彼は手を前にかざし、手のひらから魔法を繰り出した。


「!?」


「イルファ」と唱えたその瞬間、サッカーボール程の大きさの真っ赤に燃え盛る炎が、だんだんと大きくなりながら出現した。そして炎は、空気を燃やしながらチェリードに向かって一直線に向かっていく。



「うわッ、あっつ!!」


 彼は咄嗟に「防御壁」を展開したはずだったが、展開するのにはあまり遅かった。炎は展開された壁と勢いよく衝突し、壁の端から漏れだした火の粉が服の裾に付着してしまった。


 チェリードは急いで服を叩いたが、それを待たずに第二、第三の〈初級炎魔法〉が繰り出される。


 チェリードは「早く展開しないと」と焦ってしまう。しかし、焦りは禁物。第二の火の玉を防いだ後、彼は別の角度から来た第三の火の玉に気づけなかった。急いで防ぐも、また漏れだした火の粉は、今度はズボンに付着した。


(くッ! 距離を取られると何もできない……!)


「へっ! どうしたどうした? そんな程度なのか?」



 マルーサは、戦いが始まる前から既にチェリードのことはよく知っていた。彼が編入した頃、素直に自分の能力をさらけ出していたことが功を奏した。


 チェリードは現在、自身の固有能力で身を守るか、マルーサに近づいて殴ることしかできない。だから彼は距離を取り、魔法を打つことに専念したのだ。


(こうやって一生遠距離で魔法打ちゃ、いつかはアイツの魔力も消えるだろ!)


「オラァ! オラァ! オラオラァ!!」


 ここぞとばかりに彼は魔法を乱射した。あちらこちらに着弾した時の煙が宙を舞っている。


 チェリードはただ「防御壁」を展開しながら突っ立っていた。マルーサの猛攻にただただチェリードは耐えるだけだった。



 さすがに疲れ始めたマルーサは一旦魔法を打つのを止め、近づきつつ彼の様子を見ようとした。


 しかし、良く見えない。地面から吹き出した煙で具体的な彼の様子がわからない。


「ちくしょう……あいつは今どうなってるんだ……?」


 魔法を打ち過ぎたことに少し反省しながら、彼はよろよろと歩きながらチェリードの方に近づいた。



 そしてその一瞬を、チェリードは見過ごさなかった。



「『反射壁(リフレクター)』!」


 右手を前に突きだし、「反射壁(リフレクター)」を展開。彼が一番最後に放った火の玉を殴り付けるかのように押し返した。


「反射壁」は物理攻撃には弱いが、魔法に対して強く、接触した魔法をなんでも弾き返すことができるのだ。



 今までチェリードが「防御壁」しか使わなかったのは、この一瞬の隙を突くためだった。



「うわっやば――――」


 ボォォォンッ!


 燃え盛る炎は勢いを増しながら、マルーサの体に直撃した。彼が魔法を受けたお腹の部分が焦げているのを確認しながら、チェリードは、


「どうだ! 俺には武器も魔法もないけど、傷の一つぐらいは付けられるんだ!」


と、力強くマルーサに指を指しながら言った。


 マルーサはお腹を左腕で抑えながらうずくまっている。


「く、クソぅ…………!」


 彼は焼けた部分がヒリヒリと火傷のように痛むのを感じながら、ゆっくりと手を付き膝を付き立ち上がり、


「これでも食らえ!〈中級嵐魔法(ウィーナム)〉」


と唱えながら、右手から小型の竜巻のような風を巻き起こし、チェリードにその魔法をぶつけようとした。


「『吸収壁(アブソーバー)』!」


 しかしチェリード、両手を前にかざし、三つ目の壁、「吸収壁」を展開した。


「んな!」


 マルーサが放った竜巻が、どんどんと壁の中へと吸い込まれていく。マルーサはその光景に口をあんぐりさせた。


「吸収壁」は、接触した魔法を吸い込み、自分の体力を回復させることができるのだ。


「よし! 体が軽いぞ!」


 魔法を吸収したことで、先程よりも彼の体が軽々と動くようになった。あまりにも急に軽くなるものだから、腿上げをしてどれくらい軽くなっているのか確認していた。


「チックショウ!」


 マルーサはチェリードを倒せないことへの憤怒とチェリードの能力への嫉妬で一杯だった。だんだんと頭に血が昇っていく。


「クソッ! クソッ! クソッ!」


 やけになったマルーサはそこら中に炎の魔法を連続で打ち続けた。


「うわっあぶね」


 やけになりすぎて、自分でもどこに魔法打っているのかわかっていないようだった。


(よし、このまま魔力が無くなれば……!!)


 そしてチェリードの期待通り、彼は魔法を打つことを止めた。後先考えずに打った火の玉のせいで、辺りが煙で見えづらい。


 チェリードは周りを警戒しながら煙が消えるのを待った。



 しかし、



「「「!!??」」」


 煙の中から現れる者は居なかった。チェリードはおろか、ギャラリーの目にすらマルーサの姿は消えているように見えた。この場にいる全員が自分の目を疑った。


「チェリード……俺を舐めるなよ……?」


 どこからともなくマルーサの声が聞こえた。前か、後ろか、右か、左か。どこを見ても、見当たらない。


 すると突然、


 ボゴォ!


 鈍い感触が脇腹を刺した。


「はぐぅ!」


 彼が知らない間に、マルーサは脇腹に拳を食らわせていた。間髪入れず、マルーサは回し蹴りを彼の太股に直撃させた。


「うがっ!!」


(ちくしょう、いったいどこから…………)


「へっへっへ……これが俺の固有能力『隠密(ステルス)』。使うと使った人の姿が見えなくなる魔法だ」


 ついにマルーサは自分の固有能力を白状した。「隠密」の効果によって、煙の中で彼は姿を眩ましたのだ。



「あ、そうだ! もしかしたら影が」


 ふとチェリードは思い付いた。もしかしたら影まで消すことは不可能なんじゃないかと。


 チェリードは白線内を隅々まで見渡したが、しかし、そこには自分以外の影は見つからない。


「バカめ! 影も一緒に消えるんだよ! おまけに足音すら出ない!」


「な、なに!?」


 なんと足音すらも消すことができるとマルーサは言った。


「これぞまさに『無敵』だな! お前からの攻撃は届かねーよ、バーカ!」


 マルーサはこの絶対的状況を前にして笑った。ただ笑い声だけがこの校庭に存在することはあまり不気味で、気持ちの悪いものだった。


 

 白線の円の中心、から繰り出される攻撃を前に、チェリードは成す術も無くただただタコ殴りにされていた。今度はチェリードが体をうずくまる番だった。


 ――――廊下に連れ出され、ボコボコにされたあの時のことを一瞬思いだし、痛みかわより鋭いものへと変化した。


「いけーー!!」

「このままやっつけろー!!」

「いいぞー! マルーサ!」


 ふと彼がギャラリーの方を見てみると、生徒のほとんどがマルーサを応援していた。それを見たチェリードは、あまりの自分の惨めさに涙目になった。


 地面にうずくまりながら、ただ地面を見ながら、ただ痛みに耐えていた。



 すると突然、


「う…………うわああああああ!!!」


「!?」



 何を血迷ったか、チェリードは子供のように泣き喚いた。膝立ちの状態で、地面の砂を掴んではそこら中に投げ振り撒いていた。


 一瞬マルーサは理解していない様子だったが、ヤケクソになった彼を見てだんだんと笑いが込み上げてきた。


「ギャハハハハハハ!! お前最高だなあ!! 赤ん坊みたいに泣きやがって!」


「何あれ…………」

「うわあ…………キモ」

「あいつダッセー!」


 ギャラリーもマルーサに吊られるように、色々と思ったことを口に出していた。困惑する者に軽蔑する者、嘲笑う者。ギャラリーはきっとチェリードを憐れむような、それでいて軽蔑しているような目で見ていたに違いない。



「さあ! そろそろ! 終わりにしようぜ! この一撃でッ! お前は終わりだああああ!!!」


 殴り続けていたマルーサは、止めを刺すためにこの至近距離で魔法の準備をしていた。しかしチェリードには何も見えていない。


「勝った!」と確信したマルーサは少し過呼吸になりながらも、大袈裟に笑っていた。


 そして同時に、


「へっ!」


 彼も笑っていた。


「ここだあーーーッ!」


 ゴキィ


 殴られた時の骨の音が鮮明に聞こえた。


「いってええ!!」


 突然顎を殴られたマルーサはよろけて後ろに倒れ込んでしまった。


「う、嘘だ!! なんでわかるんだよ!!」


 今のチェリードには、マルーサがどこにいるのかわかっていた。チェリードが真後ろを向くと、マルーサは驚きすぎて変な声が出ていた。


 

「――――いくら自分の影とか足音が消えても、そこから新しく自分に付いたものも見えなくさせるのは無理じゃないかって思ったんだ」


「…………ハッ! おいおいまさか!!」


 マルーサはバッと足元を見てみた。



 妙に湿っていた砂が、マルーサの足にわずかに付着していたのだ。


 チェリードが泣き喚いていた時のあれは、ただ

自分が負けそうになったから暴れていたわけじゃなかった。彼は地面にうずくまっている時、地面が昨日の雨で湿っていることに気づいた。


 そこでチェリードは思い付いた。湿った土は体に付着するので、もしかしたら、もしかしたらがあるかもしれないとチェリードはその可能性に賭けていた。


 そして今、作戦は成功した。


「まさか、本当に成功するとは思ってなかったよ……だってあの日の出来事がヒントになってるとはね…………」


「なんだと…………?」



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 思えばマルーサは、度々おかしなところから現れていたとチェリードは気づいた。



 例えば、ある日、いつもの廊下ではなく離れにある別の校舎に連れ出されて殴られていた時のこと。


『オラヨォ!』


 ボゴッ!!


『!!』


『コラ~!! 何やってるの~!!』


 チェリードはいつものようにサンドバッグになっていると、偶々巡回していたライナー先生が彼から右の廊下から現れて、偶然彼たちのことを見つけた。


『うわっ!! や、やべえ!』


 先生に気づいたマルーサ達は左の廊下の方を走って逃げていった。


……


………


…………


『あ、危なかったね』


『ああ…………ったく、先公のクセに』


 しばらくして、スパラとラハークは左側から戻ってきた。しかし、


『いや~今回の目眩ましは失敗しちまったかな~』


 と言いながら、右の廊下から現れた。


(あれ? なんで右から来てるんだ?)


 この離れにある棟は、本来は武器や魔法道具を保管する倉庫だったのだが、二階へと続く道が一つしかなく、それも丁度、マルーサ達が逃げていった方向にしか階段が存在しないのだ。


「目眩まし」と言っていたので、チェリードも何かしらの方法で彼が先生を撒いたことは理解できたが、どうにもその逃げ方が理解できなかった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ――――話を現在に戻そう。



「前々から思ってんだ。たまに君は可笑しな場所から現れるのを。もしかしてと思って、図書館で調べたら見つけたんだ、君の能力のことを」



 あの日、マルーサ達が帰った後、チェリードは彼の能力の正体を見つけるために図書館に行って調べた。


 そして、


『あった……!』


 彼は「隠密」という能力を見つけた。その能力の説明欄には、「自分の姿や影、足音を消せるが、他人が触ったり、外から何かが付着すると、居場所がわかってしまう」とあった。


「それで考えたんだ。どうやって居場所を探し当てようかって」


「チッ……!! それであんなお芝居まで……!!」


 偶然、運良く土が湿っていたことがきっかけでチェリードの作戦は見事に成功した。



「さあ、ここからは俺のターンだ!!」



 そして、戦いの流れは、たった今、チェリードが掴んだ。

 固有能力「活命の盾(バイタルシールド)

 「防御壁」、「反射壁」、「吸収壁」の三つの障壁を展開できる。今現在、チェリードの出せる障壁の大きさはおおよそ50cmから100cm程である。



 固有能力「隠密(ステルス)

 自身の魔力を消費し、姿を透明人間のようにその場にいる全員から見えなくすることができる。また、姿を見えなくすると同時に、自分の足音や影も消すことができる。練習次第で、他の人にも使用することも可能となる。

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[気になる点] おお!!見事な頭脳プレー!! ここから反撃か!?
[一言] ついに逆転! 王道をついていて、爽快感がありますね。しかし、この発想は思いつかなかったです。
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