第62話「到来」
『――――ふむ、それが貴様の本性か』
竜巻は去り彼が現れると、騎士は何か納得した声で言った。
「そういうオマエも、何か隠しているんだろう」
『鎧の中にか? 生憎中身は魂の成れの果てだ』
「ヘッ……そうかよ!」
閃光のように速い■■の一撃。暗黒の騎士の瞳はそれを正確に捕らえていた。
『ふんっ!』
拳を盾で防ぎ、騎士は瞬時に分身体を作り出す。背後に回ったもう一体が、彼の後方に一太刀を食らわす。
「その程度の実力じゃないだろう?」
しかし、太刀を紙一重の距離でかわした■■は瞬時に二体の兜を蹴散らし、背後の一体が下ろした剣の上に立つ。そして余裕ぶった笑みを浮かべ、
「『銃血:蜂の巣』」
右手を銃火器の大群に変化させ、一斉に射撃を開始した。
数えきれない程の風穴が鎧に空く。成す術も無く倒れる騎士の分身は、やがて塵となり消え去った。
『やるな。しかし得体の知れない武器で倒されるというのも、中々悪くない物だ』
「大したことない…………と思っていたが、オマエも大概バケモンだな」
互いに褒め合うも、その目は常に殺意に満ちている。強敵を前に、今すぐにでも殺したいという欲望、意志が前のめりになっていた。
「いくぞっ!」
『返り討ちにしてくれる!』
二人はお互いに退き、再度接近した。
――――■■は格闘、騎士は剣術。両者の戦法は違えど、その実力は互角だった。戦闘のセンスでは彼が一枚上手だが、底の見えない耐久力を誇る暗黒の騎士は一歩たりとも退かない。
「…………ハッ! おい、しっかりしろデセリン」
そして、気絶してから15分後ジェイルら目を覚ました。
「あぁ、ジェイルか…………戦闘は今どうな――――」
ジェイルに呼ばれデセリンも起きると、そこでは二人にとって、高次元な戦闘が行われていた。
「あ、あの姿は…………」
「くそっ、あいつ…………!」
変貌したチェリードを見たジェイルは、途端に彼を睨め付け怒りを露にしている。
「ど、どうしたんだジェイル。そんなに怒って」
それを見かねたデセリンが声をかけるも、
「あの悪魔…………」
「え?」
「あの悪魔だけは、絶対に許さないぞっ!!」
彼の怒りのボルテージは最高潮に達していた。
「お、おい! 待つんだジェイル!」
デセリンは引き止めようと手を伸ばしたが届かない。憤怒の鎖は、やがて――――
「ヒャハハハハハ! イイ気分だ!」
『我も昂ってきた……! 良いだろう! 切り札の一つをお見せしよう!』
一方、■■と騎士の戦いもまた、最高潮の盛り上がりを見せていた。互いにぶつかり合い、殴り合い、斬り合い…………戦いに喜びを見出だしている最中であった。
『食らえ! 死人の叫びを!〈冥華〉!』
太刀を石畳に突き刺し魔方陣を生み出すと、それは紫色のアネモネのように花開き、幾多に及ぶ悪霊や死霊がそこから花粉のように舞い上がった。
「ほう、これは…………」
自分目掛けて襲ってくる霊を、■■は腕を鎌に変え、首を刈り取るようにして一人、また一人と駆逐する。
徐々に数を増やし、捌ききれなくなると彼は、
「ハハ、こんなに多いと一斉に倒したくなるなァ!」
一つだった鎌を四重に増やし、大きく振りかぶり一気に霊を殲滅させた。
『…………フン』
騎士は兜越しにこの光景を見て笑っている。
「しかしこうも決着が付かないと、案外ツマラナイものだな」
『同感だ。こうなればこちらも――――』
その時、一本の鎖が二人の目の前を横切った。
「『ん?(あ?)』」
「殺してやる…………っ!」
殺意に満ち溢れた目でジェイルは■■の首に鎖を突き刺した。
――――憤怒の鎖は、やがて彼と騎士の昂りを断ち切ってしまうだろう。
「……ほう?」
「お前だけはっ! お前だけは許さない……!!」
『おい貴様、折角の戦いを邪魔するなよ?』
ジェイルは今まで見たことない程憎しみに覆われた顔で、彼の赤く染まった瞳を睨み付けている。
「オレがオマエに何かしたのか?」
「二年前のあの日! 二度と忘れてたまるか……!」
「あー……? いや、全く、わからんな。全く」
「殺す……っ!!」
ヘラヘラと笑う■■に全殺意を持って狙いを定め、沸き上がる全てを鎖に捧げ、原型を留めなくなるまで貫いた。
しかし、彼は当然のように全身を液体化させ、威圧するようにジェイルの目の前に姿を現す。
「言っておくが、オレは戦いは好きだ。だが、それと同じくらい争いを好んでいるわけではない」
「うるさい……」
「それにオマエはオレらの戦いに水を差した。その罪、オマエはどう償ってくれるんだよ」
「黙れっっ!!」
激情に飲まれ、到底的確な判断をする程の冷静さを彼は失っている。
「ジェイル……どうして」
止めに行くべきだ、と頭で考えていても、今の自分では止めに行くことは愚か、そこに行くことすらままならないことはわかっていたデセリンは立ち尽くすことしかできない。
――――しかしこの場にいる誰もがわからなかった。なぜ普段冷酷なジェイルが、そこまで怒りに狂わねばならないのか。
(……ッ、そろそろ限界か)
指の先から鮮血の衣が剥がれ落ちる。この状態では戦うことは困難だろう。
「ヨシ、交代だ。チェリード」
「食らえ!! 鮮血の悪魔!」
ジェイルが魔法を纏った鎖を腕に巻き付け、パンチを撃とうとしたその時、
「あ、体が戻――――」
意図したようにチェリードは乗っ取られた体に返ってきた。
「!?」
「いやいやいや待て早まるグォハァァ!」
最大火力を顔面に食らい、建物を貫通するまで吹き飛ばされていくチェリード。
「俺は…………何を…………」
やっと我に返ったジェイルは、自分の犯した過ちを知ることになる。
「おい、チェリード……!」
そして、瓦礫に埋まり負傷した彼を追いかけようとした、その時だった。
『待て、貴様』
「!?」
ブシャアァァ……
――――自分の両足が、前に転がっているのを見た。
『貴様は生かしておけなくなった。残念だが、我が好敵手の邪魔をした罪は大きいぞ』
「くっっ……」
地面に伏し、目の先にある太刀に震えながらジェイルはもう一度、自身の犯した罪を知る。
「ジェイル!!」
『貴様もだ。もし動けば殺されると思え』
「! くそっ、拘束された……」
デセリンもまた、ジェイルを助けようと駆け出したところで謎の力で動きを封じられてしまう。
『折角見つけた好敵手……恐らく彼より強い奴が現れようと彼を超える戦士はいないと、あの一瞬で確信した。』
兜の下に見える深緑色の瞳は、真っ直ぐとジェイルを睨んで離さない。
『しかし、貴様はそれを邪魔し、互いの楽しみを奪った。我は、楽しみを奪う者だけは許すことができない。生地獄を見ながら死に絶えろ!』
反論する余地もないまま、騎士は太刀を天に掲げる。
「ジェイルーー!!」
(あぁ……ダメだ。ただでさえ二人でも勝ち目が無いというのに、ジェイルまで逝ってしまったら……!)
出せる筈の無い腕を必死に伸ばそうともがく。何もすることもできず、ただただ殺られるのを見るのはデセリンにとって最悪の状況だった。
(あぁ、父上、父上ならこんなピンチ、乗り越えてしまうんだろうな……)
ふと父の顔が浮かんだデセリンはそんなことを思いながら必死にもがき続ける。無駄だとわかっていつつ、ただひたすらにそうするしかなかった。
『終わりだ!!』
「くっっ……!!」
暗黒の騎士は天に伸ばした太刀を振り下ろした。
そして次の瞬間、一筋の光が横切る。
「『聖矢・セイクリッドアロー』!」
掛け声と共に放たれた一本の矢は、神々しい光を輝かせ騎士の鎧を抉った。
『何!?』
「そ、その声は……!!」
体の束縛が解かれたデセリンが向いたその先には――――
「まだ生きていたのか、だがその命もここまでだ」
「父上…………!」
『来てしまったか……かつての勇者が』
――――かつて、「勇者」と呼ばれた男が窮地を脱するために参上した。




