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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第4話「自分と向き合う」


 ガラガラガラ…………バタンッ



(こ、怖かった~~~!!!)


 チェリードは自己紹介が終わったことへの安堵で、体全体の力が抜け落ちた。緊張のしすぎで、それに伴って脱力感も増していた。


 いざ教室に入ってみると、何十人ものカラフルな髪色をした生徒が座っていたのだ。視界からの情報だけでも十二分に情報量が多かった。なので驚くのも無理はない。



「――――ここは教室ね。で、そこを進むと実験室、戻って右に曲がると図書室、二階にあがると職員室があって地下に行くと武器の保管庫があって、それから…………」


 自己紹介が終わると、先生による学校案内が始まった。


 だが、よく考えてほしい。ただ指を指して「あそこが……室ね」とだけ言われて、彼は理解できただろうか。否、できていない。


 ライナー先生は結局、全ての教室は回らず、口頭だけの説明で学校案内を終わらせてしまった。


(この人以外と大雑把だな…………)


 結局自分の教室しか覚えることができなかった彼は、まあ何回か通っている内に覚えるだろう、とらそこまで気にせずにいた。



「――――そして最後、ここが聖醒室です!」


 そして、最後に連れてこられたのは学校の離れにある教会のような建物で、その中にある「聖醒室(せいせいしつ)」という部屋だった。


 中に入ると、部屋は少し薄暗く、青白い松明が壁にズラーッと飾られていた。その部屋は明らかに他の教室とは違うことを肌で感じた。



 そして先生は、この部屋についての説明を始めた。


「ここは自分の秘めたる力、いわゆる『固有能力』というものを覚醒させる部屋です!」


「『固有能力』?」


「……あ、そっか! チェリード君は転生者なんだもんね! いや~忘れるところだったよ~」


(おいおい大事なことを忘れてどうするんだよ……)


 と心の中で突っ込みをしつつ、先生はコホン、咳払いをし説明を続けた。


「『固有能力』は、皆必ず一つは持ってる特別な能力のことです! 生まれた時から持ってて、『判明の儀式』っていう儀式をすることによって、その能力が使えるようになるんだよ! いや~すごいよね~!」


 チェリードは先生の説明を聞きながら、一つの考えに至った。


(もしこの「固有能力」が超強かったら、この異世界で無双できるってこと?)


 やはり男に生まれたからには、一度はこういう妄想をしてしまうものだ。チェリードは「もし自分の能力が最強だったら」という叶いもしない妄想にふけりながら、ただただニヤリと笑う口元を両手で抑えていた。



「て、ことで!」


 先生が両手でパチンと音を鳴らし、先生は、


「じゃあ、この中に入ってね!」


 と彼に指示をして、中に入るように誘導した。


 そう言われて入ったのは魔方陣が地面に描かれた、ガゼボのような小さい塔の中だった。


 中に入って真正面には女性の像が彫られた噴水があり、女性の像はところどころがキラキラと輝いていた。



「あの~先生、これは一体…………」


 先生の指示で、塔の中に入った彼は、何かを準備している先生に、これから何をするのかを尋ねると、


「これから儀式を行いますっ!」


 と言った。どうやら早速儀式に取りかかるみたいだ。


「え?さっき言っていた『判明の儀式』ですか?」


「はい! その儀式です!」


「で、その儀式っていったいな――――」


「いいからいいから!」


「え、いやちょっと先生!」


 具体的に何をするのかを聞き出す前に、先生がこの場から離れ、どこかへ行ってしまった。


(うーん……この先生はいろいろ雑だな……)


 心の中でそう思いながら、戻ってきた先生は、彼を魔方陣の真ん中に立たせた。



 すると突然、魔方陣が七色に光輝く……!


「コレヨリ、『判明の儀式』ヲ始メル」


 声だ。無機質な声が聞こえる。


 キョロキョロと辺りを見回していると、女神像の上の方、いつの間に天使のような人がいることに気づいた。天使の輪を頭の上に浮かせ、天使の羽を生やした純白の天使が、今、目の前にいる。


 「――――汝、自ラト向キ合イ、

           己ノ心ヲ見ツメロ――――」


 「――――汝ノ内ニ秘メラレシ力、       

         今此処二発現スルベシ――――」


 天使がそう唱えると、塔の天井に吊るされていた宝石が、七色の光線を出しながら光り輝いた。


「うわっ! 眩しい!!」


 眩しすぎて目を開けることができない……!!


……


………


…………


 しばらく目を瞑ったままだったチェリードは、恐る恐る目を開けると、まだあの天使がいた。


 しかし様子がおかしい。困惑したような、いや、それでいて驚愕しているような、顔つきでこちらを向いた。


「――――ナゼ」


「え?」


()()()()ヲ、ナゼ、持ッテイル?」


 天使は、声が震えていた。


「……は?」


(「その能力」…………?)


 彼はわけがわからなかった。この儀式は「判明の儀式」。詳細がわからずとも、自分が持っている能力を判明させるための儀式なのは、先程の説明を聞いていたら誰でもわかる。


 しかし、


『ソノ能力ヲ、ナゼ、持ッテイル?』


 と天使は言った。なぜ「持っている」ことに対して疑問があるのかは、それこそ、神のみぞ知る、

ということだろう。


(儀式は失敗したのか?)


 チェリードがキョロキョロと周りを見ながら待っていると、


「――シバシ待タレヨ」


 冷静になった天使は噴水の奥の方へスゥーッ消えていった。


「先生…………これってどういうことなんですか?」


 状況が掴めない彼は、先生に聞いてみたが、


「うーん……先生もよくわかりません!!」


 彼女自身もよくわかっていないようだった。天使がどこかへ消えていってしまった今、何もすることが無くなってしまったので、チェリードは塔の外から出て、規則的に並べられている長椅子に座り、先生としばらく談笑を始めた。



 先生と一緒にしばらく待っていると、おおよそ二十分くらいだろうか、先程までいなかった天使が戻ってきた。


 チェリードはそれに気づくと、塔の中に入った。そして、天使は口を開け、こう話した。


「偉大ナル神ノ御意向デ、汝にモウヒトツの能力ヲ与エルコトニナッタ」


「偉大なる神の御意向」……この世界にも神様がいることを知った彼を前に、天使は儀式を言葉を再度唱えた。


 「――――改メテ、汝の力、

          此処ニ発現スルベシ――――」


 そしてまた、天使が唱えると共に天井の宝石が光った。しかし、今度は青紫色に光っていた。



 そして……


 チェリード・ドブライは、固有能力が使えるようになった。


         『活命の盾(バイタルシールド)


 「活命の盾」とは、防御壁(プロテクター)反射壁(リフレクター)吸収壁(アブソーバー)の三つのエネルギー体の障壁を生成できるというものである。


(防御系の能力か……これならタンクとして味方をサポートできるし、剣が使えるなら騎士みたいな戦い方もできそうだ!)


 彼が貰った能力は、言うならば「防御系」。攻撃するタイプの能力でないことが少々心残りに、彼は自分の能力の可能性について妄想を膨らませ、聖醒室の扉を閉めた。




 二人が次に向かったのは校庭だった。どうやら魔法と武器の扱いのテストをするようだ。


「まず始めに魔法のテストをします!」


 とチェリードに告げると、先生は魔法の打ち方について教えてくれた。


 先生が言うに、魔法を打つ手順はこうだ。


 一、体内に存在する魔力を手に集中させる。

 二、打つ魔法のイメージをする。

 三、魔法の名前を言いながら魔力を解放する。


「この手順でやれば、普通は何か一つぐらいは魔法が打てるはずよ!! 私を信じなさい!」


 先生はそう言っていた。「魔力」がそもそも体に流れていることを彼は知らなかったが、一つ目の手順さえできれば、後は簡単だろうと彼は楽観的に思っていた。


「試しに、〈初級水魔法(アクウォ)〉を売ってみましょう!」


〈初級水魔法〉とは水属性の攻撃魔法で、最も威力が低いが、発動が最も用意な魔法である。


 この〈初級水魔法〉は攻撃魔法の中で最も発動するのが簡単な魔法だと先生が補足してくれた。


 彼は先程の言葉を信じて実際に魔法を打ってみようとした。


「よし、まずは魔力を手に集中させて…………」


 頭の中でイメージしながら、チェリードは有るかもわからない魔力を手先に集めた。すると、少しずつだが、手先にエネルギーが貯まっていくのを感じる。


「よし! いいぞ! 次に…………」


 次にやるのは魔法のイメージだ。水属性の魔法がどんなものかわからなかったが、とりあえず水でできた球体を飛ばすイメージをした。


「イメージできたら魔法の名前を言いながら魔力を解き放って!」


 先生の助言通り、手先に集結した魔力を解放するようなイメージをしながら、魔法を発動した!


「いけ! 〈初級水魔法〉!」



 シュッ



「あれ?」


 一瞬水の球体が現れ、そして、不自然な消え方で魔法は消滅した。


「あれ? チェリード君魔法打ったよね?」


「は、はい」


「じゃあもう一回打ってみて」


「〈初級水魔法〉!」



 シュッ



「ん?」


 また、また現れては消えた。


 それから何回も何回も魔法を発動した。時にはイメージを変えたり、魔力の集中のさせ方も変えてみようとした。


 しかし、


「一回も魔法が打てない……?」


 ダメだった。発動はしたが、そこで不自然に消えるだけだった。そのあまりに奇妙な光景に、先生自身も大袈裟すぎると思われるぐらいに驚いていた。



 それから先生から教えてもらった全ての魔法を、かなりの時間をかけて、全てを試した。


 しかし、彼の魔法が打たれることはなかった。


「嘘だろ…………?」


 

 ――――思い返してみると、魔法を打つ時、おぞましい()()に縛られている感じがすることに彼は気づいた。後ろにべったりとくっついては、自分が発動した魔法を握りつぶしてしまうような、そういう風に、彼は感じた。



「くっ……! 魔法がダメなら次は武器だ!」


 彼は憂鬱な気持ちを切り替えて、次に行うはずだった武器のテストを行うことにした。


 先生は校庭の端の方にある物置から、ある一つの木箱を持ってきた。箱の中には、戦闘で使う基本的な武器全般が揃っていた。ただし全て木製。


「そういえば、魔法が何一つできなかった生徒もいたけど、そういう子は武器の才能が凄かった気がするわ!!」


 木箱を担ぎながら、先生は彼のフォローをするかのように、今さっき思い出したような口調で言っていた。


 ならば彼は、武器において優れた才能があるのだろう。


「ならまずは剣を持ってみましょう!」


 ということで、先生が持ってきてくれた箱の中にある、木製の剣を取り出した。それっぽく剣を構えようとした。


 しかし次の瞬間、体が突然重力が強くなったような感触に襲われる。


「うがっ!!」


「ッ!? 大丈夫!?」


 剣を構えたその瞬間、彼は立ち上がることができなくなってしまうほどの重圧に押し潰された。


「くっ!――――」


 だんだん手に力が入らなくなり、手から剣が離れた瞬間、何事もなかったかのように、彼の体は普通の状態に戻っていた。


「どういうことなんだ……?」


「ま、まあとりあえず他の武器も試してみましょ、ね?」


 先生の言う通りに他の武器を取り出して、彼は剣の時の同じように、それっぽく構えた。


 しかし、


「うぐっ!」


 ダメだった。剣は勿論、斧、槍、盾、弓、杖、どれを構えても体は重石が乗っかっているかのように重苦しくなっていた。


 そしてまた、おぞましい()()に縛られたような違和感を覚えた。


「どうして……」


 結局、彼に残されたのは、ただ防御ができるだけの能力のみだった。たったそれだけで、あの魔獣(モンスター)戦えるのだろうかと考えると、怖くて怖くて仕方がなかった。



 現実は、甘くない。



 その言葉が、微かに頭を横切った気がする。

 チェリード・ドブライ

 固有能力「活命の盾(バイタルシールド)

 エネルギー体の障壁を展開することができる

 展開できるのは以下の三つ

 「防御壁(プロテクター)

 相手の攻撃をふせぐことができる

 「反射壁(リフレクター)

 相手の魔法を反射することができる

 「吸収壁(アブソーバー)

 相手の魔法を吸収し、自分の魔力を回復することができる

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― 新着の感想 ―
[良い点] 髪色にはどういう原理があるんだろう。その人が持つ魔力によって色が決まるのかな? リアルガチでびびってそうな天使さんに人間味を感じた。 魔法も武器も駄目なのに固有能力はオッケーなのか? …
[一言] ものすごい縛りをつけられてしまいましたね! 神に反逆する能力だったのか、世界を救う能力なのか、伏線回収が待ち遠しいです
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