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第55話「突然の果たし状」


 新学期になるも、学年が一つ増えたチェリード達はらさほど昨年と代わり映えのない学校生活を送っている。


 学年が変わるごとに行われるクラス替えによって、チェリードとジェイルとメロが(いち)組、デセリンは(さん)組、メロは(よん)組に振り分けられた。


(……まあ、俺はどうせ一人ぼっちか)


 しかし、ただでさえ友達が少なかったチェリード。唯一仲の良かったマルーサ、スパラ、ラハークの三人とは別のクラスになってしまったため、彼がクラス内で孤立するのは至極当然のことなのだ。


(ジェイルもメロも、あんまり自分から話しかけるタイプじゃねえし……ああ、編入したての頃を思い出すなぁ……)


 そんなことを考えながら過ごす毎日に、彼は正直飽き飽きしていた。



「ん?なんだこれ」


 そんな彼の元にとある一枚の紙が届いたのは、新学期が始まって一週間後のことだった。


『【果たし状】


 チェリード・ドブライへ


 おれはお前のことが知りたくなった。

 ほうかご、古い校しゃで待っている。


 同じクラスメイトのマトマ・トリュリトより』


「は、『果たし状』? てか放課後って今じゃねえかよ! 」


 丁度帰ろうとしたその時、彼の下駄箱にこれが書かれた一切れの紙が綺麗に折り畳まれた状態で入っていた。


 そしてその内容を見たチェリードは、


(うわあ……めんどくさいのに絡まれたな)


 と思いつつも、無断で帰るわけにはいかないので、指定の旧校舎へと向かう。


 今となっては懐かしさも感じる、古びた校舎の方へ歩いていると、入り口に誰か待っているのが見えた。どうやらあれが果たし状を書いたマトマ・トリュリトらしい。


「き、来たかっ! こっちだ!」


 マトマは今にも裏返りそうな声でチェリードを呼ぶ。


「お、おれがここに呼んだのは理由があるっ!」


「……俺のこと知るためにどうせ勝負とか挑むんだろ?」


「な、なぜわかった!?」


「いや、だってほら、なんとなくわかるだろ。流れ的に」


「し、しまった! くっ、もっと捻るべきだったか~~!」


 果たし状を挑むぐらいだから、きっとヤンキーのような人が現れると思っていたチェリードはその馬鹿さ加減に拍子抜けした。


「い、と、とにかくだっ! おれはお前と勝負がしたいと! そういうわけでありますっ!」


「あります?」


(ん? なんかこいつ……)


「勝負は三回戦! 試験と、それから……ええとそれから……ああなんだったっけ!?」


「なあ、ひょっとしてお前無理して――――」


「し、詳細はっ! 後日告げる! だから、それまでっ、おとなしく待ってろよ!」


 チェリードの都合など眼中にないのか、マトマはそう言い放つともの凄い勢いでチェリードの隣を走り去ってしまう。


「あ、おい! 待てよ!」


 振り向き様、反射で手を伸ばしたがもうそこには彼の姿はない。どうやら想像もつかないほど逃げ足が速いらしい。


「…………なんだったんだ、あいつは」


 嵐のような人だなと思いながらひとまず家に帰ることにしたチェリードは、ベッドに寝転がりながら果たし状の手紙を何気なく見ていると、文字がやけに綺麗なことに気づいた。


(やっぱあいつ、絶対根は真面目な奴だよな……)



 結局、次の日学校に行くとマトマが校門で待ち伏せしており、勝負の内容を教えてくれた。


「勝負は三回戦。定期試験と、剣術勝負と、固有能力で勝負だ! わかったか!」


 しかし、


「あ、悪いが二番目はできないからパスだ。俺は武器が持てない」


 彼は呪いのようなものによって武器の使用を縛られている。


「な、なに! (あぁ俺の得意分野が……)じ、じゃあ魔法で勝――――」


「魔法も使えねえんだ」


 無論、魔法もだ。


「へあっ!? どうやって戦ってたんだ……!?」


「主に固有能力だなぁ。いや、それしか使えないし」


 途中から目が点なままのマトマが面白かったのでもう少しからかおうかと思ったがチェリードだったが、


「そ、そうだったのか……すまない、お前の事情を知らなかったおれが悪かった」


 深々と謝る彼を見てる内にそんな気持ちは無くなっていた。


「――――とりあえず勝負は二回ってことでいいんだな?」


「ああ。試験と固有能力、この二つだ」


「わかった」


「(や、やった!)じ、じゃあ固有能力対決は試験の次の日にやるからな! 待ってろよ!」


「……はいはい」


 チェリードと勝負できるということがマトマにとっては嬉しいことのようだ。彼は日にちを告げると微笑を浮かべながらその場を去った。



 それから、二人はまず定期試験で勝つために勉強を始めた。


 試験まではおよそ二週間。この二週間をいかに有意義に過ごすかでこの勝負に勝てるかが決まると言っても過言ではない。


 マトマは人柄が良く周りに友達が多かったので、彼は友達に協力してもらい勉強を教えてもらうことで勝とうとした。


 一方、チェリードにそんな友達はいなく、四人の弟子に頼もうかと考えたが、そんなの柄じゃないと自分のプライドが邪魔したので最終的には図書室で勉強することにした。


 そして一週間経ったある日のこと。


 チェリードがいつも通り図書室に来ると、既に先客がそこで勉強していた。


「あら、また会ったね」


 そこにいたのは、儚げな雰囲気が特徴の薄紫色が美しい髪に引き込まれそうな濃紫の瞳の……


「あれ、会ったことあるっけ?」


 彼は()()とは初対面だと信じていた。だが、確かに彼女の姿には既視感がある。彼には既に会ったことがあるという感覚があった。


「……あぁ、そっか。ごめんね」


「なんで謝るんだ?」


「またやっちゃった」と言わんばかりの苦笑いをすると、彼女は何の躊躇いもなくチェリードの額と自分の額をくっつける。


「うわっ!? え、なんで!?」


 突然すぎて赤面する彼を無視し、彼女は優しく語りかける。


「思い出して。あなたは私を知っている。


 〈記憶付与(ギメモリー)〉」


 彼女が魔法を唱えたその瞬間、彼の脳内にはかつて存在した記憶が刷り込まれいった。


「ッ!! ハーネム……」


「そう、私はハーネムよ」


 そうだ。そこにいるのはハーネムだ。


「勝負、挑まれたんでしょ?」


「え、なんでそれを……?」


「同じクラスなの、彼と」


(確かに同じクラスなら噂で聞いたりするか……)


 そして、棚に寄りかかりながら小説を読むハーネムは、


「手伝ってあげる、勉強」


 と、横目で彼を見ながら微笑んだ。


「お、おう。ありがと……あ、ところでさ」


「じゃあ、やろうか」


「え? あ、うん……」


(そういえば前もこんな感じだったような)と思いながらも、ハーネムに勉強を教えてもらうことになったチェリード。


 言わずもがな彼女の教え方は先生顔負けであり、試験前日にもなると今まで全くわからなかった問題もスラスラと解けるようになっていた。


「それにしても教えるの上手いよな」


「そうかな?」


「そもそも知識の量が違うっていうかさ」


「知識……そうかもね、フフ」


 前回同様、勉強面で助けてくれたハーネムに自然と好意の気持ちを抱いていた。


「な、なあ!」


「何?」


「なんで俺に勉強を教えてくれるんだ?」


 そう彼が聞いた時の、小さくそっと


「あなたのこと、気になってるから」


 と耳元で囁いた声がやけに頭に残って離れない。


「………………」


 すると、放心状態になっている彼に彼女はただ一言、


「私のこと、忘れないでね?」


 そう告げて、目の前から消えてしまった。


「………………あ?」


 当然、彼は覚えているはずもなく、また彼女のことを忘れてしまっていた。


「さっきまで、俺……勉強してたんだよな?」


(誰かに何か言われたような気がしたけど……まいっか!)


「明日は試験だし、今日は帰るか」


 頭の中に靄があるようでそれを不思議に思うチェリードだったが、それを気にする様子もなく家に帰ろうとした。


 そして図書室を扉を出ようとしたその瞬間、誰かに腕を引っ張られたような感覚があった。


「!」


 驚いて振り向くと、机に一冊の本が置かれていた。恐らく()()が置いていったのだろう。


 おそるおそる近づくと、その本の表紙には「怪々奇典」と書かれている。


「なんでこんなところに……?」


 しかし彼はそれを何の気にも留めず本棚に戻した。それを不審に思うことも不思議がることも無く、ただ至って普通に本棚を戻した。



 それから、彼は明日の試験のためにいつもより早く眠りについたのだが…………


「ぐっ…………! うっ…………!」


 その日は悪夢に(うな)され、思うようにぐっすり眠ることができなかった。


 悪夢の内容は、四方八方を埋め尽くす恐ろしい顔に囲まれながら笑われるというものだった。


『………………に……て……』


「くっ……来るな……っ!」


『……っしょ…………て…………おね……』


「はっ……はっ……はっ……来るな!!」


『ほん……に…………あ……たの…………』


「ハッ!!」


 目が覚めると、そのときにはもう夢のことなどとっくに忘れていた。



 今日は定期試験だ。

 マトマ・トリュリト

 固有能力「????」

 Ⅱ組のとあるクラスメート。両親の影響からなのか常に志の高く強気な性格の持ち主である反面、常にその声は微かに震え、その顔はどこかぎこちない。

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