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呪血〈呪われた転生者の血塗られた学校生活〉  作者: 上部 留津
第1章 転生、そして始まり
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第42話「来る、期末試験」


 次の日、昨日のモヤモヤが抱えたまま、チェリードはリーナと一緒に学校へ向かった。


「ねぇリド、まだ思い出せないの?」


「全っ然思い出せない」


 結局、昨日までの一週間何をしていたのか全く思い出せなかった。唯一かろうじて覚えていたのは、試験範囲の内容を勉強したことと図書室にいたことだけ。


「でも良かったじゃん! 結果的に勉強できてたってことでしょ?」


「まあそうなんだけど……」


「とりあえず今日は試験、がんばろ?」


「あぁ……」


 考えていてもしょうがないと思ったチェリードは、このことはひとまず忘れ試験に望むのだった。




 ここ、オルタール王国立学童教育校では試験は五回行う。今回はその内の二回目、この学校も現実の学校と同じ三学期制を取っているためこの試験は「期末試験」ということになる。


「前回はマジで散々だった……が、今回は違うってとこ見せてやる!」


 学校に着いたチェリードは気合いを入れるために両頬を叩き、前回の雪辱を果たすために全力で試験に望んだ。



 試験は二日かけて行われる。一日目は筆記試験四教科と魔法と武器の実技試験、二日目は筆記試験五教科と固有能力の実技試験だ。


 そんな期末試験、一日目の最初に受けるのは「魔法学」だった。魔法の基本的な知識や魔法の歴史を学ぶ強化である。


「では、始め!」


 監督の先生の声で試験が始まった。伏された試験用紙を裏返し、チェリードは問題を解き始めた。


(……よし……よし……よし! いいぞ! わかる、わかるぞ!)


 早速一週間の試験勉強の成果が出始めたのか、一時間目の魔法学の試験はほとんどを空白を無くした状態で終えることができた。半分以上空白だった前回と比べると、信じられないほどの大躍進である。


 その後、残りの三教科の試験も全て順調に終えることができた。書き言葉で使われる文字を習う「言語」、四則演算から関数まで幅広く学ぶ「数学」、異世界に存在する生物や魔獣について学ぶ「生物」と、これら全てを難なく問題を解くことができた。


 あまりに出来すぎていることに、一瞬自分の頭を疑ってしまうほどだった。


(すげえ……このままいけばトップも夢じゃねえな……!)


 このままいけばきっと上位に食い込めると思った途端、前回の悲惨すぎる結果が嘘みたいに感じられたチェリードは昼休みの教室、一人で突然笑い始めた。


 他の人は当然引いていた。



 そして午後に入ると魔法と武器の実技試験があるのだが……


「チェリード・ドブライ。君は前回と同じで0点ね」


 あろうことか、前回の試験と同じ試験監督の先生が問答無用で実技試験の点数を0にしてしまった。それも魔法と武器が使えないことの配慮や代替案すら無しで。


「はぁ!? また!? ふざけないでくださいよ!」


「ふざけてるのは君の能力だよ」


「いくら魔法と武器が使えないからって0点ってのは、あまりにひどい話だと思うんですよ!」


「じゃあ帰れ」


 試験監督のふてぶてしい態度にチェリードは更にキレるが、言い負かすことも実力行使もできない彼は(はらわた)が煮えくり返そうなのを必死に我慢しながら、渋々自分の家に帰って明日に向けて勉強した。


(クソ! 絶好調のままいけると思ったこれだよ! 俺の扱いひどすぎるだろ!)


「チクショー! まじでムカつくー!」


「チェリード! うるさいよ!」


「ごめーんなさーい!」


 学校の対応にぐちぐちと文句を垂れ流しながら、明日の試験の勉強を早急に終わらせたチェリードはすぐにベッドに潜り込み、苛立ちを何とか押さえ付けようとしたのだった。




          ~次の日~



 結果的に言えば、午前の筆記試験は全て良い形で終えることができた。


 今日の筆記試験は五科目あり、その上歴史が前回より難化したため、多くの生徒が手こずっていたそうだ。


 だが、チェリードは違う。


 運が良いことにあの一週間、彼は歴史を重点的に勉強していたらしかった。本人は知らないが、何を見越してかハーネムは一番歴史の勉強に力を入れていた。


 加えて、他の四教科も手応えを感じていた。


 大陸の地理的要素を学ぶ「地理」、この世界に存在する小説や評論を読む「文学」、異世界にとっては現代的な教科である「医学」や「工学」など、あまりに問題がスラスラと解けるので、試験中常にニヤニヤと問題を見つめるほどだった。


 ここまで順調だったチェリードは今、完全に調子に乗っている。昨日の実技試験以外は九割近く取れているのではないかと期待してしまうほどに彼はかつてない自信に溢れていた。



 そんな自信をへし折ったのは、午後の固有能力の実技試験だった。


 固有能力は個人個人で試験の内容が違う。そのため、誰かと能力をぶつけ合ってその実力を確かめる形式を取る場合もある。


 無論、チェリードもその形式を取るわけだが、その相手が問題だった。


「僕の相手はチェリードか。よろしくね」


「あ、デセリン……よ、よろしくぅ」


 彼の相手はそう、同じ寮にいるあのデセリン・ワーグナーだったのだ。それを知った途端、彼の自信は芯から折れてしまった。


(嘘だろ……!? アゲてから落とすとか正気の沙汰じゃねえな!)


 デセリンが丁寧に準備運動しているのを見ながら、チェリードは武者震いした。


 彼は怖かった。かつての特訓で食らった〈融合魔法弾(ミラクルブレイク)〉の存在があまりに恐ろしすぎたのだ。


 六つの攻撃魔法を融合させた絶大な威力を持つ魔法。これを直に受け止めた彼はその刹那、死を覚悟するほどの威力と規模に意識を持っていかれそうになるほどに、この魔法は恐ろしかった。


 だが、ここで彼は一つの可能性を見出だした。


(いや待てよ? あれはさすがに規模がデカイから危ないのでは?)


 あの融合魔法は威力が高い分、規模も大きくなる。そのため、いくら学校の校庭が広いと言えど、危険性の観点からもしかしたら使わないのではないかという推測が立てることができる。


「あ、前もって言っとくけど、僕が使うのは〈融合魔法弾〉っていうやつだから。よろしくね」


 ……どうやら推測にすぎなかったようだが。


(終わった~~! こうなったら意地でも耐えるしかねえ!)


 もう免れることができなくなってしまった彼は覚悟を決め、〈融合魔法弾〉を受けきることを決意した。


「じゃ、いくよ、チェリード」


「よし、来い!」


 そして掛け声と共にデセリンは六つの初級魔法を生み出し、それらを同時に融合させた。


 いつ見ても、互いに混ざり合った魔法の融合体は美しさとおぞましさを併せ持っている。


「〈融合魔法弾(ミラクルブレイク)〉!」


 ついに魔法が解き放たれた。周囲の空気を吸収しながら魔法弾はゴゴゴと音を立てながらチェリードに向かってきた。


「『防御壁(プロテクター)』!」


 すかさずチェリードも「防御壁」を展開し、迫り来る魔法弾を防いだ。


 やはり六つの魔法を合わせただけあって、その魔法弾の威力は尋常ではなかった。威力の大きさに徐々に後退する足を何とか前に踏み出しながら、魔法が衰退して消滅するのを待ちわびた。


 しかし、ここで「防御壁」に異変が生じた。


 ピキッ


「まずい!」


 ここにきて「防御壁」にヒビが入り始めた。さすがの破壊力と言ったところだろうか。しかし、あと数十秒もすれば完全に割れてしまうに違いない。


(どうすればこの危機を脱することができんだ…………)


 と悩むチェリードだったが、すぐさまその解決方法を見つけた。


(そうだ! 重ね掛けだ! 何重にも重ねればいける!)


 以前の特訓で編み出した障壁の連続展開を使うことで危機を回避できると考えたチェリードは、右手で「防御壁」を押さえながら左手で別の「防御壁」を数枚展開した。


「これで無限に耐えられるぜ!」


「なるほどね」


 チェリードの連続展開を見て、デセリンも感心している様子を見せていた。



 そして割れては展開し、割れては展開しを繰り返し続けて三分、だんだんと衰弱していった〈融合魔法弾〉はついに消滅した。


 これをもって、固有能力の実技試験は終了した。


 パチパチパチパチ


「「?」」


 拍手の音が聞こえ始めたので辺りを見回してみると、二人の攻防を見に来た大勢の生徒が、試験を終えた二人に向かって称賛の拍手を送っていた。


「すげー! 今の魔法なんだ!?」

「めちゃくちゃキラキラしてた!」

「防御する側もすごいな!」


 まさか褒められると思わなかった二人は互いに見合いながら照れ臭そうに笑った。




 そして数日後、期末試験の個表を返す時間にて。


「――――次、チェリード君」


「はい」


「……あんたにしては結構頑張ったんじゃない?」


「え、まじ!? よっしゃあ!」


「次も頑張りなさい」


「頑張りまーす!」


 前回の雪辱を果たし、無事に50位を取ることができ嬉しそうに喜ぶチェリードの姿がそこにあった。

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