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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第48話「燃え盛る体育祭 Ⅲ 」


「おぉ~~っと!? なぜか校庭に魔獣(モンスター)が…………ってフェンリルフ!?」


 魔獣の存在に気づいた実況が驚いたことで、観客の視線が一瞬にして一点に絞られた。


「え~すご~い! え、フェンリルフ!? 超レアじゃん!」


「あの……ちょっと実況さん? はしゃいでないで早く避難誘導の方を――――」


「どうせなら動いてるところも見たいしな~……よし! こうなったら始めちゃおう!」


「ちょっと!?」


 本来魔物(モンスター)の召喚は禁止とされている。しかし、あの魔獣を見た実況の生徒は感情が昂ってしまい、あろうことか種目を始めるための笛を鳴らしてしまったのだ。


「よし、行くぞ! フェンリルフ!」


『ヴォオオオオオオン!』


 そしてネッシーラの呼び声と共にフェンリルフは雄叫びをあげ、敵陣である()組に突撃する。


「みんな! なんとかしてあいつを倒すぞ!」


「「「おーー!!!」」」


 一方、Ⅱ組の出場者は目の前の魔獣に臆せず、果敢にフェンリルフの胸元へ飛び込む。全員で魔法を発動させながら、総攻撃を仕掛けた。


 しかし、


『ヴォオオオオン!!』


 この場にいる者は、この魔獣の恐ろしさをまだ知らない。


「ぐはぁぁ!!」


「くうぅぅ!!」


 フェンリルフの強さは尋常ではなかった。近づいてきた者には鋭利な牙で迎え撃ち、遠くから魔法を放とうものなら、口から吐き出した紅蓮の炎で消し去ってしまう。


「おぉこれは! 全滅! 全滅です! わずか30秒でⅡ組が全滅しました!」


「どうだ! 強いだろう、僕のフェンリルフは!」


 決着はすぐに付いた。勿論、(いち)組のネッシーラが召喚したフェンリルフが、Ⅱ組の出場者を軒並み倒したことによる、不正で勝ち取った勝利である。


「すげえな……」


「うん……すごい圧倒的だったね……」


 一緒に観戦していたチェリードとメロは、その強力さゆえに空いた口が塞がらなかった。


「おい、ネッシーラ! さっさとそいつを引っ込ませろ!」


 ここでやっと、危険だと感じたⅠ組の担任が止めに入った。


「なんだよ先生! 僕たち勝ったんだぞ!」


「ルール違反だ。これじゃあ失格だぞ!」


「ふざけんなよ!! このマヌケ!」


「なっ……!」


 フェンリルフが圧倒したことで調子に乗っているのか、ネッシーラはいつにも増して反抗的な態度を取っている。


「僕たちは勝ったんだぞ?! 勝ちは勝ち! 勝ったんだから何も言うなよ!」


「だからって、こういうことするのは――――」


「それに僕は知ってるぞ! 先生、ここ最近負けてばっかだって!」


 今Ⅰ組を担任をしているグラウスという男は、教師になってからというもの体育祭で一度も優勝したことがなかった。


 グラウス先生はそれを自虐ネタとして度々話していたようだが……


「先生がずっと負けっぱなしだって言うから、僕が勝たせてやったんだ! 負けっぱなしは僕も嫌いだからね。だから感謝しろ!」


「先生はこんな勝利望んでいない…………いいからさっさとその魔獣を引っ込めなさい!」


「なんで!?」


 このような形で手に入れた勝利が嬉しくないことに、ネッシーラは気づくことができなかった。


「なんでもなにも、これじゃあ正々堂々勝負してないじゃないか。お前はズルをして勝っても嬉しいのか?」


「何言ってんだ? 勝ちは勝ちだ! 嬉しいに決まってるだろ!」


「っ!? こいつ……!」



 こうして二人が言い争っている間にも、負傷したⅡ組の生徒が回復するための安置所に運ばれていく。その中には、デセリンやリーナ、ジェイルの姿もあった。


「あの三人、大した怪我じゃなさそうだな」


 三人が軽傷であることを確認したチェリードが安心した。


 すると、メロが彼の服の裾を引っ張りながら、不審なものを見るような目で魔獣を指差した。


「ねえ……なんか様子、おかしくない?」


 彼女に言われて目を向けると、確かにフェンリルフの様子がおかしいのがすぐにわかった。遠目とはいえ、目が充血し、体が微かに痙攣している。


 他の観客達も気づいたようで、今にも暴れだしそうな魔獣に不安を募らせている。


 そして口論していた二人も、ついに気づいたようだ。


「おい、なんだかそいつおかしいぞ!」


『グルルルゥゥ……』


 フェンリルフは苦しそうに唸っていた。綺麗な瞳の青色も、気づかぬうちにだんだん紫がかっていた。


「どうしたフェンリルフ! どこか痛いのか?」


 そして次の瞬間、


『ヴォォォオオオオオンッッ!!』


 紅の怪狼は荒々しい雄叫びをあげた後、何かに狂ったように暴走し始めた。



『ヴルルゥガウッ!』


「ギャアアア!!」


 まずフェンリルフの視界に入ったのは召喚主であるネッシーラの姿だった。フェンリルフはすぐさま彼の足に噛みつき、太ももを引きちぎってしまったのだ。


 そして次に視界に入った先生も同じように噛みつかれてしまい、今度は(はらわた)を食いちぎってしまった。


「キャアアアアア!!」


「大変だ! 魔獣が暴走したぞ!」


「皆さん早く避難してください!」


 校庭は一瞬にしてパニックに陥った。教員が冷静に避難指示を出すも、一刻も早く校庭から逃げ出そうと観客が急いで校門の方に押し寄せようとした。


 しかし、それに気づいたフェンリルフが校門へと続く道を塞ぐように、全身の毛を逆立てながら真っ赤に燃えた火球を放った。


「まずい! 塞がれた!」


 退路を絶たれたことで更にパニックになるが、先生たちは水魔法を使える人をすぐに集め、なんとか消火しようと試みた。



 一方、逃げ遅れた生徒は魔獣と必死に戦っていた。


「食らえ!〈中級水魔法(アクウォータ)〉!」


「〈初級雷魔法(スピカル)〉!」


『ヴォンッッ!』


「うわああああああ!!」


 取り残されたⅠ組とⅡ組の生徒が力を合わせて魔獣に挑むが、ことごとく打ちのめされていった。


「チェリード!」


「師匠!」


 同じくして逃げ遅れたチェリードとメロの元に、師匠が負傷者を背負いながらやって来た。


「お前はあそこにいる奴らを助けに行きな!」


「わかりました!」


「メロはこっちに付いてきな。一緒に怪我人を回復だ」


「は、はい……!」


 こうしてチェリードは応戦のために皆が戦っているところへと向かった。


「みんな、大丈夫か!?」


「ああ、大丈――――」


『ヴォォオォオォオォン!』


 彼が駆け付けたと同時に、フェンリルフが突然空に向かって濃紫の炎を吹き始めた。


 噴き上げる炎は円を描くように落下し、それらはやがて火焔のフィールドを作り出す。


 これによって、ここにいる者たちは逃げることが許されなくなってしまった。


「嘘だろ!? これじゃあ逃げられねえ!」


「大丈夫だ、水魔法でなんとか……!」


 そう言って複数の生徒が炎に向かって水魔法を放った。


 が、炎の勢いが弱まることは一切合切なかった。


「え、嘘、全然消えない……?」


「なんで!? なんで!?」


「消火できないのか――――うがあっ!」


 全く消える気配の無い炎を気を取られ、チェリードは重い一撃を食らってしまう。


「くっそぉぉ……!」



「…………思い出した! フェンリルフの吐く紫がかった炎は特殊で、単なる水魔法じゃあ消すことができないんだ!」


 とここで、とある生徒が何かを思い出したように皆に説明しだした。


「まじかよ?! じゃあ俺たちホントに逃げられないのか……?」


「多分、こいつを倒せれば炎は消えるんだけど…………」


『ヴォォオオオオアン!』


「ぐっ……! それができたら苦労しねえよっ!」


 フェンリルフの猛攻を止めるため、チェリードはなんとか立ち上がって攻撃を仕掛けた。


「『反射壁(リフレクター)』!」


『グルゥ……ヴオオオン!』


「『防御壁(プロテクター)』!」


 チェリードは「反射壁」と「防御壁」を駆使して戦うも、魔獣に傷の一つもつけることができなかった。


「ダメだ! 全っ然ダメージが与えられない!」


 以前習得した「反射壁」の攻撃も、多少怯ませることしかできない。無論、「防御壁」も同様に。


 このままじゃ全滅してしまう……と諦めかけていたその時、


「〈上級風魔法(ウィングナ)〉!」


「デセリンッ!」


 全快したデセリンが炎を飛び越えて彼の前に現れた。


「助けに来たよ、チェリード!」


「さっきの怪我は大丈夫なんだな」


「まあね、それより問題は……あの魔獣の方だ」


『ヴォォォオオン!』


「〈麻痺付与(ギパラライズ)〉」


 未だ暴走状態にあるフェンリルフはデセリンに襲いかかろうとしたが、彼はそれを避け〈麻痺付与〉で攻撃の手を緩めた。


「〈防御低下(ディフェンダウン)〉」


 更にフェンリルフの防御力を下げることに成功したデセリンは更なる追撃を食らわそうとするが……


『ヴォゥッ! ヴォゥッ! ヴォゥッ!』


 乱雑に放射された紫色の火炎弾のうちの一つがデセリンの胸に直撃してしまう。


「ぐっ……! 熱い……!」


「おいデセリン! 今すぐ火を消し……ってちくしょう、消せないんだよな」


「そうさ……だから、どうにかあいつを倒してくれないか?」


「つっても手も足も出ないってのにどうしたら……!」


 状況は絶望的だ。折角来た助け舟も撃沈してしまった。退路も燃え盛る炎の壁で塞がれてしまい、逃げ出すこともできなくなってしまった。


『ヴォォォオオオン!』


 そして目の前には、真っ赤に塗れた碧眼の怪狼。


 状況は、絶望的だ。



「痛」


 先程食らった傷がズキズキと痛む。腹に食らった蹴りの一発が予想以上に響いているようだ。


 そして切られた痛みはやがて胸部から全身の末端まで広がっていくように…………



………………



 ここでやっと、()が仕組んだことであることに気づいた。


「またあいつかよ……!」


「チェリード……?」


 異変にいち早く気づいたデセリンが彼に手を伸ばそうとした瞬間、


 ゴオオオオオォォォ…………


 彼の渦巻くように血気の竜巻が現れた。



 また■■が現れる……!

・豆知識


 魔獣、もとい魔物の名前の表記に漢字が存在するのは、〈召喚魔法〉の時です。基本的にはカタカナ表記という認識で構いません。


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