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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第53話「寂しさを埋めて」


「そうか、やっとわかった」


 はらりはらりと落ちる一枚の紙を見ながら、ジェイルは心の内で一つの確信を得た。


「……わかったからこそ、俺がすることは何もなくなってしまった。すまない」


 消えた生徒に語りかけるように呟いた彼は、「↑バカ」と書かれた紙を拾ってその場を後にした。



◆◇◇◆



「なに? 連れ去られた人の共通点がわかった?」


「間違いないんだな!? ジェイル」


「ああ」


 彼は帰宅後、早速情報を共有しようと寮の全員を集め、報告することにした。


「……うーん」


「チェリード君……! おじさん! 起きました!」


「うお、ついにか!」


 同時刻、孤毒に奇襲を仕掛け、気を失っていたチェリードがついに目を覚ます。


「メロ」


「よかった……! もうずっと起きないのかなって――――」


「俺、やっとわかったんだ」


 そして彼もまた、あの一瞬の間で判明したことをメロと男に報告しようとした。



「早速だが、ここ数日立て続けに起きている人が消える事件について、被害者の共通点がわかった」


 ジェイルが調べていた数日間、人が突然消息を絶つ現象が頻発しており、国も正式にこれを「事件」とし動いていた。しかし、彼は国より先に事件の真相に辿り着いたのだ。


「消えたのは、周囲から孤立した人だ」


「孤立した人……だと?」


「それってつまり、独りぼっちってこと?」


「ああ」


 消えた人の情報が細かく書かれたメモを見せつけながら、ジェイルは話を続ける。


「ここに書いてある通り、消えたのは独身や友達のいない人、一人で仕事している人や周囲から虐められる人など、どれも決まって()()の状態でいることが多い」


「本当だ……! 他の人も全員孤立した状態にいる人たちばっかりだ」


 さらに、彼は先程拾った紙をポケットから取り出す。


「俺が最後に聞いた奴もクラスで虐められてる奴だった。そしてそいつは『鐘の音が聞こえる』って言いながら目の前で消えた」


「お前も見たのか……」


「はい、師匠。何の前触れもなく消えました」


「そうか……」


 師匠はテーブルに置かれた紅茶を飲み、渋い顔をした後溜め息をついた。


「とりあえず共通点は見つかったけど、問題は……」


「ああ、なぜ孤立した人だけが消えるかだ」


 デセリンの言う通り、共通点が判明したと言えど、肝心の理由を見つけることがジェイルはできなかった。


「独りぼっちな人ばっかを集めて、何がしたかったんだろーね?」


「それがわかったら苦労しない」


「「うーん……」」



◇◆◆◇



「ふーん。で、何がわかったんだ?」


 一方、チェリードは二人に作戦中気が付いたことを言葉にした。


「あいつらの行動してる理由だよ。多分、あいつら寂しさを埋めるために皆で集まって遊んでたんじゃないかなって」


「『寂しさを埋める』? おいおい何言ってんだよ??」


 ちっとも理解しようとしない素振りを見せる男にチェリードは内心苛立つ。が、説明しないことには始まらないので、彼は男の態度を無視し話し始めた。


「あいつらの名前は『没魑(ぼっち)』。孤立するのを恐れて、群れで動いているんだ。


 そしてそのボスが孤毒(こどく)。自分の寂しさを埋めるために、孤毒自身が作り出した世界に人を引き込むんだってさ」


「へえ~~! そんなことよく知ってるな~! どこで知ったんだ?」


「図書室にあいつらの情報が載ってる本があったからそこで」


「(ん……? それってまさか()()()の……)」


「ん? おっさんなんか言った?」


「いやいや~! なにも?」


「…………? まあいいけど、とにかく!」


 バッ! と目の前の机を叩き、


「俺たちはどうにか、あいつらの『寂しさ』を無くさなきゃいけないってこと!」


 と二人に強い口調で言った。すると、二人は互いに顔を合わせて困惑の眼差しを彼に向ける。


「といってもよ、どうするんだよ。どうすれば寂しさが無くなるんだ?」


「そ、そうだよ! 私たちじゃどうすることも……」


「待つ」


「は?」


「あいつらの気が済むまで遊ばせる」


「おいおいまじかよ……」


 全てを理解しているかのような自信に満ち溢れているチェリードから発せられたのは、意外にも「待機」の言葉。


 まさかの作戦に、二人は更に困惑した。


「待つって、ほんと……? 本当に言ってるの……?」


「だってそれしかないんだから」


「…………」


 あまりに投げやりな様子のチェリードに、メロは半ば呆れているようだった。


 しかし、彼が気絶してから数日経過した今、状況が変化しないまま本当に何の行動を起こさないわけにもいかないので、


「とりあえず、あいつらのとこいこうぜ? なんか起きるかもしれないじゃん?」


 という男の提案の元、三人は再度孤毒のところへ向かった。



 そして孤毒のいるところへ着いた時、三人はその光景に驚愕した。


「っな……!」


「嘘だろ!?」


「ひ、人がたくさんいる……!」


 先程まで孤毒と没魑しかいなかった広場に、どこの誰かもわからぬ人だかりができていた。


「なんだあの人たちは……俺たちと一緒で連れてこられたのか?」


「あ、見て見て!」


 そういったメロが指を差したのは、チェリードたちと同い年くらいの男の子だった。


「あの子、私のクラスで虐められてる子なの」


「まじ?」


「あ、あいつは!」


 続いて男が指を差したのは、細身で幸の薄そうな男だった。


「あいつ俺の元同僚だ! 俺が前やってた仕事止めてから一人でこそこそやってたらしいが……」


 二人が指した人以外も、何らかの要因で孤立していそうな人たちばかりに見えた。その証拠に、誰一人として他の人に話しかけようしていない。


 そして次の瞬間、どこからともなく不気味な声が耳の中に入り込んでくる。



「いっしょにあそびましょ」



 声を発したのは、あの孤毒だった。


「……!」


 恐怖。恐怖で足が震えている。


 あまりに突然だったので、その声の奇異な声に背筋が凍った。


「……何、この声」


「くぅぅ~! こいつは恐ろしいぜ、全くよ……」


 三人が孤毒に気を取られている間、人だかりは一斉に孤毒に向かって歩き始めていた。


 その光景はまるで餌に釣られる動物のようだ。


 そして彼らがバラバラに散らばった後、足元の雪をかき集め、元々遊んでいた没魑に混じり、機械的に雪合戦を始めた。


「ねえ……どうしよう……これじゃあどうすることもできないよ?」


「まずいな……想像していたよりまずいかもしれない」


「このままずっと雪合戦してたら、あの人たちはどうなっちゃうの……?」


 まさかこうなるとは思ってもみなかったチェリードは危機感を覚える。想定外のことが起きてしまっては、もう行動せざるを得ない。


「わかった。あいつを説得してくる」


 しばらく考えて、彼は孤毒と対話を試みることを決意した。



「おい! 孤毒! お前たちに話があるッ!」


「? ?」


 ゆっくりと振り返る孤毒に、彼は真剣に請う。


「俺たちを元の場所に返してほしいんだ!」


「?どうして?」


「元いた場所に帰って、俺たちはやりたいことがあるんだ!」


「?たとえば?」


「学校行ったり、仕事したり、遊んだり……色々だよ!」


「?あそぶのならここでもできるよ?」


 どうにか会話を成立させることができるも、孤毒は常に疑問形で返すばかりで、しばらくの対話は平行線を行くばかりだった。


「頼むよ孤毒! ここは俺たちが住んでいい場所じゃないんだ!」


「??なんですんではダメなの??」


「そもそも俺らとお前らとは違うんだ! 根本的に!」


「?だからダメなの?」


「……そうなんだ……」


 チェリードの言葉を聞いた孤毒は途端に悲しそうな顔で俯いてしまう。それを見て何かを察した彼は、今まで強めの口調で話していたのを止め、優しい言葉遣いで話すことにした。


「どうして、お前は色んな人をここに連れてきたんだ?」


「……さびしかった……」


「寂しかったから、遊び相手のためにこの人たちを連れてきたのか?」


「……うん……」


 だんだん孤毒の行動理由がわかりかけてきたチェリードは、本格的に説得しようと決心する。


「この人たちだって、元の場所に帰れなくてきっと寂しがっているはずだ!」


「だからこどくな人をつれてきた」


「孤独な人……?」


 少し考えて、彼は


「ハッ! そういうことか……」


 その意味を理解した。

 


「お前……そうか。人間と遊びたかったんだな……」


 孤毒が大勢の人をここに連れてきたのは、寂しさを紛らわすため、自分と同じ境遇の人と遊べばその寂しさが埋まるだろうと考えたからだった。


「もっといろんな人をあつめたかった、でも」


「でも?」


「――ひとりじゃない人をつれてきても、家族がかわいそうだから、やめた――」


「………………」


 どうやら孤独な人ばかりを集めていたのは、彼なりの思いやりだったらしい。それに気付いた時、チェリードは複雑な表情を浮かべた。


「――――ここにいる人たちにも、皆家族がいる。いくら一人ぼっちだからって、本当に一人じゃないんだ、孤毒」


「そっか」


「だから、お願いだ、孤毒。俺たちを、元の場所に帰してくれないか?」


「!うん、わかった!」


「本当か!?」


「!うん!」


 ようやく説得できたことに喜び、チェリードは思わずガッツポーズをした。


「や、やったね! チェリード君!」


「よっしゃあ!」


「おめでとさん」


 この数日の間で友情が芽生えた三人は、自然とハイタッチしていた。


「?じゃあ開けるね?」


 孤毒は悲しそうに微笑みながら、帰るためのゲートを懐から取り出す。大きさを自由に変えられるようで、彼は大勢の人を入れるために半径十メートルまで大きくした。


 そして同時に、洗脳にかかっていた人達の洗脳を解いてあげていた。


「!……またね……!」


 一人、また一人ゲートに入っていくのを手を振りながら見守っていた。孤毒は別れ惜しそうな目で彼らを見送っていたが、


「また来てやるから、その時はよろしくな!」


 帰り際、チェリードがそう言ってくれたのが嬉しかったのか、最後は笑顔で三人を見送ってくれた。



◆◇◇◆



「チェリード! メロ! お前たちいつの間に!」


 二人がゲートを潜り抜けると、そこは師匠の家だった。


「あ、師匠。ただいま」


「た、ただいま……?」


 それから二人は、孤毒という怪物のいた世界に数日間いたこと、そこで出会った男と一緒に行動したこと、大勢の人が連れてこられたこと、そして……


「あ、そういえば」


 話があともう少しで終わるところで、チェリードが何かを思い出したようだった。


「俺達が帰る時に、女の子いなかった?」


「え? 女の子……?」


「うん。紫色の髪で、ロングの……ほら、俺たちが帰る前にさ、『ねえ、私を置いてかないで』って言ってた」


「…………?」


 しかし、メロは何がなんだかわからない様子で、ただ不思議そうに彼を見つめている。


「え、忘れちゃった? だってメロも『ねえ、私と同い年』って言って女の子が『多分そう』って、やり取りしてたじゃん!」


 チェリードもだんだんわけがわからなくなっていると、


「なあ、メロ。ホントに覚えて――――」


「そもそもそんな子、いなかったよ?」


 言葉を遮るように、メロが真顔で言ってきた。


「…………え?」



 ――――結局彼の言っていた女の子が誰かわからないまま、話は終わった。

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